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「この仕事は合ってません!」と1カ月で辞める新人の“事情” まん延する「仕事探し」 2013年卒の就職動向「面接依存」
http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/111.html
投稿者 MR 日時 2012 年 5 月 10 日 00:57:20: cT5Wxjlo3Xe3.
 

日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

「この仕事は合ってません!」と1カ月で辞める新人の“事情”

まん延する「仕事探し」シンドロームの弊害

2012年5月10日 木曜日 河合 薫

 また、新入社員が辞めてしまった。これで4人目である。といっても、私の部下の話ではない(っていうか、部下いないし…)。わずか1カ月ちょっとの間に、「新人が辞めた」という話を4回も聞いてしまったのである。

 1人目は、インタビューをさせていただいた方の会社で起こった出来事で、入社1週間目に「体調が悪い」と言ってきた後、連絡が途絶えて辞めた。2人目は旅行代理店に勤める友人の部署に配属になった新人が、「自分にこの仕事は合っていない」と言って、2週間目に辞表を出した。3人目は、以前仕事でお世話になった方の会社の出来事で、母親から「息子が思っていたような仕事ではないので、辞めてさせてください」と連絡があって、去っていった。

 そして、昨日4人目が現れた。

 「4月から25歳の男性を正社員で雇ったんですけど、『この職場では僕の個性が潰されるから辞めたい』と言ってきました。彼はうちの会社に来る前に、1年ほど別の会社にいたんです。基礎的なことはできるようだったので採用したんですけど、がっかりです。ここ5年間、この繰り返しです」

 こう嘆くのは、従業員80人ほどのIT関係の会社を経営する50代の男性である。

今や2年で35%が離職

 これまでにも入社したての新人君が辞めてしまうことに、苦悩する方たちの話は幾度となく聞いてきたけれど、今年はどういうわけか例年になく多い。いや、もちろんたまたま私が、そういう話を耳にする機会が偶然重なっただけ。そう、たまたま、の話だ。

 でも、つい先月に政府が開いた「雇用戦略対話」でも、2010年春に大学・専門学校を卒業し正規雇用で就職した56万9000人のうち、およそ35%に当たる19万9000人が、既に2年で辞めていることを明らかにした。

 若者が3年以内に仕事を辞める傾向が高まっていることは、ここ数年問題視されてきたが、「2年で35%」となったのだ。「このままいったら、3年以内で辞める大卒者の離職率は5割を超える」との憶測もある。
 
 は、早い。いくらなんでも早すぎる。

 「就職が厳しくて、そもそも入りたい会社じゃなかったから辞めるんでしょ」
 「だって時代がバブルってだけで入った使えない40代が山ほどいれば、イヤになるでしょ」
 「そうそう、働き損。能力がないのに高給を取ってるヤツラのために働くなんて、うんざりだよ」
 「最近は、最初からわざと厳しい状況に追いやって、音を上げた新卒を早めにふるいにかける会社も結構あるしね」

 確かに今の若者たちの置かれている状況は、恵まれているとは言えないかもしれない。今までのように「先輩たちと同じように働いていれば、将来どうにかなる」という世の中でもなくなってしまった現実もあるだろう。

 それでもやっぱり、さっさと辞めちゃうのはもったいない、と思うのだ。身体や心を疲弊させてまで頑張り続ける必要はないけれど、「仕事に合っていない」とか、「個性が潰される」っていう理由で辞めちゃうなんて。わずか1カ月月や2カ月で、合うも合わないもないでしょ。

 そもそも「自分に合う仕事」って、何なんだ? 個性が潰されるって、何なんだろう?

 「自己分析で自分に合った仕事を見つけよう」とか、「自分に合う仕事診断」とか、「自分に合う仕事探しのヒント」とか、やたらと目にするけれど、一体何?

 少なくとも私はかれこれ20年近く働いてきて、「この仕事は自分に合っている」と確信したことは残念ながら一度もない。「合っていると言われれば、合っているのかもしれないし、合っていないと言われれば、合っていないのかもしれない」などと、極めて曖昧な働き方しかできていないのである。

 そして、恐らく長年働いてきた40代以上のほとんどの人たちも、「あなたは、あなたに合った仕事に就いていますか?」と聞かれて、「う〜む、どうなんだろうね。合っていると言えば合っているのかなぁ〜」と、至極曖昧な答え方をするのではないだろうか。

 いずれにしても、「自分にやりことがあるから」と辞めるならまだしも、「自分に合わないから辞める」という選択は、辞める人にも辞められた企業にとっても残念な選択。そんな理由で辞めたところで、次につながるとは到底思えないのである。

