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http://diamond.jp/articles/-/18272
「ユーロの罠」にもがくフランス
EUは経済統合から政治分断の季節へ
フランスとギリシャの選挙結果は、緊縮財政への反発にとどまらない。根源をたどれば共通通貨ユーロという「無理」に行き着く。
国家を残しながら単一通貨へと突っ走ったEUは、国家間の競争力を調整するという通貨の機能を失い、深刻な「負け組国家」を生むユーロ危機に行き着いた。選挙結果はその反動である。「市場と国家の相克」に苦悶するEUは、経済統合から政治分断の季節へと移ろうとしている。
ユーロは「分裂の危機」に
見舞われる
これからの欧州を次の3点で注目したい。
1.緊縮財政は政治的に難しくなる。
2.金融緩和圧力が高まる。
3.ユーロが分裂し「北部同盟」結成か。
僅差で勝利をつかんだフランス社会党のオランド新大統領は、その任期5年が「統合欧州のリーダー役」と「フランス民衆の叫び」の間で板挟みになるだろう。
踏み込んでいえば、この5年間にユーロは「分裂の危機」に見舞われるのではないか。フランスは、「北部同盟」としてドイツとともに歩むか、イタリアやスペインと共に「南部同盟」として分離するか、選択を迫られる。
「ユーロ分裂」というと唐突に感じられる読者は少なくないと思う。なぜそんな事態が予測されるのか、以下説明する。
ギリシャで緊縮財政反対を叫ぶ民衆が波状的にデモを繰り返している時、ドイツではフォルクスワーゲンが史上最高益に潤い、景気は沸騰し、地価高騰が話題になっている。域内の格差を表しているのが失業率だ。ギリシャ21.7%、スペイン24.1%、12ヵ国が二桁の失業率に喘ぐ中で、ドイツは5.6%にとどまっている。
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危機が騒がれるたびにユーロ安が進み、おかげでドイツ製品の競争力が世界で高まるという皮肉な結果さえ起きている。ドイツ車は世界を疾走し、中国などアジア市場でもドイツ製品は日本勢を蹴散らした。
この「国家間の明暗」こそ、2001年にユーロが共通通貨として出現したことの、分かりやすい成果なのだ。
共通通貨が国家間格差を
危険水域にまで押し上げた
単一市場という究極の自由貿易が実現したEUでは、「競争力の支配」が行き渡った。国際競争力のある企業が儲け、強者が潤う。経済合理性がユーロランドの特質で、経済効率が高まれば、域外との競争で優位に立てる、というのが経済統合の触れ込みだった。ところが域内に目を凝らすとドイツ独り勝ちだった。稼いだ黒字を赤字国に貸し付け、またドイツ製品を買ってもらう。それがこの10年の歩みだった。
正確に言えば、ドイツやベネルクス3国、北欧諸国など欧州北部の国家が「勝ち組」である。勤勉で企業や政府の統治がしっかりしている国々であり、当然の結果ともいえる。
ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアなどラテン系の国家は、「負け組」となった。貿易で売り負け、国家の赤字がたまり、「勝ち組」が稼いだカネが、融資や国債購入となって還流する、という現象が起きている。ユーロが共通通貨になったことで、為替相場が国際競争力を調節する、という通貨の機能が失われたからだ。
ギリシャがユーロに加わらず、自国通貨のドラクマであったなら、外国から嵐のような製品流入が起きれば、ドラクマが安くなり、ドイツの乗用車やフランスのファッション製品など輸入品の価格が上がる。反対に、ギリシャ観光に割安感が生まれ、外国から観光客が増え、オリーブなど農産品も売れて、ギリシャ人の所得は増える。輸入にブレーキがかかり、輸出が伸びると、貿易収支が改善してドラクマの相場は上昇する。
