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日銀は“驚き”の政策で円高・株安再燃を阻止できるか  TPP、制度改革…、“平清盛”的「国富論」が日本を救う
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投稿者 MR 日時 2012 年 4 月 23 日 01:24:46: cT5Wxjlo3Xe3.
 


日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>Movers & Shakers

日銀は“驚き”の政策で円高・株安再燃を阻止できるか

政治からの重圧を強いられる歴史的な局面へ

2012年4月23日 月曜日 松村 伸二

 このところ日銀がいつになく、さらなる金融緩和に前向きな姿勢を示している。白川方明総裁が18日の米ニューヨークの講演で、「当面、消費者物価(CPI)の前年比上昇率1%を目指し、それが見通せるようになるまで実質的なゼロ金利政策と金融資産の買い入れなどで強力に金融緩和を推進していく」と強調。この発言に前後して、西村清彦・山口広秀の両副総裁もそれぞれ講演で、「必要に応じて適切な措置を講じる」と述べ、正副総裁そろって27日の次回会合で追加緩和に踏み切る可能性の高さをにおわせた。

 そもそも、日銀が一段の金融緩和姿勢を強力に打ち出したのは2月14日の会合に遡る。CPIの前年比上昇率に関して、「当面は1%を目処とすることにした」と発表し、事実上のインフレ目標導入を表明したからだ。このことは、市場で「日銀が少なくともCPI上昇率が1%に達することが見通せるまで金融緩和を継続する」との解釈を誘った。このころ欧米経済に広がっていた明るい兆しも重なり、一層の金利低下を見込んだ円安と、それに伴って輸出企業の為替採算改善を期待した株高が一気に進んだことは記憶に新しい。

 しかし、この動きも今月に入ると息切れが目立ち、「日銀プレミアム」はずいぶんはげ落ちてきた。それだけに、正副総裁そろって金融緩和への前向きなメッセージを発する異例の状況下で、27日の追加緩和を確実視する声は増えている。その根拠とされるのは、日銀が同じ日に取りまとめる経済見通し、「経済と物価情勢の展望(展望リポート)」の中で、物価の見通しがまだ「1%」に程遠いとみられるためだ。

 日銀が打ち出す新たな物価見通しについて、市場では、2012年度が「ゼロ%台前半」、13年度が「ゼロ%台後半」との観測が出ている。それぞれ「プラス0.1%」「プラス0.5%」とした1月時点の見解からわずかに高い水準だが、2月に宣言した「1%」の目処には及ばない。目標に達していない見通しを示す以上、そのことに整合的な政策判断として追加緩和は避けられないというわけだ。

 しかも、日銀自ら、金利上昇が金融システムに悪影響をもたらす内容のリポートをまとめたことも、追加緩和観測を後押ししている。4月の金融システムリポートで、「国内金利が一律1%上昇した場合、金融機関が保有する債券の時価評価で、大手銀行が3.4兆円、地域銀行が3.0兆円の損失を被る」と試算した。特に地方の金融機関が国債の保有を増やしており、地域金融への影響が大きいことを物語る内容だ。長めの金利にも低下圧力を及ぼすような強力な緩和策が日銀に求められるとの見方を誘った。

 問題は、これらの市場の期待に日銀が応えられるような、インパクトのある緩和策を打ち出せるかどうかだ。スペインで国債入札が不調なほか、米国では雇用情勢への楽観的な見方が後退するなど、今回は2月とは裏腹に欧米景気の援護射撃は期待できそうにない。

 日銀が会合を開く前の24〜25日には、米連邦準備理事会(FRB)が金融政策運営を話し合う米連邦公開市場委員会(FOMC)を開く予定だ。今のところ、量的金融緩和の第3弾(QE3)が早期に導入されるとの予想は多くない。しかし、3月の米雇用統計で市場予想ほどの改善が確認できなかった雇用情勢を中心に、このところの米国の景況感は芳しくない。FOMC後に発表される声明で、金融緩和姿勢の継続が強調されるようだと、ドル安圧力につながることも考えられる。この場合、日銀が追加緩和を決めても、その分だけ円安効果が相殺されてしまいかねないだけに、日銀にとって外部環境も政策判断の重要なファクターと言える。

