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拡大する銀行貸出における金利リスク地域別、貸出金の投資効率分析  金利競争の激化
http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/823.html
投稿者 MR 日時 2012 年 5 月 03 日 01:13:35: cT5Wxjlo3Xe3.
 

http://www.dir.co.jp/souken/research/report/capital-mkt/12050201capital-mkt.html
拡大する銀行貸出における金利リスク地域別、貸出金の投資効率分析
金融調査部 菅野 泰夫
【サマリー】

◆震災以降、多くの地域金融機関では事業の継続や再開等に必要な運転資金の貸出需要も重なり、順調に融資が拡大した模様だ。しかしながら、貸出金の増加と裏腹にリスクアセットの投資効率は低下したといわれる。その背景として、地域金融機関同士の金利の引き下げ競争の激化に伴い、優遇金利による長期固定貸出を増加させたことなどが指摘されている。

◆本稿では、各地域別の貸出金の状態を把握するため、全国を12の地域に分け、地方銀行など64行を対象に貸出金における金利リスク量とその投資効率を試算している。その結果、過去の金利競争の激化により長期固定の金利リスク量が高止まりする警戒感から、意図的に固定貸出を減少させる地域も確認された。

◆リスクアセットの投資効率改善のため、単純な貸出債権の転売によるオフバランス化は、金融危機以降の証券化商品に対する需要の低下や、我が国の信用市場が他の先進国と比べて未発達な分、容易には実行できない。今後の金融規制強化に対応するためにも、耐久性のある資本構築を実現し、流動性が低く金利リスクが高い資産の管理手法の構築を急ぐ必要があるだろう。

