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政界スターの失脚が物語る中国の誤謬−資産家上位70人スロバキアGDP超える 薄時代の重慶事業支出を洗い直し
http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/683.html
投稿者 MR 日時 2012 年 4 月 19 日 18:28:06: cT5Wxjlo3Xe3.
 

政界スターの失脚が物語る中国の誤謬

−Wペセック


  4月19日(ブルームバーグ):殺人や腐敗、ハーバード大学、それにケネディ元大統領のジャクリーン夫人の名前まで取りざたされるスキャンダルはまれだ。今や中国の注目の的となっている薄熙来氏をめぐる騒動はこうした全ての要素を提供した。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。政治システム全体を永久に変えるかもしれないのだ。

3月15日まで薄氏は重慶市のトップを務め、政界のロックスターだった。中国で強力な権限を行使する共産党政治局常務委員のメンバーになるとみられていた。その薄氏の政治的財産が一瞬にして消えた。「深刻な規律違反」を犯したとされたことに加え、際どい一連のうわさが広がったためだ。

最大の原因は薄氏の妻、谷開来容疑者と、昨年11月殺害された英国人実業家との関係だ。かつて中国のケネディ夫妻とも呼ばれた薄夫妻にとっては驚くような展開となった。谷容疑者はハーバード大生の息子とともに、英国人のニール・ヘイウッド氏と経済的利害をめぐって対立していたと、国営の新華社通信は伝えている。

このスキャンダルをきっかけに、北京ではさまざまなうわさがささやかれている。最も一般的な見方は、薄氏の流星のごとき台頭を阻止しようとする組織的な動きが背景にあるのではないかというものだ。薄氏は社会的平等をトップダウン方針で推進した。毛沢東元国家主席時代の歌やスローガンを活用する薄氏の戦略は個人崇拝を助長するものだとの見方が多かった。薄氏更迭の前日、温家宝首相は政治改革を追求し続けない限り、文化革命の再来につながりかねないと発言していた。

しかし、核心のところは違う。中国の政治制度は旧態依然としているのに、経済は前進している。薄氏の盛衰と、それにまつわる不透明感は、高成長を遂げる中国の誤謬(ごびゅう)を浮き彫りにしている。

手放せない高級品

中国には最新技術を備えた工場、現代的なオフィスビル、6車線の高速道路、高速鉄道のほか、日米もうらやむ国家資産を誇る。新興の富裕層はプラダやルイヴィトンの高級品、高級車のメルセデス・ベンツが手放せない。

しかし政治制度は毛沢東や旧ソ連のスターリン書記長時代のままだ。エジプトやミャンマーで民主主義が根付く一方、中国では密室での協議や裏取引、追放が後を絶たない。こんな不透明な世界がネット文化と衝突しているが、ネットを通じたニュースを抑え込むことは不可能だ。

中国が思われていたほど統治しやすい国でないことも分かった。温首相は民主主義の進展について希望にあふれた発言をしたが、中国はまだ古代および現代の歴史にとらわれている。間違いを繰り返さないために過去に何が起きたかを知っておく必要がある。国民が話題にすらできない事件の現場となった天安門広場に、今でも毛沢東の写真が飾られていることを忘れてはならない。

強欲さに目が向けられる中で、政治的リスクも否定できない。政府からささやかな給与を受け取り、専業主婦とされる妻を養う薄氏がどうやって豊かな生活を送り、息子を費用の高い英米の学校に留学させることができるだろうか。

格差拡大

政府高官の不正行為が明るみに出ることでエリートと低所得層の格差拡大があらためて注目され、共産党の正統性へのリスクとなるかもしれない。

中国が繁栄し続けるためには家計から国への膨大な所得移転をやめることが必要だ。それで消費者の権限は強まり、超富裕層の権限は弱まる。問題は1%の超富裕層の人たちが改革に反対するかだ。

国会に相当する全国人民代表大会(全人大)の代表のうち資産家上位70人の純資産合計額は昨年、スロバキアの年間国内総生産(GDP)より多かった。これを見れば、中国のモデルがいかに国民を失望させているか、それに共産党の大物が自分たちの収入が減るような改革になぜ抵抗するかが分かる。

超富裕層は政治家であることが多いため、中国は経済の改革と貧富の格差是正に苦労するかもしれない。改革への障害は、社会不安をもたらすハードランディングのリスクを高める。

