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エネルギー政策、先送りの罠
2012年6月4日 月曜日 安藤 毅
日本の将来を左右するエネルギー政策論議が混迷の度を深めている。原子力発電所再稼働や2030年時点の電源構成など先が見えない状況が続く。「結論先送り」の空気が強まる中、「原子力ムラ」などの改革の骨抜きを狙う動きもうごめく。
関西電力大飯原子力発電所を再稼働させるのか、しないのか。電力需要が膨らむ今夏を控え、野田佳彦政権と福井県の間の溝が広がっている。
「対応が遅すぎる。政府が確たる姿勢を示すことでこの問題は解決できる」。原発立地の福井県の西川一誠知事が会見で政府の対応を批判すれば、藤村修官房長官は「政府としては需給やコストを勘案して再起動が必要と判断している」と反論。泥仕合の様相を呈してきた。
「政府が意思決定」発言の欺瞞
大飯原発の再稼働を巡っては、福井県など関係自治体から一定の理解を得たと政府が判断した段階で、野田首相と枝野幸男・経済産業相ら関係閣僚による会合を開き、最終判断する段取り。野田首相は「最後は私のリーダーシップで意思決定していきたい」と語る。
しかし、最終決定に向けた政府側の動きは鈍い。原発再稼働の暫定的な安全基準を決定し、関西広域連合の会合に細野豪志・原発事故担当相を派遣するなどの対応はしてきたものの、大阪市の橋下徹市長ら電力消費地の首長が再稼働への反発を強めるや腰砕け状態に。「大阪維新の会を率いる橋下氏にこれ以上の攻撃の材料を与えるのは避けたい」(民主党幹部)との思惑もあり、ボールは福井県側にある、というのが野田政権の基本姿勢だ。
「県議会から西川知事が一任を取りつけ、判断するのを待てばいい」。再稼働に厳しい世論や橋下氏の影におびえる民主党議員からは、こんな本音が漏れる。現状のままなら7月2日に始まる関電管内の節電要請期間に原発のフル稼働が間に合わない公算。時間切れが迫っているというのに、政府・与党内には他人事のような空気も漂う。
だが、夏の電力需給の逼迫が現実味を帯びた段階で再稼働への手続きを進め出した政府の対応が後手に回っているのは周知の事実。「原発の再稼働の是非というエネルギー政策の根幹にかかわる問題の判断を立地自治体に委ねるのはおかしい」(自民党幹部)との指摘も根強い。来年には東京電力の再建計画の柱でもある柏崎刈羽原発の再稼働問題が控える。急場しのぎの対応が繰り返されれば、大混乱は必至だ。
ほかのエネルギー政策への懸念も強まっている。東電の福島第1原発事故を受け、経産省の総合資源エネルギー調査会では2030年時点の電源構成を示す新たなエネルギー基本計画の策定に向けた案を近く、まとめる。これに、内閣府の原子力委員会による核燃料サイクルのあり方に関する案と、環境省の中央環境審議会がまとめる地球温暖化対策案とを合わせ、内閣府の国家戦略室が中心となる「エネルギー・環境会議」で、今夏に「革新的エネルギー・環境戦略」として取りまとめる予定だ。
だが、タイムリミットが近づいているのに、いずれの審議会も複数の選択肢を1つに絞り込めないのが実情だ。
“主戦場”である総合エネ調の基本問題委員会。昨年10月から二十数回の会合を重ねてきたが、コスト増や雇用への影響などを懸念する原発維持派と脱原発派の委員の見解の溝が埋まらないままだ。「各委員が持論を言い合うだけで時間が過ぎた印象は否めない」と経産省幹部はこぼす。
現行のエネルギー基本計画が定める2030年の原発の比率は約45%。5月末に固まったのは、2030年時点の原発の比率を0、15、20〜25%とする案と、「電源の選択を消費者に任せ、比率を明示しない」案の計4案だ。
0%案は原発停止や新増設中止で2030年時点の原発ゼロを目指す。15%案は原発を増やさずに40年廃炉を徹底した場合の試算を基にし、2030年以降の電源構成は再生エネルギーの普及状況を参考に改めて検討するという。20〜25%とする案は原発が今後も一定の役割を担うと想定している。
一体、どの案が有力なのか。落としどころとして急浮上してきたのが15%案だ。「15%が1つのベースになり得る」と、早速、細野氏もこの案の支持を表明した。40年廃炉の政府方針に沿ったものというのが表向きの理由だが、政府関係者は「原発の取り扱い論議を実質的に先送りできるため」と発言の背景を読み解く。
核燃料サイクルのあり方に関する論議も先送りムードが漂う。原子力委の5月末の会合で示されたのは、高速増殖炉「もんじゅ」に関して、従来方針の推進のほか、研究開発の中止など4つの選択肢。サイクル政策を放棄し、原発から出る使用済み核燃料の全量を埋め立て処分する場合には、もんじゅの廃炉も視野に入れる考えを示した。
「原子力ムラ」の暗躍再び
核燃料サイクルは、再処理工場で使用済み核燃料から燃え残ったプルトニウムなどを抽出して再利用し、高速増殖炉で使うのが最終目標。しかし、相次ぐトラブルなどで実用化への道筋は見えていないこともあり、見直しへの機運は高まっている。
ただ、政府関係者は「再処理の旗を降ろすだけのパワーが今の政権に残っているか疑問」と漏らす。将来の選択肢の確保といった面もあるが、より厄介な使用済み核燃料の扱いという問題に直面することが大きいという。現在は再処理を前提に使用済み核燃料の一時保管を青森県が受け入れているが、同県が電力各社に核燃料を返還すれば、原発敷地内に保管し切れない恐れが生じ、原発は運転できなくなる。
エネルギー・環境会議ではサイクルのあり方についての結論に踏み込まず、原子力委での新しい原子力政策大綱の策定論議に委ねる。政府内ではこんな先送りシナリオが強まっている。原子力委が原発の推進関係者を集めた会合を開き、報告書を書き換えたとされる問題が明るみに出たが、難問から腰が引けつつある野田政権の現状に「原子力ムラ」がつけ込もうとしている一端が浮かび上がった格好だ。
いかに多くの国民が納得する解を導き出し、論理的に説明していくのか。エネルギー基本計画などの取りまとめに向けた政府内の見通しは立っていない。「政府のどんなメンバーが、どのような手順で判断するのかも曖昧」(経産省幹部)という状況で、「政治判断」の行方には不透明感がぬぐえない。
電力会社による地域独占に風穴を開け、需要家側が自由に電源を選択できるようにする。それに向け、電力の小売りを全面自由化し、発送電分離も進める。こうした電力システム改革論議も本格化する見通しだが、9月の民主党代表選や政局次第では勢いがそがれ、骨抜きになる恐れもある。政治の決断が遅れるほど改革の速度は鈍る。その愚が繰り返されようとしている。
時事深層
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安藤 毅(あんどう・たけし)
日経ビジネス記者。
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