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#過去を大幅に上回る輸出ドライブ(外需増大)が今後、持続的に生じると期待する人はいないだろうし、
既に家計部門は、ほとんど赤字国債に食いつぶされているため、家計からの持続的な消費増加も期待できない
減り続けた企業の投資を、規制緩和などで増加させず、単純に財政再建(増税・歳出削減)だけを行えば日本も確実に深刻な不況になる
逆に言えば、人々が必要とする内需産業を中心とした投資増(内需産業での供給増=雇用・賃金増)が実現すれば、日本の問題はほとんど解決する
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120426/231419/?ST=print
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消費増税の議論の前に、まず日本経済の構造変化を直視しよう
もはや「家計」だけでは財政赤字を支えられない
2012年5月1日 火曜日
樋原 伸彦
消費税率を巡る議論が盛り上がっているが、本稿では、日本経済の構造が1998年以前と以後ではかなり変わってしまったことの理解なくして、消費税論議をすべきではないということを示したい。現在の政府債務残高の水準から考えて歳出削減と増税によって、持続可能な水準に債務残高を減らすことは急務であり、消費税率引き上げに筆者は必ずしもネガティブではない。しかし、財政赤字の削減のロードマップを考えるにあたって、深刻な不況を回避するためには、財政以外からの需要の下支えが必要となることも明らかだ。
80年代及び90年代前半と、90年代後半以降では、日本経済の構造は実はかなり異なってきている。80年代は家計の貯蓄超過を企業の貯蓄不足と財政赤字(及び経常収支黒字)が分け合う構造になっていたのに対して、90年代後半以降は、企業と金融機関の貯蓄超過を財政赤字と経常収支黒字が分け合う形となっている。もちろん、90年代後半以降も家計は貯蓄超過であるが、以前と比べて大幅に減少している。
経常収支黒字は対GDP(国内総生産)でほぼ一定の割合を継続していることから、90年代後半を境とした大きな変化は、企業が80年代の貯蓄不足から90年代後半以降の貯蓄超過に転化したことだ。様々な理由が考えられるが、投資機会のファンダメンタルな不足に加えて、金融システムが90年代後半以降不安定になったことで、企業サイドが不測のキャッシュ不足に備え自前で対応しようという極めて防衛的な動機が大きいと考えられる。
この現状の構造を所与とした場合、首尾良く何らかの方策で財政赤字の削減に成功した場合、その需要の減少は、恐らく、企業の貯蓄削減、すなわち企業の投資水準の大幅な上昇を伴わなければならず、それがない場合は深刻な不況になり、GDP自体の減少という調整過程を踏まなくてはならなくなるだろう。その意味で、これまであまり提起及び注目されていないものの、企業の行動の変化が財政赤字削減過程で極めて重要であることを本稿では強調したい。
増税論議をおさらいしてみよう
ここで増税論議についておさらいをしておこう。現在、重要な政治日程の1つになり、今後の日本の政治を左右するような大きな争点となっている。経済学者の間でも、もちろん、増税の効果についての議論は活発になされているものの、議論の多くは、今回提案されている消費税増税が、現在の我が国の財政赤字をうまく減らすことになるのかどうかに集中している。
増税反対の論拠は、名目GDPを上げる政策をとらずに消費税率を引き上げたとしても、結局税収は逆に減りかねないから、名目GDPを上げる政策としてまだ余地が大きい金融緩和を先に一段と行うべきで、それをやる前に先に消費税率を上げてしまっては、財政再建は結局達成できなくなってしまうのではないか、という主張である。確かに、金融緩和は2月14日の日銀の金融緩和策に市場が反応したことからも、諸外国に比べてまだ不十分であるという市場のコンセンサスが逆に明確になってしまった。また、歳出削減が増税の前に先行しないと有権者の納得は得られないというのも、もう1つの論拠として挙げられる場合は多い。
一方、増税やむなしの論拠は、まず、政府債務残高がGDPの2倍に達するような状況は持続可能ではなく、一刻も早く、財政再建への道筋をつけるべく消費税率を上げるべきだ、というものだ。現在の債務残高水準では、日本国債が将来のある時点で売り込まれるリスクも潜在的に大きく、欧州財政危機と同様な危機が日本に起こる可能性だってある。また、高齢化の進展とともに、現在の税体系のままでは若年層の税負担が大きく、世代間格差の是正にも消費税率上げは妥当な選択だ、という主張だ。
