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GSAM会長 ジム・オニールの視点
ポーゼン氏と白川氏、スタンスの入れ替わり
今週私は、2012年と2011年、さらに2012年と2010年との類似点を真剣に比べてみようという思いに駆られていました。多くの方がいつまでも、世界が米国中心に回っていると思い込んでいるからです。しかし、2人の方が、私を思い止まらせてくれました。アダム・ポーゼン氏(イングランド銀行金融政策委員)と白川方明日銀総裁です。念のため申し上げますが、もし米国で来週も週次の新規失業保険申請件数が増加すれば、そのことを後で採り上げざるを得ないでしょう。それどころか、来週末にViewpointを書く頃には、ジャーナリストたちがさまざまなことを書き立てて、事態の収拾がつかなくなっているかもしれません。というのも、もちろん来週の新規失業保険申請件数が重要であることは間違いないのですが、27日の日銀金融政策決定会合とその決定も大きな意味を持つからです。こうした状況によって、かなりの混乱が生じるかもしれないと思っています。アダム・ポーゼン氏と英国について言えば、誰が今の皮肉な事態を予想できたでしょうか。つまり、ポーゼン氏がハト派的なスタンスを捨て、それと時を同じくして、白川氏がハト派的になりつつあるという事態です。(もちろん、私は事態を大げさに申し上げているのですが、意図はお分かりいただけると思います)どなたか、ポンド/円、あるいはポンド/スイスフランのポジションを取ってみようとする方はいらっしゃいますか?
市場とその将来
先週木曜日、私は、著名なエコノミストや評論家の方々とともにある建物(非常に由緒ある建物ではありましたが)で一日中缶詰になり、この10年間の人類の行方、金融市場、特に金融市場のコンピュータ化について話し合いました。少し奇妙な経験であり、贅沢ながらも大変な仕事でしたが、かなり楽しくも感じました。ともかくも、このグループの仕事は、経済成長が望めるか望めないか、あるいは、幾分、市場が開放されるか、あるいは閉鎖的になるかという観点から、将来に関するブレインストーミングを行うことでした。推測するに、主催者は、参加した我々が何を言おうと、会議が始まる前から、金融市場のコンピュータ化による投資とそれによるプライシングは必ず起こると信じていたようでしたので、これについては討論にもなりました。また、この他興味深かったのは、いかに多くの方が悲観的な気持ちでいるかが、はっきりと分かったことでした。しかし、そのことはある程度事前に予想していました。そこで、私がまた想い起こしたのは、他のさまざまなことはともかく、現在の高い株式リスクプレミアムが平均値に回帰する傾向にあるという確信でした。この長時間の会議を去るにあたって、それほど多くの好材料がなくとも、株式市場は上昇するだろうと再び思った次第です。
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国際通貨基金(IMF)と中国
先述でご紹介した会議も興味深かったのですが、週の前半に出席した、これまでに経験したことのないほどの意外な会合に比べれば、まったく比較にならないものでした。詳しい内容はお話できませんが、この会合では、中国の主要な政策立案者と、私をはじめ数名が出席するよう要請されました。私は、ある程度、形式的で社交辞令も多い会合であると想像していて、確かにその通りでした。しかし、実際はそれ以上のものでした。経済と投資に関して、驚くほど細かくかつ形式的な質疑応答があった後、政策立案者から、かなりの時間を費やして、また過去の他の国の事例を引いて、中国のあらゆる分野、特に人権問題についてのやり方に他の国が口を挟むことを慎むようにとの説明を受けました。これには、かなり驚きましたし、今もってどう理解してよいのか、よく分かりません。
それはさておき、この会合の前に、中国の第1四半期のGDPやその他のデータが発表されており、また、直後に、中国の経常収支の黒字に関するIMFによる重要な発表が行われました。このことについては、前号で若干ご紹介しました。先週に入ってからは、証券会社の中国アナリストの何人かが、私がその前の週末に見て来たことを採り上げていました。予想を下回る弱い数字であった前年同期比8.1%のGDP伸び率のうち、政策立案者たちは、75%が個人消費によるものだと説明していました。つまり、個人消費の対GDP比率が、すでに目に見えて上昇しているということです。この中国政策立案者たちと出席した会合のこの場面を思い出すと、中国は、外部の観察者が思っている以上に景気の調整が進んでいるのだと思います。IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事(そしてティム・ガイトナー米国財務長官も)が今週発表した中国についての前向きなコメントを聞く限りでは、中国の景気調整が遅れているとは思っていないようなので、嬉しく思います。もし、今後発表されるデータも、引き続きこのソフトランディングを裏付けるようなものであれば、中国株式市場にとってはもちろん好材料であり、その他の世界の各市場にとっても、非常に良い支援材料となるはずです。
偶然にも、この中国政策立案者たちとの会議の翌日に、ロンドン在住の香港財界関係者やアドバイザーと簡単な昼食を共にしました。ここでも、彼らが、本当に中国本土での変化の度合いをよく知らない様子であったので、興味深い会合でした。言い換えると、彼らの見方も、他で見聞きする大変懐疑的な見方だったのです。
アルゼンチンよ、泣かないで
ラテンアメリカの多くの国が、世界の他の地域との協調を目指そうとしている中、アルゼンチンは、ひとり別の途を行くというマイノリティへの途を望んでいるように見えます。今週アルゼンチンが取った石油会社に関する決定(国有化)は、いかにも奇異で間違っているように思えます。もしかしたら、海外で活躍しているサッカー選手を帰国させて、もう外に出さないつもりかもしれません。(同時に、『リトル・ジーニアス(小柄な天才)』と呼ばれている選手をスペインからマンチェスター・ユナイテッドに移そうとしているのかもしれません)
米国では、実際何が起こっているのか?
