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日本のインフラが危ない(上)東京五輪に備えた大量整備から50年「物理的な崩壊」が日本列島を襲う
――東洋大学経済学部 根本祐二教授
去る5月2日、首都高速道路1号羽田線の橋脚部分が公開された。50年を経過した橋脚には無数のひび割れが発見され、インフラの弱さと怖さが明らかになった。日本では、東京五輪に備えはじめた1960年代初頭からインフラ整備が始まった。そして今あれから50年後を迎えている。このまま何もしなければ、「物理的な崩壊」が日本列島を襲うだろう。老朽化は今そこにある危機なのだ。第1回目ではどこに危機が存在するのかを明らかにする。
ねもと ゆうじ/1954年鹿児島生。東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。2006年東洋大学に日本初の公民連携(PPP)専門の大学院開設を機に、同大経済学部教授に就任。現在同大学PPP研究センター長を兼務。専門は公民連携・地域再生。主要著書として『朽ちるインフラ』(日本経済新聞出版社)、『地域再生に金融を活かす』(学芸出版社)など。内閣府PFI推進委員会委員、国土審議会委員、自治体公共施設マネージメント委員会委員他兼職多数。
物理的な崩壊を招く
老朽化は今そこにある危機
日本では、東京五輪に備えはじめた1960年代初頭からインフラ整備が始まった。そして今あれから50年後を迎えている。
1980年代、米国で大型の橋が落ちる事故が発生した。原因は老朽化だった。50年前の30年代、当時のフランクリン・ルーズベルト大統領は、世界大恐慌により大量に発生した失業者のために、全米でダムや橋を建設し雇用を創出した。いわゆるニューディール政策である。この時期大量の橋が架けられたが、いったん架けられた橋は十分にメンテナンスされることはなかった。そして老朽化した橋は50年後に落ちたのだ。
橋にも学校にも上下水道にも物理的な耐用年数がある。整備当初は最新鋭でも、時間がたてば確実に老朽化する。それでも放置されるといずれは崩壊する。
次のページ>> 人類史上最速で更新を待つ老朽化インフラの増加
「米国の橋は落ちても日本の橋は落ちない。今まで落ちなかったからこれからも落ちない」と、ベテラン政治家に言われたことがある。もちろん、科学的な根拠はない。今まで日本の橋が落ちなかったのは、落ちるほど老朽化した橋がなかったためであり、今後、老朽化した橋が大量に出てくると危険は格段に高まる。
去る5月2日、首都高速道路1号羽田線の橋脚部分が公開された。50年を経過した橋脚には無数のひび割れが発見され、インフラの弱さと怖さが明らかになった。実際、老朽化を主因として、使用停止もしくは使用制限が付されている橋は、一定規模以上の橋だけでも全国ですでに1300を超えている。
このまま何もしなければ、道路には穴が開き、水道管は破裂し、学校や庁舎は倒壊するという「物理的な崩壊」が日本列島を襲うだろう。老朽化は今そこにある危機なのだ。
「物理的な崩壊」か「財政的な崩壊」か
「崩壊のジレンマ」に直面
では、作り替えれば良いではないか。「日本の橋も落ちる」ことを理解した先の政治家は、国債発行で資金を調達し、一斉に更新すればよいと口にした。だが、ことはそれほど単純ではない。
我が国の公共投資は、60年代の東京五輪期から70年代の高度成長期、80年代のバブル経済期、そして90年代のバブル後の不況時の景気対策期を通じて、ほぼ一貫して増加してきた。旺盛な公共投資は経済成長を支えた一方、膨大な社会資本ストックを積みあげた。わずか数十年で焦土から世界有数の経済大国になった日本の経済成長は人類史上最速だが、更新を待つ老朽化インフラの増加もまた人類史上最速なのだ。
筆者は、2010年の内閣府PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)推進委員会で、更新投資は今後50年間にわたり毎年8.1兆円と発表した。新しいインフラを一切整備しなくても、現在のストックを更新するだけでこれだけの金額が必要なのだ。当然、税収の範囲内で解決できるものではなく国債と地方債の増発は不可避だ。
次のページ>> 問題が放置されてきた二つの理由
だが、すでに限界だ。バブル崩壊後の90年代前半には他国と同様の水準だった我が国の負債依存度(国と地方を合算した負債総額の名目GDPP比)は、90年代後半の景気対策や2000年代に入ってからの社会保障費などの増加によって悪化の一途をたどり、現在、OECD諸国中最悪の水準にある。財政破綻したギリシャをも大幅に上回る水準だ。この状態で無理に借金を増やせば、「財政的な崩壊」が日本を見舞うだろう。
以上の通り、われわれは、「物理的な崩壊」か「財政的な崩壊」かという「崩壊のジレンマ」に、自らを追い込んでいるのである。
なぜ放置されてきたのか
