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金融資産分布、ロングテールから柄杓(ひしゃく)へ
豊田 尚吾
この時期は、様々な統計資料が暦年や年度のくくりで取りまとめられます。先日も総務省の家計調査報告が平成23年(2011年)の家計状況を発表し、メディアでも取り上げられていました。世帯あたりの平均貯蓄額が昨年比0.4%増えて1,664万円となったこと、逆に負債は462万円と5.5%減ったことが特徴です。
ただ、いつも強調していますように、平均値を中心に左右対称に分布しない統計値については、平均値を全体の代表値と考えることには慎重であるべきです。特に貯蓄のような分布に大きな特徴のあるデータではなおさらです。以前のコラムでも取り上げたように、左右対称どころか貯蓄100万円以下(近辺)を頂点に、貯蓄額が増えるにしたがって急激に対象者が減っていく、というのが一般的な姿です。
しかも、途中でとぎれることなく、かなりの範囲まで小数の該当者が存在するという意味で、いわゆるロングテールのような形をつくっています。このような分布の背景に存在している生活者に対して、貯蓄1,664万円、負債462万円、純金融資産(名目の金融資産残高から負債額を引いたもの)1,202万円といっても間違ったイメージを提供するだけでしょう。実際、住宅ローンなどを考慮に入れた場合、純金融資産が0円の人が非常に多いのですから。
せっかくの機会ですので、もう少し細かく、資産状況を見てみましょう。よく指摘されるのはライフステージの影響の大きさです。持ち家を建てる人のほとんどが多額の住宅ローンを組みますので、その時点で純金融資産はマイナスになります。子どもがいれば教育のための支出がかさむ家庭も多いでしょう。そのようなイベントを乗り越え、一段落した時期から貯蓄を増やしていければよい、というのが一般的な認識だと思います。
逆に高齢期には収入が年金などに限られてしまう人が多くなりますので、それに備えた堅実な貯蓄が奨励されます。そう考えますと、金融資産と年齢の関係は深いことが容易に想像できます。
総務省「家計調査報告」に掲載されている、平成23年の「世帯主の年齢階級別貯蓄・負債現在高(二人以上世帯)」を表したのが下の図です。高齢になるにしたがって、純金融資産残高が増えていく様子が分かります。
世帯主の年齢階級別貯蓄・負債現在高(二人以上世帯)−平成23年−
総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)−平成23年平均結果速報」
しかしながら、これも年代別の「平均貯蓄・負債」であり、その分布は明らかではありません。そこで、エネルギー・文化研究所(CEL)の「ライフスタイルに関するアンケート(2012年WEB調査:回答者数5,000人)」のデータを用いて、年齢階層と純金融資産の分布状況を見てみました。それを表したのが下の図です。それぞれの折れ線グラフは各年齢階層の純金融資産残高の分布(各年齢層全体を100%としています)を表しています。
年齢階層別純金融資産残高の分布
データはCEL[ライフスタイルに関するアンケート(2012年調査)」
これを見ると、いくつかの特徴が確認できます。年齢別にかなりの差があるのは純金融資産残高がマイナスから500万円くらいまでと1,400万円以上のカテゴリーであること。純金融資産残高がマイナスから500万円くらいまでの範囲では、若年者ほど資産が少ないカテゴリーに属している回答者が多いこと。1,400万円以上のカテゴリーでは50歳代以上、特に60歳代以上でシェアが大きいこと。500万円から1,400万円では年齢階層であまり大きな違いがないことなどです。
若年層が急な滑り台を下っていくような折れ線を描いているのに対し、(グラフにあるようなカテゴリー<金融資産残高の幅>を設定したからではありますが)高齢者層は高額の純金融資産保有者の多い、柄杓(ひしゃく)のような形をしています。
「ゆとりある老後のためには、リタイア時に3千万円程度あることが望ましい(ただし持ち家を保有しているとの前提で)」といった専門家のアドバイスを見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。そこまではいかないとしても、1,400万円以上の純金融資産を保有する60歳代以上回答者は全体(60歳代以上回答者数)の39%となっています。逆に純金融資産残高が500万円以下の回答者は60歳以上で34.3%です。
両グループに属している人が実現できるライフスタイルに違いがあるということは想像に難くありません。それが即、社会問題になるとはいえませんが、貯蓄平均1,664万円(負債462万円)という数字の背後には、このような実態がある(※)。そのことをイメージできてこそ、様々な社会課題に対する、現実的で適切な判断を行えるようになるのではないかと思います。
一方で、このようなデータは細かすぎるのか、多くの生活者が日常的に接する情報にはなっていません。CELも生活と経済に関わる、様々な見方とデータをできるだけ多く提供したいとは思っていますが十分とはいえません。生活者の生活経営リテラシーの向上に寄与するような、有用な情報が様々な角度から分かりやすく提供される。そのような社会の実現を目指したいものです。
※実際にはアンケート調査のデータですので、このような実態の可能性がある、という表現がより適切ではあります。
http://cgi.osakagas.co.jp/company/efforts/cel/column/management/1197214_1647.html
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