市場にサプライズを与える追加緩和策とは・・・

 こうした中で、市場に「良い驚き」を持って迎えられる緩和策がどの程度のものかについて、市場関係者の間でも算段が始まっている。「よほど思い切った追加緩和措置を決めない限り、短期的に、円高と日本株安が復活するリスクがかなり大きい」(クレディ・スイス証券の白川浩道チーフ・エコノミスト)とみられるためだ。市場の主な声を総合したのが、下の表にあるような策だ。

市場の失望を誘えば円高・株安に拍車
市場が求める「サプライズ」と受け止めそうな政策案の一覧
1.資産買い入れ等基金の枠を10兆〜15兆円拡大
2.対象国債の残存年限を今の「2年以内」よりも長い「3〜5年程度」に拡大
3.購入対象商品を外債などまで広げる
4.買い取り期限の1年延長
5.物価安定の目処を今の「1%」より高い「2%」に引き上げ
 この程度まで踏み込まない限り、市場に「ポジティブ・サプライズ」を与えることができないというわけだ。

 もっとも、日銀がここまで思い切ることについては、冷ややかな見方が少なくないようだ。宮尾龍蔵審議委員1人が3月会合で提案して否決され、4月上旬の会合では提案そのものを見送った「資産買い入れ枠の5兆円拡大」程度では、市場の失望を誘い、円高と株安を招きかねないという。

政治圧力は日銀法改正の議論にも及ぶ

 こうしたマーケットの催促もさることながら、政治サイドからの金融緩和を強要するプレッシャーは日々増している。政府が13日、デフレ脱却策を検討する閣僚会議、「デフレ脱却等経済状況検討会議」の初会合を開き、オブザーバーとして、日銀の白川総裁が参加した。これまでも、折に触れて、会合開催の前後で首相と総裁が会談し、「政府・日銀の連携」の名の下、事実上は政治からの強い圧力を意識せざるを得なかったが、今後は検討会議という場で表だって政治の意図が日銀に伝えられることになる。

 加えて、さらに強いプレッシャーになりそうなのが、日銀法改正の議論の高まりだ。民主党の前原誠司政調会長が19日の記者会見で、日銀法の改正について「財務金融部門会議で検討してもらいたい」と、議論に着手する考えを示した。実際には改正の必要性を唱える声は多くはないが、中央銀行の独立性を強く重視する日銀は穏やかでない。


「中央銀行の独立性」を強調する日銀だが・・・
 世界を見渡せば、中央銀行を取り巻く環境の中で最近、日本ではあり得ないと思われるようなことが飛び出しているのも事実だ。市場で話題になっているのは、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が18日付で伝えたイングランド銀行(英中央銀行)の総裁人事に関する報道だ。

 現在のキング総裁が来年6月末で任期を終えた後の後任候補として、カナダ銀行(中央銀行)のカーニー総裁の名が挙がっているという内容だ。カーニー総裁の国籍はもちろん英国ではない。しかし、カナダは国家元首が英国王のエリザベス2世とあって、カナダ国民は彼女の臣下という解釈が成り立つというのだ。イングランド銀行は、これまでも金融政策委員に、有力ヘッジファンド出身のワドワニ氏を招き入れたことがあるほか、現在の委員の1人であるポーゼン氏は米シンクタンク出身だ。若くて、思い切った政策を打ち出してきた人材を海外に求める英国の動きから見れば、日銀と政治の近しい間での駆け引きは、それほど浮き世離れしていない印象を与えてしまう。

