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再選挙が決まったギリシャの「捨て身作戦」で揺さぶられる欧州
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32583
2012年05月18日(金)長谷川 幸洋「ニュースの深層」:現代ビジネス
ギリシャの再選挙が決まった。現地メディアの世論調査によれば、緊縮財政に反対する急進左派連合の支持率が高く、再選挙で大きく議席を増やす見通しという。ギリシャは結局、ユーロ離脱に動くのだろうか。
■ユーロ離脱論のシナリオ
結論を先に言うと「そうはならない」とみる。
なぜかと言えば、支援する欧州連合(EU)側も急進左派連合も、なによりギリシャ国民もギリシャのユーロ離脱を望んでいないからだ。経済的にはユーロ離脱が合理的でかつ根本的な解決だったとしても、政治的に離脱を促すメカニズムが働かない。どこからも離脱へのインセンティブが起動しないのである。
世論調査が示すように、急進左派連合が再選挙で議席を伸ばし、政権を握ったとしよう。単独政権か連立かはこの際、措く。連立であっても事実上、政権の主導権を握ると仮定する。
彼らは緊縮策に反対しているが、ユーロ離脱を目指しているわけではない。すると政権の座に就いてから、まずEUや国際通貨基金(IMF)、とりわけ独仏両国と金融支援の条件になっている緊縮策の見直し協議を求めるだろう。
報道によれば、2月に支援側と合意した緊縮策は最低賃金の22%引き下げや公務員の削減(2012年中に1万5000人、15年までに15万人)、電力など公社職員の年金15%削減、給与7%減額、国営企業の終身雇用廃止、公共事業や防衛費の削減などが柱だった。
これらに反発して、ギリシャ国内では連日、激しいデモが繰り広げられたのは記憶に新しい。
新政権が緊縮策の見直しを要求すると、支援側はどう反応するか。欧州から距離のあるIMFは当然、見直しに反対するとしても、欧州側がゼロ回答で押し通すだろうか。
支援側がゼロ回答で動かなければ、新政権には一方的に緊縮策の少なくとも一部を実行しない手段がある。それが「許せない」として、支援側が金融支援を実行しなければ、ギリシャは資金繰りがつかず、早ければ6月にも秩序なき債務不履行(デフォルト)に陥る可能性が高い。
問題はここからだ。ギリシャがデフォルトすると、欧州中央銀行(ECB)や民間銀行がもつギリシャ向け債権が焦げ付いて、結果として欧州のみならず世界経済が混乱する。どの程度の混乱になるかは、ギリシャ向け債権の保有状況や債務保証の実態による。それほど混乱しないという楽観的見方もある。逆に「スペインやイタリアもだめなのではないか」と連想ゲームが働いて、ひどい混乱になるという悲観論もある。
結果として、もはやユーロ建てで資金調達できなくなったギリシャは結局、ユーロを捨てて旧通貨ドラクマに復帰せざるをえないのではないか。それがユーロ離脱論の基本的なシナリオだ。
以上のシナリオは支援側も当然、予想している。金融市場も理解しているから、少しずつ先取りしながら反応する。ギリシャ国内では、はやくもドイツなどに資本逃避が起きている、と伝えられる。
ここで鍵を握るのはギリシャ側なのか、それとも支援側なのか。それは支援側だ。緊縮策を見直すのは急進左派連合であったとしても、それを受けて支援を凍結するかどうかを決めるのは支援側、という点が最大のポイントである。
いまやだれもが理解している「支援を凍結すればギリシャはユーロ離脱を迫られる」というシナリオを前提にすると、支援凍結とは、すなわち「欧州によるギリシャ切り捨て」と同じ意味になる。ここが問題の本質だ。
■最終的に物事を決断するのは欧州側
欧州にギリシャを見捨てる覚悟があるだろうか。欧州内には閣僚クラスを含めて「それでも仕方がない」という声がある。支援のコストを支払わされるドイツなどには、そうした国民感情も強い。それでも結局、欧州はそんな大胆な決断をできないだろう。
いったん仲間を見捨てれば、二度目もあると考えるのは自然だ。ギリシャを切り捨てれば、スペインやイタリアに悪影響を及ぼすのは避けられない。ギリシャ国内ではもちろん「オレたちを切り捨てるのか」と激しい反発が起きる。結果として、欧州に憎悪の炎が広がってしまう。それは欧州には出来ない相談なのだ。「憎悪の炎を消す」ことが欧州統合の理念そのものであるからだ。
急進左派連合の「緊縮見直し、ユーロ残留」という路線は「欧州はギリシャを切り捨てられない」という前提に立っている。これは「ずる賢い」といえば、その通りだが半面、現実的でもある。
こう考えると、再選挙後の展開が見えてくる。
急進左派連合は国民に約束したとおり緊縮策の一部を見直して、実際に破棄するだろう。それで償還期を迎えた国債の一部がデフォルトになったところで腹は痛まない。痛むのは債権者側だ。公務員の給料が払えなくなれば大変だが、それも支援凍結のせいにする。
我慢比べになったところでユーロ離脱はけっして言い出さず、あくまで残留すると言い続ける。国民の食卓が貧しくなったところで、欧州はギリシャ国民が餓死するまで黙って見ているわけにはいかない。結局、支援側は緊縮策の緩和で合意するしかなくなるだろう。たとえば目標年次の先送りによって、毎年の緊縮額を実質的に減らす策などが考えられる。
あるいは、こう言い換えてもいい。政権側が「ユーロ離脱」を言い出さず、一方で国民生活を人質にとるようにして欧州側に妥協を迫るなら、それはすでに欧州側が求めていた緊縮策を別な形で実行しているとも言えるのだ。たとえば、ユーロ建て国債の引き受け手がなくなれば、政府は強制的に歳出を減らすしかない。
もちろん「そんな多少の緩和程度では容認できない」という国民はいるだろう。だが、いったん政権を握ってしまえば、急進左派連合から決定権を奪えない。「裏切られた」と感じる国民がいるかもしれないが、そこは日本と同じである。日本の場合は裏切りの政権に対して、やがて総選挙が待っているが、ギリシャは再選挙が終わった後の展開なのだ。
まして、ギリシャの場合は国民の大多数がユーロ離脱を望んでいない。支援側も政権側も残留を望んでいる。ちょっとした緊縮見直しだけで、ユーロに残留する大義名分が成立するのだ。政治的コストとして考えれば、わずかな裏切りの代償として、もっと重要なユーロ残留がかなうなら、それは非常に安い。
支援側が容認できないほど緊縮策を抜本的に見直し破棄してしまうのは、言い換えれば「ユーロ離脱」を自分たちが言い出すのと同義である。相手が絶対に飲めない条件を掲げて勝負すれば、最終的に態度を決めるのは相手ではなく、自分たちになるのだ。急進左派連合は最初から「ユーロ離脱はしない」と明確にしている。であれば、後はどう支援側と妥協点を見いだすか、という話である。
ふりかえれば、欧州がギリシャをユーロ圏に加えた最初の判断が誤りだった。いったん仲間に入ってしまったギリシャは、捨て身の瀬戸際戦法で欧州を揺さぶっている。
欧州が「ギリシャのわがまま」を許さないと考えるなら、最終的に物事を決断するのはギリシャ側ではなく、実は欧州側だ。急進左派連合が「ユーロ離脱も辞さず」という方針ならともかく、初めから「離脱しない」と言っている相手に、自分たちの条件を飲ませようとするなら「これを飲まないなら出て行け」と欧州側が腹を決めなければならない。いまの欧州はそこまで意思を統一していない、そしてだからこそ、加盟国を追い出す法的手段もないのだ。
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