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やっぱりこの人は日本経済の「現人貧乏神」。「ミスター・リスクオフ」白川日銀総裁の記者会見を読み込む
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32345
2012年04月18日(水)山崎 元「ニュースの深層」:現代ビジネス
4月10日、政策決定会合の後、日本銀行の白川方明総裁は記者会見に臨んだ。追加緩和策と共に「事実上のインフレ目標導入」と報じられた2月の決定会合が株式、外国為替両市場に好影響(株高、円安)を与えたこと、及び、ここにきてその株価と為替レートの動きに翳りが見えてきたことから、今回の政策決定会合には「日銀が追加の緩和策を発表するのではないか」と期待する特に市場関係者が多かった。(記者会見の内容は、日銀ホームページ「総裁会見要旨」4月11日付を参照されたい)
3月半ばから日経平均で一万円をキープして、日本経済に明るいムードをもたらしていた株価も、スペインの国債入札不調などをきっかけに、ついに4月4日には一万円を割り込んでいた。特に株式市場は、何らかの追加緩和策なり前向きなメッセージなりを欲していた。
もちろん、中央銀行が、株式投資家の希望にすべて応えなければならないというものではない。しかし金融緩和から株式を含めた資産価格の上昇が需要の拡大をもたらし、成長率の向上につながるというチャネルも、金融政策の重要な波及経路の一つだ。一万円台に乗せた株価の心理的効果も考えると、この政策決定会合は、追加の緩和策を投入するいいタイミングだった。
■欧州では緊縮財政が景気に悪影響と認めたのなら
会見でもしきりに繰り返したように、白川総裁は、成長力が強化されないと金融政策だけではデフレを脱却できない、あるいは、出来なくても仕方が無いと考えているのだから、成長力にインパクトを与えられるタイミングを逸したのは惜しかった。デフレからの脱却と成長率の向上を願う普通の国民の多くはそう感じたことだろう。
ところで、「成長力(の強化)」とは、東大経済学部の元秀才であったらしい白川総裁には不似合いな曖昧さをもった言葉だ。「成長力」とは、需要を指すのか、供給を指すか、あるいは両方を指すのか。常識的には、両方が拡大することを指すのだろうが、両方が拡大して、さて物価が上昇するものだろうか。物価は貨幣的な現象ではないのか。
また、総裁が「金融緩和で支える」といった表現を使うように、金融緩和が物価や景気にそれなりの影響を与えるということなら、「金融政策の効果として」(単独で、あるいは、「成分」として)どういった影響力があるのか、無いのかを語ることが必要なのではないだろうか。
金融政策は物価に影響を与える。そして、物価の変化や変化の期待は、景気にも影響を与える。だから、デフレから脱却すべく金融政策を最大限活用し、白川総裁が気にする「成長力」にもプラスの影響を与えようという因果関係を考えるのが普通の政策論のように思われるが、どうなのだろうか。
物価も、あるいは金融政策の効果も、金融政策「だけ」で決まらない、と言いたいのかも知れない。たとえば、会見の中で、白川総裁は欧州債務問題について、「緊縮財政の影響を含め」という表現を使っている。財政が緊縮的になることが景気にマイナスだ(したがって、デフレ脱却に逆行する)と考えているのかも知れない。
だとしたら、会見の中で消費税率引き上げについて質問をされた時に、「私どもとしては、近い時点での消費税率の引き上げは、デフレ脱却にとってマイナスの効果があると認識しています」とでも言うべきだったろう。
そして、金融政策「も」物価に影響するということなら、どこまで何が出来るのかを率直に語り、実行すべきだろう。
■インフレ率2%すら望んでいない
さて、白川総裁が株価や為替レートについて使っている言葉でなかなか印象的なのは、「リスクオン」と「リスクオフ」だ。
株価が上がり、円安になったのは、世界的にリスクオンの流れで、その逆になったのは、リスクオフの流れになったから、ということらしい。「買われたから、株価が上がった」といえば阿呆に聞こえるところ、「リスクオン」と言えばもっともらしく聞こえる(一時的にとどまるとおもうが…)という意味では、評論家やコメンテーターには便利な言葉だ。
問題は、経済主体がなぜリスクオンになったりリスクオフになったりするか、その要因に白川総裁の言う「私ども」がどう影響するのかということだろう。
たとえば、2月に「1%」といっていた、物価上昇率の「めど」を、「私どもは、2%の物価上昇率が適切だと判断しました」とでも言って大胆に上方修正し、残存期間の長い国債を買うことでも発表すれば、日銀が金融緩和に「本気」であることが市場参加者に伝わり、為替レートは円安に振れる公算が大きい。
そうなれば、株価に対して、「リスクオン」になることにやぶさかではない投資家が多いだろう。
もちろん、2月に1%と言っていて、これを4月に2%と修正するような大胆さが日銀にあるとは想像しにくいが、ならば、2月の「1%」が目標として不適切だったということなのではないか。
