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日経ビジネス オンライントップ>アジア・国際>中東ビジネスの最先端
原油高を追い風に積極投資を打ち出す湾岸諸国
増える成人病、日本の医療機関もドバイに進出
2012年5月25日 金曜日 畑中 美樹
IMFは4.2%と予測する中東の2012年成長率
国際通貨基金(IMF)は、2012年4月17日、同年春季版の「世界経済見通し」を発表し、中東・北アフリカ諸国の2012年の実質GDP成長率が4.2%と2011年の3.5%から上昇すると予測した(表1)。
表1 中東・北アフリカ諸国の実質GDP成長率の見通し
(単位:%)
2011年(実績) 2012年(予測)
中東・北アフリカ諸国 3.5 4.2
うち、石油輸出国 4.0 4.8
石油輸入国 2.0 2.2
そのIMFのマスード・アフメド中東・中央アジア局長は、5月1日、ドバイにおいて「中東・北アフリカ:緊張下の歴史的移行」との題名で同見通しに基づく中東・北アフリカ諸国の今後の経済情勢について解説した。
現地からの報道によると、まず同局長は、2012年の中東では石油輸出国が実質GDP成長率を前年の4.0%から4.8%へと、また石油輸入国も2.0%から2.2%へとそれぞれ回復するとの見通しを明らかにした。但し、石油輸入国の成長率は、雇用の創出と外貨の獲得にとり重要な観光産業や民間投資の回復が社会不安の継続などで緩やかなものとなったり、或いは高水準の原油価格が続いた場合には引き下げられる恐れがあると指摘している。
実際、2011年の中東の観光産業は「アラブの春」により不振を極めた。国連世界観光機構(UNWTO)によれば、2011年の世界各国への平均来訪者数が2010年に比べて4%増となるなか中東は8.8%の下落に終わっている。若年層を中心とする失業問題の深刻化する中東諸国にとって、貴重な外貨獲得手段の一つである観光業の不振は響いた。例えば、チュニジアの場合、国内総生産(GDP)に占める観光業の比率が8%、観光部門での雇用者数が約40万人に達しているだけに落ち込みは経済全体にとって痛手となっている。
但し、「アラブの春」で打撃を受けた中東・北アフリカ諸国だが観光客は徐々に戻り始めている。「世界のホテル産業の動向を追っているSTRグローバル(本部:ロンドン)によれば、中東・北アフリカ諸国の2012年3月のホテル客室占拠率は65.1%と1年前に比べて14.6ポイントも上昇している。65.1%という数値は欧州や米国よりも高い数字である」と現地ではニュースで報じられている。
話を中東・北アフリカ諸国の2012年の経済予測に戻せば、マスード・アフメドIMF中東・中央アジア局長は、石油輸出国のなかでも特にサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの6ヶ国で構成する湾岸協力会議(GCC)諸国の経済が好調に推移すると分析している。因みに、IMFはGCC諸国の2012年の実質GDP成長率は、リビアやイラクなどによる産油量の回復でやや落ち込むとしても5.3%にはなると予測している。
このほか、同局長は中東諸国では雇用の創出が経済・社会的課題の中核であることは明白であるので民間部門、特に中小企業の成長の加速化が重要と指摘した上で、資金移動を活性化しインフラ部門などに必要資金を導入することも重要となってくると述べ復興・開発向けの「アラブ共同銀行」の設立を提案していた。
高油価で好景気の続くサウジアラビア
サウジ経済の今後については、総資産第1位のナショナル・コマーシャル銀行(NCB)が詳細な予測を行っている。同行は2012年の実質GDP成長率も3.9%と好調を維持すると見ている。産油量が日量940万バレルと高水準を保つなか非石油部門の拡大も続くと考えるからだ。またNCBは、石油収入の増加により、サウジアラビアの2012年の財政黒字が絶対額で3174億リアル(約847億ドル、6兆7700億円弱)、対GDP比率で14.3%を記録すると推計している。
NCBは好調を維持するとされる非石油部門のなかでは、特に建設・製造・卸売り・小売り部門が高止まりする民間投資や政府・消費者支出を背景に依然拡大すると予測している。周知のように「アラブの春」の影響が自国に波及することを懸念したサウジ政府は、経済的な恩恵をさらに付与することで国民の不満を吸収しようと2011年2月と3月の2回に亘り巨額の緊急経済対策を発表した。因みに、明らかにされた財政散布額は合計4000億リアル(1068億ドル、8兆5400億円強)に達し、このうちの1100億リアル(294億ドル、2兆3500億円強)が2011年中に支出されたといわれる。
