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経済評論家の池田信夫氏が「デフレを巡る3つの神話 日銀をいじめたらデフレから脱却できるのか」と言うコラムを書いているので、簡単に批判してみよう。
予想通りだが、【神話1】と【神話3】は経済学的なバックグラウンドを失った議論になっており、奇妙な言説になっている。評論するのは自由だが、クルッグマンのIt’s Baaack!論文を良く読んでからの方が、もっとまともな文章を書けると言わざるを得ない。
【神話1】不況の原因はデフレである
池田信夫氏はデフレが不況を引き起こさないと主張している。しかし、これは大きな留保条件がつく。つまり、(1)自然利子率が十分に高く、(2)賃金や価格の調整速度が十分に迅速な時のみ成立するからだ。
理論的には考えられる負の自然利子率の可能性(平田(2012))については言及していないし、慶應大学の小幡績氏が紹介した東大の渡辺努氏の研究では、価格が緩慢にしか下がらないこと、価格が硬直的であることが示されているが、それも無視している。
身近な例では賃貸住宅の空き室率は上昇し、住宅地地価・住宅価格が値下がりしているのに、消費の約2割を占める家賃には大きな下落は無い(関連記事:家賃に見る価格の下方硬直性)。
一人当たりGDP成長率で評価するとずっと不況だったのかは疑問もあるのだが、デフレの弊害が無い言う為の条件は満たしていないわけで、低成長の主な原因とは言えないぐらいに言っておくべきであろう。
【神話2】デフレの原因は通貨供給が少ないことだ
通貨供給量は十分にあると言うのは、一般的な見解に近いであろう。何せECBやFRBと比較しても、日銀はGDP比で最もマネタリー・ベースが大きい。
【神話3】インフレ目標を設定すればインフレが起こる
いつもの通りのインフレ・ターゲティングと狭義のリフレーション政策を混同する議論だ。恐らくインフレ目標政策を理解できていないのであろう。
インフレ・ターゲティングは、著名なマクロ経済学者の伊藤隆敏氏は「市場にきちっとした物価目標を提示することで、インフレ期待の安定と、金融市場の安定性を確保する」と説明している。デフレ下の場合では、少なくともインフレ率が一定になるまで金融政策で介入しない事を保証すると言う事だ。
変動金利で住宅ローンを組む事を考えて欲しい。今は2%でローンを組めるが、インフレ率1%で日銀の介入により金利が4%になるとしよう。支払い能力の低い人は、リスクが高くて住宅を買えないかも知れない。しかし、インフレ率2%まで金利が同じ2%だとしたら、ぐっとリスクは小さくなる。
つまり、日銀は許容するインフレ率を高めに宣言するだけで、市場にあるリスクを小さくし、投資量を高め、あわよくばデフレから脱却する事ができる。日銀のコミットメントを市場に浸透させるための努力は必要になるが、過激なリフレーション政策は必要ない。
だから池田信夫氏の「ゼロ金利のもとでは通常の金融政策でインフレを起こすことは不可能だ」は従来型の政策ではないので頓珍漢だし、「日銀が無限に国債を買えば、そのうちいつかインフレが起こるかもしれない」は狭義のリフレーション政策と混同しているので頓珍漢だ。日銀のコミットメントなんて誰も信じないと書いてあれば良かったのだが。
A. 雑多なリフレ派の主張と池田信夫氏
元財務官僚の高橋洋一氏流のリフレーション政策を批判するのであれば良かったのだが、十把一絡げに多種多様な主張を批判するからおかしい事になっている。リフレ政策と言う言葉も問題で、非伝統的な金融政策と広く定義するか、通貨再膨張政策と狭く定義するかで話が大きく変わる。駒沢大学の飯田氏や東大の岩本氏は「穏健」「普通」「急進」の3タイプに分類しているが、誰のリフレ政策を批判するのか決めた方が良い。
量的緩和にあるリスクを否定したりはしないし、量的緩和で円安誘導できると言う議論も奇妙に思えるが、それからインフレ目標政策を批判するのは金融政策に十分な理解があるとは言えない。存在しない「神話」を叩くと藁人形論法になってしまうので、誰を批判しているのか明確にしてもらいたい。
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