 政府の方針では、消費税の税率を、まず2014年4月に8%へ引き上げるにあたり、2013年秋ごろに増税の可否を判断することになっている。それまでに、足下のデフレ不況の解消が見込めないようだと、消費増税が実現できない可能性がある。言い換えれば、政府による主要政策の実現はデフレ克服後となるわけだ。それまでにデフレを解消する重い任務のほとんどを日銀が負うことになってしまう。ここから先の1年余りでデフレを本当に克服することができるかどうか。日銀は歴史的にも大きな重圧を強いられる局面に入ることになる。


Movers & Shakers

いま、世界と日本の金融資本市場を揺り動かしているのは何か。株式、為替、債券、商品などの市場関係者が最も注目している銘柄やトピックに焦点を当て、それを基軸にマーケットの動きを読み解き、週明け以降を展望する。毎週月曜日に配信し、ビジネスパーソンに役立つマーケット分析・予想を提供するコラム。

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松村 伸二(まつむら・しんじ)

日経ビジネス記者。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120420/231220/?ST=print


 
 

日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>新しい経済の教科書
TPP、制度改革…、“平清盛”的「国富論」が日本を救う

八代尚宏・国際基督教大学客員教授インタビュー(1)

2012年4月23日 月曜日 広野 彩子

「新しい経済の教科書 2012」で、新自由主義者としてケインズ批判を展開した八代尚宏・国際基督教大学客員教授。学説論争にとどまらず、現在の政府の失敗についても舌鋒鋭く批判を展開しています。デフレ脱却のためには、金融政策や規制緩和だけでなく、耕作放棄地への規制強化なども含めた抜本的な構造改革を進めよ、と主張。八代教授による新自由主義的な構造改革論について、2回に分けてお届けします。(聞き手は広野彩子)

昨年、『新自由主義の復権』(中公新書)という本を出版されました。政府の失敗に深い問題意識を持っておられます。

八代:新自由主義とは一般に誤解されているような自由放任主義ではなく、市場機能を適正に働かせるための政府の役割を重視したものです。日本では経済成長率が平均1%弱の経済停滞がもう20年も続いています。現政権は再分配政策には熱心ですが、その原資となる所得を増やすための成長戦略への関心が薄い。何のために経済を活性化する必要があるのかと言えば、何よりも雇用を増やすためです。新規雇用が増えなければ、雇用を保障されていない一番弱い人が犠牲になる。

 識者の間では金融・財政政策などが不十分なために経済が停滞しているという説が多いようです。しかし、私は、マクロ経済政策の失敗よりも、経済社会環境の大きな変化への対応の遅れが原因と考えます。特に1990年代前半には、旧社会主義圏の市場経済化や中国経済の発展などにより、世界的な市場競争が強まったにもかかわらず、過去の成功体験にこだわり、何もしなかった「政策の不作為」が大きな要因です。

平清盛は、自由貿易の発想を持つリーダーだった


八代 尚宏(やしろ・なおひろ)
国際基督教大学客員教授。国際基督教大学教養学部、東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)入庁。1981年、米メリーランド大学経済学博士(Ph.D.)経済協力開発機構(OECD)主任エコノミスト、上智大学国際関係研究所教授、日本経済研究センター理事長などを経て現職。最近の著作に『新自由主義の復権』(中公新書)がある。
(写真:菅野 勝男)
 80年代までの日本は、先進国の中で、高い経済成長率、低い物価上昇率と失業率という高いパフォーマンスで優れた経済運営として持ち上げられていました。その驕りから、90年代以降の長期経済停滞の下でも、ひたすら耐えていれば、いずれ台風一過のように、古き良き時代に戻れるかのような甘い期待で改革を怠ってしまいました。しかし今、人口が減少期に入り、高齢化も急速なスピードで進んでいる中で、それに対応した政策に変えなければいけない状況に追い込まれています。

