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The Economist
製造業:第3の産業革命が始まった
2012.04.23(月)
製造業のデジタル化は、モノの作り方を一変させ、雇用に関する政治のあり方をも変えるだろう。
最初の産業革命は、18世紀後半に英国で始まった。きっかけは繊維工業の機械化だ。それまでは何百もの織工たちの家で面倒な手作業により行われていた仕事が、1つの綿織工場にまとめられた。工場の誕生である。
第2の産業革命が起きたのは、20世紀の初めだった。ヘンリー・フォードが流れ作業の組み立てラインを完成させ、大量生産の時代の到来を告げた時のことだ。この2度の産業革命は、人々を豊かにし、都市化を促した。
そして今、第3の産業革命が進行している。製造工程がデジタル化されているのだ。本誌(英エコノミスト)の今週の特集記事が論じているように、この産業革命は企業にとどまらず、それ以外の多くを変える可能性を秘めている。
いくつもの目覚ましい技術が融合し始めた。賢いソフトウエア、新素材、器用なロボット、新しい製造法(とりわけ立体印刷)、あらゆる種類のウェブサービスといったものだ。過去の工場は、同一製品の大量生産を基本としていた。「顧客は好みの色の車を買うことができる。それが黒である限りは」というフォードの言葉は有名だ。
だが、多種少量生産の製造コストは下がっている。製品一つひとつを個々の顧客の好みに合わせて製造できるのだ。未来の工場は、マス・カスタマイゼーションを中心としたものになるだろう。それは、フォードの組み立てラインよりも、織工の家に近いものになるかもしれない。
第3の次元へ
かつてのモノの製造方法は、多くの部品をそろえ、ねじで留めたり溶接したりして、1つの製品に組み上げるというものだった。ところが今、コンピューター上で製品を設計し、3次元(3D)プリンターで「印刷」することが可能になっている。素材の層を連続的に重ねて立体物を作成する仕組みだ。
デジタル設計はマウスを何度かクリックするだけで調整できる。3Dプリンターは無人で動かすことができ、従来の工場で扱うには複雑すぎる多様な製品を作ることが可能だ。これらの驚くべき機械により、いずれほぼあらゆるモノが、ほぼあらゆる場所で――自宅のガレージでもアフリカの村でも――作れるようになるかもしれない。
立体印刷の応用は、全く驚くべきものだ。すでに補聴器や軍用機のハイテク部品が、カスタマイズされた形で立体印刷されている。サプライチェーンの地理的な配置も変化するだろう。砂漠の真ん中で働く技術者は、何かの工具が足りないことに気づいた時に、もはや最寄りの街から届けてもらう必要はない。設計をダウンロードし、印刷するだけでいいのだ。
1つの道具がないばかりにプロジェクトがストップしたり、購入した商品のスペアの部品が手に入らなくなったと文句を言ったりする時代が懐かしく思える日が、いずれやって来るだろう。
立体印刷以外にも同じくらい重大な変化がある。新素材は、従来のものより軽量で強度も耐久性も高い。炭素繊維は、航空機からマウンテンバイクに至るまで様々な製品で、鋼鉄やアルミニウムに取って代わりつつある。
新たな技法により、技術者は微細な成形が可能になる。ナノテクノロジーは、より優れた特性を製品に与える。傷口の治癒を助ける絆創膏、効率的なエンジン、洗いやすい食器などだ。
遺伝子組み換え技術により、バッテリーなどの製造に役立つウイルスが開発されている。そして、インターネットのおかげで、これまで以上に多くの設計者が共同で新製品を開発できるようになり、事業参入の障壁が低くなっている。
フォードが巨大なリバールージュ工場を建てた時、膨大な資金が必要だった。だが現代では、ノートパソコンと創意工夫に対する強い意欲さえあれば、ほかのものはほとんどなくても、リバールージュ工場と同等の製造の場を立ち上げることが可能なのだ。
破壊をもたらす革命
T型フォードの誕生で蹄鉄工が職を失ったように、第3の産業革命も破壊的なものになる〔AFPBB News〕
あらゆる革命の例に漏れず、この産業革命も、破壊的なものになるだろう。かつて綿織工場が手織りの織機を押しつぶし、T型フォードが蹄鉄工の職を奪ったように、デジタル技術はすでにメディア産業と小売業を揺るがしている。
未来の工場を目にすれば、多くの人が身震いするだろう。そこには、オイルまみれのつなぎを着た労働者が操作する汚れた機械は並んでいない。多くの工場は実に清潔で、ほとんど無人になるだろう。
すでに一部の自動車メーカーでは、従業員1人当たりの自動車製造台数が、わずか10年ほど前に比べて2倍になっている。
雇用の大半は、工場ではなく、近くのオフィスで生まれる。そこに設計技術者、エンジニア、IT専門家、物流専門家、マーケティング担当者などの専門職が集まる。未来の製造業の仕事には、より多くのスキルが求められる。退屈な反復作業の多くは、時代遅れになるだろう。リベットのない製品には、もはやリベット工は必要ないのだ。
この革命は、製造方法だけでなく、製造場所にも影響を及ぼす。これまでは、人件費を抑えるために、工場は賃金の安い国に移されてきた。だが、人件費の比重は下がり続けている。初代「iPad(アイパッド)」の価格499ドルのうち、製造人件費はわずか33ドル程度で、その中で中国での最終組み立てが占める額はたったの8ドルだった。
中国はいつまで「世界の工場」でいられるか?〔AFPBB News〕
海外での生産が先進国に戻るケースが増えている。中国人労働者の賃金が上昇しているからではなく、需要の変化により迅速に対応するために、顧客の近くに拠点を置くことを企業が望むようになっているためだ。
また、製品があまりにも高機能であるために、設計者と製造者が同じ場所にいた方が都合がいいというケースもある。
ボストンコンサルティンググループ(BCG)の推定によれば、輸送、コンピューター、金属製品、機械などの分野では、米国が現在中国から輸入している製品のうち、10〜30%が2020年までに米国内で製造されるようになり、米国の生産高を年間200億〜550億ドルほど押し上げる可能性があるという。
新時代の衝撃
より良い製品が迅速に供給される新時代に、消費者は苦もなく適応するだろう。だが、政府はそれよりも苦労するかもしれない。
政府にはもともと既存の産業や企業を保護する本能があり、それらを破壊するかもしれない新興企業を守ろうとはしない。古い工場に補助金を湯水のように注ぎ、製造を国外へ移したがっている経営者たちに圧力を加える。多額の資金を費やして、あくまでも自分たちの見識をもとに、普及するだろうと思われる新技術を支援する。
しかも彼らは、「製造業は、金融業はもちろん、サービス業よりも優れている」という非現実的な信仰にしがみついている。
これらの行動は、どれも理にかなっていない。製造業とサービス業の線引きは曖昧になっている。ロールス・ロイスはもはや、ジェットエンジンだけを販売しているのではない。同社のエンジン一つひとつが実際に航空機を飛行させている「時間」を売っているのだ。
政府というのは昔から、勝者を選び取るのがひどく苦手だ。そして、大勢の起業家や職人がオンラインで設計を交換し、それを自宅で製品化し、ガレージから全世界に向けて販売するようになれば、その傾向はますます強くなるだろう。
第3の産業革命が勢いを増す中で、政府は基本に忠実になる必要がある。すなわち、スキルの高い労働者を育成する質の高い教育と、明快な規則、あらゆる種類の企業にとって公平な競争の場を用意することだ。それ以外は、革新を生み出す者たちに任せておけばいい。
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