但し、NCBは中東における地政学リスクが高まったり欧州経済危機が深刻化したりした場合には、2012年のサウジアラビアの経済成長率も先の予測より低下を余儀なくされると指摘している。
サウジアラビアの資金繰りが余裕含みであることは、中央銀行に当たるサウジ通貨庁(SAMA)が5月上旬に発表した金融統計からも明らかだ。同統計は同国の2012年3月末の在外資産残高が2兆1540億リアル(約5750億ドル、約46兆円)と、2011年末の2兆570億リアル(約5490億ドル、約43兆9000億円)から僅か3ヶ月間で970億リアル(260億ドル、約2兆1000億円)も増加したことを明らかにした。
最も増加額の大きかったのは海外の銀行への預金で、3ヶ月間で810億リアル(約216億ドル、約1兆7300億円)増の4952億リアル(1315億ドル、約1兆520億円)となっている。但し、資産別の残高が最大なのは依然海外証券で、2012年3月末時点では190億リアル(約51億ドル、約4080億円)増の1兆4460億リアル(約3860億ドル、約3兆880億円)に達している。
サウジは水と電気に10年間で10兆円投資
ところで、我が国をはじめとする諸外国企業にとって気になるのはサウジアラビアの今後のプロジェクト動向である。この点について5月20日付のアラブ・ニューズ紙は、ムハンマド・イブラヒム・アル・サウド副水利相が、5月下旬に開かれた水・電力関係のフォーラムで、同国が今後10年でこれら2つの部門に5000億リアル(約1335億ドル、約10兆6800億円)も投資することを明らかにしたと報じた。
内訳は、水部門が2000億リアル(534億ドル、約4兆2700億円)、電力部門が3000億リアル(801億ドル、約6兆4100億円)である。同副水利相は、水部門では1日当たり約100万立方メーターの水資源を浪費しているとして「節水関連事業」に改めて力を入れることを明らかにしている。
因みに、サウジ水電力省と我が国の経済産業省、国土交通省は、2011年9月18日、上下水管理における協力に関する包括的な覚書を締結している。協力範囲・分野は上下水分野全般(海水淡水化、汚泥処理、漏水対策、顧客サービス、水関連設備を含む) で、主な協力内容は人材育成、情報交換、調査・研究、水関係プロジェクトの開発・実施、政府・民間部門の協力推進である。今後の日本企業や自治体等によるサウジ水事業への参入が期待される。
他方、電力部門では、タウフィック・アル・ラビハ商工相が、やはり5月下旬に開催された再生可能エネルギーとエネルギー効率性に関するフォーラムで、「アブドゥラ国王原子力・再生可能エネルギー市(KACARE)」の設立からも明らかなように太陽光・風力・地熱といった代替エネルギーに特に力を入れていると説明したと5月20日付のアラブ・ニューズ紙は伝えている。
太陽光発電に関しては、昭和シェル石油が2011年10月1日、サウジ電力公社 (SEC)、国営石油会社サウジアラムコと共同で、南西部沖合のファラサンに立地した出力500kwの発電所において同国初となる太陽光発電事業をスタートさせている。同社は住民向けの電力供給を実証することで、同国の再生可能エネルギーの本格普及に向け基盤整備を行うことを目指している。
ここに来てサウジ政府が急速に力を入れているのが「人材開発・教育」部門である。2012年予算においては、実に歳出の24%に当たる450億ドル(3兆6000億円弱)が「教育・訓練」に配分されている。そのサウジアラビアで最近注目を集めているのが日本工学院専門学校の設立した職業訓練専門学校である。同校が2009年に設立した「サウジ電子家電専門学校」(SEHAI)は産業協力の枠内で両国政府の支援を得て作られた専門学校で、電子製品、空調・電化製品、コンピュータ・その他設備品の3つの技術コースを設けている。
サウジアラビアでは、若者の失業者対策として労働力のサウジ人化(サウダイゼーション)を急速に進めている。だが外国人労働者を自国民の若者に切り替えようにも、サウジアラビアの若者は外国人と代替可能な技術やノウハウを身につけていない。だからこそサウジ政府は、中堅技術者以下の教育・訓練を充実させるべく職業訓練専門学校の育成に躍起となっているわけである。日本の学校法人が、若者の失業に苦しむ中東でそのノウハウを活かすことも考えられるだろう。
