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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35153
The Economist
陳光誠事件が米中両国に投げかける問題
2012.05.09(水)
1人の盲目の活動家を巡り、伝えられる話が食い違いを見せる。そこに、2つの超大国が抱える難問が見えてくる。
動画共有サイト「ユーチューブ」に掲載された人権活動家、陳光誠氏のビデオ画像〔AFPBB News〕
ごくまれに、一国の未来が1人の人間の運命に左右される瞬間がある。13億もの人口を抱える国も例外ではない。もしかしたら中国は今、そのような瞬間を迎えようとしているのかもしれない。運命を握る人物は、陳光誠氏だ。
陳氏は山東省出身の盲目の活動家で、貧しい暮らしから抜け出し、正義のために戦い、自らの自由を犠牲にした。
2012年4月、陳氏は再び自由を手に入れようと試み、その結果、超大国の非人間的な政治構造の狭間に囚われてしまった。現在、陳氏とその家族が置かれている状況は、中米関係、そして中国の国家権力のあり方に一石を投じている。
陳氏は多くの意味で、現代の中国の鑑と言える。幼少時代に失明し、大人になるまでまともな教育を受けられず、独学で弁護士となった。権力が絶対の国では、決して安泰な職業ではない。
陳氏は、農村部の活動家として地元で様々な闘争に取り組み、中国国内では、艾未未氏のような政治活動に取り組む都会のエリートよりもはるかに大きな影響力を持つ。障害者の権利を訴える活動では、何年にもわたり地元の政府に称賛されてきた。
しかし、陳氏は一線を越えてしまった。厳格な一人っ子政策の一環として強制されていた中絶や不妊処置を巡り、地元の党組織に戦いを挑んだのだ。怪しげな罪状で4年間投獄された後、さらに19カ月間にわたって自宅に軟禁された。
食い違う言い分
4月22日、陳氏は北京の米国大使館に逃げ込んだ。年に1度の米中戦略・経済対話のため、ヒラリー・クリントン国務長官が北京に来ることになっていた。それ以後何が起こったかについて、関係者の話は食い違う。
米国の外交官は、陳氏と親しい間柄になり、手を握って話すこともあったとしている。陳氏は大使館に6日間滞在した後、家族と再会するため、大使に付き添われて自ら病院に行ったという。陳氏は中国政府から正当な扱いを保証され、大学で法律を学んでもよいという確約を得た。
ところが、陳氏は病院のベッドで突然、虐げられて疲れ果てた様子を見せ、不満を述べ始めた。自分は米国の外交官たちに大使館を出るよう「働き掛けられ」、友人と話をさせてもらえず、中国の当局者が妻を脅したと話したのだ。
陳氏は米国政府に「非常に失望し」、中国から出たいと口にした。一方、中国側は何らかの取引があったことを認めておらず、強硬に米国に謝罪を求めている。
中国政府の姿勢に変化
陳光誠氏の扱いは、米中双方にとって難しい〔AFPBB News〕
運が良ければ、問題は鎮静化する。陳氏は密かに米国に渡るか、中国で普通に暮らすようになるだろう。それでも、今回の一件は3つの疑問を投げかける。
最初に思い浮かぶのが、米国最高の外交官たちは、1人の勇敢な人間を見捨てたのか、という点だ。
陳氏を手放した今、米国側は交渉の力を失った。中国側に騙されたか、中国側の言葉をあまりに簡単に鵜呑みにしたのだとしたら、米国の外交官には愚か者のレッテルが張られる。目の不自由な男性の人権より通貨と関税の方が重要だと判断し、急いで取引したのだとしたら、卑劣と言われることだろう。
クリントン国務長官は、陳氏が大使館を出たのは、「自身の選択と我々の価値観を反映した」行動だったと胸を張った。この発言は間違いなく、今年の大統領選挙でやり玉に挙げられるはずだ。
しかし、陳氏の苦境は、中国についてさらに深刻な問題を2つ提起する。1つ目は、中国が今でも、対米関係を何より重視しなければならないと感じているかどうかだ。2001年に中国の戦闘機と米国の偵察機が空中衝突した事件をはじめ、過去に米中間で緊張が高まった時には、最終的に中国は米国を第一に考える傾向が見られた。米国は貿易と富の源であり、世界の警察であるためだ。
しかし、中国は力をつけ、経済規模も大きくなった。今や自国の沿岸は自分で守ることができ、世界で影響力を発揮することを目論んでいる。北京の勝利主義者たちに言わせれば、米国は金融危機と党派利益を優先する堕落した政治によって衰弱している。