地域金融機関の金利競争の激化
全国地方銀行協会が発表した平成23 年度中間決算の概要によると、2011 年9 月
中間期の加盟地方銀行63 行の貸出金(平残)は、155 兆8,752 億円と前年比3 兆
576 億円増加(前年比+2.0%)となった。震災を挟み、特に被災地及びその近県
では、事業の継続や再開等に必要な運転資金の貸出需要が重なり順調に融資が拡
大した模様だ。しかしながら、多くの地域金融機関では貸出金の増加と裏腹に資
金利益は冴えない。当該発表では、資金運用収益の減少額が資金調達費用の減少
額を上回り、資金利益は1 兆5,977 億円と、前年比256 億円減少(1.6%マイナス)
したとのことだ。貸出金が増加しているにもかかわらず資金利益が減少する背景
としては、慢性的な資金需要の低迷による金利の引き下げ競争の激化が挙げられ
る。特に企業経営環境が厳しい地域では、県外への進出にて融資拡大を目指すた
め、より収益性の低い金利条件で貸さざるを得ない状況が鮮明となっている。
一方、貸出金の収益性を高める目的であるならば、利鞘が厚い海外での融資拡
大を目指す選択肢もある。しかしながら海外業務への参入は、(国際基準行とし
て)普通株を中心とした高い資本比率が必要となるバーゼルV規制への適用が求
められるため、今後、ますます対象行は限定される可能性が高い。また、国際基
準行といえども高い資本比率を達成するために、@市場での資本調達によって自
己資本を増加させるか、Aリスクアセットを減少させ、収益率を補うため貸出金
等の投資効率を上げることが挙げられる。@の手段は、数年前から大手行を中心
に、大型の資本調達が実施されたところであり、更なる市場での調達は容易でな
いとの見方が強い。よってバーゼルV規制の具体的対策としては、Aの手段も無
視することはできないともいえる。
さらに地域金融機関にとって貸出金の収益率の低下以上に金利リスクの長期固
定化が頭を悩ませる要因になっている。近隣県への営業拡大や大都市圏での大手
企業への融資拡大を目指す際に、貸し手に有利な低利固定の金利優遇条件を出す
ことで差別化を図らざるを得ないためだ。また、企業向け貸出と比較して、期間
が長く、デュレーションが大きい地方公共団体向け融資(地公体ローン)や、市
場競争が厳しく利鞘が薄い固定の住宅ローンの増加が金利リスクを増加させる要
因にもなっている。特にフラット35 等に代表される超長期の金利優遇制度も延長
され、長期固定化されたリスクアセットの増加がますます加速する地域もある。
地域別金利リスク量の計測(基礎データの概況)
そこで大和総研では、全国の第1地銀を中心とした64 行を対象に、貸出金残高、
地公体向け融資等の概況から、地域別の貸出金金利リスク量の傾向を把握するこ
とを試みている(図表1参照)。計測の前提となる基礎データとして、@貸出金
残高、A貸出金利息(半期分)、B貸出金金利リスク量、C地公体向け融資等の
パラメーターを使用した。計測方法としては全国を12 の地域に分け、各地域の地
方銀行の合算値を用いて2010 年9 月末から、2011 年9 月末にかけての1年間の状
況を試算している。貸出金金利リスク量の計測に関しては、各行が発表している
ディスクロージャー誌により、固定貸出を中心とした貸出金の残存年数(マチュリ
ティーラダー)を概算することにより試算した1。今回は、市場金利が1%上昇
(100bpv)したときの損失金額を金利リスク量と仮定している。当該計測結果を
確認すると、全国64 行の合計では、貸出金残高の増加(+2.10%)に伴い、金利リス
ク量が+2.53%上昇し、貸出金利息は-4.41%減少していることが分かる。
地域別金融機関の貸出金投資効率の検証
そこでまず初めに、この基礎データを使用して、クロスセクションでの貸出金
における金利リスク量と収益性の比較を行う。図表2で、2011 年9 月末時点での
貸出金残高に占める貸出金利息と金利リスク量を、それぞれ貸出金収益率(%)と貸
出金金利リスク量率(%)と定義し、その相関関係を計測している。またこの結果か
ら、投資効率(貸出金利息÷貸出金金利リスク)を算出し、地域別の金利リスク量
と収益性の相関関係を示している。
この結果をみると、南九州(0.191)、北九州(0.232)、中部・北陸(0.245)、の
順に投資効率が低いことが分かる。当該地域では、伝統的に固定貸出への需要が
強く、また住宅ローンの金利競争が厳しいことも金利リスク量を高め投資効率が
低くなる要因と推察される。また以前から貸出に占める地公体向け融資が多い地
域といわれる東北(0.253)においても、金利リスク量が高いわりに収益性が低い
地域といえる。一方、預証率が低く、優良貸出が多いといわれる中部・東海(0.421)
では、投資効率が全地域で最も高い結果となった。また、注目すべきは沖縄県の
収益性の高さであろう。これは、沖縄県の地理的特性上の離島が多く、そのコス
ト等を含んだ貸出金利が上乗せされる等が要因となり、金利リスク量が高い一方、
貸出金収益率(1.26%)は全体の地域で最も高い結果となった。
図表1 地域別(地銀等64 行)、貸出金に関する基礎データ

地域別、貸出金変化の相対的比較(全国偏差値比較)
先ほどの地域別の基礎データの結果(図表1)をみると、2010 年9 月から2011
年9 月にかけての1 年間で、全地域で一方的に金利リスク量が増加したわけでは
ないことがわかる。これは、地域によっては過去の金利競争の激化により長期固
定の金利リスク量が高止まりする警戒感から、意図的に固定貸出を減少させつつ
あるためともいわれる。そこで次は、貸出金における変化率や地域別の差異を相
対的に把握するべく、各地域での基礎データを偏差値で比較してみる。比較する
項目としては、@貸出金残高、A貸出金金利リスク量、B貸出金利息、C地公体
向け融資、の各々の増加率、及び、D地公体向け融資の貸出金残高に占めるウェ
イト、E金利リスク量の貸出金残高に占めるウェイトの6 項目である。比較する
際には、各基礎データを偏差値化し相対的に高い地域の特徴を確認する。図表3
に東日本の6地域(北海道、東北、北関東、南関東、中部・北陸、中部・東海)
を、図表4には西日本の6地域(近畿、中国・山陰、四国、北九州、南九州、沖
縄)を計測した結果を示している。
まず最初に、@の貸出金残高が日本で最も増加した地域を確認すると、東北
(68.7)、沖縄(63.9)地方が上位に来ていることが分かる。特に東北地方では、直
接的な被災地域県(岩手、宮城、福島)以外の周辺県(山形、秋田)での貸出金
増加が大きい傾向にあった。一方、Aの貸出金金利リスク量の増加率が顕著であ

