http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/175.html
Tweet |
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M3ZXM36K50Y001.html
5月14日(ブルームバーグ):ウォール街のトレーダー、スコット氏は2007年後半、住宅ローン市場の崩壊を目の当たりにし、脳の奥深くに埋もれていたスイッチが入った。
ジョン・コーツ氏の奇妙な著書「The Hour Between Dog and Wolf(仮訳:イヌとオオカミの間の時間)」は、その次の瞬間に何が起こったかを臨床的に分析している。
コーツ氏によれば、スコット氏の心拍が速まり、腕や大腿(だいたい)への血流が増える。瞳孔が拡張して光の吸収が増加する。汗をかき始め、呼吸は速まり、アドレナリンが放出される。そして、損失が2400万ドル(現在のレートで約19億2000万円)に膨らみ、下痢が始まる。
コーツ氏は米ゴールドマン・サックス・グループやメリルリンチ、ドイツ銀行でデリバティブ(金融派生商品)取引に12年間にわたって携わった経歴を持つ。スコット氏は架空の人物だが、コーツ氏の所見から判断してこれらの症状は全てあまりにもリアルだ。
「トレーディングフロアで損失が膨らむと、不安に駆られたトレーダーらがトイレに駆け込み、男性トイレは恐怖と悪臭を放ち始める」。
この著書が米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)の読書リストにないのなら、20億ドルの取引損失が出たこの機にリストに加えられるべきだろう。
コーツ氏は1990年代のドットコムバブルの際に金融市場の持つ生物学的な側面に触れて衝撃を受けた。通常は良識的なハイテク株トレーダーらが自信過剰になり、分別をなくし、興奮状態に陥る様を目にした。その時、神経科学の分野で特にホルモンが脳に及ぼす作用、思考や行動に与える影響を解明したいという思いに取りつかれた。
男性の性ホルモンであるテストステロンがトレーダーの判断力を奪い、自分は完全無欠かのように感じさせ、相場を持続不可能なほどの高値に押し上げる可能性があるのだろうか。そしてハイテク株が急落した際、トレーダーはストレスを引き起こすホルモン、コルチゾールの影響に打ちのめされているのだろうか。
・戦いか逃走か
数千年にわたって進化を遂げてきたヒトの体内機能は、ライオンやクマとの戦いか逃走の手助けをし、活況と不況の原動力にもなっているのだろうか。
コーツ氏は自身の理論を検証するためウォール街を去った。英ケンブリッジ大学で神経科学と内分泌学を4年間学び、現在は上級研究員となっている。ロンドンの金融街シティーで高頻度取引トレーダー250人を対象に実験を行った。このうち女性は3人だけだった。
2週間にわたり、トレーダーのテストステロン値と、日々の利益と損失とを比較した。その結果、利益が平均を上回った日にはテストステロン値が大幅に上昇していることが分かった。コーツ氏によれば、このホルモンがトレーダーらにさらにリスクを取るよう促す作用を及ぼしたためだ。
別の実験では、変動性の高い市場と損失がどのようにトレーダーのストレスホルモン分泌のきっかけとなるかを実証した。このホルモンは、制御不能の状態や不確実な状態に敏感に反応する。
・変異
コーツ氏によれば、金融市場でリスクを冒す行為は、巨大なチューブの間を抜ける波乗りや、フェラーリに乗って曲がりくねった山道でスピードを出したり、グリズリー(ハイイログマ)とにらみ合ったりしている時のような他のリスクを冒している際に感じるのと同じ心理的反応を引き起こす。
トレーダーはテストステロン値が上昇する際、戦いに備える動物のような態勢に入るとコーツ氏は考えている。本のタイトルが示唆するような変異の瞬間において、リスクを取ろうとするトレーダーの意欲は自信と共に高まっていく。トレーダーは「イヌとオオカミの間の時間」に入り込んでいくのだ。
この著書の内容は推論も多く、型破りだ。ただ、非常に魅力的なので二度も読み、たくさんメモを取った。
コーツ氏は、あるフロアで働く強気市場に魅せられたトレーダーらの物語として描いている。この強気市場は、2007年と08年にひどい弱気市場へと変貌を遂げた。彼らがいかにして利益や損失を出し、身体がその行動にどのような影響を及ぼしたかを表現している。
・女性と年長者
テストステロンが本当に見境なくリスクへの行動を促すなら、どう対処すればいいのだろうか。コーツ氏は市場の生物学を変えることを提案する。
同氏によれば、例えば、トレーディングフロアで勤務する女性や年長者の数を増やすことも可能だ。女性のテストステロン値は男性の約10−20%で、男性でも年齢とともに値が減少するという。
コーツ氏はトレーディングについて、通常、若い男性の職業と思われがちだが、最も伝説的な投資家はもっと年を取っていると指摘する。ウォーレン・バフェット氏や同氏が師と仰ぐベンジャミン・グレアム氏のように。
その道の第一人者であっても、時に経験を積んだ年長者の助言者を必要とするものだ。
********
(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの芸術・娯楽部門で記事を執筆しています。この書評の内容は同氏自身の見解です)
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。