もし陳氏が何らかの罰を受け、バラク・オバマ大統領が屈辱を感じる事態に至ったなら、2つの超大国の関係は厄介な方向に舵を切りかねない。傷つき、疑い深くなった米国と、正当だと考える尊敬を得ようと拡大を続ける中国という構図により、良くても機能不全、最悪の場合は紛争の舞台が整う。
そうなれば、米中両国、そして世界にとって恐ろしい結末だ。何としても事態を収拾しなければならない。
中国指導部の世代交代
もう1つの問題は、中国の内政のあり方だ。中国指導部の世代交代が行われる今年、中国の関心はこの1点に集中するはずだ。
サングラスをかけた1人の盲目の弁護士の背後には、専横的な支配に苦しむ何百万もの一般市民がいる。中国が毛沢東思想を捨て、経済が急成長する間、ほとんどの国民は、急速に向上する生活水準ばかりに目を向け、法律の細かな点はあまり気に掛けずにきた。
その間も、弱者や障害者、失業者、貧困者は無視され、脇に追いやられ、時には富を追い求める人々に踏みつけにされた。
ところが現在、経済は減速し、汚職がはびこり、農村部の人々は怒り、都会の住人は自由を満喫している。これらは中国共産党にとって、法の支配を確立すべしという圧力となっている。特に、地方の役人が罰を逃れられないようにする必要がある。
中国共産党も、説明責任を高め、国民に怒りの法的なはけ口を与えなければならないことは理解している。広東省烏坎村の村民が、地元の役人が共有地を売却して不当に利益を得たことに抗議した事件では、党中央は最終的に村民の側についた。
中国南西部にある重慶市のトップ薄熙来氏を解任した一件でも、党は中国が法治国家であることを懸命に証明しようとしている。温家宝首相は、汚職は容認しないと断言した。中国にはマイクロブロガーが2億5000万人いて、あらゆる出来事をリアルタイムでフォローし、検閲担当者を悩まし続けている。党がいくら頑張ろうと、このブロガーたち全員を抑え込むことはできない。
中国共産党にとってのジレンマは、統治のために法を必要としている一方で、法に従えば権力を失い、特権を諦めざるを得ないという点だ。現在のところ、党はまだどちらも手に入れようとしている。陳氏を巡る悩ましい一件は、過去のどの事件にも増して、本当にそれが可能なのかという疑問を提起する。
外交官と政治家たちが会食をしている数ブロック先の病院で、陳氏はベッドに横たわる。その弱々しい肩で背負うには、この件は非常な重荷だ。しかしその行方が、中国の未来を大きく左右する。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35168
国際激流と日本
「米中G2時代」は幻と教えてくれた「陳光誠事件」オバマ政権の及び腰に非難殺到
2012.05.09(水)
古森 義久
4月下旬から2週間近くにわたる中国の盲目の人権活動家の陳光誠氏を巡る米中両国政府のせめぎ合いは、米中関係全体を大きく揺れ動かした。あっと思わせる逆転が続いた点では、ドラマチックでもあった。
米国のオバマ政権の対中外交にとっては「不都合な真実」ともなり、痛い打撃を与えたとも言える。そして米中両国間の深い断層をも照らし出すこととなった。
二転三転の激しいその展開からはいくつかの貴重な教示が浮かびあがる。
ワシントンの連邦議会で覆された陳氏の「宣言」
現在40歳の陳光誠氏は中国の山東省の一地方に住み、独学で法律を学び、まったく1人で弁護士に近い法的活動を開始した。中国政府の一人っ子政策から生じる女性の堕胎の強制に強く反対し、当局への訴訟までを起こす構えをとるようになった。
だが中国当局から弾圧され、懲役4年3カ月の刑を言い渡された。刑期を終えた後も自宅での軟禁処分を受けた。その軟禁がもう1年と7カ月ほども続いた4月23日、陳氏は山東省の自宅から闇をぬって、友人たちが運転する車で北京へと脱出した。
そして4月28日には北京の米国大使館に避難したことが明らかになったのだ。これまで以上の迫害を避けるための脱出だった。
陳氏は当面は米国大使館にとどまり、中国当局の弾圧をかわして、やがては米国への亡命や移住の機会をじっくりと待つのだろうと見られていた。米側では、この陳氏の活動に対する中国側の種々の抑圧を、官民で「重大な人権弾圧事件」と見て、注意を向けていた。
ところが5月2日には陳氏は北京の米国大使館を出て、病院に向かった。中国にあくまでとどまり、法律の勉強を再開すると宣言したというのである。しかし陳氏のその「宣言」はすぐに覆されてしまった。
私は5月3日、ワシントンの連邦議会でその逆転のドラマを目撃することとなった。なんと、北京の病院にいる陳氏から直接、議会の公聴会の場に電話がかかってきて、それまでの米中両国政府の合意を覆す宣言をしたのだった。