 そこで今回は、「自分に合う仕事」について、考えてみようと思う。

「辞めたい」と突然言い出した中途社員

 「彼はうちの会社に来る前に、大手の企業にいたんです。最初は何か問題でも起こして辞めさせられたんじゃないかって、疑いました。だって、賃金の面でも大手は何かと恵まれているのに、『なぜ、うちに?』と普通は思うでしょ。」

 「ところが、採用面接の時に、『もっと自分の力が目に見える会社で働きたいと思った』なんて言うものですから、『だったらうちに来い!』となりましてね。自慢じゃないですけど、我が社の若手はみんな元気がいいし、彼らが『働きがいがある』と言ってくれることだけが、私の自慢でもありましたから」

 「でも、やっぱり大手と中小じゃ勝手が違うんでしょう。彼は最初からいろいろと苦労しているようでした。割と年齢の近い先輩社員をサポートに付けて、私自身も積極的に声を掛けるようにしていたんですけど、昨日突然、『辞めたい』と言い出した。うちの会社のやり方に合わせると自分がなくなってしまう、この職場では個性が潰されてしまう、と言ってね」

 事の成り行きをこう話してくれたのは、冒頭の“4人目”に当たる男性である。

 彼の会社ではこれまでにも、「自分の思っていた仕事と違う」と言って辞めていく新卒がいたそうだ。

 「IT業界=クリエイティブな仕事」と憧れだけを抱いて、業界の実情を知らずに入社してくる新卒も多かったため、今年から中途採用に切り替えた。「経験者であれば、厳しさも分かっているだろう」という思いからだったという。

 とはいえ、同じ業界でも、仕事のやり方は千差万別。中途だろうと何だろうと、最初はその会社の仕事を覚えてもらわないことには、戦力にはなり得ない。その「会社のやり方」を覚えてもらう間もなく、わずか1カ月で辞めると言い出した。

 「なぜ、3カ月だけでも我慢できなかったのか。理解できません。今の若者は、“稼ぐ”ことの意味が分かっているんでしょうか。個性が潰されるって、要は自分に合ってないってことでしょ。彼のための仕事を用意するような会社が、どこにあるんでしょうか?」

 男性は憤りすら感じているようだった。

これまでは上司との関係が主因だったが…

 「個性が潰される」か――。

 まぁ、そんなことを言われて、「はいそうですか」と納得するトップなどいないだろうし、「たった1カ月で何が分かるんだ」という気持ちは、誰だって抱くだろう。彼が憤る気持ちは痛いほどよく分かる。

 とはいえ、どんな仕事であれ、外から抱くイメージと実際の仕事にはギャップがあり、それが新人クンたちのストレスの雨となることも事実だ。

 組織に実際に所属する前の自分の期待と、現実に組織の一員として経験することで生じるギャップである「リアリティー・ショック」は、例外なくほとんどの人が陥る現象である。ギャップには「仕事の内容だけでなく、職場の人間関係」も含まれているのだが、私がこれまでに行った新人社員とのインタビューや調査研究では、ほとんどが上司に関するものだった。

 上司が「お前は言われたことだけやっておけばいい」と敬意を示してくれなかったり、「自分で仕事を作れ」と何も教えてもらえずに途方に暮れる新人クン。

 「いつも監視されているような気がして嫌だった」とプレッシャーを感じたり、「上司や先輩とコミュニケーションがほとんどなく、1人でパソコンに向かう時間が多くて不安になった」と打ち明ける新人クンに出会ったこともある。

 だが最近は、件の男性の会社でもそうだったように、職場の人間関係よりも仕事の内容、すなわち「自分に合った仕事」、を求めて辞める傾向が高まっているようなのだ。

 34歳までの若者を対象にした調査結果ではあるが、「適職探しへの再挑戦を希望している」若年者の総数は、1987年には425万人だったのが、2004年では31.4%増え、558万人となったという報告もある。これは在学者を除く若年者全体の22.9%に相当する(出所:2006年版「国民生活白書」)。

 かつてはタブー視されていた「転職」が、キャリアアップのための手段として認知されるようになったことや、中途採用が増加傾向にあることも、「自分に合った仕事探し」をする若者を増やしているのだろう。

 でも、それ以上に「自分に合った仕事」を求める若者を量産させているのが、世間にいつの間にかまん延していている「自分に合った仕事を見つけましょう!」シンドロームだ 。自分に合っている仕事探し症候群みたいなものが、「個性が潰される」とか、「自分に合わない」などと言って辞めていく若者を増やしている。そう思えてならないのだ。