薄氏の失脚に驚いたり、中国指導部が排他的社会に挑む政治スターの台頭をいかに許容しないかについて語ることもできよう。妻の谷容疑者と死亡した実業家をめぐって想像をめぐらすことも可能だ。ただ今回の事件は、時代遅れの政治制度がこの国の将来を危うくしていることを何よりも雄弁に物語っている。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Billionaires Make Killing Amid China Murder Tale: WilliamPesek(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:東証 Willie Pesek wpesek@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Greiff jgreiff@bloomberg.net
更新日時: 2012/04/19 10:40 JST

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M2NQ566JTSE901.html


薄時代の重慶事業支出を洗い直し 資金の流れ解明に重点

2012年 4月 19日 13:21 JST
【北京】消息筋によると、中国当局は失脚した薄熙来氏が重慶市党委書記時代に打ち出した何十億ドルに上る同市政府の事業支出について精査している。かつて全国的な関心を集めた薄氏のポピュリスト(大衆迎合主義)的なプログラムを当局が直接問題視していることをうかがわせる。
 

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AP

薄氏は240万人が生活できる割安な賃貸住宅施設の建設を約束していた。

 重慶市の財務当局者によれば、同市の新指導者は市の投資プロジェクトの「洗い直し」に着手した。このプロジェクトは重慶を中国でももっとも急速に成長させたもので、薄氏が共産党中央指導部の高位に就くのではないかとみなされる材料にもなった。別の当局者は、捜査は市の植樹運動にも及んでいると語った。この植樹運動は薄氏お気に入りの事業で、広い支持を集めたが、年間100億人民元、つまり約15億ドル(約1200億円)という法外な金額を投じていたという。
 

 当局のこの動きは、不透明な国家主導の経済モデルを問い直す姿勢を示している。薄氏は在任中、巨額の財政資金を投入し、ショーケース的なインフラ事業や社会住宅の開発を推進していた。これは中国で重慶モデルと呼ばれ、「左翼」勢力から支持を得た。毛沢東時代に吹き荒れたが、その後長年失われた万人平等主義に郷愁を寄せる勢力だ。重慶モデルに対しては過剰支出と高債務に陥るとの批判がある。
 

 中国の国務院(内閣に相当)は18日、これとは別に、汚職撲滅の一環として、公共支出と割安な社会住宅建設に関する詳細な情報を公開するよう各省庁と地方政府に命じた。
 

 重慶市政府の支出に関する精査は、薄氏が先月に党委員会書記を解任されたのを受けて始まったが、今週までほとんど注目されていなかった。地元紙が先週末、追加的な精査が実施されると報じたのを受けて、香港に上場している重慶農村商業銀行の株価は、重慶市の支出削減によって融資拡大が阻害されるとの不安感から、過去2日間で14%急落した。
 

 農村商業銀行は18日、同行の資本基盤は強く、リスク防止措置も敷いていると強調し、株価は同日、2.5%上昇した。
 

 重慶市財務局の当局者がウォール・ストリート・ジャーナルに明らかにしたところによると、薄氏解任の1週間後の3月21日、重慶市の経済立案機関と財務局は共同で「緊急通知」を出し、重慶市の投資事業を「洗い直す」と発表した。
 

 同当局者は「われわれの役割は、どのようにして資金が調達、支出、そして運営されたかを精査することだ」と述べた。重慶市の企画機関である同市開発改革委員会からはコメントが得られていない。
 

 重慶市財務局はまた、銀行ないし他の投資家によって先行して資金拠出され、完成したあと市政府に売却された開発事業を精査している。この場合、コストは目先、市政府の帳簿外になっている。しかし、多くの場合、開発業者は市政府が保有しており、こうした業者が返済不能に陥った際には、市政府が債務を背負うことになる。
 

 バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによると、重慶の経済成長率は昨年、16.4%に達しており、中国の省ないし地方レベルの地域では最速ペース。中国全体の成長率9.2%を大幅に上回っている。薄氏は元商務相で、中国のシカゴと呼ばれることがある重慶を変革した中心人物としてその手腕を称賛され、開発の遅れた中国西部地域の成長の手本とされた。
 

