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男性低所得者の死亡率は高所得者の3倍!
一体改革で懸念される「健康格差社会」の到来
「一体改革」による前期高齢者の
窓口負担引き上げで何が起こるか
5月11日、いわゆる消費税増税法案が衆議院本会議で審議入りした。
消費税増税法案は、借金(赤字国債)に頼っている部分が大きい社会保障の財源を税金や社会保険料で賄うように変えて、社会保障を持続可能なものにしていくことを目的にしている。この法案の根拠になっているのが2月に閣議決定された「社会保障・税の一体改革」だ。
今回の負担の焦点となっているのは消費税だが、一体改革では医療の財源についてもいくつかの見直し案が出されている。厳しい健康保険財政を考えれば当然の見直しと思えるものもあるが、中には社会保障の機能強化どころか、反対に国民の健康格差を拡大する恐れのあるものも含まれている。
そのひとつが70〜74歳の前期高齢者の窓口負担の引き上げだ。
病院や診療所で支払う医療費の自己負担割合は年齢に応じて異なり、小学校入学前の子どもは2割、小学校入学から70歳未満の人は3割だ。しかし、おもな収入が老齢年金になる高齢者は相対的に所得が低いため、歴史的に見ても低く抑えられており、現在は70歳以降の人は1割となっている(ただし、現役並み所得者は3割)。
実は、2006年度の医療制度改革では、70〜74歳の人の窓口負担を2008年4月から2割に引き上げることが決められていた。しかし、2007年の参院選で自公政権が敗北したことで実施が見送られ、年間2000億円の予算措置をとることで今でも1割に据え置かれたままとなっている。
2012年度はかろうじてこの予算措置が継続されたが、経済界を中心に「法律で決まったことなのだから、70〜74歳の人の窓口負担は速やかに引き上げるべきだ」という声が高まっている。小宮山洋子厚生労働相も、2012年度に引き上げられなかったことは「残念」として、「来年度は必ずやらなければならない」といった発言をしている。
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所得で左右される人の死
低所得層の死亡率は3倍!
しかし、日本福祉大学社会福祉学部の近藤克則教授は「窓口負担の引き上げは国民の健康格差を助長する」として警鐘を鳴らす。
近藤教授の研究によれば、具合が悪いのに医療機関の受診を控えたことがあると答えた高齢者は、年収300万円以上の人が9.3%なのに対して、年収150万円未満の人は13.3%。その理由として、年収300万円以上の人は「待ち時間」をあげる人がもっとも多かったが、年収150万円未満の人は「費用」をあげる人がもっとも多くなっている。
つまり、低所得の人ほどお金がないために医療機関の受診を控えている。そして、その結果は健康状態に如実に表れるという。
65歳以上で要介護認定を受けていない人を4年追跡調査したところ、その間に死亡した男性高齢者は、高所得の人が11.2%なのに対して、低所得の人はその3倍の34.6%にも及んでいるのだ。
「日本人という母集団の中から、ある集団を無作為に選べば、生物学的にはほぼ同じなので、どの集団でも同程度の平均寿命が期待できるはずです。ところが、現実は所得によって死亡率にこれだけの差が出ており、高所得層なら避けられている死が低所得層に集中しているのです」(近藤教授)
70〜74歳の人の医療費の窓口負担を引き上げれば、社会保障・税の一体改革の目的のひとつである「財政の健全化」には効果があるかもしれない。しかし、その一方で窓口負担を重荷に感じる低所得の人たちの受診抑制を進め、さらに健康格差を助長する副作用も考えられる。それでは、一体改革が掲げたもうひとつの目的である「社会保障の機能強化」という目標は達成できないのではないだろうか。
1990年代以降、所得や社会的要因によって生まれる健康格差はヨーロッパ諸国やWHO(世界保健機関)でも問題視されており、その格差が拡大しないような医療政策・社会保障政策がとられるようになっている。
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70〜74歳の人の窓口負担の引き上げのほかにも、病院や診療所を受診した人から一律に100円を徴収する受診時定額負担の導入なども検討されているが、これらは欧州諸国の格差解消政策とは逆行する動きだ。そうした世界の流れを多くの日本人は知らされないまま、さらに高い自己負担を強いられようとしているのだ。
健康格差社会にしないために
求められる医療費の財源は?
筆者は医療費を増やすなと言いたいわけではないし、税金や社会保険料の負担を増やさなくても無駄をなくせばなんとかなるという夢物語を語るつもりもない。
諸外国に比べて日本の国民負担率は低く、とくに医療分野は世界でも低水準だ。2009年度の国の総医療費の対GDP比は8.5%で、OECD(経済協力開発機関)に加盟する34ヵ国の中で24位。OECD平均の9.5%を大きく下回っている(『OECD HEALTH DATA 2011』より)。
世界でも例をみないスピードで高齢化が進む日本では、医療や介護を担う人材を確保するためには総医療費を増やさなければ立ち行かなくなることは、多くの研究者が指摘している。問題は、その財源の調達方法だ。
「社会保障・税の一体改革」で示されている医療費の負担として、「パート主婦などの短時間労働者にも健康保険を適用して支え手を増やす」「医師など収入の高い職業団体で構成される国保組合の国庫補助を見直す」「高齢者の医療費を賄うために各健康保険から支援している保険料を加入者の収入に応じた総所得割にする」といった見直しは、応能負担の原則から見ても公平感があり妥当なものだと思う。
しかし、高齢者の窓口負担の引き上げは、近藤教授の研究が示すように健康格差の拡大につながる可能性があり、社会的弱者への負担感を強めることになる。ましてや、70〜74歳の人の窓口負担を引き上げることで得られる財源は年間2000億円程度だ。
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それよりも不公平感がないのは、健康保険料を中心とした医療費の引き上げだ。前回の本コラムでも紹介したが、大企業の従業員が加入する健保組合は、中小企業の従業員が加入する協会けんぽに比べて保険料水準が低いところが多い。これは公務員が加入する共済組合にも言えることで、ばらつきのある保険料率を協会けんぽ並みに統一すれば、年間1.7兆円の保険料収入の増額が期待できるという(厚生労働省試算。2010年度の保険料率の場合)。
「社会保障・税の一体改革」では消費税の行方ばかりが取り上げられるが、そこにばかり目を奪われていると国民の健康格差を助長する法案が通ってしあう可能性もある。暮らしを支える社会保障にふさわしい負担のあり方はどんなものなのか、注意深く考える必要があるのではないだろうか。
参考文献:近藤克則『「医療クライシス」を超えて――イギリスと日本の医療・介護のゆくえ』(医学書院)
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