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日銀は「コップの中のクジラ」
REIT市場に再生のチャンスはあるか
2012年5月21日 月曜日 蛯谷 敏
国内REIT(不動産投資信託)市場にとっては、久々の明るいニュースとなるはずだった。
4月26日、国内REITとして約4年半ぶりの新規上場となるケネディクス・レジデンシャル投資法人が上場した。長らく新規上場がなかったREIT市場の転機を期待させる話題として機関投資家の注目を集めたが、上場日に付けた初値は公募価格(19万円)を下回る18万1900円。その後も投資口価格(株価に相当)は軟調に推移し、約3週間たった5月18日現在も、終値で公募価格を下回ったまま。「結果的に、REIT市場は未だ低迷を脱しきれていない印象を強めた」という落胆が、機関投資家の間に広がっている。
日本のREIT市場は、2001年9月に市場が誕生した。世界の投資マネーがREITに潤沢に流れ込み、活況を呈した時代があったが、それも今は昔。2007年5月31日に東証REIT指数は2612.98のピークをつけたが、直後のリーマンショックから急落、2009年以降は1000を割り込む状況が続いている。5月18日の終値も、915.85で終わった。
日銀が握るREITの命運
山高ければ谷深し。過去の活況を取り戻せないREIT市場を今、実質的に支えているのは日本銀行だ。
2010年12月、日銀は景気対策の一環として総額35兆円(当初)の資産買い入れを開始。REITには500億円の買い入れ枠を設定した。日銀が率先して購入することで、他の投資家の呼び水となることを狙った施策は当たり、REIT指数は約30%上昇した。ここまではよかった。そのまま市場が自律的な回復に向かうことを日銀は望んでいたはずだが、皮肉にもこの結果がREITの日銀依存を強めた。
2012年3月に発生した東日本大震災後には、日銀は資産買い入れ枠を500億円から1000億円に増額し、急落したREIT市場を支えた。さらに同年8月に勃発した欧州債務危機でも、買い入れ枠を100億円積み増し、1100億円とした。現在では、買い入れ枠は1200億円にまで膨らんでいる。
日銀頼みのREIT。ここ2年の市場の動きによって、REIT市場は、日銀の動きで大きく相場が変動する特殊な市場の印象を強めてしまった。市場関係者は、「REIT市場における日銀は、まるでコップの中のクジラのよう」と自嘲的に語る。言い換えれば、日銀の買い入れがなければ、今のREITは投資家の関心が極めて薄い市場になりつつある。
下記の東証REITの投資主体別売買状況を見れば一目瞭然だが、個人投資家は昨年末から今年にかけて売り越しが続いている。外国人投資家も、実態は、海外に登記している日本の外貨建ての投資信託商品からの資金流入であり、コンスタントに買いを入れているのは、日銀であることが分かる。日銀の買い入れという支援が終われば、相場の勢いが萎んでしまう危うさを抱えている。2月に日銀が実施した金融緩和の追い風が止んだ後に上場したケネディクス・レジデンシャル投資法人の結果は、図らずもそれを証明してしまった。
東証REITの投資主体別売買状況(ネット金額)(単位:百万円、▲はマイナス)
日銀 個人 外国人 金融機関 投資信託
2011年1月 2400 ▲9937 11704 ▲436 918
2月 0 ▲5453 6014 3291 4308
3月 13200 ▲15307 13040 ▲4512 1282
4月 1900 ▲9800 3312 6193 4619
5月 0 ▲5723 ▲15548 16149 9053
6月 0 ▲6336 ▲6730 16460 ▲1496
7月 3000 ▲2159 ▲10495 11211 ▲2962
8月 16500 ▲1836 ▲11715 739 ▲6071
9月 15300 ▲480 ▲8080 638 ▲8528
10月 4500 955 289 ▲3571 ▲5464
11月 3500 755 397 ▲1617 ▲4252
12月 4000 ▲183 ▲805 1534 ▲3907
2012年1月 0 ▲6794 8832 2097 ▲4027
2月 3900 ▲20675 24404 ▲3593 ▲1118
3月 2800 ▲11743 17825 ▲3663 4026