 重慶市政府が各種のプロジェクトのためどの程度の銀行融資を確保したかは不明だ。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのリポートによれば、昨年の重慶の固定資産投資7600億人民元(約1206億ドル)のうち、大半は重慶市政府が設立した8つの投資目的会社の借入が占めている。投資目的会社は主として、「銀行融資の担保としての土地と、借り換えのための土地評価」に依存していたという。
 

 投資家やアナリストは最近数カ月間、このような投資目的会社が返済期限が到来した際に融資を返済できるかどうか懸念していた。中央政府による不動産規制の中で土地評価額が急落し、こうした投資目的会社がデフォルト(債務不履行)に陥れば、銀行やその他の投資家にとって巨額の損失につながる。
 

 重慶市政府の投資目的会社が発行した債券の平均利回りは、政府保証付きであるにもかかわらず、8%以上に達し、2010年の5.8%を大幅に上回っている。ムーディーズ・インベスターズ・サービスが一部出資しているデータ会社チャイナスコープ・フィナンシャルによれば、これは民間企業の発行した債券利回りや、他の地方政府の発行した債券の全国平均利回りをも上回っている。
 

 チャイナスコープの調査・分析主任のチュー・チャオピン(朱超平)氏は「市場は重慶市政府の債務をますますリスキーだとみている」と述べた。
 

 重慶市政府に近い筋によれば、薄氏解任を受けて就任した張徳江党委書記(副首相)率いる同政府は、債務懸念払拭のため、既に薄氏に最も近いプロジェクト向け支出を削減し始めている。
 

 重慶国際展覧中心(エキスポセンター)は、国営メディアで今年10月にオープンすると伝えられているが、消息筋によると、重慶市政府は最近、同センターの植樹部門の支出を1億5000万人民元(約2380万ドル)から3000万人民元(約480万ドル)に削減した。センターを建設している国営会社のスポークスマンからはコメントを得られていない。
 

 240万人向けに割安な賃貸住宅施設を2012年までに建設するという薄氏の計画は、全国レベルの目標をはるかに上回る規模だが、これも不透明になっている。
 

 クレディ・スイスの不動産アナリスト、ドゥー・チンソン(Du Jinsong)氏は「重慶は社会住宅建設で中国全土のモデルだった。しかし問題は、(薄氏解任など)今回の政治的な変革を受けて、大規模な金額の支出が持続可能なのかということだ」と述べた。
 

 このプロジェクトは、薄氏が重慶市の貧困層から支持される要因となったものだった。薄氏の時代の重慶は補助金付き住宅を4000万平方メートルにわたって建設する計画だったし、多くの住民は薄氏が在任のころ生活状況は劇的に改善したと感じている。

記者: Lingling Wei、Dinny McMahon、Brian Spegele
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http://jp.wsj.com/World/China/node_429370?mod=WSJFeatures
 

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コメント
 
01. 2012年4月19日 19:39:00 : FijhpXM9AU
「社会的平等」を標榜していた薄熙来の息子は学生の分際でフェラーリを乗り回して、純金製の水道栓付きマンションに住んでいた。

鼻くそと耳くその権力闘争だろ、所詮


02. 2012年4月19日 22:43:36 : 3CNLte9sGM
>植樹運動は薄氏お気に入りの事業で、広い支持を集めたが、年間100億人民元、つまり約15億ドル(約1200億円)
>重慶は補助金付き住宅を4000万平方メートルにわたって建設する計画だったし、多くの住民は薄氏が在任のころ生活状況は劇的に改善したと感じている

>重慶市政府の投資目的会社が発行した債券の平均利回りは、政府保証付きであるにもかかわらず、8%以上
>「市場は重慶市政府の債務をますますリスキーだとみている」

完全に不動産バブル、モラルハザードでギリシャ化していたということか


03. 2012年4月23日 14:10:30 : 3CNLte9sGM
田中 信彦(たなか のぶひこ)

− 第39回 −
中国の賃金はなぜ急激に上がるのか〜「トレード型社会」のゆくえを考える
「質的需要」の増大に人材が追いつかず

 中国でなぜ賃金が急上昇しているのか。その根底に需要の増加と供給の減少という基本的な市場原理が働いていることは事実である。

 過去の連載で何度か述べたように、これまで膨大な労働人口を供給してきた農村部の生活水準が上がり、地元でも雇用が生まれてきた。そのため「農民工」と呼ばれてきた都市部への出稼ぎ労働者は減少傾向にある。さらに農村における農地の所有制度改革が政策的に議論の俎上に乗り始め、これまで農地に法的な財産権を認められていなかった農民にも、自分の耕作地に対する財産権が認められる可能性が出てきたことで、むやみに都市部に向かうより、地元に回帰して農地を守ったほうが得策との判断も出始めてきたことなどがある。