 例えばTPP(環太平洋経済連携協定)への参加について、世論を二分するかのように反対が多いという事実が、今の日本の閉塞的な状況をよく表しています。戦後の日本ほど、世界の自由貿易体制の恩恵を受けた国はなく、それをさらに進めることは、これまでの日本がずっと追求してきた政策で、最近になって突然そう変えたわけではありません。世界経済の一体化が進む中で、主要国の国内制度の共通化も必要です。交渉に応じたら米国に蹂躙されるから入らないという選択肢は、国際化の時代には通用しません。もっとも、外圧を受けるまで必要な国内制度の改革を怠ってきた日本政府にその責任の一端もあります。

ルールを時代に合わせるような施策で需要は喚起できるという考え方ですか?

八代:需要は市場の拡大を通じて喚起されます。一番簡単に市場を拡大させるのは貿易自由化です。多くの国と取引をすればお互いに輸出と輸入が増え、市場規模が拡大する。これは外国とだけでなく、保護主義の蔓延している非製造業分野でも「国内市場の中での自由貿易」への改革の余地は大きいのです。

 今、NHKで大河ドラマ「平清盛」を放映していますが、平清盛は、特定の利権と結び付いていた中国との貿易のやり方を変えて、民間の一般の庶民が中国から色々なものを輸入できたらきっと豊かになると考えた。まさに現在のTPPの議論そのものです。伝統的な国内開発主義に対して、自由貿易で国を豊かにするという思想が、平清盛の一番優れた視点でした。

 源頼朝は「ザ・侍」というか、国内にしか目が向かない人でした。だから、源氏が勝って平家が負けたのが日本の最大の損失でしょう(笑)。逆だったら、その後の日本は英国のような海洋国家になっていたかもしれない。

 『新自由主義の復権』にも書きましたが、自由貿易などの市場競争重視の思想は、アングロサクソンの専売特許ではないのです。市場の活用は日本の伝統文化と異なるというのは全くの間違いで、これは日本の古来からの思想です。平清盛や「楽市・楽座」を進めた織田信長、さらに大阪商人の伝統もそうです。戦後、日本がここまで豊かになれたのは自由貿易のおかげで、それをさらに進めるために国内で多様な利害調整をすることが責任ある政治の役割です。

日本はこの20年不況で、デフレが進みました。市場を広げる努力を怠ってきたからですか。

八代:というより世界中が急速に市場化したからです。東アジアの中で、最も市場経済を活用してきた日本の製造業が一人勝ちしていた時代は終わり、中国という巨大な国が市場経済化して日本に迫ってきた。それで安価な輸入品が国内に溢れる一方で、高付加価値のサービス産業が発展せず、安売り競争に巻き込まれて込まれてしまった面もあります。国際競争で相対的に日本の閉鎖的なところが際立ってしまったとも言えます。

日本国内には、旧西ドイツと旧東ドイツが共存している

 長期停滞を続ける日本は、旧社会主義国と共通した面があります。日本経済の現状は、旧東ドイツと旧西ドイツのような分裂国家と言えるのです。世界市場で競争する製造業は西ドイツ型の市場経済ですが、政府に保護された農業・サービス業は、東ドイツ型の社会主義に近い。今まで日本経済を支えて製造業が、グローバリゼーションの流れの中で海外に移転する比率が高まるとともに、生産性の低い産業分野が国内で相対的に大きくなった。製造業の空洞化を埋めるためには、農業、サービス業にも製造業と同じような市場経済を導入する必要があります。

TPP関連で原稿を載せると、農業をつぶす気ですかという読者コメントがつきます。

八代:農業をつぶすのではなく産業として再生するためです。TPPへの参加は、60年代、経済協力開発機構(OECD)加盟のために、自動車などの製造業が改革を迫られたのと同様に、農業の構造改革へのタイムリミットを設定するという意義があります。一部の農業経営者の人も、これを契機に成長するアジア市場への輸出を拡大することで農業を発展させたいのですが、組織化されておらず声が届かない。もともと日本のコメへの評価は高く、世界的な農産物価格上昇の下で、減反というカルテル政策を止めれば対外競争力は決して低くない。農家が生産を増やし輸出産業化を目指せば食料自給率も高まる。減反にではなく価格低下への所得補償が本来の農業政策です。コメが輸出産業になれば、農業の雇用も増え、農村地域も活性化します。