増税反対及び賛成の議論は、どちらも、政府財政をバランスする方向へ向かわせようとした場合、一歩目をどう踏み出せばいいのかに、焦点を当てている。どちらのサイドにいる経済学者も、その先の政策について個々にロードマップをもちろん持っているはずなのだが、あまりメディアなどでは取り上げられていない(しかしながら、どちらのサイドも、一層の金融緩和とそれに伴う円安が必要、ということには実は大きな意見の差はないはずで、その暗黙のコンセンサスが2月以降の日銀の新たな「金融緩和姿勢」を促していると言える)。
財政赤字が経済全体に与える影響
本稿で提起したいのは、もう少し先の話なのだが、恐らくその前に、「財政赤字があった場合、経済全体にはどういう影響を与えるのか?」という問いは考えたほうがいいかと思う。ハーバード大学のグレゴリー・マンキュー教授は90年代半ばの「What Do Budget Deficits Do?」という論文の中で平易な言葉で財政赤字の経済への様々な影響をまとめているが、「実証的には、経済状況を左右する財政赤字以外の要因の影響も大きく、それらの影響と財政赤字の影響を区別するのはかなり難しい」と述べている。
例えば、現在の日本経済の状況を説明するにしても、財政赤字自体がどのくらいの影響を与えていて、他の要因(例えば高齢化による労働供給の減少)がどのくらいの影響を与えているのか、実証的には区別が難しいため、財政赤字にどう対処すればいいのかはっきりした政策含意が出てこなくなってしまう。
しかし、マンキュー教授は、上記論文で、「財政赤字の一番直接的な悪影響は、その分、民間の貯蓄が減って、民間で行うべき投資が十分行われなくなることだ。」と言っている。いわゆる、クラウディング・アウトと呼ばれているものだ。
日本経済の資金過不足状況
図をご覧になっていただきたい。これは、1980年から2010年までの部門別の資金過不足(貯蓄投資バランス)をGDP比のパーセンテージで図示したものだ。プラスの数字になっている場合が、その部門では貯蓄が投資を上回っていること(資金余剰)を示す。逆に、マイナスの数字となっている場合、その部門では貯蓄が投資を下回っていること(資金不足)を示す。また、プラスの合計とマイナスの合計はつりあっており、どこかの部門での資金不足は他の部門での資金余剰によって補われている。
財政赤字は、政府部門の資金不足としてこの図では表される。なるほど、1998年以降、赤で示されたマイナスの値を示す棒が下向きに大きくなっているのが見て取れる。ここで注目すべきは、その財政赤字を、どの部門の資金余剰で補っているのかだ。2000年代に入るにつれ、財政赤字の補填は、家計の貯蓄超過(緑で示された部分)よりも、企業の貯蓄超過(薄い青で示された部分、「非金融法人」と記されている)がより大きな役割を担ってしまっている。これは何を意味するのだろうか?
それ以前、特に1980年代の、部門間の資金過不足の状況は非常にわかりやすい。余剰のほとんどは家計部門で、それが、企業の貯蓄不足(すなわち企業の貯蓄以上の投資活動)と財政赤字を支えていた。この状況は、家計の貯蓄を、企業と政府が競って奪い合っていたという図式で、その限りにおいて、本来企業の投資に向かうはずの資金余剰が政府セクターに向かってしまっていた可能性があり、クラウディング・アウトのリスクがあったと言える。
では、2000年代に入ってからの、主に企業部門の資金余剰が財政赤字を補填する状況とはいかなるものか。企業部門では、その内部で資金が余剰であるのにかかわらず、投資に回していないという状況が生じている。つまり、外部から資金を調達する必要がなくコストの安い内部資金で投資ができるにもかかわらず投資をしない、という困った状況となっている。ある意味、クラウディング・アウトよりも深刻な状況と言える。
また、2000年代に入ってからは、金融機関(濃い青の部分)も資金余剰となってしまって、財政赤字のファイナンスに一役買っている。つまり、銀行のバランス・シートのアセット・サイドに、日本国債がかなりの額組み込まれてしまっている状況をこの図は示している。
1990年代半ばまでは、金融機関の資金過不足を示す濃い青の部分はほんのわずかしか図上に現れていなかったことが見て取れる。それは、つまり、金融機関はその時期においては、資金余剰部門から資金不足部門へ資金を流す、金融機関本来の金融仲介が機能していたことを意味する。それが、昨今は、金融機関まで貯蓄セクター化しており、金融仲介機能が落ちてきてしまっている。金融機関が新規企業になかなか資金を回してこないとう肌感覚で感じている状況と合致する。
図上、海外とラベルをはっているピンクの部分は、経常収支黒字を示している。資金余剰の一部(GDP比3%程度か)がこの30年間ほぼコンスタントに海外に流れていることが見て取れる。