議場に流れた陳氏の肉声
さて今回の事件の教示とはなんだったのだろうか。少なくとも5つの貴重な教示があったと言える。
まず第1の教示は、国際関係での通信手段の発達の役割の大きさである。言論や通信を抑圧する独裁体制でも、現代の通信テクノロジーはその間隙をぬって体制枠内の出来事をも左右できる例証だったと言える。
私は5月3日午後(米国東部時間)、ワシントンの連邦議会の公聴会を聞いていた。「中国に関する議会・政府委員会」という超党派、立法行政合同で中国の人権問題を恒常的に調べる機関が、陳光誠氏への弾圧についての公聴会を開いたのだ。
6人ほどの証人には中国でのキリスト教の弾圧に抗議する在米団体の代表ボブ・フー氏がいた。同氏は中国名を傳希秋という中国出身の活動家である。陳氏の知己でもあった。
公聴会が開かれ2時間ほどが過ぎた午後4時ごろ、このフー氏が自分の携帯電話を右手に振りかざし、議長席にいた委員会の委員長クリス・スミス下院議員に向かって合図を送った。「陳氏からの直接の電話です」と述べたフー氏は議長席へと駆け上がる。そして壇上のマイクロフォンに携帯電話を近づけ、陳氏の肉声を議場全体に流したのである。
「私はアメリカに行きたいと思っています。とにかく今は休息をとりたいのです。そして北京ではヒラリー・クリントン国務長官と面会したいのです。自分が受けた待遇や置かれた状況を詳しく報告したいと思っています」
陳氏は力強い中国語でこんなことを告げたのだった。フー氏がそういう言葉をさっそく英語に訳していく。スミス委員長が英語で陳氏に話しかけ、フー氏がまた通訳をする。
この電話はそれまでの米中両国政府が発表していた陳氏の処遇を一気に突き崩すこととなった。公式発表では、陳氏は中国に残り、クリントン国務長官にも特に会う予定はない、とされていた。
だが、その公式予定が一本の国際電話で一気に変更されたのだ。現代の高度の通信技術の成果だと言えよう。北京の病院に収容されていた陳氏は隔離はされたものの、電話の保持だけは許されていたのだという。
オバマ政権は中国政府の人権弾圧をなぜ糾弾しないのか
第2の教示は、オバマ政権の対中外交の弱点の露出だった。人権問題では歴代の米国の政権に比べてあまり強い態度が取れないという点がさらけ出されたわけだ。陳氏の言動自体がオバマ政権の対中政策での人権問題軽視の傾向に光を当ててしまったと言える。
オバマ大統領自身、実はこの陳氏弾圧については4月30日の野田佳彦首相との共同記者会見でも米人記者から質問され、「今は論評できない」と逃げていた。5月3日に北京での開催が決まっていた「米中戦略・経済対話」を前にして、中国政府を批判することになる言明はあえてしたくはない、という配慮が明らかだった。
しかし盲目の人権活動家というのは一般米国民にも強烈にアピールする。目の不自由な人権擁護の弁護士を中国当局が逮捕したり、弾圧したりすることへの反発は、米国民の間ではものすごく強い。オバマ政権がその盲目の人権活動家への同情や連帯を示さないとなると、米国民は同政権を激しく非難することになる。
だが、オバマ政権は陳氏が山東省の自宅に軟禁され、公安警察の係官たちに取り囲まれ、家族や友人たちが迫害を受けても、特に非難の声明を出すことはなかった。
オバマ政権は、中国政府の人権弾圧を糾弾することには極めて難色を示すのが常なのだ。人権に一定範囲を超えてこだわると、中国を刺激し、米中関係全体を友好的に、安定させて保つことが難しくなる、というような思考が基本なのだろう。
だが、米国民一般にとって人権問題というのは、中国でも、ロシアでも、アフリカ諸国でも、大切なのである。特に大統領選挙の年には、一般米国民は自国の政権の人権問題への姿勢に向ける監視の目を厳しくする。だからオバマ政権が中国の人権弾圧にはあまり関心を向けないとなると、オバマ大統領の再選の見通しにも悪影響を及ぼすことにもなるわけだ。
現に私が傍聴した公聴会でも共和党議員たちからは、オバマ政権の対中姿勢に対し「軟弱すぎる」「人権弾圧を批判しない」という非難が相次いだ。
米中G2は幻想に過ぎなかった
第3の教示は、米中両国の基本的な差異が明らかになったことである。
米中両国は経済面では相互依存の関係にある。米国側には中国との「戦略的互恵」を説く向きも少なくない。ところが今回の陳事件は、米中両国の間に根本的な政治態勢の異なりや価値観の食い違いがあることをいやというほど示した。
米国には中国との将来の関係について「G2論」という意見があった。最近でこそ少なくなったが、つい1〜2年前までは国政の場でも語られるほど、広範な支持があった。