 日本経済の深刻な問題としてデフレの継続がありますが、これは金融政策の役割不足ではないかという批判もありました。しかし、金融政策は、糸のようなもので、引っ張ることはできるが、押すことはできないということは以前から言われていました。日本銀行の責任を問う人たちの主張は、金融緩和の効果が小さいからこそ、物価が上がるまでやれという論理ですが、それではデフレという病気の原因を解決することにはつながらない。一般に、通貨の供給量の伸びと名目経済成長率には密接な関係があるとしても、それは必ずしも因果関係を意味しません。経済活動が活発だから通貨需要も増えるという逆の関係もあり得ます。

新自由主義の祖と言われるハイエクも中央銀行の限界を指摘しているそうですね。

八代:ハイエクはもっと過激で、金融政策を司る中央銀行の廃止を唱えています。商業銀行の間でおのおのが発行する貨幣の信頼性についての競争をさせる。一見すると無秩序だと思えるのですが、貨幣を発行しすぎた銀行は信用されなくなり、規律が働くという論理です。

 今の欧州がそれに似ています。例えば、スイスフランが信用されているのは、スイスの金融政策が保守的だからです。それに対して規律に欠けるイタリアやスペインの通貨の信用度は低く、強い通貨と弱い通貨とが為替市場で競争していた。それを欧州合衆国を作るという政治の圧力で、共通通貨にしてしまったことから、弱い通貨の国で信用不安が生じています。

日銀がインフレにできても、健全な改革が閉ざされる恐れ

 ハイエクによれば、政府の銀行が唯一通貨供給を独占しているために、常に金融緩和の方向への圧力がかかりやすい。つまりデフレを克服するためにミニバブルを作れということになる。今の日本経済は、病気になって治療しなければいけない状態です。しかし金融政策に頼りすぎれば、病気の治療はせずに、痛み止めの麻薬に頼るということになりかねない。だから日銀も前から、政府に構造改革を進めるべきと言っているのですが。

 構造改革をすると生産性が上がるかもしれないが、デフレがより深刻化するという反対論もあります。しかし、単に今と同じ生産額をより少ない人員で作るというだけではなく、新しい需要をつくるのが本来の構造改革です。農業も生産性を高めれば価格が下がるだけではなく、輸出という新たな需要を生み出すことができます。また、都市部の住宅の容積率規制緩和で新しい建設需要が生まれます。さらに医療や介護サービスを、公的保険という安全弁の上に市場ベースで育てれば、高齢化社会の成長産業になります。民主党と違う点は、これらを財政支出に依存せずに、民間主体で進めることです。不況の時にこそ新しい需要を作るための改革が必要なのです。

 ケインズ主義は、民間需要が増える余地がないから政府が新しい需要を作らなければいけないということですが、日本経済に関する限り、潜在的な需要を顕在化させる余地は山ほどある。規制改革だけでなく、官から民へ、国から地方へと、政府が抱え込んでいる官業を、民間や地方自治体に開放すれば、やはり新しい需要を生む可能性もあります。でも官尊民卑の発想が根強いですね。

 それは必ず制度改革で損する人が出てくるからです。農業で言えば零細農家、農業協同組合がそうで、都市で言えば既に都心部に低層住宅を持っている人、つまり既得権が新規参入を阻んでいる。それを調整するのが政治の役割です。自由貿易では、経済全体で損失を上回る利益が得られるので、その一部で補償すれば良い。それを小泉改革でやりかかったものの中途半端に終わってしまった。英国のサッチャー元首相だって10年かかったのに、5年しかやらなかった。

