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野口悠紀雄の「経済大転換論」【第17回】 2012年5月10日野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
消費者物価指数は上昇に転じたが、それは望ましいことか?
日本銀行は、4月27日の金融政策決定会合で、追加金融緩和策を決めた。国債などを買い入れる「基金」(2010年10月創設)の規模を現在の65兆円から70兆円に増やし、長期国債の買い入れ額は10兆円程度増やす。国債はすべて今年末までに買い入れる予定だったが、来年6月末までに期間を延ばす。政策金利の誘導目標を年0〜0.1%とする実質ゼロ金利も続ける。
これは、2月14日に打ち出した、「消費者物価の1%上昇を目指して金融緩和を続ける」という方針の継続だ。2月には、平均株価が1万円台を回復し、円高にも歯止めがかかった。しかし、その効果が薄れてきたので、追加が必要ということだろう。今回の決定の背後には、政府や与野党からの、追加緩和を求める強い政治的圧力があったと考えられる。
消費者物価上昇は
エネルギー価格上昇による
他方で、総務省が4月27日に発表した2012年3月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、コアCPI、2010年=100)は、前年比0.2%上昇となり、2ヵ月連続で上昇した(図表1を参照)。総合指数は前年比0.5%上昇となった。
しかし、これは、日銀の金融緩和の結果ではない。それとはまったく関係がない原因によって消費者物価が上昇しているのである。
次のページ>> 原油価格が上昇するために消費者物価が上昇する
第1の要因は、エネルギー価格が上昇していることだ。品目別で見ると、ガソリンが4.9%の上昇である。図表1には「エネルギー」関連の価格上昇率も示してあるが、コア指数ときわめて高い相関を示していることがわかる。なお、食料(酒類を除く)およびエネルギーを除く総合指数は、前年比0.5%下落だった。
「原油価格が上昇するために消費者物価が上昇する」というのは、これまでも経験したことである。とりわけ、07年末から08年にかけての消費者物価指数の上昇は、これによるものであった。
原油の国際価格高騰は、今後もさらに続く可能性が高い。したがって、日本の消費者物価は、これからも原油価格によって大きな影響を受けるだろう。そして、火力発電へのシフトによってLNG(液化天然ガス)輸入が増加すれば、電気料金も上がる。
日銀は同日公表した、「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」(http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1204b.pdf)の中で、消費者物価(生鮮食品を除く)の上昇率見通しを、12年度0.3%、13年度0.7%とした。さらに、「1%に14年度以降遠からず達する可能性が高い」との見通しも示した。
原油価格が上昇を続け、電気料金の値上げが続けば、確かに1%という目標達成もありうるだろう。しかし、産油国やLNGの産出国に購買力を奪われることがなぜ望ましいことなのか、まったく理解に苦しむ。
テレビ価格における異常現象
消費者物価指数を引き上げた第2の要因は、テレビの価格が3月の対前年比で2.3%の上昇になったことである。これを反映して、教養娯楽用耐久財価格の上昇率は、2月と3月に異常な動きを示している(図表2を参照)。すなわち、これまでマイナス20%程度のきわめて高い下落率であった(11年5月には30%を超えた)ものが、12年2、3月には1桁台の値下がりになったのである。
次のページ>> 耐久消費財の値下がりも継続している
しかし、これは、実態的な変化というよりは、統計上の扱いの変化によるところが大きい。消費者物価指数の計算では、5年ごとに各品目の構成割合を見直すこととしているが、薄型テレビの消費がエコポイント制度の影響で増えたため、構成割合が1万分の37から同97に変更されたのである。
他方で、薄型テレビ価格は、前年比で12月のマイナス32.8%、12年1月のマイナス36.1%から、2月にプラス0.5%、3月に2.3%になったのだ。このように、価格が下げ止まり、しかもウエイトが3倍程度になったために、全体の指数に影響したのである。
しかし、これは、テレビの価格が長期的な傾向として持ち直したということではない。事実、価格水準は、図表3に示すとおりであり、ほぼ一貫して下落している。05年1月と12年1月を比べれば、テレビの価格は、実に7分の1近くにまで低下してしまっているのである。http://diamond.jp/mwimgs/2/a/600/img_2a062497799359ec785089fd1f6c6ddd11031.gif
また、他の耐久消費財の値下がりも継続している。事実、デスクトップパソコンは26.9%、カメラは23.7%と、それぞれ大幅に下落した。
これまで、耐久消費財価格の下落が、消費者物価を押し下げてきた。この傾向は、今後も継続するだろう。
金融緩和の真の目的は長期金利の高騰阻止
他方で、財政の日銀ファイナンスは、着実に進んでいる。これまでは償還までの残存期間が2年以下を対象にしていたが、その条件を緩和し、3年以下まで認めることとされた。
消費税増税の行方が判然としないにもかかわらず、長期金利にめだった動きが生じないのは、日銀が国債購入を継続しているためであろう。
事実、日銀の追加金融緩和を受けた4月27日の国債市場では、長期金利が低下した。10年債の終値利回りは前日より0.025%低下して0.885%となり、終値として2010年10月下旬以来、約1年半ぶりに0.9%を下回った。
5月7日には、10年債利回りは0.855%まで低下した。これは、10年10月12日以来1年7ヵ月ぶりの低水準だ。
次のページ>> 金融緩和の真の目的であり、「デフレ脱却」というのは「目くらまし」
政策当局者の本当の目的は、(物価が上昇することではなく)長期金利が高騰しないことである。経済活動が活性化しなくとも、金融機関や財政当局が直ちに困ることはない。しかし、長期金利の高騰は、金融機関における巨額の損失発生という、破滅的な影響をもたらすからである。そのために、日銀による長期国債の購入が必要なのだ。
これこそが金融緩和の真の目的であり、「デフレ脱却」とか「消費者物価上昇率1%」などというのは、真の目的を隠ぺいするための「目くらまし」に他ならない。
そして、現在までのところ、その目標は達成されつつある。
もちろん、日銀による国債の継続的な購入が望ましいはずはない。財政改革の必要性に関する認識が弱まり、財政がさらに悪化する可能性が強いからだ。
日銀による国債の買い上げは、06年頃までも続いたが、税収が増加したため、その後残高は減少した。したがって、結果的には日銀の財政ファイナンスにはならなかった。しかし、今後は、税収が増加する可能性は小さい。
そして、物価上昇率1%という目標の達成も、簡単ではない。だから、今後も金融緩和を追加し続けざるを得ない。そして、今後、購入額がさらに引き上げられてゆく可能性が高い。これによって、日本経済が抱える歪みは拡大していくだろう。
政府は、6月中旬までにデフレ脱却のための方策をまとめる方針という。
人々は「デフレからの脱却が必要」という。しかし、今後生じる可能性が高いのは、原油価格や電気料金の値上がりによって消費者物価が上昇することである。そして、それによって生活が圧迫されることだ。しかし、それが人々の本当に求めているものだとは思えない。「デフレ脱却」と言っている人々は、自分が求めているものが何であるかを、いま一度確認してみるべきだ。
多くの人々が求めているものは、物価が上昇することではなく、経済活動が活性化して生活が豊かになることだ。そうであれば、物価ではなく、賃金の上昇を政策目的とすべきである(ただし、いかなる賃金指数を目標とすべきかは、難しい問題である)。
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