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「不作為政治」、その先の危機
2012年5月29日 火曜日 安藤 毅
消費増税、TPPなど重要課題への道筋をつけられず、停滞する国内政治。民主党政権から官僚、経済界も距離を置き、国の“柱”の揺らぎは深刻だ。政策対応の遅れは、欧州危機による日本経済へのダメージを増幅しかねない。
「このところ、手持ち無沙汰にしている議員や役人が多いんだよね…」
民主党のある大臣経験者は苦笑いを浮かべながらこう語る。6月21日の今通常国会の会期末まで1カ月を切り、例年なら大詰めの法案審議や与野党対応などに追われる時期。それなのに、少なからぬ与野党議員や各省幹部が時間を持て余す有り様だ。
役割放棄の象徴「法案成立23%」
その背景にあるのが、低調な国会審議。田中直紀・防衛相と前田武志・国土交通相の参院での問責決議可決から1カ月余りが過ぎたが、自民党などが交代を要求し、消費増税関連法案など一部を除き法案審議に応じないためだ。
問責決議は衆院での内閣不信任決議のような法的拘束力はない。参院からの2閣僚の起用を推薦した輿石東・民主党幹事長の意を汲み、野田佳彦首相が更迭を拒み続ける結果、自民などとの不毛な対立が続いている。
法案審議の遅れは深刻だ。5月20日時点で、今国会への政府提出法案100本(前の国会からの継続分も含む)のうち成立したのは23本。昨年秋の臨時国会の政府提出法案の成立率は異例の34.2%という低さだったが、今国会も惨憺たる状況に終わりそうだ。
与野党が立法府として果たすべき責任を放棄していることで、国民生活への影響も顕著になっている。原子力の安全規制を担う新組織を設置する関連法案の店ざらしもその1つだ。
政府は4月1日の原子力規制庁発足を目指し、関連法案を提出したが、自民・公明両党が独立性の高い組織とする対案を国会に提出。政府・民主党は受け入れに傾いているのに、2閣僚の交代を審議入りの条件とする自民などとの調整が折り合わず、法案成立のメドは立たないままだ。
民主、自民両党幹部からは「新たな原子力規制機関が発足しなければ、関西電力大飯原子力発電所以降の原発再稼働手続きが滞り、電力供給に深刻な影響が出かねない」との声が漏れる。法案の重要性の認識は与野党で共有している。それなのに党利党略を優先して決められない。衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」の問題は指摘されて久しいが、与野党間の合意形成の取り組みはあきれるほど前進していない。
さらに問題なのは、重要法案の成立に向け環境整備を担うはずの民主党執行部が、意図的に与野党の膠着状況を作り、時間稼ぎに利用していることだ。
その典型が衆院選挙制度改革を巡る論議。現行の小選挙区の「1票の格差」を違憲状態とする最高裁判決が出てから1年数カ月も経つのに、与野党協議は停滞したまま。民主党執行部が衆院の定数削減、選挙制度の抜本改革との3点セットでの決着に固執したことが要因だ。
「違憲状態のままなら、野田首相の解散権は事実上、縛られる。1票の格差是正だけでも急ぐべきなのに、与野党協議のハードルをことさら高くし、衆院解散・総選挙の時期を先送りしたいとの輿石さんの思惑は露骨すぎる」。ある自民党幹部はこう吐き捨てる。
痺れを切らした野田首相は輿石氏に与野党幹事長・書記局長会談での事態打開を指示した。しかし、「党の分裂回避と解散先送りが自分の仕事」と公言する輿石氏だけに、時間稼ぎする姿勢は変わらないだろうとの見方が与野党関係者の間で広がる。消費増税関連法案の採決や解散に関する野田首相の戦略に縛りがかかるのは間違いない。
「決められず、動かない政治」の悪影響は官僚機構にも波及している。
東日本大震災の発生以降、予算編成や財源確保作業の多くを財務省頼みにしたことから「霞が関の復権」が語られることが多い。掛け声倒れの「政治主導」の下、そうした面があるのは確かだが、官僚の間で民主党政権から距離を置こうとする空気が強まっていることも看過できない問題だ。