「需要を作る構造改革」といいますと、主に規制緩和ですか。

八代:規制緩和と言うより制度改革です。規制緩和というと、今ある規制を単に取っ払うという意味になりますが、むしろ古い規制を経済社会環境の変化に応じた新しい規制に置き換えていくイメージです。その場合に市場競争のための規制強化がカギです。日本では、独占禁止法が、各省庁が関与している分野にはほとんど適用されない。例えば、公共事業の発注を地元企業に優先させる官公需法や、民間団体の農協が主体となっているコメの減反政策は、独占禁止法の精神に明らかに反するものですが、長らく放置されている。

農協は日本の農村における最大の独占資本

 農協は日本の農村における事実上の独占資本のようなものです。ごく最近まで、農業関係はもとより金融・保険業に至るまで多くの事業を独占していた。また、1地区1農協で、農家は特定の農協としか取引できない。外国の農協は、日本の生協のように、互いに地区を超えて競争があるのが本来の姿ですが、日本では完全に競争を排除する体制になっている。

 農協法における農協は、本来、零細農家が集まって企業と競争するという趣旨で独占禁止法の適用除外となっています。しかし、そこで想定されているのは単位農協で、その全国的な組織である全中は、事実上の巨大企業です。今は変わりましたけれども、かつては銀行や保険会社は農村にほとんど入れませんでした。

 今農協と対抗できるのは大規模専業農家ぐらいです。どこの国も農業保護はしていますが、それは主として専業農家の保護です。日本のように生産性の高い専業農家に大幅な減反を強いて痛めつけるような農業政策の国はないでしょう。誰のための農業保護かが問われる必要があります。

 農協は優秀な人材を抱え込み、農民から集めた莫大なお金を農業に使わずに他の部門に投資しているから、農林中金はもっとも健全な銀行でいられる。農協が零細農家相手のビジネスにとどまるのではなく、全国のネットワークを生かして、農地を集積し、生産性の高い大規模農業を展開したり、食料の安定供給のために、海外への直接投資を積極的にすれば一番いいのですが。

これからは、零細農家もどんどんいなくなってしまうのでは。

八代:農民が高齢化して農作業ができなくなる、あるいは本人が亡くなるなどすると、都市のサラリーマンの子供が農地を相続するのです。それで耕作放棄地が傾向的に増えている。なぜ自分が農業をする気がないのに、専業農家に農地を売ったり貸したりしないのか。それは今の農地は、持っていてもほとんどコストがかからない。固定資産税も安いし、相続税もほとんどかからず、子どもに財産分与するには農地のまま相続させたほうがいいからです。

耕作放棄地への優遇税制をなくせ

 こうした耕作放棄地は、歴然たる農地法違反です。農地法というのは現に耕作する人が農地を所有するという考え方ですから。その意味では、耕作放棄地には固定資産税の優遇をなくすとともに、他の農地への悪影響を防ぐためにも農地法違反として課徴金を課すべきです。農地問題の専門家である神門善久明治学院大学教授によれば、90年代には、農産物生産額と農地を転用し売却した収入額が大差ない状況となっていたほど、不動産としての農地の価値が大きくなっていた(『日本の食と農』NTT出版)。これは農地自体の価格は低いが、宅地や道路などに転用されたら大幅に高まるためです。だから、耕作放棄地として土地を保有するコストを高めなければ、真の農家である専業農家に貴重な農地が集約されない。これは規制緩和ではなく、現行の農地法を厳格適用するという考え方です。農業の生産性を高めるための規制緩和と規制強化、構造改革には両方必要なわけです。

