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小川たまか
家庭の所得が低いほど子どもの学力は低下する?
文科省も調査に乗り出す“学力格差”の知られざる実態
両親の所得と子どもの学力が正比例することは“公然の事実”――。これは、大手進学塾に勤務経験のある男性の言葉だ。大手塾では、両親の年収や学歴、住む地域などのデータを取ることも珍しくなく、そこには所得による学力格差が歴然と見て取れるという。子どもの学力低下に悩む日本にとって、学力格差の拡大は頭の痛い問題だ。ここにきて、行政も本腰を入れて調査に乗り出した。この3月、文部科学省が平成25年度の全国学力調査から「きめ細かい調査」の実施を検討すべきという提言を取りまとめたのだ。学力格差が広がる背景にはどんな事情があるのか。そしてそれを解消するために関係者はどんな意識を持つべきか。(取材・文/プレスラボ・小川たまか)
世帯収入と子どもの学力は正比例する?
学力低下の背景に垣間見える「学力格差」
「勉強すれば、誰でも報われる」そんな常識が通用しなくなっているのだろうか――。
今年3月、文部科学省は平成25年度の全国学力調査から「きめ細かい調査」の実施を検討すべきという提言を取りまとめた。そこで重点を置く内容として検討されていることの1つに、「『学力に影響を与える要因』の把握・分析」がある。これは「教育格差など(家庭の経済状況など)の状況把握・分析」とされており、行政が「学力格差」「教育格差」に本腰を入れて取り組み始めたことがわかる。
今なぜ、行政が「学力格差」の調査に本腰を入れ始めたのか。その背景には、子どもの学力低下に歯止めをかけたい文科省の危機感が読み取れる。
グローバル競争が激化するなか、国際社会で戦える若者を育てなくてはならない日本にとって、子どもの学力低下は看過できない問題である。その指標としてよく引き合いに出されるのが、OECD(経済協力開発機構)が3年に1度実施する「国際学習到達度調査」(PISA)。これは、世界の15歳の男女を対象に、「読解力」「数学的応用力」「科学的応用力」の3科目で義務教育の習得度を測るものだ。
日本の子どもの学力は、第1回目の2000年調査では読解力8位、数学的応用力1位、科学的応用力2位と世界最高レベルを誇っていたが、「ゆとり教育」が浸透した2006年調査では、それぞれ15位、10位、6位と順位が大幅にダウンしてしまった。ゆとり教育の見直しが進んだ直近2009年調査では、全てのジャンルで順位を回復したものの、子どもの学力が急速に伸びている新興国の追い上げもあり、かつてのポジションを回復できないでいる。
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こうした現実は、「ゆとり教育の見直し」という単純な議論だけでは、日本の子どもの学力が容易に回復しないことを物語っている。もし何らかの要因により、子どもの学力低下に「学力格差」という構造的な問題が絡んでいるとすれば、日本全体の学力を底上げするために、もっと抜本的な対策が必要になることは言うまでもない。
では、学力格差が生じる理由は何なのか。背景には、「子どもの学力が家庭の状況に大きく左右される」という現状がある。大手進学塾に勤務経験のある男性は、「両親の所得と子どもの学力はきれいに正比例する。これは業界内で“公然の事実”」と明かす。大手塾では、両親の年収や学歴、住む地域などのデータをとることも珍しくなく、そこには所得による学力格差が歴然と見て取れるという。
ワイドショー、携帯ゲーム、パチンコ
低学力の子どもは親の行動に影響される?
実際に、家庭の状況によって子どもの学力にはどれほどの開きが生じるのか。これらを関連づける調査は、教育機関でもかなり具体的に行なわれている。たとえば、お茶の水女子大学の耳塚寛明教授らの研究グループが2009年に行なった「家庭背景と子どもの学力等の関係」調査だ。
同調査では、世帯年収を200万円未満から1500万円以上まで12段階に分け、国語と算数の平均点を調査。この結果、世帯年収200万円未満から、1200〜1500万円未満まで、子どもの学力が世帯年収と正比例した(ただし、年収1500万円以上の世帯は、1200万円〜1500万円の世帯に比べわずかながら正答率は下がる)。
これ以外にも、学校外教育支出と学力の関係について調べており、「世帯年収の高い家庭ほど子どもは高学力」であり、「学校外教育支出の多い家庭ほど子どもの学力は高い。そして、学校外教育支出は家庭の経済力と強い関係がある」と分析結果をまとめている。
一般論として、経済的に余裕のある家は、それだけ子どもの教育にも金銭を投資することができる。これが、世帯年収と子どもの学力が正比例する1つの要因と考えるのは容易だろう。だが、さらに家庭内の文化的教養度、さらに家庭内の教育力が関係しているとも考えられる。
たとえば同調査では、「子どもが小さいころ、絵本の読み聞かせをした」「博物館や美術館に連れて行く」「ニュースや新聞記事について子どもと話す」「子どもにいろいろな体験の機会をつくるよう意識している」などの取り組みを行なう保護者の元で育った子どもの学力は、高いという結果が出た。
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逆に、低学力層に位置する子どもを持つ保護者に多く見られる行動は、「テレビのワイドショーやバラエティ番組をよく見る」「携帯電話でゲームをする」「パチンコ・競馬・競輪に行く」「カラオケに行く」だという。
こうした調査結果などを受け、文科省は実態を調査するために、来年度から「きめ細かい調査」を導入するに至ったと推測される。ただし、あえて述べるが、この調査は学力格差の実態を把握するためのものであり、偏見を助長するためのものではない。本稿の趣旨も同様である。
「金持ちの子の頭が良くて当たり前」
なぜ学力格差は再生産されていくのか?