その二つの理由
物理的な資産はいずれ老朽化する。老朽化を放置したら崩壊する。個人としては誰もが知っていることだ。家を建てれば10〜20年ごとに外壁や屋根や水回りに手を入れなければならない。その都度数十万円、数百万円かかる。
冷静に考えれば誰にでも分かることが、なぜ放置されてきたのか。自治体はなぜ手を打たなかったのか。筆者は以下の理由があると考えている。
第1に自分の責任ではないと考える点である。このまま公共投資を続けると問題が発生することを認識したとしても、その問題の発生の原因は行政自体にあるのではなく、議会や市民にあると考える。
第2に、そもそも実態が明らかでない点である。放置することが良くないことは直感的には理解できるものの、まだ深刻ではない、本当に困った時点で考えても間に合うのではないかと考える。問題が正確に認識されないので、対策も打たれず放置が続くことになる。
第1の理由は、無責任としか言いようがないが事実である。
3月末に放送されたNHKスペシャル「橋が道路が壊れていく……インフラ危機を乗り越えろ」では、膨大なストックを抱える公共施設の廃止を進める浜松市の様子が撮影されていた。地区体育館の廃止を突きつけられた利用者は、「地域の切り捨てに強い危機感を感じる」と語っていた。建て替えを求める多くの利用者の署名が、行政に届けられていた。
次のページ>> 実態を明確に把握するという単純な処方箋が有効
老朽化した体育館を建て直す予算はなく、耐震補強だけでも数億円かかる。その予算はより緊急度の高い分野に向けるべきだ。住民が利用できる体育館は他にもある。行政は市長のリーダーシップの下、最善の方策と判断したのだが、利用者にはその真意が伝わっていないようだ。危機感を口にした住民は、自らの危機感は感じるが、なぜ、物理的な崩壊や財政破綻のリスクを押しつけられる子どもや孫の世代の危機に、思いをはせることができないのだろうか。
こうした反対にさらされる行政は気の毒である。勇気がなければ、なし崩し的に利用者の意見を認めてしまうことになる。そして、崩壊のジレンマが続く。
だが、これは行政が乗り越えなければならない壁でもある。国民はそのために税金を払っているのだ。いつまでも、「市民が…」、「議会が…」と言い訳している場合ではない。実は、壁を乗り越えるヒントは第2の理由の中にある。
まずは実態把握が有効
神奈川県藤沢市の実例
第2の理由である実態の不明瞭さに対しては、明確に把握するという単純な処方箋が有効だ。
2010年、神奈川県藤沢市は公共施設マネージメント白書を公表した。市のすべての施設を対象にしてストック情報、利用情報や費用の内訳を網羅したものとしては、日本で初めてのものであった。特に、それぞれの施設の構造、面積、建設年月のデータは有効だった。「崩壊」を避ける具体的な知恵を探していた筆者は、この情報をもとにして将来の年別の更新投資金額を予測した。
その後、筆者がセンター長を勤める東洋大学PPP研究センターでは、過去の投資実績データさえあれば、簡単に将来の更新投資予測金額を計算できるソフトを開発し、WEB上で無償で提供している。さらに、総務省の外郭団体である財団法人自治総合センターが、このソフトの基本構造を用いてさらに精緻化したバージョンを開発して、11年4月には全地方公共団体に送付している。
次のページ>> 予算の範囲で更新が可能と判断される自治体は皆無
筆者はこれらのソフトを用いてさまざまな自治体の診断を行ってきた。今まで20以上の自治体の更新投資金額を予測してきたが、近年確保している公共投資予算の範囲で更新が可能と判断される自治体は皆無だった。少なくとも3割、多いところでは数倍の予算不足と判断されている。事態は予想以上に深刻なのだ。
図表は、関東地方のある自治体の今後50年間の公共施設更新投資金額を予測したものだ。この自治体は、1970年代に一斉に学校、公民館、図書館などを整備し、ここ10年ほどはほとんど投資が行われていない。その結果、2020年以降急激な更新投資が発生するとともに、その財源となる公共投資予算はほとんどなく、大幅な予算不足が生じることになる(図では更新投資必要金額を示す実線と、更新投資予算確保可能金額を示す点線のかい離に表れている)。
診断結果を目にした自治体はすべて事態を認識し、具体的な行動に移っている。「まだ深刻ではない、本当に困った時点で考えても間に合うのではないか」と思いたくても、数字を見ればそうでないことは明らかだ。もし、見過ごして「物理的な崩壊」か「財政的な崩壊」の引き金を引けば、知らなかったではすまされない。
次回は、そうした瀬戸際にある自治体を応援するため、インフラ崩壊を避ける知恵を紹介したい。
*(下)は5月18日(金)公開予定です。
質問1 日本の社会インフラが危ない状況に陥りつつあることを知っていましたか?
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