 何しろ雑誌をめくれば、「その仕事、あなたに合っていますか?」という広告があふれているし、大学のキャリア教育では、「自分に合った仕事を探そう」なんてことが当たり前のように言われている世の中だ。

 「あなたに合っていますか?」と問われれば、「合ってないかも」と思うだろうし、「自分に合った仕事を探しましょう」と言われれば、「自分に合う仕事がある」と信じるようになる。

「他己分析」の後に泣き出した女子学生

 「自分に合った仕事」を探すために、自己分析をせっせとやらされる学生たちを目の当たりにすると、少しばかり気の毒になる。だって、たった20年ちょっとの人生を振り返って自分史を作らされ、自分自身が認識している自分と他人から見た自分とのギャップを知るために「他己分析」をやってもらい、「自分のいいところ探し」をしたつもりが、「自分のいやなところ探し」になってしまう例が少なくないのだ。

 昨年、大学の講義に参加していた学生の中に目を真っ赤にしている女子生徒がいて、気になって声を掛けたことがある。「どうした? どっか身体の調子でも悪い?」と。

 すると、彼女は口をギュッと結んで、大きく頭を横に振った。「さっきサークルの友人に、他己分析やってもらったんです」

 そう言った途端、大粒の涙をポロポロと流し始めた。彼女がどう分析されたのかは、分からない。でも、“友達”に分析された自分は、こらえられないほどショックだったのだろう。

 「自分のいいところ探そうと思って、自己分析とか他己分析とかやるんですけど、悪いところばかりが気になっちゃうんだよね〜」。一緒にいた学生がそうフォローした。

 これって、一体何なのだろう。20年ちょっとの、しかもその半分は記憶にない人生を振り返って自分史を作ることや、他人まで借り出して「自分を分析する」ことは、働くうえで大切なことなのだろうか?

 キャリア教育を否定する気はさらさらない。「キャリアへの意識=キャリアレディネス(career readiness)」を高めることは、組織に適応するうえで重要である。私が2004年に行った新卒社会人の半年間にわたる追跡研究でも、ショックの度合いに強く影響を与えるのは、キャリアレディネスだった。

 キャリアレディネスは、
・ 自分自身のキャリアに対する欲求と興味を開発し、発見する
・ 自分自身の能力と才能を開発し、発見する
・ キャリア選択をできるだけ広くできるような学業成績を収める
・ キャリアについて学ぶための、現実的役割モデルを見つける
 などの課題を、就職活動を行う前に、1つひとつ達成していくことで高められる。インターンシップなどで就業経験を重ねると、キャリアレディネスが高まるきっかけとなる。

 キャリアレディネスの低さは職場環境への適応を悪くし、メンタルを低下させる引き金となり、離職意向も高める。一方、キャリア意識が高いと入社後の適応が早く、ワークモチベーションも高く、メンタルも良好になる。

 さらに、キャリアレディネスが低いまま入社すると、その後のキャリア人生に悪影響を及ぼすことも明らかになっている。多くのキャリア中期(30代〜40代)に起こる問題は、スタート時の適応の仕方に由来することが様々な実証研究から示唆されているのだ。

理論では説明できない不確定要素

 キャリア教育の中に、自己分析を取り入れることは間違っていないのかもしれない。自分史を作ることも、他己分析を行うことも、「自分自身の能力と才能を開発し、発見する」ための手段としては、間違っていないのかもしれない。

 でも、間違っていないことと、妥当であることは同意ではない。理論は、あくまでも理論であり、現実とは違う。現実ではテレビドラマよりもドラマチックな出来事が起こることがあるように、現実には理論では語り尽くせない不確定要素が存在する。

 所属する組織、そこで出会う上司や先輩、実際に働く中で起こった出来事……。そんな無数の理論には書かれていない“現実”に影響を受ける。理論は考え方のベースにはなるが、実際に自分が体感してみることで理論が覆されたりもする。

 それらの不確定要素は、時にポジティブな結果を導くことがある。「こんな仕事は自分にできない」と思った仕事を、いやいやながらでもやっているうちに、それまで秘められていた自分の能力が開花することもあれば、「あれ、これってちょっと違うかも」と思う環境に身を置いているうちに、その場所が心地よくなることだってある。

