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日本の異質性を生む財政・金融政策サイクルの“ずれ”
――森田京平・バークレイズ・キャピタル証券チーフエコノミスト
まとめ:
財政サイクルと金融政策サイクルの“ずれ”
2012年は1〜3月期以降、全ての四半期で日本の実質GDP成長率がG3(日・米・欧)でトップとなる可能性がある。1つの要因として、日本の財政政策サイクルのずれ(日本は財政出動、欧・米は財政抑制)が挙げられる。
しかし、2013年前半には景気減速が避けられそうにない。米国だけでなく日本でも“Fiscal cliff”(財政の崖)に警戒したい。
金融政策においても、今後は主要中央銀行間でサイクルのずれ(日銀のバランスシート拡張度合いが目立つ)が見られる。今後は日銀がCPIに強気であることから、ファンダメンタルズの観点からは、さらなる金融緩和は一旦議論しにくくなる。
しかし、日銀が想定するフィリップス・カーブの傾きには違和感を禁じ得ず、CPI見通しの修正を伴う形で追加緩和を余儀なくされる可能性もある。
景気展望:
やはり日本が2012年は
G3(日・米・欧)でトップに
1〜3月期の主要な経済指標が出揃った。このタイミングを捉えて景気展望を整理しておこう。2012年のポイントは、G3(日・米・欧)の中で日本の実質GDP成長率がトップになる可能性が高いということにある。
2012年1〜3月期:
顕在化する財政政策サイクルのずれ
(日本は財政出動、欧・米は財政抑制)
5月17日、内閣府は1〜3月期のGDP統計(1次速報)を発表する。当社は同期の実質GDPは前期比+0.9%(同年率+3.5%)と、高いスピードで増加したと見ている。もちろんG3でトップの成長率だ。
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今後の景気を展望する上でも、改めて1〜3月期における個人消費の強さと公共投資(公的固定資本形成)の増加を指摘しておきたい。当社は、1〜3月期の個人消費は前期比+0.8%と急伸したと見ている。その上で、個人消費は震災前の水準にほぼ戻ったと判断している(図表1参照)。
2011年度第4次補正予算で復活したエコカー補助金(予算規模3000億円)、震災後の萎縮・自粛ムードの減退、消費者としての高齢者の台頭、などが複合的に作用することで、耐久財やサービスの消費が強かった。
公共投資も各種月次指標から判断すると、昨年11月頃から増えている。その結果、1〜3月期の公共投資は前期比+2.7%と3四半期ぶりに増加したと計算される。
2012年の日本経済を展望する際に重要となる、@個人消費など民間内需の底堅さ、AG3内での財政政策サイクルのずれ(日本は財政出動、欧・米は財政抑制)という2つの特徴の萌芽が、1〜3月期にすでに見られる。
4〜6月期以降:
財政政策サイクルの“ずれ”
を背景にG3でトップを維持
4〜6月期は、輸入増の本格化や個人消費の巡航速度への減速を背景に、1〜3月期から一旦減速するであろう。しかし、2012年中はG3でトップの回復スピードが維持される可能性が高い。
財政政策サイクルの“ずれ” が鍵
この時期の景気の牽引役として財政政策(公的需要)の位置づけが大きい。内閣府の試算によると、昨年11月に成立した2011年度第3次補正予算は、年間実質GDPを1.7%程度(8〜9兆円)押し上げる。
次のページ>> 大震災を機に、在庫サイクルもGDPの伸びをサポート
内訳(数値は概算)としては、公共投資4.3兆円、民間企業設備投資1.9兆円、政府最終消費支出1.4兆円、民間消費支出・民間住宅投資1.0兆円の需要創出が見込まれる。
このうち特に、公共投資、政府消費が4〜6月期以降も景気をサポートするであろう。実際、公的な復旧・復興投資の先行指標と位置づけられる「機械受注のうちの地方公務」や「公共工事請負金額」が増えていることは心強い(図表2参照)。さらに復旧・復興の進展は民間の設備投資や住宅投資も誘発するであろう。