よく農家がかわいそう、大変だと言います。

八代:倒産リスクの高い零細企業とは異なり、零細農家の特徴は、農業以外の兼業収入や年金が大きな部分を占めていることです。1ヘクタール未満の零細農家の平均年収は425万円ですが、肝心の農業所得は赤字です(農水省「農業経営統計調査(2009年)」)。既に農業としては成り立っていない状況です。

 TPPに反対する根拠の1つに、米国が日本の国内制度の改革を迫るのではないかという話があります。また、構造改革はそれ自体やればよく、TPPと切り離すべしと言う人もいます。これは正論ですが、現実には外圧がないと、既得権を持つ団体の反対が強力で、大きな構造改革が進まない。これは日本だけでなく、ほかの国々でも同様です。だから互いに国際条約に参加することで、いわば外圧を自らつくり出すことで改革を進める必要があるのです。

 世界貿易機関(WTO)による包括的な自由貿易の枠組みはその一例ですが、参加国が多すぎて合意が得られないため、より共通点の多い国々の間で個別の自由貿易や、より範囲の広い経済連携協定が結ばれています。米国との経済連携協定も、豪州やEUと並んで、2006年頃から検討課題となっていました。これがTPPという多国間の協定になったことは、多様な意見を反映した国際的な制度形成の観点からも、むしろ望ましいと言えます。


新しい経済の教科書

2012年で3年目になる日経ビジネス別冊「新しい経済の教科書」。
今年は装いも新たに、新しい経済学の潮流や、経済学の面白さを伝える企画が満載です。
日経ビジネスオンラインでは、紙幅の関係上「新しい経済の教科書」本誌未収録になった有益なコンテンツをご紹介していきます。

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広野 彩子(ひろの・あやこ)

日経ビジネス記者。1993年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、朝日新聞社入社。阪神大震災から温暖化防止京都会議(COP3)まで幅広い取材を経験した後、2001年1月から日経ビジネス記者に転身。国内外の小売・消費財・不動産・マクロ経済などを担当し、『日経ビジネスオンライン』、『日経ビジネスマネジメント』(休刊)の創刊に携わる。休職し、CWAJ(College Women’s Association of Japan)と米プリンストン大学の奨学金により同大学ウッドローウィルソンスクールに留学、2005年に修士課程修了(公共政策修士)。近年は経済学コラムの企画・編集、マネジメント手法に関する取材、執筆などを担当。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20120411/230852/?ST=print  

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コメント
 
01. 健奘 2012年4月23日 12:22:20 : xbDm84QDmOFmc : HxDkBKBLY2
> 平清盛は、自由貿易の発想を持つリーダーだった

比較優位論も含めて、その考え方が成り立つ前提を見落としています。

前提は、参加する双方において、供給能力<需要が成り立つことです。


供給能力>需要の時代は、今までになかったのですから、昔の考え方をいくら持ってきても、これからを語ることはできません。日本では、1980年代以降、供給能力>需要です。合衆国では、1960年代の終わりです。合衆国では、その後、いままでの考え方、あるいはその考え方を改版しても、ジワジワ、いわゆる中流は減っています。

現実を、すなおに見た方が良いのではないでしょうか。


02. 2012年4月24日 00:14:46 : M5Eyb0b1Nk
アメリカの本当の物価上昇は凄まじい
小さいパンが3ドルぐらいだからね
円高と言うより、ドルの希薄化だよ
日本人でアメリカ本土、ましてニューヨークへ行くやつは減り続けている
2chの海外旅行スレッドのニューヨークスレでも聞いてみるといいよ
1000円程度でお腹いっぱいになるレストランはありますかと
多分、そんなの有るかボケッと言われるだろうけど

03. 2012年4月24日 02:10:06 : mHY843J0vA

>>01 日本では、1980年代以降、供給能力>需要

価格競争力の欠落した供給能力(余剰生産力)は余っていますが

人々が必要とするサービス(真の需要)に対する供給能力が規制のため圧倒的に不足し、価格も高いので規制緩和は需要を創造する上でも有効でしょうね


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