 「いつもと違う自分」を演じてみたり、「自分の好みとは違う」ことをやってみると、予想外のうれしい発見がある。人間はそうやって適応する力も、ちゃんと持っているのだ。

 それに……。「自分にぴったり合う仕事」なんてもんは、世の中に存在するのだろうか? 恐らくそれは「自分にぴったり合う異性」なんてもんが、滅多に存在しないのと同じように、幻想なんじゃあるまいか。

 そんな「自分とはぴったり合わない異性」であっても、付き合っているうちに惚れてしまうことだってある。私なんて、この繰り返しだ(笑)。自分のちっとも好みじゃない相手なのに、一緒にいる時間が無性に楽しかったり、相手が喜ぶようなことをしてしまったり、自分の変わりように驚くことだってある。「何でこの人なんだろ〜」と思いながらも、一緒にいたくて仕方がないのだ。

 仕事も同じなんじゃないだろうか。無心で目の前のことをやっていると、意外な面白さを発見したり、思わぬ自分の能力を発揮できたり、「何だか大変だけど、心地よい」という感覚を持てるのではないか。

 そして、そうしているうちに、本当に自分がやってみたいこと、本当に自分が伸ばしてみたい力、そんなものが具現化されていく。

 そんな自分と出会うには、ある程度の時間が必要なのだ。たった1カ月、たった1年、たった2年で、「合わない」と結論を出すのは早急すぎる。「石の上にも3年」なんて説教くさいことは言いたくないけれど、3年だけ仕事にひたすら向き合ってみてから、自分に合った仕事探しをしても遅くはない。

格好良い言葉を言っているだけじゃないのか?

 キャリア教育を行うオトナが大好きなキャリア発達理論の中にも、「組織への社会化、すなわち組織に適応するには、早くて3年、場合によっては10年かかることもある」と書かれているはずだが、そのことをオトナたちは教えてあげているのだろうか。

 そして、何よりも「仕事」というのは、お金をもらうこと。半人前だろうと、何だろうと、一社会人として、組織はお金を払う。その自覚を一切持たないまま、やたらと「自分に合った仕事」だとか、「個性が潰される」だとか、一見格好良い言葉を言っている気がしてならないのだ。

 いや、ちょっとばかり厳しいことを言いすぎたかもしれない。申し訳ない。ただ、私自身の経験からいっても無心になって仕事をしていれば、いやでも自分と向き合わなくてはならない瞬間が来る。

 むしろ、そうしない限り、本当に何を求めているのかなんて、分からないと思うのだけれど……。その時間も待てないほど、みんなナニカに焦っているのだろうか。

 そしてもし、「世の中に自分に合っている仕事=天職」というのもあるとするならば……。それは恐らく、あーでもない、こーでもないと思いながらも、続けることができる仕事で、気がついた時にいつの間にかそれが「天職」になっているんじゃないんでしょうか、ね。

NBO会員の皆様へ
 日ごろより「日経ビジネスオンライン」をご愛読いただきまして誠にありがとうございます。

 このたび日経ビジネスオンラインでは、当サイトの人気コラム「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」のこれまでの記事を再編集して、企業の中間管理職の方々を主な対象とした書籍を発行することになりました。発売は6月下旬を予定しております。

 つきましては、この書籍に再録する記事を選定するため、皆様が今でも印象に残っている記事について投票をお願いしたく存じます。投票結果を反映して、再録する記事を決定いたします。

 投票ページで(1)〜(5)までの5つのカテゴリーごとに並べた記事の中から、「最も印象に残っている記事」を各カテゴリーで1つずつ選び、○欄にチェックを入れて返信していただければ幸いです。

 今回のお願いは、著者である河合薫さんの「書籍を読者の皆様方と一緒に作り上げたい」という思いを受けて実施するものです。なにとぞご協力のほどお願い申し上げます。

日経ビジネスオンライン編集部

新刊の紹介


 著者である河合薫さんの新刊『話が伝わらなくて困ったときに読む本』が本日発売されました。以下は河合さんご自身の紹介の言葉です。

 「このコラムでも『伝える』ことに苦悩しながら毎回書き連ねていますが、その思いや経験も書き加えた内容になっています」

 「『ちゃんと伝えるのに、スキルはいらない!』――。多くの方に是非とも読んでいただきたいと願い、書き下ろしました。是非、多くの方に手に取っていただきたいと思います。よろしくお願いいたします」


河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。

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河合 薫(かわい・かおる)