在庫サイクルもGDPの伸びをサポート
この時間帯に入ると、在庫復元の影響もGDPに表れやすくなる。すなわち、民間在庫投資がGDPを押し上げ始める公算が大きい。昨年の東日本大震災、タイの洪水などは日本企業(特に製造業)に「少ない在庫はリスクになり得る」ということを痛感させた。
「カンバン方式」に象徴されるように、これまでは少ない在庫は「理想」であった。これが「リスク」と認識され始めると、ある程度在庫を積み増す誘因が企業側に生じよう(図表3参照)。その結果、在庫削減のために生産・雇用が抑えられる典型的な景気後退リスクは、2012年は限られそうだ。
当社の実質GDP成長率の年間見通しは、2011年度-0.1%(従来見通し-0.2%、以下同)、2012年度+2.6%(+2.6%)、2013年度+1.5%(+1.7%)。暦年では2011年(実績)-0.7%、2012年+2.5%(+2.4%)、2013年+1.9%(+2.1%)。2012年の成長率の高さを見て取れる。
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2013年前半:
米国で懸念される
“Fiscal cliff”(財政の崖)
ただし2013年前半には、景気は減速を余儀なくされよう。第1に輸出が鈍化し始める。米国では、2012年末には給与税減税、ブッシュ減税などいくつかの減税策が終わる可能性がある。さらに2013年1月には、「強制歳出削減メカニズム」が始動しかねない。
このように、米国で財政からの景気サポートが2012年末から2013年初にかけて一気に圧縮される状態は、最近“Fiscal cliff”(財政の崖)、あるいは“Taxmageddon”(taxとarmageddon〔ハルマゲドン〕からの造語)などと呼ばれる。
こうした中、米国経済は2013年1〜3月期には年率2%程度への減速が避けられそうにない。これは1四半期程度のラグを伴って、日本の輸出に下押し圧力をかける。
日本でも懸念される“Fiscal cliff”
第2に、程度の差はあれ、日本においても“Fiscal cliff”に近い事態が懸念される。まず復旧・復興需要が一巡する。公共投資や政府消費など、公的需要のGDPに対する前期比寄与度は、2013年に入ると小さくなり始め、同年7〜9月期にはマイナスに転じるであろう。
さらに、金額は限られるとはいえ、2013年1月には復興増税が始まる。同時に、1月末にはエコカー補助金(3000億円)も期限切れとなる。
前述した輸出の減速と併せて、実質GDP成長率は2013年4〜6月期には前期比年率0.7%と潜在成長率近くまで減速すると見ている。これは同時期以降、需給ギャップが閉じにくくなり、ひいてはCPI変化率のプラス幅が拡大しにくくなることを意味する。
次のページ>> 追加緩和に動いた日銀は、「資産買入等の基金」を拡大
ただし「減速」あっても
「後退」なし
なお、景気は減速で踏みとどまり、後退(2四半期連続で実質GDPが前期比マイナス)は想定していない。通常、景気は後退するためにもエネルギーを必要とする。
具体的には、過剰在庫、過剰雇用、過剰設備などであるが、現時点でこうした「負のエネルギー」は強まっていない。むしろ雇用や設備に関しては、非製造業を中心に過剰感は下がっている(図表4参照)。2012年はもちろん2013年も景気後退の可能性は小さい。
追加緩和に動いた日銀:
「資産買入等の基金」を拡大
4月27日の決定会合で、日銀は市場に促されるかのように「資産買入等の基金」(以下、基金)の拡大に打って出た。具体的な対応は、
(1)長期国債の買入額を19兆円から29兆円に増加
(2)買入対象となる長期国債残存期間を「1年以上2年以下」から「1年以上3年以下」に延長
(3)ETFの買入額を1.4兆円から1.6兆円に、J-REITの買入額を1100億円から1200億円に増加
(4)固定金利方式・共通担保資金供給オペ(以下、固定金利オペ)を35兆円から30兆円に圧縮
