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The Economist
世界的不均衡の真因:溢れ返るオイルダラー
2012.05.03(木) 4月28日号)
世界的な不均衡の主な要因は石油輸出国だ。
まずは良い知らせから。世界的な不均衡に関する議論の中心にいる国、中国の経常黒字はこの2〜3年間で急減してきた。今度は悪い知らせ。世界レベルでの不均衡に関して言えば、本当の意味で中国が主因だったことは一度もなかった。
米国の経常赤字の最大の相手方は、原油高から思わぬ巨額収入を享受してきた石油輸出国全体の経常黒字だ(下図の左側参照)。国際通貨基金(IMF)は、石油輸出国が今年、7400億ドルという過去最高の黒字を計上すると予想している。その5分の3は中東諸国の黒字だ。
中国を圧倒する石油輸出国の経常黒字
この数字は、予想される中国の経常黒字1800億ドルをちっぽけなものに見せる。2000年以降、石油輸出国の累積黒字は4兆ドルを超えており、中国の累積黒字の2倍に達している。
このような巨額のへそくりが中国のものに比べてはるかに小さな注目しか集めなかった1つの理由は、そのごく一部しか外貨準備に回らなかったことだ。大部分は、不透明な政府系投資ファンドに回された。
中東諸国による米国債購入は、ロンドンの仲介業者を通して行われることが多く、本当の所有者が見えなくなっている。資金の多くは、所有者を追跡するのが一層難しい株式やヘッジファンド、プライベートエクイティ、不動産に投資されている。
石油輸出国の黒字は、以前の石油ショックの後に蓄積されたものよりはるかに持続性が高いことも分かっている。その理由は、1つには石油供給の逼迫で価格が高止まりしていること、また1つには石油輸出国がその巨額の資金を以前の好況期ほど使っていないことだ。
原油高が世界経済に与える影響は、石油輸出国が得たオイルダラーを消費するのか、それとも貯蓄するのかにかかっている。石油輸出国が石油輸入国からより多くのモノを買ってオイルダラーを再循環させれば、世界の需要を支えるクッションの役目を果たす。
だが、石油輸出国がオイルダラーを貯蓄すれば、所得は永遠に石油消費国から産油国に移転されることになり、世界の需要を押し下げる。
1970年代の石油ショックの後は、産油国の輸出収入の増加分の約70%がモノとサービスの輸入に使われた。だが、IMFのデータでは、2012年までの3年間では、増収分の50%足らずしか使われない可能性が高いことが示されている。
オイルダラーの再循環
また、どのような再循環が起きたとしても、オイルダラーは不均一にしか配分されない。石油輸出国は、米国からの輸入品よりも欧州とアジアからの輸入品の購入の方がはるかに多いため、石油消費国から産油国に所得を再配分する「交易条件」の変化は、米国製品に対する需要を相対的に低下させる傾向がある。
国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、昨年は米国が石油輸出国機構(OPEC)加盟国からの石油輸入に費やした資金1ドルにつき、わずか34セントしか輸出として戻ってこなかったのに対し、欧州連合(EU)は80セント以上取り戻した。中国では、OPECに支払った1ドルにつき、64セントが輸出の増加として還流したという。
産油国は当然のことながら、かつての過ちを繰り返したくないと思っている。当時は石油価格の上昇に伴い支出も急増したが、結局、後で価格が下落した時に巨額の赤字が残ることになった。例えば、サウジアラビアは、1980年にはGDP(国内総生産)の26%に相当する経常黒字だったが、1983年には13%の赤字になった。
産油国の中には過剰と思える経常黒字を出している国もある(写真はクウェート国内の石油施設)〔AFPBB News〕
確かに輸出国は、石油価格が下落したり、油井が干上がったりした時のための緩衝材として、黒字を計上しておくべきだ。ロシア、ナイジェリア、ベネズエラが計上するGDP比5〜7%程度の黒字は妥当なように思えるが、中には用心深さが行きすぎているように見える国もある。
今年は、サウジアラビアの経常黒字がGDPの28%に達する可能性があり、クウェートは46%に達する可能性がある(前掲の図の右側参照)。クウェートの過去10年間の累積黒字は、キャピタルゲインを無視した場合でも、昨年のGDPの200%相当という途方もない金額になる。