博士(Ph.D.、保健学)・東京大学非常勤講師・気象予報士。千葉県生まれ。1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、早稲田大学エクステンションセンター講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。主な著書に『「なりたい自分」に変わる9:1の法則』(東洋経済新報社)、『上司の前で泣く女』『私が絶望しない理由』(ともにプレジデント社)、『<他人力>を使えない上司はいらない!』(PHP新書604)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20120508/231807/?ST=print

戸田淳仁 [リクルートワークス研究所研究員]
大卒求人倍率でみる2013年卒の就職動向 今企業に求められているのは「面接依存」からの脱却

 すでに内定を獲得する学生も出てきているように、2013年卒の就職活動は始まってからしばらく時間がたっている。以下では、4月末にワークス研究所より発表した「大卒求人倍率調査」の結果とともに、2013年卒者の就職動向のトピックスについてご紹介したい。
大卒求人倍率は

リーマンショック後、5年ぶりに上昇

 2013年卒の大卒求人倍率調査(大学生・大学院生を対象)の結果によると、大卒求人倍率は1.27倍と前年(2012年卒)の1.23倍よりもわずかではあるが上昇した。求人倍率が前年に比べて上昇したのは、2008年卒以来5年ぶりである。
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求人倍率は企業の求人数と企業に就職を希望する学生数とのバランスで決まる。まず、求人数は、前年の56.0万人から55.4万人へと1.1%のマイナスとなった。一方、民間企業就職希望者数は、前年の45.5万人から43.5万人へと4.5%のマイナスとなり、より減少幅が大きくなったため求人倍率が上昇した。
 民間希望就職者数が減少した背景には、就職活動の環境を厳しいと感じ、留年して翌年に再チャレンジする学生が増加傾向にあることに加え、安定志向から教員や公務員を志望する者が増加し、民間企業に就職を希望する学生が減少傾向にある、ということがある。
 求人数は全体としては減少したが、従業員規模でみると様子が異なる。従業員規模別に求人数の
対前年増減率を見ると、5000人以上企業は+3.6%、1000〜4999人企業は+2.2%、300〜999人企業は−0.4%、300人未満企業は−3.4%となった。大企業では求人数が増加傾向、中小・中堅企業では減少傾向が見られる。これは、前年と同様の傾向であり、求人のうち7割が中小・中堅企業を占めているので、全体の求人数は前年より減少という結果になった。
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次のページ>> 「就職氷河期」とは言えないが、厳しい状況だ

 近年の就職環境は「就職氷河期」と呼ばれることがあるが、大卒の新卒採用全体でみれば、就職希望者数を上回る求人数がある。実際、2012年3月における有効求人倍率(中途採用にあたる求人倍率)が0.76倍(厚生労働省「一般職業紹介状況」)と1倍を下回り、就職希望者全員に対する求人が市場にない状況と比較すると、氷河期と呼ぶにはふさわしくない状況だ。ただし、売り手市場であった2007年卒、2008年卒の求人倍率が2倍を超える状況と比べると、学生にとっては相対的に厳しい就職戦線が続いているといえるだろうし、また近年の“量より質”を求める厳選採用の傾向も学生に厳しさを感じさせる一つの要因だろう。
従業員規模間のミスマッチが

改善する傾向は続く

 民間企業就職希望者数が前年より減少したことは説明したが、従業員規模別にみると、300〜999人企業において対前年比+2.9%と増加した一方、1000〜4999人企業においては−6.6%、5000人以上企業は−15.2%となっており、大手企業よりも中堅企業に目を向ける学生が増えている様子がうかがえる。学生は、CMや報道、商品名などでなじみのある企業に目を向けがちであるが、大手企業の門戸が狭い中で、そうした企業の関連会社などの中堅企業に目を向ける学生が増えていることが背景にある。また、政府や地方自治体、大学などによる中小企業へ視野を広げるための施策も奏功しているものと思われる。http://diamond.jp/mwimgs/4/0/600/img_40fc64a618f13bc7de20b3c27b314e924990.gif

 従業員規模別に倍率を見ると、300人未満企業では、2010年3月卒8.43倍から今年の3.27倍と低下傾向が続く一方、5000人以上企業では、2010年3月卒0.38倍から今年の0.60倍と上昇傾向が続いている。前年と同様に、今年も従業員規模間の大卒求人倍率差は縮小し、規模間のミスマッチが改善する傾向が続いている。
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次のページ>> 活動準備期間が短くなった2013年卒者