復活しつつあるドバイのハブ機能
ドバイは2009年に発生したいわゆる「ドバイ・ショック」により人・物・金の流入の急速な減少に見舞われた。しかし、「アラブの春」による近隣国の政情不安や政府系企業の予想を上回る最近の好決算・リスケ進展などからビジネス・ハブとしての機能が再び見直されていることがうかがわれる。
STR Global社(世界のホテル業界のシンクタンク)によると、2012年1月のドバイのホテルの客室稼働率は86.2%と世界の主要都市の中で第1位となった。因みに、第2位は79.7%の香港で、第3位は78.32%のシドニーであった。ドバイの2011年1月のホテルの客室稼働率は75.4%であったので、1年で大きく回復したことが分かる。
ドバイといえば、世界の高級ブランドをはじめとする小売店が進出する各種のショッピング・モールが有名である。アラビアン・ビジネス誌の電子版は、世界の小売店ブランドの動向を調査したCBREが5月中旬に発表したデータとして、世界の著名な小売りブランドにとってドバイはロンドンに次いで世界第2位の進出都市となったと伝えている。
その報道によれば、同社が200都市の小売業者326社に行った調査では対象の55.5%の進出するロンドンが第1位となったものの、ドバイは53.8%と僅差で第2位となっているという。また欧州及びアジア・太平洋地域の小売業者にとって、ドバイが今後の事業拡大の最有力候補地となっているという。
こうした点についてCBREのニック・マックリーン常務は「ドバイは現在営業を行っている小売業者にとっても、同地への進出を検討しているところにとっても極めて興味深く重要な市場だ」「国際的な小売業者の中東、特にドバイへの信認の高さは重要である。中東を襲った過去数年間の国際化の波によってもその信認の度合いは落ちていない」と論評したとアラビアン・ビジネス誌の電子版は伝えている。
ところでドバイの属するアラブ首長国連邦(UAE)の経済については、IMFも好調に推移すると見ている。因みに、IMFが3月15日に明らかにしたUAE経済報告書は次のように述べている(表2)。
表2 IMF第5条に基づくUAE経済調査報告書の概要
指摘内容
1 2011年のUAEの実質経済成長率は、高水準の産油量と非炭化水素部門の拡大から4.9%の高成長を遂げた。
2 経済回復基調は今後も続くだろう。もっとも2012年の実質経済成長率は、今後の世界経済の見通しが不確かななか産油量の拡大が望めないことから2.5%と穏やかなものとなろう。
3 2012年についても、非炭化水素部門は、貿易・観光・製造業が好調なことから2.7%の成長を達成しよう。
4 但し、こうした予測は世界の経済・金融を取り巻く不透明な見通しから変わるリスクを内包している。先進国経済の低成長で原油価格が弱含めば、UAEの公共支出も削減を余儀なくされよう。
5 政府関連企業の抱える債務のリスケはかなり進展した。しかし、一部の政府関連企業は依然債務リスケの過程にある。
6 透明性が向上したことや債権者との意思疎通が円滑化したことで、市場は政府系企業への再融資に前向きになっている。
7 政府当局は、今後も規則類を改正し、残存する政府系企業の債務問題を監視し統治せねばならない。
8 銀行部門は、豊富な流動性と十分な資本が緩衝となってドバイ・ショックを上手く乗り切っている。銀行部門にはまだ十分な流動性があるが、海外発の資金ショックが銀行部門の外貨流動性を厳しくする可能性のある点には留意が必要である。
9 イラン制裁のUAE経済への影響を語るには時期尚早だが、一般的には実質経済成長率を0.2%から0.7%引き下げると推計される。
出所:IMF第5条に基づくUAE経済調査報告書から抜粋
以上のほか、UAE経済に関するIMFの最新調査報告書によれば、同国の2011年の名目GDPは約3600億ドル(約28兆8000億円)と2010年の約2980億ドル(約23兆8400億円)から20.8%拡大した。さらにIMFは2012年の名目GDPが3866億ドル(約30兆9280億円)に拡大すると見ている。
IMFは産油量が日量260万バレルと安定するなか原油価格が上昇したことで、UAEの石油・ガス輸出収入は2010年の750億ドルが2011年には前年比49%増の1120億ドルに急増したと推計している。またIMFは2012年の同収入はさらに増加し1220億ドルになると予測している。