通常、多額の経常黒字は、国内支出の増加と為替レートの上昇によって時間とともに徐々に減少するものだ。ところが、湾岸諸国の通貨はドルに密接に連動するペッグ(固定)制を採用している。過去10年間、湾岸諸国の実質実効為替レートは、交易条件の大幅な改善にもかかわらず、横ばいで推移するか下落していた。
変動相場制の効用
変動為替レートの導入は、これらの国の経済の過度な振れにつながったり、(通貨上昇に伴う他部門の競争力低下で)多角化を妨げたりする恐れがあるが、為替相場の柔軟性がほんの少し高まるくらいであれば、世界的な不均衡を是正する役に立つかもしれない。
エコノミストの中には、石油輸出国の通貨は、他国の通貨だけでなく石油価格も含めたバスケットにペッグすべきだと提言する向きもある。石油価格とともに上昇(または下落)する柔軟な為替レートであれば、消費者の購買力、ひいては輸入を増加(または減少)させるほか、政府の石油収入の自国通貨建ての価値も平準化することになる。
だが、それも特効薬ではない。2009年のIMF調査報告書*1は、為替レートの上昇が石油輸出国の対外収支に大きな影響を与える可能性は小さいと結論付けている。
執筆者たちの推定では、黒字をGDP比2.5%減らすだけでも100%の通貨上昇が必要になるという。その理由は、通貨の切り上げは、価格がドル建てである石油収入に影響を及ぼさないこと、そして石油輸出国の製造業は一般に非常に小さいため、輸入品が国内生産を代替する余地がほとんどないことだ。
また、為替レートの大幅な上昇は、一部の石油輸出国が持つ多額の対外純資産の自国通貨建ての価値も押し下げるだろう。
産油国こそ公共投資の拡大を
石油輸出国の経常黒字を減らす最も効果的な政策手段は、公共支出、特に投資だ。その中に占める輸入の割合が大きいからだ。
公共支出を増やせば、石油輸出国が石油から脱却して経済を多角化させる後押しをすることもできる。そうなれば、こうした国々の将来の経済発展を支援し、若くて増加している人口のために民間部門の雇用を増やすことになる。
石油輸出国の多くは、社会の安定を維持するために、教育、医療、住宅、社会保障に対する支出を増やす必要がある。ロシアやナイジェリアのような一部の産油国は、かなりバランスの取れた予算を計上しているが、湾岸諸国の政府は現金で溢れ返っている。
2005年以降、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)は、GDPの7〜8%に相当する金額だけ公共支出を増やしてきた。それでも、これら3カ国は今年、平均で15%を超える財政黒字を計上すると見られる。これだけあれば、多少は浪費家になる余地が相当あるはずだ。
*1=“Global imbalances and petrodollars”, by Rabah Arezki and Fuad Hasanov, IMF Working Paper, April 2009.
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35123
Financial Times
社説:正しい緊縮政策のあり方
2012.05.03(木)(2012年5月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州全土で推進されている緊縮財政政策が、これまでになく強い批判にさらされている。景気が二番底に陥ったことで、繁栄を取り戻すには国の財布のひもを締めるのが一番だという有権者の確信が揺らぎつつある。
またフランスの選挙やほかの国々での政治情勢の変化を受けて、政策立案者の間では、何が何でも財政赤字を圧縮すべしという意見が弱まりつつある。このような時こそ、どこでどのような種類の緊縮財政政策が必要なのかを明確にしなければならない。
すべての国に適した緊縮財政政策は存在しない
世界各国の経済には多種多様な力が加わっており、経済政策はそれに合わせて微調整しなければならない。財政赤字をとにかく圧縮するという単純なアプローチでは成功しないだろうし、すべての国に適した緊縮財政政策が存在するわけでもない。
本紙(フィナンシャル・タイムズ)が英国政府の財政戦略をずっと条件付きで支持してきた一方で、一部のユーロ圏諸国や米国の政策論争では赤字削減に熱心すぎると批判してきたのはそのためだ。
評論家の中には、欧州の財政再建戦略を無差別に批判する向きがある(経済学者のポール・クルーグマン氏など、その多くは米国人だ)。財政赤字の圧縮がその直接的な影響として経済を縮小させることは間違いない。