 一方で、都市部での労働力の需要も伸びている。従来からの製造業のワーカー需要も根強くあるが、近年、需要増が著しいのは都市部のサービス産業である。急速な富裕化で、都市部では多種多様なサービス業、飲食業などが続々と誕生しており、製造業に比べて機械化や効率化が進めにくいこうした業種では、大きな人材需要が生まれている。

 労働力の需要増加には、大きく分けて2つの側面がある。ひとつは「量的需要」の増加で、これは文字通り必要とされる労働者の数が増えることである。そしてもうひとつは「質的需要」の増大である。「質的需要」とは耳慣れない言葉だと思うが、私が便宜的に使っている単語で、要するに労働力の量ではなく、「質」(産み出せる価値の高さ)に対する需要が高まっているという意味である。近年の中国では労働力の「量」「質」ともに不足しているが、近年、特に需要と供給のギャップが著しいのは後者の「質的需要」のほうである。マーケットにおける需要の「拡大」もさることながら、要求の「上昇」に、労働力の質の向上が追いついていないのである。 

 農村部の労働力そのものが払底してきたとすれば、「量」の充足も難題ではあるが、「量」の問題であれば、高齢者を活用するとか、機械化、合理化を進めるとか、それなりに方法は考えようもある。しかし「質的需要」の充足は、求められる価値を生む能力を持った人材そのものがいなければどうにもならない。時間をかけて高いスキルや経験を持った人を育て、新たな「人をつくる」以外に方法がない。しかしこのことがなかなか容易ではない。
「トレード」の発想、「インダストリー」の発想

 この連載の「第12回−中国ブランド構築の難しさ〜景徳鎮はなぜ衰退したのか」で、地元に昔から暮らす住民が団結して付加価値の高い磁器を生み出し、地域のブランド価値を構築した佐賀県の有田と、地元住民は、外地から流入する職人に工房を貸して家賃を取る方向に走り、そのため技術が定着せず長期的なブランドの維持に失敗した中国・景徳鎮を比較して、次のように書いた。 

「自分で体を動かして生業に取り組むのではなく、自分の資産を他人に貸すことによって収入を得ようとする傾向は中国社会には非常に強い。つまり言葉を変えれば、工夫の積み重ねで生産性を上げ、技術を蓄積して高収益を目指すという「製造業(industry)型」より、資産を貸す、運用する、回転させることによって収益を上げる「取引(trade)型」の性向がより顕著だと言っていい」

 前述したような昨今の中国社会の「質的需要」の高まりを満たすには、まさに「インダストリー」型の発想で、これまでにない価値を生み出せる人を育てる必要がある。創意工夫とトレーニングの継続によって、「人」を創り出さなくてはならない。しかし、現実には中国社会に深く根付いた「トレード型」の発想は強固なものがあり、どうしても既にあるものを右から左に動かすことで収益を上げようとする行動が主流を占めてしまう傾向が強い。

 最近、そのことを象徴するような事例が中国社会で話題になった。「月嫂(ユエサオ)」つまり「中国版高級ベビーシッター」の賃金高騰という問題である。
「高級ベビーシッター」が不足、管理職並みの高賃金に

 中国では子供を時に過保護と思われるまでに大事に扱うことは、最近日本でもよく知られるようになった。新生児が産まれると、まさに「家の宝」として一族を挙げて腫れ物に触るように丁重に扱う。そして産後の母親も周囲から非常に手厚い配慮を受ける。中国には「座月子(ヅオユエズ)」という習慣があって、子供を産んだ母親は産後1カ月の間、特別待遇を受ける。一日中ほとんど何もせず、体を冷やさないようにし、清潔にして、栄養を取り、体力の回復に努める。ほとんど王侯待遇である。