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このように変動相場制を通じて、通貨には国際収支や競争力を調整する機能がある。関税がゼロになっても、自国通貨があるということは、苛烈な国際競争から守ることにつながる。通貨は「国家経済を守る最後の砦」といわれる。
競争力の調整を放棄した共通通貨は、強者をますます強くし、国家間格差を危険水域に押し上げてしまったのである。
ユーロと共に欧州中央銀行(ECB)が設立され、金利も一本化された。景気後退に喘ぐ欧州南部と過熱するドイツが同じ金利であることに無理がある。
二桁の失業率に喘ぐ南欧は、金融を緩めてほしい。しかし、景気過熱を心配する北部諸国は、緩めたくない。強者の都合に合わせて金融政策を採れば、弱者が泣く。弱者に配慮すれば、強国の経済に歪みが生ずる。それが欧州の現状である。経済力に大きな差がある地域で共通通貨を流通させることの無理が、はっきり現れたのが今回の事態である。
「北部同盟」「南部同盟」
フランスはどちらに入る
どうすればいいのか。EU内部でユーロを「北部同盟」「南部同盟」の二つに分ける案が「将来も課題」として議論されている、という。
ユーロ以前からドイツのマルクを基軸に、金融政策で足並みを揃えていたベネルクス3国など北部欧州の結束は固い。EUのコアメンバーともいえる「優等生国家群」を束ねてユーロの中核とする。南欧や東欧の周縁国はこれには入れない。こうしたユーロ体制の再編が密かに構想されている。
サッカーのJリーグにJ1とJ2があるように、ユーロにE1とE2を併存させるという案だ。
フランスはどちらに入るのかで、この案はつまずいた。EU創設メンバーとしてはE1だが、地域や経済風土はE2に近い。だが経済合理性は国家のプライドを超えられない。
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ユーロ体制の分裂は統一欧州の後退につながり、敗北のイメージが抜きがたい。南北2分案はお蔵入りになった。だが、現状を続ける限り、国家間格差は広がる。いずれ決断を迫られることになるだろう。
当初の理想論では、統一市場になれば賃金や土地が安い地域に生産がシフトするなどといわれたが、企業の移転先はハンガリーやポーランドなど東欧に多く、南欧は取り残された。
国家が窮乏し、緊縮財政で行政サービスの質が落ちると、自国に見切りをつけて外国に移住する人が増える。仕事を求めて人が移動することは、市場経済の世界では当たり前のことだが、国家という枠組みがあると「国を捨てる人」が増えるのは、主権国家として穏やかなことではない。
日本でも東京と沖縄では失業率も異なるし、経済格差もある。地域格差の調整は、地方交付税交付金や補助金、公共事業の配分などで行われるが、同じ国民という一体感が、税金再配分のサジ加減を容認している。EUにも地域格差を調整する財政配分はあるが、国としての一体感はなく、よその国に税金を配分することに抵抗が強い。
日本における東京の役割がドイツだ。都民は東京が稼いだカネを地方に配分することに大きな抵抗を感じていない。都民である前に、日本人だからである。ドイツ人は、ヨーロピアンである前に、ドイツ人なのだ。ラテンの人々と一体感を持つ歴史的背景も乏しい。公務員天国で税金もまともに払っていないギリシャ人に、なぜ自分たちの血税を注ぐのか、納得がいかないのである。
矛盾解決には国家の
解体しかないが……
経済も企業活動も、いまや国家の枠をこえているが、人の思考には国家が濃厚に残っている。
政治や行政は依然として「国民国家」という制度の上で営まれている。EUは「国家と市場の相克」に苦悶している。人の心、伝統、祖国などの価値観を経済合理主義で超えることができるか、という課題でもある。
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この矛盾を解消するには国家の解体を進めるしかない。ユーロの導入はその一里塚で、財政協定の強化は、国家主権を制約する道具である。欧州国家への一里塚だ。ドイツはその方向に邁進する。統一の旗を振ってきたフランスの後ろにぴたりと付いていたドイツが、EUの覇者になろうとする野心が見えてきた。周縁国の民意は複雑だ。