「G2」とは「2国だけのグループ」という意味である。この場合は明らかに米中2国ということだ。将来の国際関係は基本的にアメリカと中国が中核となって主導していくという展望である。米中両国の将来にはこうしたG2の夢が広がっているという主張だった。
しかし今回の陳事件はこの米中G2が幻想に過ぎないことを立証したと言える。米中両国の間に巨大なギャップがあることが改めて明白になったからだ。両国間に厳存する政治体制の違いや価値観の違いは「断層」と呼べるほど決定的である。その隔たりが鮮明となったのだ。
中国では、政府に批判を唱えた国民には、たとえ身体障害者でも罪をなすりつけ、何年もの懲役に処する。その家族や友人までも弾圧の対象とする。一方の米国は、個人の権利として請願の自由、言論の自由、もちろんのことの出産や育児の自由が大前提である。
これほどの断層を持つ米中両国が、いくら経済面、金融面で持ちつ持たれつの関係にあるといっても、接近や協力には限度があるわけだ。G2など、とんでもない、ということだろう。お互いに大国として折衝や接触はあっても、これ以上の提携や連帯はできない一線が厳存するということである。その現実が今回の陳事件によって明示されたのだ。
冷酷で非道な共産党政権の体質が明らかに
第4の陳事件の教示は、中国当局の独裁ぶりである。この点は第3の教示と密接に絡み合っているが、中国共産党の統治下での国民に対する苛酷な抑圧ぶりが改めて、いやというほど明らかにされたと言える。
陳氏のそもそもの「罪」は、山東省当局が数千人の女性に妊娠中絶を強制する違法な措置を取ったことへの抗議だった。山東省臨沂市に住み、医学と法律を学んだ陳氏は省当局への訴訟の準備までしたところで2006年に逮捕された。
4年余りの懲役の後、2010年10月に釈放されたが、なお自宅に軟禁され、当局からは殴打などの迫害を受けていることが現地から報道された。妻と娘もさまざまな迫害を受けたという。
目の不自由な1人の人物への当局による仕打ちは、その人物が当局の非人道的な措置に抗議したというだけで、これほどに冷酷であり、非道なのである。共産党政権の体質の象徴だろう。
陳氏が北京の米国大使館に逃げこんでからの中国政府の対応を見ても、とにかく自分たちの権力に恭順しない人間への徹底した抑圧が浮き彫りとなった。中国当局は陳氏一家を北京の近くの天津市あたりに住ませて、監視下に置こうという措置を米側に提案していたのだ。陳氏の抗議の言動をすべて抑えようという意図が露わだった。
こうした中国共産党の独裁と抑圧は、単に中国内部の問題ではなく、国際社会全体が人類共通の規範とする基本原則にも違反する重大課題となってくる。つまり、日本の私たちも発言してしかるべき普遍的な課題となってくるわけである。当局への国民の反抗をまったく許さないという非民主主義の峻烈なシステムが示されたということだろう。
力強い人権擁護勢力の言論と活動
第5の教示は、国際的な人権擁護勢力の健在ぶりである。中国共産党が自身の権力独占の永続的な保持のためにこれほど抑圧を徹底させても、米国には、さらには国際的にも、人権尊重という大原則から中国側のその独裁を厳しく批判する勢力が存在するということだ。この点は第4の教示の逆説とも言える。
私が傍聴した前述の公聴会には陳氏を支え、中国当局の弾圧を糾弾するための証人たちが並んでいた。そのうちの1人がボブ・フー氏だった。もう1人、米国在住の中国女流作家のヤンスエ・カオ氏がいた。中国では曹雅雪という名前だった。北京大学を卒業して1990年頃に米国に留学し、結局、定住して米国籍になったという同氏も、中国の独裁を激しく非難した。陳氏が北京の米国大使館を自発的に離れたわけではないことを証言したのは、このカオ氏だった。
カオ氏は山東省にいた陳氏の甥に米国から電話をし、「陳氏が大使館を出たのは、そのままだと夫人に危害が及ぶからだった」という証言を得た。そして「私はもう米国籍となったのであえて述べるが、米国人として自国の政府がこれほどの人権弾圧を座視するのを見ることはあまりに恥ずかしい」と証言したのだった。
オバマ政権の対応を「軟弱すぎる」とする非難だった。中国人だった人物からの中国批判だから説得力があった。議会側へのインパクトも大きい証言だった。
同公聴会には陳氏への人権弾圧に抗議する側として国際的な人権擁護団体の「アムネスティ・インターナショナル」や「人権ウォッチ」の代表たちも証人として出席していた。それぞれに迫力のある中国政府批判の証言をしていた。こうした人たちが政府の言動を変え、あらたに動かしていくのだと感じた。