先週1週間は、過去6ヵ月から1年にかけて米国に対し強気の見方をしてきた当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを指します)のようなところにとっては、2週間続けて期待を裏切られた週でした。新規失業保険申請件数が期待に反して上昇したことに加え、フィラデルフィア連銀景況指数もその内訳も芳
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しいものではありませんでした。このデータは、間違いなく、「冬場の勢いは単に季節外れの暖冬のせいだ」と考える見方や、更なる景気後退を懸念する見方を後押しするものです。様子を見るしかありませんが、もちろん、これによって来週の雇用統計を含む今後発表されるデータが重要な意味を持つこととなりました。これまでの主張をあっさり変えて、「米国はGDP成長率1〜2%のトレンドから抜け出せない」という考え方に同調してしまいたいくらいですが、それでも2つ、あるいは3つのファンダメンタルズ要因を見ると、米国景気の基調は改善しつつあるように思えます。具体的には、住宅市場の回復、天然ガスの価格の大幅下落、これらに伴う米ドル安や米国製造業の著しい競争力回復等です。しかし、今後出て来るデータを、その度に検証する必要があります。もちろん、この2週間というもの、GDPの伸びが予想を上回るはずだと期待する者にとっては、思わしくない状態が続いたことは確かです。
ポーゼン委員、どうなっているのですか?
今週の英国市場でのビッグ・ニュースは、これまで何年もハト派の大物とされてきたアダム・ポーゼン委員が、スタンスを変えたことでしょう。今や彼は、英国に(これまで彼は、一時的だとしていた)インフレの気配があると懸念し、多くの政府発表データよりも民間調査データの方が正確であるとの証拠があり、また英国経済は回復しつつあるとしています。もちろん、金曜日に発表された小売売上高が大きな伸びを見せたことで、景気が全般的に低迷しているわけではないことが示唆され、確かに例えば先月は、失業率が予想を上回って大きく低下しています。失業率と最新の工業生産高を併せて見ると、英国の生産性は低く見えますが、それほど低いとはとても考えられません。私は、英国経済は、多くの見方よりも、またもちろん、多くの政府発表データが示唆するよりも強いのではないかと思っています。そして、より重要なことは、イングランド銀行内での勢力均衡状況に変化が起きていることです。
他国の中央銀行が、未だに各国版量的緩和の追加的実施を検討している中で、英国でこうした変化が起きていることは、非常に興味の持たれるところです。そして、もちろん、市場はすでに反応しています。しかし、スイスや日本で、今後どんな動きがあるかによりますが、少なくとも戦術的に見ると、面白い為替取引のチャンスが巡ってきそうな気がします。
そしてポーゼン氏がよく知る国、日本は?
ポーゼン委員について紹介しましたが、彼を知る人ならお分かりの通り、ある意味とても皮肉なことに、彼はかつて1990年代以降の日本の財政政策を詳細に調査したことがあることから、知日派とされているのです。想像するに、彼は日銀が明らかに考え方とスタンスを変えたことを歓迎しており、そうでなければ、少なくとも新たに言明した1%のインフレターゲットを日銀に守らせようとする者がいることを喜んでいると思います。白川総裁の公式コメントから言えるのは、日銀が1%インフレターゲットを達成するために、さらなる金融政策実施に対するコミットメントを持っているということです。これが当たっていれば、目標到達の道筋は1つだけであり、それは円安です。日銀が真剣であれば、円は、私が年初来思ってきた通り、1米ドル95円から100円のレンジに向かうことと思われます。27日に、日銀がどんな決定を下すのかを見守ろうではありませんか。この決定は、向こう数週間、世界に影響を与えるイベントとなるでしょう。
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その他のこと:成長国(グロース・マーケッツ)サミット
この他にも、本当に沢山の興味深いことがありますが、今回は2つ簡単に紹介するに留めて、後はまたの機会にしたいと思います。まず、ドイツが再び期待を上回るIFO企業景況感指数を、先週金曜日に発表しました。これは、購買担当者景況指数(PMI)とは反対に、ドイツ(そして、ドイツが過去から欧州全体の先行指標となっていることを考えれば、欧州)の状況が、ドイツにとって好転しつつあることを示唆しています。
そして、石油については、同じテーマがしばらく私の頭の中にあります。元ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)副社長のニック・バトラーが先週のフィナンシャル・タイムズに非常に興味深い記事を書いていました。今の石油市場のファンダメンタルズは、実務家たちが語っているものとはますます異なるものになりつつある、というのです。彼によれば、現在のスポット市場の価格はバブルだとも言っています。私は、そこまで言い切ることはできませんが、記事を読んで、スポット価格ではなくブレント原油5 年先限月が将来の価格をより良く示唆するものだという確信を深めることになりました。
日曜日の重要なサッカーの試合が終われば、24日の夕刻から25日終日、ニューヨークで開催される2012年GSAM成長国(グロース・マーケッツ)サミットに向けて気持ちを切替えなければなりません。非常に素晴らしいプログラムを用意させていただきましたし、驚くようなスターも招いてあります(つまり、サッカーのスケジュールにサミットのスケジュールを合わせたということです)。非常に面白い催しになること、疑いがありません。そこでお会いできる方もいらっしゃるかもしれませんね。サミットでお会いしましょう。
ジム・オニールゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:4月20日)
http://www.goldmansachs.com/japan/gsitm/report/pdf/viewpoints_72.pdf
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