 そういう風習もあって、所得の高い家では子供が産まれると「月嫂(ユエサオ)」と呼ばれる「高級ベビーシッター」を雇うことが増えている。この「月嫂」は、個人のレベル差はあるが、優秀な人になると母子の衛生管理に関する知識を持ち、栄養に気を配り、新生児の成長や健康管理をチェックするといった産前・産後の産褥ケア、さらに母親に代わって家事の一部を代行し、場合によっては新生児の早期教育も行うこともある。単なる子守ではなく、高い専門知識と技能が要求される仕事なのである。

 こうしたことは従来、母親本人と家族が協力して行ってきたことである。しかし生活の富裕化につれて母子の健康や快適な生活に対する要求が高まり、「子供の健やかな成長はお金には代えられない」という意識が強まって、この種の「高級ベビーシッター」の需要が急激に拡大した。まさに都市住民の所得向上にともなって、「生活の質」に対する基準が高くなり、新たなサービスが求められてきた典型的な事例といえる。

 こうした流れを受けて、「月嫂」の賃金は上昇の一途だ。上海や北京など大都市では、一定の技量と経験を持った人の場合、1ヵ月の住込みで2007年には2000元台(1元は約13円)だったが、翌2008年には3000元台に、09年に4000元台、10年に5000元台と毎年1000元程度ずつ上昇し、昨年11年には6000元に達した。今年は辰年で、「龍の年に産まれた子供は立派に成長する」という縁起担ぎから出生数が急増、それを呼び水に「月嫂」の賃金が急騰し始めた。現在では8000元、場合によっては1万元を超える例もあるという。この金額には通常2割程度とされる仲介業者の手数料なども含まれるので、このまま手取りになるわけではないが、この額は一般企業の部長から課長クラスの水準である。新卒女子学生の中には企業への就職をやめ、専門講座に通って「月嫂」を目指す人も出始めたというニュースがメディアを賑わしている。
賃金高騰のメカニズム

 所得が増えて生活水準が上昇し、より快適な生活への欲求が高まって、高度な技能や経験を持つ人材の賃金が上がる――というなら、本来とてもよいことである。だが現実はなかなかそう美しくはいかない。確かに賃金は上昇しているのだが、そこに賃金に見合った付加価値の増加がともなっていかない。そうなってしまうメカニズムは以下のようなものだ。

 まず「月嫂」に対する需要が増加し、引き合いが増えてくると、そこに商機を見出して「トレード」で収益を上げようという人々が大挙して参入してくる。つまり人材をあっせんすることで需給のギャップを埋め、収益を上げようという人々である。中国で人材紹介を業とするには、正式には監督官庁の認可が必要だが、現実には携帯電話ひとつで誰でもできるビジネスなので、儲かりそうだとなるとさまざまな企業や個人がにわか人材ブローカーになる。「月嫂」に限らず、中国のあらゆる商品のマーケットでこういう現象が起きる。

 賃金が高騰するということは、詰まるところ高度な技能を持つ人材の絶対数が足りないのだから、「インダストリー的」な発想に立てば、「商品」であるところの人材の育成を手がけるのが本質的な解決方法である。日本社会はそういうアプローチをする例が比較的多い。ところが、こうしたブローカー的なビジネスに参入する人にその種の発想は薄い。あくまで「トレード的」な発想で、現有の商品を動かすことでそのサヤを取る――という行動に向かう。どこかの家に優秀な「月嫂」がいるとなると、どうやって調べるのか、本人の携帯電話にひっきりなしに引き抜きの電話がかかる。既存の仲介業者の個人情報管理が緩いことも原因のひとつだろうと思われる。

 そうなると、ある仲介業者は「現在の手取りに1000元プラス」「ウチは2000元上乗せ」という感じでアプローチするので、どんどん相場が吊り上がっていく。その人を雇っている家にしてみれば辞められては困るから、引き留めるためには賃金を上げざるを得ない。となれば引き抜きの条件はさらにエスカレートしていく。そういうスパイラルが発生する。こうした状況は中国に限らずどこでも起きることではあるが、中国社会では、その種のブローカー的な動きが親戚や友人・知人の個人ネットワークを通じて縦横無尽に機能するので、その影響力が強いという特徴がある。

 こうした「トレード的」な発想を持っているのは仲介業者だけではない。働いている「月嫂」本人も同じである。つまり、コツコツ努力して勉強し、経験を積んで実力を上げ、付加価値を高めて自らの賃金を上げようと考えるより、現有の自分という商品をできるだけ好条件で高く売りたいと考える。もちろん個人差があり、そうでない人もいるが、自らが自分自身のセールスパーソンになり、積極的に営業して「自分を売っていく」という志向は非常に強い。一般に収益機会には非常に敏感である。
教育投資をする人がいない