前出のPISA「2009年調査国際結果報告書」を、さらに詳しく見てみよう。
同調査では、学力を測るテストの他に学校外の学習環境に関する調査を行なっている。たとえば、「あなたの家には次の物がありますか」と、「勉強机」「静かに勉強できる場所」「勉強に使えるコンピュータ」「教育用コンピュータソフト」「学校の勉強に役立つ参考書」「専門書」「辞書」「文学作品」「詩集」「美術品」などを所有しているか否かを聞く。
これは「家庭の学習リソース」や「家庭における文化的所有物」の指標となるもので、調査ではこれによる学力テストの得点差を調査している。
「家庭の学習リソース」に関して、充実した環境にある家庭の子どもとそうではない子どもの得点差は、OECD平均では67〜71点。日本は54〜57点と平均より小さいものの、学力格差が少なく「学力世界一」と言われるフィンランドは33〜39点。
次のページ>> 学力の二極化に加えて、学習意欲の二極化も進む深刻さ
「家庭における文化的所有物」での得点差は、OECD平均では61〜70点、日本では54〜71点で、韓国は43〜45点だった。日本はOECDの平均より学力格差は小さいものの、フィンランドや韓国に比べるとその差は大きい。
「このまま放置すれば、世帯収入の多い家庭とそうでない家庭の子どもの学力は開くばかり」と話すのは、教育分野に詳しいフリーライターの斎藤剛史氏。
学力格差の問題について、時として聞かれるのが「年収の多い家庭が子どもの教育にお金をかけるのは当たり前」「世帯収入による学力格差があって、なぜいけないのか」という意見だ。こういった意見があることに対して、斎藤氏はこう語る。
「学力格差の問題は一世代に限った話ではない。世帯収入の多い家庭の子は学力がつけられる環境、そうでない家庭の子はそうでない環境、その連鎖がずっと続く。教育環境によって貧富の差が固定されていく、格差の再生産が問題なのです」
大学や会社なんか入っても仕方がない――。
学力に加えて学習意欲の二極化も進む深刻
学力格差の問題において、以前から指摘されているのが「学力の二極化」だが、さらに言えるのは「学習意欲の二極化」でもある。
「教育環境の整った家庭の子は、親を見て『なぜ勉強をするのか』という大切さをわかっているから、前向きな気持ちで学習に取り組む。一方、そうでない家庭で育った子たちにありがちなのは、『無理して大学に行っても就職できない。就職してもすぐに首を切られる』といった悲観的な観測です」(斎藤氏)
どの子どもにも希望を与え、最低限の学力が身につく環境。それが公立学校に求められていることだ。しかし、斎藤氏や教育ジャーナリストの渡辺敦司氏は、「今の公立学校でこれを行なうのは難しい」と口を揃える。
平成22年度に行なわれた『子どもたちの学力水準を下支えしている学校の特徴に関する調査研究』という、文部科学省の委託研究がある(研究代表は大阪大学の志水宏吉教授)。
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より良い学校運営を阻む現場の疲弊
少人数学級の徹底できめ細やかな教育を
この調査では、学力格差を克服している学校を「効果のある学校」として、海外などの事例から研究。さらに、理想となる「力のある学校」について、「気持ちのそろった教職員集団」「豊かなつながりを生み出す生徒指導」「ともに育つ地域・校種間連携」など、8項目を挙げている。8項目全てが揃うことが「力のある学校」の理想であることを、部品が全て揃わないと動かない車に見立てて、「スクールバスの8項目」としている。
なぜ「スクールバスの8項目」が揃うような「力のある学校」が増えないのか。この原因について渡辺氏は、「現場の疲弊」を挙げる。理不尽に無理難題な要求を行なう保護者の増加や、公務員バッシングなどに由来する教師への不信感は、保護者に対する説明会や日々の書類作りなど、様々なかたちで個々の教師にかかる負担を重くする。
「事務作業の多さで子どもと接する時間が少ないことに悩む教師は多い。また、授業の準備や研修にかけられる時間も減っている。昔は自主的に授業研究会を行なう先生も多かったが、今はなかなかそんな時間もとりずらいのではないか」
対策として考えられるのは、都市部における少人数学級の徹底だ。現在、小学1・2年生で行なわれている35人学級の拡大が望まれる。
「そのためには予算が必要。全国学力テストに家庭内状況を把握するための調査が検討されているのは、財務省を説得するためなのかもしれない」
そう斎藤氏は期待を寄せる。
家庭による教育格差にうまく対応し、全ての子どもと向き合っていくためには、現在の公立学校には見直さなければならない部分が多くあるはずだ。誰もが持つ「教育を受ける権利を徹底するためにも、安心して通わせられる公立学校のあり方が問われている。
「勉強すれば、誰でも報われる」そんな前向きな気持ちを子どもたちに与え、学力格差を解消するためには、学習の「機会均等」を実現させるためのインフラづくりが急務と言えそうだ。
質問1 学力と家庭環境の間には、関連性があると思う?
http://diamond.jp/articles/-/17857
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