った地域は、近畿(78.4)、東北(59.0)、中部・北陸(57.5)となっている。近畿で
は大阪府内で変動貸出から固定貸出への急激な振替が生じており、金利リスク量
の急激な上昇が確認された。これは大都市圏を狙った他県からの越境貸出増加を
狙った長期固定による優遇金利貸出や、住宅ローンにおける変動貸出から固定貸
出への振替等の増加が要因として推察される。また、Bの貸出金利息の増加(実
際は全ての地域で減少しているため、減少幅が低いことを示す)が顕著なのが近
畿(70.4)、中部・東海(64.7)、沖縄(60.0)、Cの地公体向け融資の増加が顕著
なのが、南関東(74.5)、四国(60.0)、北海道(59.5)の順となっている。さら
に、Dの地公体向け融資が貸出金残高に占めるウェイトが高い地域としては、北
海道(66.2)、東北(65.6)、南九州(59.9)の順となっている。特に東北地方は、以
前から貸出金残高の増加の多くが、地公体向け融資の増加によるものと推察され、
金利リスクを押し上げる要因となっている。
図表3 東日本、地域別、貸出金指標(残高、金利リスク、利息、占有率)の相対比較(偏差値)
(注1)図表1の基礎データから全国12 の地域で各項目を偏差値化している
(注2)偏差値が高いほど、その項目が全国12 の地域で相対的に高いことを意味する
(出所)CraftMAP(http://www.craftmap.box-i.net/)より大和総研作成

最後にEの貸出金金利リスク量が貸出金残高に占めるウェイトが高いのは、南
九州(70.8)、北九州(59.6)、沖縄(58.6)と、九州・沖縄地方に偏りがみられ
た。特に九州地方は以前から住宅ローン、事業性融資ともに固定貸出の割合が高
く、収益性の低下に関しては、早くから銀行の経営課題として挙げられている。
ただし近年は、長期固定の貸出金の増加を懸念して、金利競争をいったん止める
傾向にあり、変動金利のシフトへと経営戦略を切り替える傾向にあるといわれる。
その証拠として、貸出金金利リスク量の増加率に関しては相対的に低い値(北九
州:49.4、南九州41.8)となっていることが分かる。
図表4 西日本、地域別、貸出金指標(残高、金利リスク、利息、占有率)相対比較(偏差値)


まとめにかえて
世界的にも貸出金利の低さが指摘される日本の金融機関にとって、収益性を確
保した上で他行との金利競争に対応することはますます困難となりつつある。た
だし、最近の議論では、貸出金での金利リスクの拡大を指摘する以上に、国債投
資への傾斜による金利リスク量の膨張を警戒する声ばかり聞こえてくる。流動性
が高く、売却することによって金利リスク量が調整できる国債投資と比べて、流
動性が低い貸出金の投資効率は直ぐには改善出来ないとの見方も強い。さらに単
純な貸出債権の転売によるオフバランス化は、金融危機以降の証券化商品の需要
の低下や、我が国の信用市場が先進国と比べて未発達なため、容易には実行でき
ない。金融危機を発端とした銀行規制改革に対応するためにも、耐久性のある資
本構築を実現し、流動性が低く、金利リスクが高い資産の管理手法の構築を急ぐ
必要があるだろう。
無論、今後の市場環境の変化によっては、貸出行動に急激な変化が生じる可能
性も否定できない。しかしながら、どの様な市場環境においても、良質なリスク
アセットの構築を目指すことが、我が国地域金融機関の経営課題として求められ
ることはいうまでもないであろう。  

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