今回の陳光誠氏の劇的な動きは上記5点のような意味を持つと実感したのだった。
中国の人権派弁護士が米大使館駆け込む やっぱり甘い?米国の対中外交〜中国株式会社の研究(161) (2012.05.04)
http://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/6058.pdf
中国の不動産バブル崩壊リスクは極めて小さい
調査部 環太平洋戦略研究センター
研究員 関辰一
1.不動産開発投資はこれまで中国経済の高成長を牽引してきた。土地が不動産投資
の主な目的である日本と異なり、中国では不動産投資の主役は住宅である。
2.2011年秋以降、中国の住宅バブル崩壊を懸念する見方が増えている。住宅バブル
が崩壊すれば、個人消費と固定資産投資が下振れることに加えて、地方政府財政
や金融システムが不安定化するとの見方である。
3.しかし、全国規模で住宅バブルが崩壊する可能性は現時点では極めて低い。確か
に投資目的の住宅需要により一部で不動産バブルの様相を呈しているものの、そ
れは北京や上海などの大都市と海南島などのリゾート地に限られている。他の大
半の地域では、強い実需を背景に住宅価格は所得に見合う水準にある。大都市の
経済規模は中国全体のわずかであり、中小都市が圧倒的なシェアを占める。
4.今後を展望しても、圧倒的多数の中小都市の住宅市場は実需に連動して堅調な拡
大を続ける公算が大きい。その要因としては、@内陸部でも都市化が進展すること、
A所得水準が上昇すること、B戸籍制度改革により、都市戸籍所得者が増加する
ことなどが考えられる。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120508/231764/?ST=print
米中新時代を築く時
米国は中国の市場を、中国は米国の技術を必要とする
2012年5月9日 水曜日 マイケル・スペンス
マイケル・スペンス氏は情報と市場の関係に関する研究でノーベル経済学賞を受賞。米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローなどを務める。
中国と米国は大きな構造的変化に直面している。中国が安い製品を作り、米国がそれを買うという幸せな時代が終わることを、両国は恐れている。
特に、多くの人が懸念するのは、この変化の末に米中が正面からぶつかり合うのではないか、ということだ。もし、そうなれば、勝者はどちらか一方でしかない。
不安は理解できる。しかしその不安は、前提が間違っている。世界の現実は構造的に進展し続けている。中国の成長と規模を米国と比べてみるといい。急速な技術の進化は製造プロセスを自動化し、雇用を製造業から他の産業へ移した。発展途上国の所得拡大で、世界のサプライチェーンも進化した。
このような現実を踏まえたうえで新たな関係を築いていけば、米中両国がともに利益を得ることができる。また、そうしていかなければならない。
世界の「工場」から世界の「市場」へ
両国にとって、古いモデルは30年間、有効に機能してきた。中国の成長は、労働集約的な輸出産業が支えてきた。輸出産業の競争力は、米国や欧州諸国から技術と知識を得ることで一層高まった。一方、中国は官民ともに巨額の投資を続けてきた。高い貯蓄率のおかげだ――このところ高すぎるが。輸出主導の成長と投資が相まって、多くの中国人の所得が拡大した。
対する米国の消費者も、中国製品の輸入がもたらす製品価格の下落で大きな恩恵を得た。これは同時に、米国の労働者をより付加価値の高いビジネスにシフトさせた。結果として米国民の所得も増大した。
多国籍企業が利用する世界的サプライチェーンは、効率性と複雑さを増してきた。その形は、比較優位の概念に沿って、変化してきたのかもしれない。世界のサプライチェーンは、全体に東から西へと流れた。途上国が生産する低価格品を、欧米が求めていたからだ。
しかしこのモデルはあらゆる面で変わり始めている。米中両国にとっての利点は、コストではなく、成長へと移りつつある。サプライチェーンは双方向に流れるようになった。中国市場における需要は、ただ拡大するだけでなく、所得の増大に伴って、質の高いモノやサービスを求めるようになった。
中国の役割は変わり始めた。かつて欧米で消費される安価な商品を供給していた中国は、今では欧米製品の重要な顧客となりつつある。
これは先進国にとって大きな機会だ。先進国はこれを足がかりに、成長と雇用を再び均衡させることができる。ただしそのためには、進化するサプライチェーンの中で適切な位置を占めるべく競争する姿勢を持たなければならない。