こうした結果、IMFは2010年には91億ドルに過ぎなかったUAEの経常収支の黒字額が2011年には333億ドルと4倍弱に膨らんだと推計している。さらにIMFは、UAEの経常収支の黒字額は2012年にはさらに拡大し400億ドルに達すると見ている。
急増する糖尿病が問題に
ところで中東には昔から「三大疾病」があった。「眼病・糖尿病・心臓病」である。眼病は、砂漠・土漠地帯で砂塵・粉塵が目に入りやすいためである。糖尿病は、気温が極度に高いために糖分の摂取量が多いのだが熱すぎて運動をしないためだ。心臓病は、糖尿病が進行した結果として起きている。但し、近年では「ガン病」でも「癌」が「眼」に代わって、三大疾病の一角に名を連ねている。食生活の西欧化や喫煙者の増加が関係しているといわれる。
中東では、これらの疾病の中でも特に糖尿病の急増振りが問題化している。糖尿病が如何に深刻であるのかは、成人の罹患率の高い世界の上位10カ国に中東から6カ国も入っている点からも明らかだ。因みに、UAEの糖尿病罹患率は成人人口の18.7%(約42万5,000人)であるし、サウジアラビアの同率も16.8%(約206万5,300人)の高さである。
UAEでは、外国人労働者の流入などによる人口増もあり医療サービスの整備を急いでいる。その一環としてドバイでは保健部門に特化したフリー・ゾーンを設けている。既に30億ドル(約2400億円)を投じた医療産業向け特区「ドバイ・ヘルス・ケアー・シティー(DHCC)」、4億ドル(約320億円)をかけた「ドバイ・バイオテクノロジー研究パーク(DuBiotech)」を建設している。
日本人医師常住のクリニックも開設
こうしたUAEの医療・保健の重視策を見て海外の医療機関も相次いで進出している。我が国についても、2012年4月11日、初の日本人医師(歯科医、内科・小児科医)の常駐するさくらクリニックの開業式典が「ドバイ・ヘルス・ケアー・シティー(DHCC)」のアブドゥル・カリーム企画・品質部長の出席のもと開かれている。因みに、同クリニックの経営母体は海外での医療サービスを展開するデンタルサポートである。
中東では、欧米系メディアの影響もあって、一般市民が健康面から太りすぎを気にしたり、若い女性が美容上からボディラインを意識したりし始めている。その流れの中で、健康・美容に効果的と思われている和食や日本の食品類、或いは日本技術を駆使した農産物の栽培方法などへの関心も高まっている。我が国にとっても、ニッチマーケットしてのGCC諸国の医療・保健分野は意外なビジネスチャンスになるかもしれない。
中東ビジネスの最先端
エネルギー資源の供給先として、重要な役割を担ってきた中東。各国で長期政権が倒れ、新しい政治体制が生まれる中、市場としても世界各国から注目を集めている。しかし、日本企業は出遅れたままだ。このコラムでは中東情勢に詳しい専門家が、ビジネスに役立つ情報を解説する。
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畑中 美樹(はたなか・よしき)
国際開発センター エネルギー・環境室研究顧問 兼 ジェイ・エル・エナジー研究顧問
慶應義塾大学経済学部卒業(1974年3月)、1974〜80年富士銀行勤務後、1980〜83年中東経済研究所出向。83年富士銀行復職後(1月)、同行を退職(10月)。中東経済研究所・カイロ事務所長を経て、90年同研究所退職。90年12月〜2000年9月国際経済研究所勤務(主席研究員)、2000年10月〜2005年3月国際開発センターエネルギー・環境室長、2005年4月よりエネルギー・環境室研究顧問。中東や北アフリカ諸国の王族、政治家、政府関係者、ビジネスマンに知己が多く、中東全域に豊富な人的ネットワークを有する。専門領域は中東経済論。
著書『「イスラムマネー」がわかると経済の動きが読めてくる!』(すばる舎,2010年)『中東のクール・ジャパニーズ』(同友館,2009年)『中東湾岸ビジネス最新事情』(同友館,2009年)『南地中海の新星リビア』(同友館,2009年)『今こそチャンスの中東湾岸ビジネス』(同友館,2009年)、『オイルマネー』(講談社現代新書,2008年)、『石油地政学』(中公新書ラクレ,2003年)
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