 かくして実力はさほど高まらないのに、あたかも株の値段でも上がっていくように、相場の上昇につれて賃金だけがどんどん上昇していくという状況が発生する。冒頭に紹介したような、企業の部課長クラスの賃金を取る「月嫂」の登場はその結果である。こういう状況になると、すでに「月嫂」を雇用している家にしてみると、せっかくさまざまなスキルを教え、一人前に育てても、いつ辞められてしまうかわからないので育成に手間をかけようとしなくなる。

 本来なら仲介業者が自ら教育システムを設け、より高い付加価値を持った人材の育成に乗り出すのが最も合理的な方法である。しかし前述したように、こうした仲介業者の多くは「トレード的」な発想で行動しているので、教育投資には消極的だ。加えて「トレード的」なビジネスは参入障壁が低いので、業者間の競争が激しくなる。その結果、紹介手数料がどんどん下がるので、ますます教育投資ができなくなる。

 つまり、こういう状況下ではリスクを取って教育投資をする人が誰もいない。「できなかった人を、できるようにする」という、新たな価値を生み出す機能がマーケットのどこにも組み込まれない。そこにあるのは「取引」だけで、人材を新規に「生産」する人がいない。したがって賃金はどんどん上がっていくが、技術やサービスの水準は上がらず、高い技量を持った人材の数も増えないという現象が発生することになる。
「13億総不動産仲介業」的状況

 ここでは典型的な「都市型高付加価値サービス業」である「月嫂」の例をあげて説明したが、すでにおわかりのように、こうした現象は人材の領域に限らず、中国社会のどこにでも起きていることである。

 中国のマンション価格の高騰は、確かに都市部とその周辺での住宅需要の増加という基本的なベースがある。「マンションを買いたい」という潜在的なニーズが市場にあるのは確かである。しかし、価格の異様なまでの高騰はそれだけが原因ではない。そこにニーズがあると見るや、さまざまな個人や企業が、にわか「マンションブローカー」として参入し、あたかも「13億総不動産仲介業」的状況を呈する。ごく普通の庶民までもが親類や友人から資金を集めてマンションを買い、賃貸に出し、値上がりを狙う。自分で住む気がないから建物のクオリティを気を配らないので、デベロッパーは粗製濫造に走る。あまりに多くの人がそれをやるので、分譲マンションの価格は急騰し、完売はするが、誰も住んでいない安普請のマンションが林立するという結果になる。典型的な「トレード型」発想社会の弊害である。

 昨年末、浙江省温州市に行ってきた。ここは中国の民営中小企業の故郷ともいうべき街だが、同時に個人のネットワークを利用した民間金融の異様に発達した街でもある。「温州では9割の市民が民間金融にかかわっている」(中国国際ラジオ局ニュース日本語版)との報道もあるほどで、多くの市民がコツコツ貯めた資金を民間金融の融資(つまり投資だ)に回している。

 同市には庶民から小口の資金を集める金融ブローカーがいたるところにいて、一定の利率を約束して小は日本円で数千円から、大は数千万円、数億円以上もの資金を集める。ブローカーはそこに一定の金利を乗せて、より上位のブローカーに取り次ぎ、それがまた上位のブローカーにという形で、温州全体では年間数兆円単位の資金が全国の不動産や炭鉱開発などの投資先に流れていくという。政府の不動産価格抑制策や炭鉱の国有化策などでその投資資金が続々と焦げついて、悲惨な状況になっている。そこにあるのはまさに「右から左」という発想で、自らの努力や工夫で新しい価値を生み出そうという発想は極端に薄い。「トレード的」もここに極まれりという感じである。

 「トレード型」と「インダストリー型」のどちらが正しいとか、どちらの価値が上だとか言うつもりはない。しかし、個人差はもちろんあるが、中国社会の「トレード型」傾斜はちょっと度が過ぎている。リスクを取って、新しい価値を育てる人がいなければ、社会は「大きく」はなるが、「より良く」はならない。価値が上がらず、値段だけが吊り上がっていく社会は、必ず成長の限界がくる。その無理が顕在化する時期はそう遠くないように思える。


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