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Financial Times
英国の債務問題に対するトルストイ流の助言
2012.04.23(月)
英国の債務問題は誇張されている――。これは、イングランド銀行(中央銀行)金融政策委員会の委員を務めるベン・ブロードベント氏が3月に「デレバレッジング(負債圧縮)」に関する挑発的な講演で訴えた主張だ。
この主張には説得力があるだろうか? また、これは何を意味しているのか?
1930年代より長く厳しい恐慌に苦しむ英国
英国は債務負担を軽減するために、先進国の中でもかなり厳しい緊縮財政に取り組んでいる(写真はロンドン市内)〔AFPBB News〕
金融危機が経済に長い影を落とすことについては、今や疑いを持つ人はいない。景気後退は深刻で、回復は弱々しいものになる。
これはワシントンに本拠を構えるピーターソン国際経済研究所のカーメン・ラインハート氏とハーバード大学のケネス・ロゴフ教授の独創性に富んだ研究から得るべき教訓だ。
英国は身をもってこれを学んだ。何しろ同国は今、1930年代に経験したものよりも長期に及び、高くつく恐慌(生産高が前回のピークを下回ったまま推移する期間)に苦しんでいる。
さらに、ブロードベント氏の言葉を借りれば、「ほぼすべての金融危機に先立って、急激なクレジット(信用)の伸びが生じた」ことを疑う人もいない。
しかし、「一般的な問題として、金融機関以外の国内の借り入れが英国の金融危機の主因だったとは思えず、それゆえ、危機が確実に終わったと宣言するためには借り入れが歴史的な『標準』に戻らなければならないとは思えない」と同氏は付け加える。
債務がない国はどれも似ているが、過剰債務を抱えた国はそれぞれ違う
筆者がブロードベント氏の見解を要約するのであれば、トルストイの言葉の言い換えを用いる。「債務を負っていない国はどれも似ているが、過剰債務を抱えた国は、それぞれ違う形で過剰債務を抱えている」ということだ*1。
重要なのは、誰が誰にどんな債務を負っているか、だ。債務者に支払い能力があり、流動性が高ければ、問題は小さいが、そうでなければ、問題は大きい。
*1=ご承知の通り、「幸福な家庭はどれも似ているが、不幸な家庭はそれぞれ違う意味で不幸だ」をもじったもの
ブロードベント氏が正しければ、これは朗報だ。英国の債務水準は世界で最も高い部類に入るからだ。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートによると、2011年第2四半期には、英国の債務総額が国内総生産(GDP)の507%に上ったのに対し、米国のそれはたった279%だった。
債務総額のうち、家計の債務は米国のGDP比87%に対して英国は同98%、金融以外の企業の債務は米国の72%に対し、英国は109%だった。
英国の場合、債務者の特性は、一握りの例外を除いて比較的好ましいとブロードベント氏は主張する。商業用不動産への融資と家計向けの無担保融資は、過剰なうえにリスクが高く、損害をもたらした。海外資産に対する英国の銀行のエクスポージャー(投融資残高)もリスクが高かった。
「全体としては、英国の銀行が出した損失の4分の3前後は、英国外の資産で生じたものだった」とブロードベント氏は強調する。
同氏は、3つの点を主張する。まず、住宅価格の上昇と、その結果生じた家計のバランスシートの借り入れ増加を招いたのは、過剰なクレジットではなく、長期の無リスク金利の低下だった。これは筆者が本紙(英フィナンシャル・タイムズ)のブログ「ウルフ・エクスチェンジ」の投稿でも指摘した点だ。
次に、国内資産で生じた銀行の損失は小さかった。驚いたことに、「英国保有の大手銀行が英国外の住宅ローンで出した損失は、国内市場で出した損失のほぼ15倍に上った」という。最後に、債務と成長を関連付ける証拠は矛盾している。
英国と米国の大きな違い
米国は住宅価格の下落が英国より大きかっただけでなく、住宅を建設したという違いがある〔AFPBB News〕
1つ目と2つ目の指摘は、説得力がある。人が債務を背負う能力は、保有する資産の価値に左右される。S&Pケース・シラー住宅価格指数によると、米国では、実質ベースの住宅価格は最高値から41%下落した。一方、LSLアカダメトリクス指数によると、英国では下落幅が17%にとどまっている。
しかし、最大の違いは、米国が住宅を建設したことだ。これに対して、英国はほとんど建設しなかった。このため米国の住宅価格の上昇は持続不能だった。
英国でも、もしかしたら持続不能かもしれない。ただし、英国にはサブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅ローン)に相当するものがなかったし、比較的強固なセーフティーネット(安全網)が所得を支えたという違いもある。
英国の住宅市場が底堅かったという事実は、ブロードベント氏の楽観論にとって極めて重要だ。その意味で、国際通貨基金(IMF)が出した最新の「世界経済見通し」の住宅ブームと崩壊の比較分析には考えさせられるものがある。