本稿で提起したいポイントは、この先5年から10年程度に関して、この図のような部門別資金過不足をどのように描こうとするのか、の議論をもう少しすべきではなかろうか、という点だ。様々な要因が影響しあった結果だろうが、1980年代と比して、現在の部門別資金過不足状況は大きく様変わりしている。もし、財政赤字を減らすという方向で考えようとした場合、どの部門が資金不足部門となり得るのか? あるいは、部門間のインバランスを縮小の方向に向かわせることはできるのか? そういった点のシミュレーションが必要であろう。その場合、ある程度の財政赤字をキープしていくというシナリオも最初から除外するべきではないだろう。
実は、1980年代の、家計の貯蓄が、企業部門の資金不足、経常収支黒字、また必要なら政府部門の財政赤字、を補っていくという構造も、それほど望ましい状況とは言えない。当時も、「貯蓄超過問題」として、どう解決するべきかと経済学者をはじめとして大きな議論となっていた。つまり、家計の貯蓄超過を円滑に資金不足セクターに回さなければ、需要不足により不況に陥ってしまうリスクが常に存在するからだ。
当時、1986年に出された前川レポートをはじめとして内需拡大が声高に叫ばれた。1985年のプラザ合意以降の円高を所与とした場合、外需への依存はこれ以上難しいという判断に基づいている。内需拡大をはかることで、家計部門の貯蓄超過を引き下げていこうという試みであったが、図を見る限り、家計の貯蓄超過は少なくとも90年代半ばまで継続してしまった。
いわゆる貯蓄超過の問題は結局この30年うまく解決できなかった。図では、87年から財政は黒字化している(当時の金融緩和が寄与した結果と言えるだろう)が、家計の貯蓄超過に変化は見られず、企業部門での投資も続かないと需要不足に陥ってしまう状況に変化はなかった。バブル崩壊後、企業の投資水準が落ち込んだ後は、需要不足を財政支出が補わなければならない状況となって、今日に至っている。
描くべき図は、企業にたまっている資金を環流すること
最も望ましいのはどの部門にも貯蓄超過が出てこないような状況だろう。需要不足への対処をする必要がなくなるからだ。実際、ここ10年余りの家計部門の貯蓄超過の低下のような大きな変化は起こりえる可能性はある。しかしながら、家計部門にとってかわるように、昨今企業部門の貯蓄超過が大幅に増えてしまったように、我が国における貯蓄超過問題は根深い可能性が高い。
現在求められるのは、まず、企業部門の貯蓄をもう少しはき出してもらうことだ。経路としては、増配、自社株買い、賃金アップなどが考えられ、今の貯蓄超過水準であればまだ消費余力があると思われる家計部門へ、企業部門の貯蓄をはきだしてもらうことだ。それと同時に、金融機関に本来の金融仲介能力を取り戻してもらい、大企業内で投資機会をみつけられずにとどまっている余剰資金を、潜在的な成長機会を持っている新規の企業にはき出してもらうことも考えるべきだろう。
また、80年代の前川リポートの際から間違いがある意味現在まで続いてしまっていると思われるのだが、外需への依存をもっと高めるべきと宣言すべきではないか。国内での貯蓄超過はある程度仮定せざるをえないわけで、何らかの大胆な施策が可能と考える。ドイツがユーロ導入で結果として達成したマルクの欧州における国際化が、ここ10年ドイツの需要の底上げをしたことは間違いない。我が国においても、円をアジア諸国にもっと持ってもらうような政策を今更ながらも考えるべきだ。
このように考えてくると、財政赤字の問題、あるいは消費税率アップの問題は、大きなパズルのなかの1つのピースと見えてくると思うのだが、いかがなものであろうか。
このコラムについて
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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著者プロフィール
樋原 伸彦(ひばら・のぶひこ)
早稲田大学ビジネススクール准教授
樋原 伸彦【学歴】
東京大学卒業(教養学部教養学科国際関係論)
コロンビア大学大学院博士課程修了(経済学Ph.D.)
【職歴】
東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所助手、世銀コンサルタント、通商産業研究所(現RIETI)客員研究員、サスカチュワン大学(カナダ)ビジネススクール助教授、立命館大学経営学部准教授などを経て2011年9月より現職。
【著書】
共著『ハイテク産業を創る地域システム』(出版:有斐閣)
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