中国国民の所得拡大は、中国に構造的変化をもたらす。成長が続けば、当然、高付加価値製品の生産へとシフトするからだ。技術や知識は依然として重要だ。中国は欧米からツールやスキルを吸収するだけでなく、独自の新技術を生み出す必要もある。
米国は貿易インフラへの投資を
米国の政策について見る。こうした構造的変化に対応するために、貿易の拡大を目指す必要がある(この時、特に雇用を念頭に置くべきだ)。これまでよりも幅広い分野において海外需要を取り込む。具体的には、教育と投資に目を向けなければならない。
中流層に新たな雇用機会を提供するには、質の高い教育と今より効率的な能力開発が極めて重要になる。
一方、米国企業が世界のサプライチェーンから外れている現状を正すには投資が必要だ――特に中規模企業が課題を抱えている。米国には商社と貿易インフラが不足している。米国よりも経済を開放している小さな国は、世界市場と結びつくために商社や貿易インフラを整備してきた。
もちろん、こうした課題は一夜にして改善できるものではない。しかし、現状は投資と政策によって改善していける。米国が持つ政策オプションの中には、比較的単純ながら、すぐに効果が得られるものがある。例えば外国から、特に中国からの直接投資を阻む障壁を撤廃することだ。
他方、中国の基本政策に問題はない。彼らは、新たな成長パターンを発展させることの大切さを認識して、第12次5カ年計画に明記している。後は、結果を出すことだ。そのために、以下の政策が重要になる。革新へのインセンティブを高める。技術基盤を厚くする。人的資本への投資を増やす。金融部門を発展させる。国内企業にも外国企業にも同じ競争政策を適用する。
相手の課題を理解せよ
米中両国に求められる要件がこのようなものであるなら、互恵的で生産的な関係は、比較的単純な方法で築くことができる。
中国は今後も先進国の市場と技術を必要とする。しかし、それだけに頼らず、独自の知識とスキルを培っていくべきだ。この点で米国は中国の力になれる。世界の技術革新を推進しているのは、やはり米国だ。一方、米国は、成長する中国市場への参入と、中国市場での平等な競争を必要としている。金融部門についても同じことが言える。
米国が長期的に健全な経済を保とうとするなら、財政の均衡を回復し、国内消費に頼りすぎることのない持続可能な成長パターンを確立することが何より大切になる。これには、単に輸入を抑えるのではなく、輸出を拡大することで経常赤字を継続的に縮小していく必要がある。中国の需要がその助けになる。中国経済は規模においても質においても成長を続けている。現時点で中国との関係を強化することは決して応急措置ではない。見返りの大きな将来への投資と言える。
米国が経常赤字を削減することは、中国にもプラスに働く。中国は3兆2000億ドル相当の外貨準備を抱える。その大半はドル建て資産だ。この準備金は、次第に巨大なリスクになりつつある。米国が国際均衡に向かえば、中国は外貨準備を徐々に減らすことができる。頭の痛い資産管理が楽になる。
中国と米国は、相手が抱える新たな構造的課題を深く理解することで、どの分野で協調すれば互いに利益を得られるかを、明確にできる。両国関係の構図は単純だ。中国は成長のために米国の技術革新を、米国は成長のために中国市場を必要としている。この共生関係を生かすには、両国が協力し合い、まとまった投資をし、それぞれの改革を進めていく以外に道はない。
国内独占掲載 : Michael Spence © Project Syndicate
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Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。
その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。
先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。
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マイケル・スペンス氏
情報と市場の関係に関する研究でノーベル経済学賞を受賞。米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローなどを務める。
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