しかし、長期的に経済成長を遂げるためには健全な国家財政が必要だという事実とは別に、緩和的な財政政策は当面の経済成長に2種類の悪影響も及ぼす。
第1に、債券市場で自己成就的なパニックが生じるリスクが出てくる。パニックになれば、既に影響を受けている国々で見られる多大なダメージが民間セクターと公的セクターの両方に及ぶ。
第2に、顕在化するには比較的長い時間がかかるが経済成長へのダメージは同じくらい大きい悪影響として、大幅な財政赤字が続いて債務残高が急増すると企業のアニマルスピリッツが冷え込みかねないということが挙げられる。これでは、財政赤字を出して良い政策を講じても、民間企業の支出の減少でその効果が打ち消される恐れがある。
経済学は、財政支出を伴う景気刺激策が経済成長に直接もたらす影響についてはいろいろと教えてくれるが、債券市場の心理(自己強化的であり、それゆえ本質的に予測不可能なもの)や企業の心理にどんな結果をもたらすかについては、あまり教えてくれない。
確実に言えるのは、上述の悪影響が財政支出による経済成長押し上げ効果を上回るかどうかは、国により異なるということだ。
米国では景気刺激策が有効だが、欧州では事情が異なる
米国では、財政支出を伴う景気刺激策が有効だという主張に分がある。比較的閉じられた経済であるため、政府支出はそれほど外に漏れることなく内需を押し上げる。
また米国債市場はその規模が10兆ドルと極めて大きいため、概ね、買い手に選択の余地がほとんどない専属市場となっている。昨年夏の格下げに対する平静さで分かったように、投資家は事実上、米国債市場を見捨てることができないのだ。
中央銀行の姿勢が緩和的であることも助けになる。度合いこそ米国に比べると小さいものの、同様な考え方は日本にも当てはまる。
一方、すべての欧州諸国を含む中小の国々は、日米とは異なるトレードオフに直面している。これらの国々では、単独で財政支出を拡大しても需要はそれほど増加しない。国際貿易の網にしっかり取り込まれているために、財政支出拡大による効果の大半が国外に漏れ出てしまうのだ。
債券市場の規模が比較的小さいことも、資本逃避のリスクを大きくしている。国内投資家にしっかり支えられ、世界第3位の規模を誇るイタリア国債市場ですら、大量脱出の対象になりやすいことが分かっている。
だからと言って、普遍的な緊縮財政というユーロ圏の公式イデオロギーが正当化されるわけではない。ユーロ導入国には、財政出動の余地が十分にある国が多い。これらの国々は、経済成長の減速や景気後退に対抗するために、財政赤字を拡大して支出を増やすべきだ。
財政支出の大幅削減という選択肢しか残されていないのは、財政赤字の幅が非常に大きいか、債務残高が非常に大きいか、その両方に当てはまる国だけだ。そうした国には、既に救済プログラムを受け入れている3カ国が含まれるが、スペインは含まれない。
英国では、財政政策の緩和は効果よりも大きな害を生む(もっとも、歳出削減の方法については改善の余地がある)。英国よりも構造的な財政赤字が多いのは、先進国の中では米国、日本、アイルランドだけだ。怯えた投資家は、簡単に資金を外国に移せる。
連立与党の政策を批判する向きは、英国債の利回りの低さは、投資家が政府による借り入れ拡大を望んでいることを意味していると言う。だが、そうした見方は、複数年に及ぶ赤字削減計画を歓迎する市場の動きを、多額の赤字継続を求める祈りと見なしている。
また批判派は、欧州中央銀行(ECB)と異なり、イングランド銀行は英国債の低利回りを継続してくれると言う。しかし、イングランド銀行は独立している。本当の大惨事が起きない限り、政府に低い借り入れコストを保証するために必要なだけ英国債を買う気にはならないだろう。
真の成長協定に必要なリーダーシップ
仮にイングランド銀行がパニック状態の投資家の代わりに英国債を買ったとしても、そのようなシナリオは、外国での英銀の資金調達コストを抑えないし、英国企業の投資、雇用意欲を高めもしない。
中小規模の経済国が直面するトレードオフを改善できるのは、世界的に調整された財政政策のみだ。真の成長協定(欧州のみならずグローバルな協定でなければならない)があれば、安全な国々が需要拡大の任務を引き受け、危険な国々が緊縮策を多少緩めることができるはずだ。これには、我々が目にしてきたものより強力なリーダーシップが必要になる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35134
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