「緊縮財政」への反発には、行政サービスの低下への懸念だけでなく、国家の外からの意思によって、不愉快な政策を強いられることへの鬱憤が潜んでいるように思える。ドイツの影がちらつく。
リーダーであったはずのフランスまで腰が引けている。ドイツの言いなりになっていいのか、と。メルケル首相に主導権を奪われたサルコジ大統領への反発もある。
緊縮財政という苦い薬に耐えられないフランスの民意は「成長」に活路を求めた。だが、成長の手だてを見出せないのは、先進国に共通する課題だ。
フランスでもギリシャでも極右政党の台頭が選挙ではっきりした。失業や生活苦へのいらだちは、分りやすい敵を作る排外主義に結びつきやすい。
国境を越えるグローバリズムは、勝ち組と負け組を分かりやすく峻別する。勝ち組国家の中にも、また勝ち組と負け組が存在し、鬱憤の種は広く撒かれる。経済の暗転が鬱憤に怒りの火をつける。日本も他人事ではない。
質問1 今後ユーロは解体、それとも維持される?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35176
Financial Times
フランス新大統領がドイツに言わねばならないこと
2012.05.10(木)
フランスとギリシャの選挙は我々に、緊縮疲れが広まったことを教えてくれている。これは驚くに当たらない。何しろ多くの国にとって、恐慌とデフレと絶望から抜け出す確かな出口が存在しないのだ。
ユーロという通貨同盟が通常の固定為替相場制だったとすれば、金本位制が1930年代に、ブレトンウッズ体制が1970年代に崩壊したように、制度崩壊を来すだろう。問題は、これが通貨同盟であるという事実が崩壊を遅らせる以上のことをするかどうか、だ。
オランド氏の双肩にかかる最後のチャンス
フランス大統領に就くフランソワ・オランド氏の双肩に、欧州の未来がかかっている〔AFPBB News〕
必要な変革をもたらす最後のチャンスは、新たにフランス大統領に選出されたフランソワ・オランド氏の双肩にかかっている。オランド氏は、自分の任務は欧州に「成長と繁栄の側面」を与えることだと話している。では、同氏はこの称賛すべき目的を果たせるのだろうか?
財政引き締めは、経済が縮小している国の展望を上向かせない。このため、緊縮はさらなる緊縮を呼ぶだけだ。
国際通貨基金(IMF)によると、アイルランド、イタリア、スペイン、ポルトガルでは、国内総生産(GDP)に対する公的債務総額の比率が2008年から2013年にかけて毎年上昇する。ギリシャでは債務比率が一時的に低下するが、それはひとえに債務再編のおかげだ。
最も恐ろしい統計は失業率だ。15〜25歳の若者層の失業率は、ギリシャとスペインで51%、ポルトガルとイタリアで36%、アイルランドで30%に上っている。フランスはましな方だが、同国でも状況は悲惨で、若者の5人に1人が失業している。
人々がこの状況に永遠に耐え続けると思えるだろうか? 答えはノーだ。それよりはるかに可能性が高いのは、先の選挙で見られた抗議票が繰り返されることだろう。ニコラ・サルコジ氏は、ユーロ圏でこの1年余りの間に政権の座を追われた8人目の首脳だ。
暗い経済見通し、有権者の不満拡大は不可避
経済の見通しは暗い。IMFの予想では、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインの4カ国では今年、実質ベースで経済が縮小し、アイルランドでは成長率が0.5%にとどまる見込みだ。最初の4カ国は2013年に、楽観的に見てもゼロに近い成長が予想されている。
この状況は政治的に危険だ。さらに多くの過激な政党が台頭し、裏切られたという気持ちが一層高まるのは不可避に思える。経済的にも危険だ。現在、最も聡明な若者がどれだけ移住を考えているだろうか?