流通業では求人が増加

情報・サービス業では求人が減少

 次に、業種4区分で学生に対する求人動向について触れておきたい。業種ごとに見ると、流通業では+8.5%と増加している一方、製造業、金融業、情報・サービス業では求人が減少した。http://diamond.jp/mwimgs/8/0/600/img_80700fed1f1159e712bbce90568401d14982.gif
 流通業については、スーパーや百貨店、一部の専門店を中心に求人を増やしている。その背景は、海外における積極的な店舗展開を行う企業の増加により、海外店舗や国内のマネジメントを担う幹部候補として新卒の人材を確保する動きだ。また、景気回復による労働需要増加を背景に、人材獲得競争が近い将来に起こると見立てて、早めに人材を確保しようとする企業もある。さらには、リーマンショック以降、正社員の採用を見送っていたことによる反動で採用を開始した企業も見られる。
 一方、製造業においては自動車関連など一部を除き、円高や海外経済の不振に伴う業績悪化により、求人を抑える動きが見られる。また、金融業や情報・サービス業においては、中途採用では求人を増やしており、その影響が新卒採用にも表れている企業も中にはある。ただ、これらの業種における中小企業の多くは、リーマンショック以降の景況感悪化が長引いており、求人を抑制する動きが見られるため、全体としては求人が減少するという結果となった。
採用広報が後ろ倒しになり

準備時間が短くなった2013年卒者

 2013年卒の就職動向におけるトピックスとして、企業の広報活動開始時期の後ろ倒しがある。従来は、卒業学年の前年10月より広報活動を開始していたが、2013年卒の新卒採用より開始時期は12月と、2か月後ろ倒しになった(経団連が定めた倫理憲章による)。選考活動の開始は、従来通り大学4年生の4月1日からであるので、実質、就職活動の準備期間が短縮したことになる。
 広報活動開始時期を後ろ倒しにした目的は、就職活動の早期化により、就職活動に時間がとられて学業に専念できない状況の是正だ。
 4月より選考活動が一斉に開始した現段階においては、志望する企業や業界の研究の時間が十分取れず、準備不足の学生が増えているという声が企業の採用担当者より聞こえる。
 このような意見は同時に、企業の採用選考がより難しくなっていることを示唆している。これまで採用担当者は業界や企業の研究を約6カ月間かけて行ってきた学生を選考していた。その時と同じ目線で、約4カ月で研究を行ってきた学生を選考してしまうと、その学生の持つ資質を見誤る可能性がある。特に選考の主な手法が面接に依存している現状ではなおさらである。
次のページ>> 企業は面接依存から脱却の必要がある
面接依存からの脱却が必要

インターンシップなども有効

 図表6は、企業が採否の判断の際に用いた手法であるが、多くの企業が複数の選考手法を使っている中で、最も重視した選考方法として面接をあげている企業が8割にものぼる。まさに、採用選考は面接に依存しているといえるだろう。面接を中心として、自社への適応や、コミュニケーション能力といった人物評価が中心になっているのが現状だ。http://diamond.jp/mwimgs/b/1/600/img_b1648bb5cc6f2cb9863cdf7b98d79c748856.gif

 もちろん、学力試験、適性検査などの客観的な手法が並行して実施されるケースもあるが、それらの主目的は、多くの応募者を絞り込むための事前選考や、内定後の配属決定の参考であることが多い。
 面接だけでは、そもそも仕事を進めていくうえで必要不可欠となる課題解決能力や思考力などを見極めることは難しい。それに加え、マニュアル本などによるテクニック重視の面接対策を行う学生が増え、面接によって本来見極めるはずであった、人となりや資質を見極めることも難しくなっているという声が、企業の採用担当者より聞こえる。さらに今年は、前述のように学生の準備期間が短縮化し、企業や業界の研究不足も散見されるので、面接による選考の精度はさらに低くなると言わざるを得ない。
 その上、以前紹介した本連載第25回ように、日本企業はグローバル市場に目を向け始め、積極的に外国人を採用し始めているが、グローバル市場で活躍する人材を自社内に増やしていくためには、採用の役割は極めて大きい。こうした状況下では、面接のみに依存した現在の選考手法がふさわしい方法とはいえないだろう。
 では、どのような手法を用いればいいか。例えば、数ヶ月間の長期にわたるインターンシップを通して学生の態度や能力を見極める、高度な課題に取り組ませて問題解決力や思考力のレベルを見極める、などの手法を組み込むこともできるかもしれない(詳しくは「社会的思考力」の可能性を参照)。新卒採用にまつわる状況が変化している中で、面接だけでなく、ここで提示した手法も試みながら多様な採用選考を実施していくことが求められているのではないだろうか。

http://diamond.jp/articles/-/18268  

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