次のページ>> 財政政策に加えて、金融政策のサイクルも“ずれ”
(5)以上を通じて「基金」の枠を65兆円から70兆円に拡大
(6)「基金」の枠の達成時期を「2012年末」から「2013年6月末」に延長
とまとめられる(図表5参照)。
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財政政策に加えて
金融政策のサイクルも“ずれ”
日銀が追加緩和に動く一方、当社はFedのQE3、ECBのLTRO追加、BoEのQE拡張は当面ないと見ている。その結果、日本と他の主要先進経済圏の間では、前述した財政政策に加えて、金融政策のサイクルにもずれが生じる。
日銀は基金外でも、年間買入額22兆円、同償還16兆円のペースで長期国債の保有残高を積み増している。基金と長期国債を除く資産残高が横這うと仮定すると、日銀のバランスシートは直近3月末の139.6兆円(GDP比29.6%)から2013年6月末までに165.8兆円(同34.7%)に拡大する。これは、主要中央銀行でGDP比最大のバランスシートを有するECBに並ぶ規模だ(図表6参照)。
CPIに強気な日銀
同じく4月27日、日銀は「展望レポート」を発表した。同レポートで、日銀はコアCPI(生鮮食品を除く総合CPI)を2011年度実績0.0%に続いて2012年度+0.3%(当社予測+0.1%)、2013年度+0.7%(同+0.1%)と見ている。
一方、実質GDPについては、2011年度-0.2%(同-0.1%)、2012年度+2.3%(同+2.6%)、2013年度+1.7%(同+1.5%)としている。日銀の実質GDP見通しに特に違和感はない。しかし、2013年度のコアCPIについては、日銀はいかにも強気だ。
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実質GDPの見通しが当社に近い一方、コアCPIの見通しに大きな開きがあるということは、@潜在成長率の想定(すなわち需給ギャップの想定)が異なる、A需給ギャップとコアCPIの連動性が異なる、B原油価格などの前提が異なる、のいずれかが背景にあるはず。
「展望レポート」で日銀は、日本の潜在成長率を「0%台半ば」としている。当社は0.8%と見ていることから、@が主たる背景ではない。また日銀はCPI見通しの前提を公表しておらずBは議論しにくい。
フラット化する
フィリップス・カーブ
ポイントはAだ。需給ギャップが1%ポイント変化したときに、3〜4四半期後のCPIがどの程度変化するかを推計すると、2000年代以降、両者の連動性が低下していることがわかる(図表7参照)。
たとえば、直近2007〜11年に基づく推計では、需給ギャップが1%ポイント縮まっても、コアCPIの前年比変化率は0.13%ポイントしか高まらない。需給ギャップとCPI変化率の関係はフィリップス・カーブに相当するが、両者の連動性の低下は同カーブのフラット化を意味する。
日銀は実質GDP成長率を2012年度+2.3%、潜在成長率を0%台半ばとしていることから、需給ギャップは2012年度に1.8%ポイントほど縮む計算になる。先のフィリップス・カーブの傾きを前提とすると、翌2013年度のコアCPI変化率は2012年度から0.2%ポイント(=1.8×0.13)高まる。しかし、日銀は0.4%ポイントの加速(2012年度+0.3%→2013年度0.7%)を見ている。
CPI見通しの修正を伴う形で
追加緩和の可能性も
日銀がCPIに強気である中、経済ファンダメンタルズからはさらなる金融緩和は一旦議論しにくくなる。しかし、日銀の想定するフィリップ・カーブは実勢以上にスティープである可能性が高く、今後コアCPI見通しが下振れるリスクは否めない。そのときには、CPI見通しの修正を伴う形で追加緩和を余儀なくされよう。
質問1 今年後半〜来年前半にかけて、日本の景気はどう推移すると思う?
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