白川総裁は、デフレ慣れした日本でいきなり高めのインフレ率になることの不確実性の大きさとその影響を心配しているようだ。しかし、過去に想定以上のデフレが続き、たとえば長期の債券や債権を持っているような主体が、実質価値で想定以上に儲かり過ぎた一方、債務者側の実質的な負担が重くなったことの影響を無視し過ぎているのではないだろうか。過去に起こったアンバランスの修復を考えると、日本のインフレ目標は、当面もう少し高くてもいい。
しかし、会見要旨を読み進むと、白川総裁が、どうやらインフレ率2%といった状況すら望んでいないことが分かる。総裁は、質疑の中で「文字通り2%を人々が信用した場合には、金利だけが上がってしまうことになり、国債を多く保有する金融機関にとっても望ましくないと思います」と述べている。国会答弁でも、金利が上昇した場合の金融機関への打撃について懸念を表明しており、どうやら、「長期金利が2%になる世の中」を人々が想定することを怖れておられるようだ。
しかし、インフレ期待が高まったり、景気回復期待が高まったりするなら、長期金利は上昇するのが当然だ。
先般の消費税率引き上げを巡る与党・民主党内の議論では「名目成長率3%」という数字が議論の対象になった。これは、たとえば、その内訳が「実質成長1%+インフレ率2%」であっても「実質成長率2%+インフレ率1%」であっても、概ね日本の経済にとって望ましいことだという議論のはずだ。この場合、長期金利は3%程度に上昇することがあっても自然だ。
これらを合わせて考えると、白川総裁は、実は、成長率の上昇もインフレ率の上昇も本音では望んでいないのではないかという疑いが否定できない。だが、成長期待或いはインフレ期待が高まるような状況が起きて欲しくないと心の底では考えているのだとしたら、これは国民にとって「現人貧乏神」(あらひとびんぼうがみ)のような中銀総裁と言わざるを得ない。
もちろん、ここで、日銀にとって必要なことは、金融機関のリスク管理を指導するとともに、成長率・インフレ率に関する抑圧的な意識を「改心」することだ。
■責任あるメッセージは発信したくない中央銀行総裁
さて、この会見で最も面白かったのは、先般発表した1%の「物価上昇率の目途」について、その実現の意思と、実現のタイムホライズンを、質問者が、ざっと数えて6回も、言葉を変えながら訊いたことだ。
詳しくは「要旨」を見て欲しいが、やりとりは大まかにこんな具合だ。
@「1%は達成できると考えているか」→「経済・物価を入念に点検する」
A「1%は達成可能か」→「次回の展望レポートで検討結果を発表する」
B「1%に届きそうにないならどうする」→「次回会合への予断は慎む」
C「物価安定の目途は中長期的なものか」→「達成が遠い先でいいという意味ではない。中長期的に持続可能な物価安定がいい」
D「1%は達成できなくても、方向さえその方向に向かっていればいいのか」→「強力に金融緩和を推進する。1%を目指す点は変わらない」
E「1%は、どういうタイムホライズンで、一体いつまでにできるのか」→
(A)「どの程度のスピードがいいかを中央銀行が判断する」
(B)「出来るだけ早く実現したいという思いは、再々申し上げている」
(C)「成長力強化の取り組みに影響を受けるので、日銀だけでは時期をいえない」
ついに「出来るだけ早く」と言わざるを得なかった点では、白川総裁が根負けした印象のやりとりで面白い。
要は「どのように」という事抜きに、スピード判断は中銀がやる(「日銀」がと言えばいいものを、「中銀」と抽象的な言葉に言い換えた)、それに、成長力強化に関わるので時期は言いたくない、というところが結論だった。
こうした、責任を伴うメッセージを決して発しないと心に決めているような、「ミスター・リスクオフ」とでも呼ぶべき白川総裁の言葉を見ると、少なからぬ国会議員が日銀法の改正に力こぶを作る気持ちが分かるというものだ。白川総裁は、逃げすぎて、かえって墓穴を掘る(=日銀法が本当に厳しく改正される)という事態があるかも知れない。
とはいえ、個人としての白川方明氏には、意地もあれば、立場というものもあるのだろう。
市場の機微を考えると、投資家が「リスクオン」か「リスクオフ」かを迷った今回のタイミングを捉えなかったことは頗る残念だった。「展望レポート」の分析に伴う検討を態度変更の理由に出来る次回には、強いコミットメントを伴うより積極的な金融緩和に「豹変」するチャンスがある。
白川氏は、今回の会見で、残り任期1年であることと、その後の展望については答えようとしなかったが、ここで「リスクオン」を強く後押しする総裁に変身すれば、総裁に再任される目もあるのではないか。
申し訳ないが、経緯を振り返ると、他の候補者が不適格とされて、転がり込んできた日銀総裁の椅子ではないか。ここで、世間が驚くぐらいの変身を見せて(「驚き」は政策の効果にもつながるだろう)、白川氏ご自身が大胆に「リスクオン!」されることをお勧めしてみたい。
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