何かが変わらなければならない。しかし、すべての道が封鎖されているように見える。ドイツ連銀のイェンス・バイトマン総裁は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)への寄稿で、金融政策は限界を超えたとは言わないまでも、限界に達したと論じた。
財政協定は裁量的な財政政策を排除するよう設計されている。いずれにせよ、財政的な連帯が存在しない中では、持続不能な高金利に直面する加盟国は対策を講じる余地がなく、通貨同盟は連邦主義的な財政当局を持たない。となると、残された選択肢は「構造的な政策」だ。ユーロ圏の指導者たちが成長政策と言う時に意味しているのは、これだ。
「構造改革で迅速な成長回帰」はナンセンス
だが、そうした改革が迅速な成長への回帰をもたらすという見方はナンセンスだ。中期的には、構造改革は失業率を押し上げ、デフレを加速させ、実質的な債務負担を増大させる。もっと好ましい環境だった1980年代でさえ、英国におけるマーガレット・サッチャー元首相の改革がそれなりの成果を生むまで10年以上の歳月がかかった。
ヨゼフ・ヨッフェ氏の本紙への寄稿が示唆しているように、多くのドイツ人は自国の最近の相対的な成功は、ゲアハルト・シュレーダー元首相の下で導入された改革の結果だと考えている。この見方もまた、大部分においてナンセンスだ。
ドイツの成功は、輸出主導型の成長だった。これを可能にした一因は、ドイツが素晴らしい産業基盤を持っているという事実だったが、抑制の効かない信用(クレジット)を原動力とした他国の好況の恩恵も受けた。ドイツが今、そのお返しをする可能性はあるだろうか? 可能性はゼロに近い、というのがその答えだ。
ドイツ連銀のバイトマン総裁は「金融政策はもう限界に達している」と話している〔AFPBB News〕
恐らく、バイトマン総裁の寄稿の最も重要な一節は、以下のくだりだろう。「ユーロ圏の金融政策は、通貨同盟全体に合うよう設定されている。このため、ドイツにとって非常に拡張的なスタンスには、国家が持つその他の手段によって対処しなければならない」
要するに、信用を原動力とした好況が国内のインフレ率を押し上げるのをドイツが容認すると夢見ているようなら、やめろ、ということである。
これはIMFの予想とも合致している。危機が起きるまでは、主にスペインとイタリアのインフレ率が比較的高かったため、ユーロ圏全体のインフレ率はドイツのそれより一貫して高かった。論理的には、今度は状況を反転させなければならない。
しかし、これはIMFの予想とは大きくかけ離れている。IMFによると、欧州中央銀行(ECB)は2%近い水準というインフレ目標さえ達成できない見込みだ。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に転籍したポール・デ・ グラウウェ氏が最近の論文で強調したように、現在の調整プロセスは非対称だ。苦境にある国ではインフレが緩和されているが、健全な国ではインフレが進んでいないのだ。これは通貨同盟ではない。むしろ帝国にずっと近い存在だ。
では、オランド氏は一体どうしたらいいのか? まず、同氏は国内で約束したことをほぼすべて忘れなければならない。一連の公約がフランスの助けにならないからだけでなく、そうしないと、ドイツの指導者たちがオランド氏を真剣に受け止めないからだ。
危機収束に至る5つの道筋
次に、新大統領はユーロ圏がどう危機を終わらせるかという展望について、ドイツの指導者たちと真剣な議論を始めなければならない。オランド氏は、最近、ドイツの賃金水準引き上げを求めたヴォルフガング・ショイブレ財務相の賢明な発言に対し、熱烈な支持を表明しなければならない。そのうえで、危機が終わる道筋は5つしかないように見えると指摘すべきだ。
1番目の最善の道筋は、脆弱な国々における改革と並び、危機以前に拡大した不均衡の対称的な調整を行うこと。2番目は、黒字国から赤字国への恒久的な資金移転だ。3番目はユーロ圏の対外収支を黒字に転換させるという痛みを伴うプロセスで、ユーロ圏をいわば大きなドイツにする道筋だ。
4番目は、脆弱な国々における半永久的な恐慌。そして最後が、部分的あるいは全面的なユーロ圏解体である。
唯一賢明な選択肢は1番目の道筋だ。しかし、これはユーロ圏が今進んでいる道ではない。緊縮は、現実的なペースの調整や構造改革と適合させる形で実施しなければならない。
オランド氏がこのように一変した見方を示せる可能性は低い。だが、通貨同盟はフランスの計画だった。マーストリヒト条約に署名したのは、オランド氏と同じく社会党出身の大統領、フランソワ・ミッテラン氏だ。
オランド氏の任務と目標は、敵意を希望に変えることでなければならない。同氏は失敗するかもしれない。だが、欧州の指導者の中でこれに挑む意欲と能力を持っているのは、オランド氏ただ一人だ。
By Martin Wolf
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