「国会で通りそうにない、動いても政治家に叱られるだけだからと、役人が本来取り組むべき法案化作業や政策対応に後ろ向きになりがちだ」。ある省の次官OBはこう指摘する。それを役人の甘えと切って捨てるのは簡単だが、TPP(環太平洋経済連携協定)参加問題に象徴されるように、堂々巡りの論議を繰り返し、党の意思決定後も議論を蒸し返すといった稚拙な政治の現状が役人の士気を萎えさせ、「面倒なことはしない」(国土交通省幹部)姿勢につながっているのは否めない。
こうした空気は経済界でも顕著。東京電力の会長人事への消極的な対応がその一例だ。
民主党側からの会長就任への打診を固辞したある財界人は「政権交代が起きそうな状況下で、火中の栗を拾う必要はないという判断が大きかった」と漏らす。東電の社外取締役に経団連からの起用が実現しなかったのも、民主党政権と経済界との距離を物語る。
「永田町の論理」で不作為を続ける政治。それと距離を置き本来の役割を果たそうとしない官僚と経済界――。この国の柱となるはずのトライアングルが危機感や一体感を欠く無責任な対応でも許される背景には、足踏みから立ち直りつつある日本経済がある。
2012年1〜3月期の実質GDP(国内総生産)は年率換算で4.1%増と高めの成長率になり、政府は5月の月例経済報告で景気判断を上方修正した。しかし先行きには早くも暗雲が垂れ込め、無策のままでは失速する懸念がある。
心もとない成長戦略
最大の懸念材料が欧州発の金融危機の再来。南欧各国の債務問題が金融システム不安に発展するリスクを警戒した投資家が安全を求め資金を円や日本国債に集中。日本国債10年物の利回りは5月18日に一時0.815%と約9年ぶりの水準に低下、円急騰から日経平均株価は今年最大の下げ幅を記録した。
各国の政策協調や、円高・株安への政府・日銀一体による果断な対応が求められるのは論をまたないが、日本経済の腰折れを防ぐにはこれだけでは足りない。5月19日に閉幕した主要8カ国(G8)首脳会議は財政再建と経済成長の両立の追求で一致。各国首脳との討議で、野田首相は消費増税関連法案の成立と「2%を上回る今年度の成長実現」への意欲を示したが、“国際公約”実現への視界は開けていない。
消費増税論議の行方は霧の中。復興需要など政策頼みの景気回復は長続きしそうにないのに、経済の安定成長に欠かせない成長戦略に関する民主党政権の関心は驚くほど低い。政府は先頃、2010年6月に決めた「新成長戦略」に盛った政策項目のうち、成果が出たのは1割止まりという検証結果をまとめたが、「真面目に対応していなかった」と吐露しているようなものだ。
高橋進・日本総合研究所理事長は「民主党政権は規制緩和などを進める気概もなく、日本は医療や農業といった最後の成長のタネを失う恐れがある」と危惧する。政府は6月中にも新たに「日本再生戦略」を取りまとめる方針だが、規制緩和や、通商政策の推進に欠かせない農業改革などに腰が引けたままでは、同じ轍を踏みかねない。
法案審議や政策対応が滞り、財政再建と経済成長の道筋をつけないうちに過度の円高や株安に直面すれば、日本経済は深刻な状況に陥りかねない。政治の不作為に象徴される国の中枢の機能不全は、日本の先行きに大きな禍根を残しそうだ。
時事深層
“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。
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安藤 毅(あんどう・たけし)
日経ビジネス記者。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120525/232575/?ST=print
#日経平均と比べて、日本の上場企業の総価値を表わしているTOPIXがバブル崩壊後の最安値701円に近付いている
円建てで、ほぼ30年前の水準に、日本の全会社の価値(稼ぐ力)が低下したということ
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