この分析は、「先行して家計債務が急増していた住宅ブームの崩壊と景気後退は、かなり深刻で長引く傾向がある」と主張している。これは妥当な見方に思える。
さらに「景気縮小の厳しさを説明するのは、住宅価格下落とブーム崩壊前の借り入れの組み合わせのように思われる。特に高債務国では、家計消費の減少幅は、住宅価格の下落で説明できる規模の4倍に達している」という。
ブロードベント氏の主張は正しい。確かに、英国の家計債務の上昇を反転させる必要はない。だが債務があると、経済は失業率の悪化や住宅価格の下落、金利の上昇に弱くなる。
緊縮財政のツケ
さらにこの議論は、英国の景気回復が、住宅価格の下落と国内の債務問題が英国より大きかった米国の景気回復よりもかなり弱いのはなぜか、という疑問を提起する。やはりイングランド銀行の金融政策委員を務めるアダム・ポーゼン氏は、「なぜ彼らの景気回復は我々の回復よりも良いのか」と題した3月の講演で、この問題に取り組んだ。
米国の消費と投資がともに英国より活発だった、というのがポーゼン氏の結論だ。米国の消費の方が活発だった理由の1つは、英国の方がインフレ率が高かったことだ。だが、説得力のあるポイントは、英国の財政政策の引き締めが米国よりはるかに厳しかったことだろう。言い換えると、因果応報ということだ。
英国経済が今よりはるかに好調になる可能性を秘めていることを知ると、励みになる。実際には好調ではないということは、あまり励みにならない。
By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35049
日経ビジネス オンライントップ>アジア・国際>特集の読みどころ
ユーロ再生の条件
最前線で見た期待と不安
2012年4月23日 月曜日 日経ビジネス特集取材班
ユーロが再び世界の動揺を呼び覚まそうとしている。
写真:Getty Images
欧州連合(EU)は国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)とともに、現時点で採りうる限りの対策を講じた。財政危機の震源地となったギリシャには1300億ユーロに上る第2次支援策を決め、各国が財政規律を強化する新財政協定に25カ国首脳が署名し、8000億ユーロに上る金融安全網を準備した。ECBが昨年12月、今年2月に実施した長期資金供給オペレーションにより、1兆ユーロを超える資金を供給した効果も相まって、3月の金融市場には小康状態が訪れた。
しかし、危機は封じ込められたわけではなかった。「我々はまだ危機の森の中にいる」という、アンヘル・グリア経済開発協力機構(OECD)事務総長が発した警句の通り、ユーロ圏は危機の第2幕に突入しようとしている。
4月に入り、スペインでは国債入札が不調となったことをきっかけに長期金利が6%台まで急騰し、世界各国の株式、債券、外為市場に波紋を広げた。EUに約束した通りの財政緊縮を実行できず、経済成長率も予想を下回らざるを得ないとの見通しが強まっている。欧州景気の悪化を受け、イタリアも2013年を目指していた財政収支の均衡目標を1年先送りすることになった。
政治の不透明感もユーロを揺さぶる。5月6日に予定されているギリシャの総選挙では連立与党が劣勢に立っており、財政再建計画を約束どおり実行できるかどうか、懸念が高まっている。4月22日、5月6日に実施されるフランス大統領選でも、「新財政協定を再交渉する」と宣言したフランソワ・オランド候補が、現職のニコラ・サルコジ大統領を凌ぐ勢いだ。サルコジ氏が敗れれば、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とともに危機回避を主導してきた「メルコジ体制」は崩壊する。
ユーロ圏、そしてEUが出口の見えないトンネルを潜り抜け、危機を克服するには何が必要なのか。1999年のユーロ誕生以来、低金利の恩恵を受けた南欧諸国のバブルをいかに収束させるか。2008年秋のリーマンショック以来、やむなく出動した財政政策の結果、急激に膨張した政府債務を持続可能な水準まで削減することはできるのか。そして財政再建を進める一方で、失業と所得減少にあえぐ人々を救う経済成長をどう実現するか。
スペインのゼネスト、ギリシャの年金生活者の自殺、フランス大統領選の白熱。今回の特集では、欧州各国の現地ルポを通じて、人々が抱える期待と不安を伝えると同時に、ユーロが再生するために必要な条件を探った。欧州は債務危機の深みから復活できるのか。巨額の政府債務を抱える日本にとっても、対岸の火事とは言い切れない。
特集の読みどころ
企業が直面する変化や課題に多角的に切り込む日経ビジネスの特集。その執筆の動機やきっかけ、誌面に込められたメッセージをお届けします。誌面と併せてお読みいただくことで、理解がより深まる連載です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20120420/231200/?ST=print
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