出所:東京証券取引所
なぜ、このようないびつな構造になってしまったのか。
「ミドルリスク」の幻想
国内不動産の流動性を高め、投資家には「ミドルリスク・ミドルリターン」の新たな金融商品を提供する――。そんな狙いで2001年9月に誕生した日本のREIT市場。だが11年目に入った今も、そうした位置づけの商品としてREITが投資家に認知されているかは疑問符がつく。
世界の投資マネーを日本の不動産市場に呼び込む受け皿。端的にいえば、2001年から2007年まではそのような位置づけでREITは役割を果たしてきた。都市部を中心に次々と新たなオフィスビルやマンションを購入し、物件を入れ替えていく。
この時、投資家の大半は外国人や機関投資家だった。本来は、個人投資家向けに裾野を広げるべきだったはずが、利益の大きさから、REIT商品はもっぱら金融機関や外国人投資家が購入する商品になった。REIT1口当たりの購入価格も高額だったことも、個人投資家への敷居を高くしていた。
さらに、REITは保有し続けることでその配当を得る(インカムゲイン)商品だったはずが、不動産市況に流れ込んだ潤沢なマネーにより、銘柄そのものを売買してその差益を狙う(キャピタルゲイン)商品としての色彩を強めていった。
外国人投資家の熱狂と個人投資家へのアピール不足もあって、いつしかREIT市場は規模が大きい割には市場参加者の裾野が狭い、偏ったマーケットという特徴を持つようになった。
そして、2007年のリーマンショックが起きる。金融危機によって、日本の不動産市場に流れ込んでいた投資マネーが一気に収束した時、偏っていた投資家の大半が一気に市場から退場した。この構造的な問題が、現在まで続いている。
足元を見れば、小康状態を保っていた欧州経済に再び暗雲が立ち込めている。ギリシャ政局の行方が混沌とし、その不安が欧州債務問題への警戒感へと飛び火。世界経済に再び緊張感が高まっている。5月18日、日経平均株価は終値で8611円と、今年最大の下げ幅を記録した。REIT指数も、それに引きずられるように、じわじわと値を下げており、日銀頼みの局面が再び到来する可能性がある。
法改正で局面は変わるか
このいびつな構造はいつまで続くのか。REIT関係者の間で1つの転機と期待されているのが、投資信託法改正だ。金融庁は現在、資産の有効活用を目的とした投資信託・投資法人制度の見直しを検討している。
この中で、関係者が注目しているのが、自己投資口の取得。上場企業の自社株買いと同じ効果が見込める施策をREITに認めようとしている。買い手の限られた現状では、自社の投資価値を高める手立てをREITの投資法人各社は持っていない。このため、制度改正で自ら投資価値を高められるようになれば、自分自身で価値を高めるきっかけになる可能性がある。
法改正の議論は既に始まっており、今年7月ころまでには方針が示される予定。「REIT市場の1つの転機となる」と見る関係者は少なくない。
もっとも、REITの裏打ちとなる不動産市場の実態は、好況とは言い難い。こちらも、人口減という構造的な問題を抱えており、「建物を作っては売る」という新築主体のビジネスモデルに転機が訪れている。
REIT発足から10年。独り立ちへの課題は、未だ山積している。
Movers & Shakers
いま、世界と日本の金融資本市場を揺り動かしているのは何か。株式、為替、債券、商品などの市場関係者が最も注目している銘柄やトピックに焦点を当て、それを基軸にマーケットの動きを読み解き、週明け以降を展望する。毎週月曜日に配信し、ビジネスパーソンに役立つマーケット分析・予想を提供するコラム。
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蛯谷 敏(えびたに・さとし)
2000年、日経BP社入社。通信業界誌『日経コミュニケーション』記者を経て、2006年より日経ビジネス記者。情報通信、ネット、金融、不動産、政治、人材など色々担当。「一極集中」から「多極分散」へと移り変わる様々な事象をテーマに日々企画を考えている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120518/232292/?ST=print
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