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http://diamond.jp/articles/-/17446 【第37回】 2012年4月19日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
『週刊ダイヤモンド』日本経済入門に反論する
『週刊ダイヤモンド』4月14日号に反論してみたい。同誌では、新社会人向けに「日本経済」入門という特集をし、仕事に役立つ経済の「新常識」を掲載している。その中で、指摘されている「消費税増税で景気はよくなる」「円高は日本経済にプラスである」「デフレ脱却で景気は回復しない」「金融緩和でデフレは解決しない」などには、首を傾げざるを得ない。これらは「新常識」なのかどうか。
常識を疑ってみるのはいい。ただ、そのためにはそれなりの覚悟と準備が必要だ。同誌の特集には編集部4名の氏名が書かれているが、その分担はわからない。常識を覆したいという「議論」だけを寄せ集めたものになっていると言わざるを得ない。
消費税増税は景気にマイナス
まず「消費税増税で景気はよくなる」を読んでみよう。のっけから、消費税率を引き上げると景気が悪くなるというのは「思い込みにすぎない。消費税率を引き上げて財政再建を進めることで景気はむしろ上向くのである」と書かれている。
その理由として、1997年4月の前回の消費税率引き上げ時の経済動向を例に出している。97年4〜6月期はマイナスだったが、7〜9期にプラスになっていることから「消費税率引き上げが景気の足を引っ張ったとは言い難い」と、何が原因だかわからず歯切れが悪い。
ちなみに、掲げられている図は、1995年から2011年までになっており、虫眼鏡で見ても、文中で示された各年四半期の数字の動きはわからない。これだけで、この筆者がキチンと分析したものでなく、どこかから文と図を寄せ集めたものであることがわかる。しかも、文中の説明が日本だけのデータしかみていないから、説得力もない。
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ちなみに、同じ時期の韓国と比較してみると、消費税率引き上げ以前は、日韓の経済動向は似たようなモノだが、引き上げ以降日本のほうが韓国より成長率が低くなる(図1参照)。これをみると消費税税率の引き上げによって、韓国に比べて経済成長しなくなったといえる。
これは、財務省がよくいう97年後半からの98年にかけての景気後退は、アジア金融危機によるもので、消費税率引き上げによるものではないという主張に対する反論にもなっている。
アジア金融危機の震源地である韓国では一時の落ち込みはあったが、日本の消費税増税後、成長率は日本を上回っている。アジア金融危機の影響は日本より韓国のほうが大きいはずであるが、データはそうなっていない。
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円高でGDPは低下する
「円高は日本経済にプラスである」では、外貨建て輸入額が外貨建て輸出額を2005年から上回ったので、円高はプラスと断じている。外貨建て輸出入額の推移が1993年から記された図が掲載されているが、2005年以前もほとんど外貨建て輸出入額は同じであり、ときには輸入額が大きいときもあった。
しかし、それでも円高は輸出産業に打撃を与えて、輸入産業のメリットを凌駕し、日本経済全体としてデメリットだった。これは為替レートと名目GDPの推移をみてもわかる(図2参照)。ちなみに、内閣府の計量モデルでも、為替が10%円高になると、GDPは0.2〜0.6%低下するという結果になっている。
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次のページ>> 金融緩和は一般物価を押し上げる
その理由は、輸出産業は世界で競争している日本のエクセレントカンパニーであり、その国内経済への波及効果が大きいからだ。それは、だいたいどこの国でも似たような状況だ。だから、為替を安くして輸出を伸ばして自国経済を成長させることを、外国からみて「近隣窮乏化」という。
金融緩和は一般物価を押し上げる
「デフレ脱却で景気は回復しない」では、「デフレとは継続的な一般物価の下落」と正しく記述されているが、それと矛盾する内容が書かれている。「むしろ食料価格は上昇傾向にある」と、一般物価でない個別の価格を持ち出しても何の反論にもならない。
しかも、一般物価で下落していることを書きつつ、「騒ぐほどの物価下落とはいえない」と意味不明なコメントもある。こうした主観的な感想を交えては冷静に分析することはできない。ちなみに、2000年代のインフレ率を世界各国で調べると、日本は最も低いレベルになっている。
「金融緩和でデフレは解決しない」にも、おかしな記述がある。「日銀がどんなに金融緩和を行ったところでインフレにならないことは、すでに歴史が証明している」と書かれているが、2000年代のマネー増加率を世界各国で調べると、日銀は世界で最低である(図3参照)。つまり、日本は世界で最も金融緩和しなかった国である。そのため、世界最低レベルのインフレ率であった。
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次のページ>> 米QE2は経済を立て直すことに成功
さらに不可解な記述が続く。「金融緩和が景気浮揚効果をもつとは限らないことも、例えば米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和第2弾(QE2)を見れば明らかだ」と断定しているが、これも間違いである。QE2は、効果に時間がかかったものの、失業率は8%台まで低下するなど、一時は大恐慌になると言われた米経済を立て直すことに成功した。
不思議なのは、先の2月14日に日銀が行った金融緩和の効果が書かれていないことだ。インフレ率1%の「目途」(目標でない!)にもかかわらず為替は円安になり、株価も上がった。最近は、実はマネタリーベースの増加に対する日銀の本気度が失われてメッキがはげてきたが、この程度でも効果があったことは強調されていない。
この2月14日の金融緩和がもたらす効果はすでに分かっていた。リーマンショック以降の各国(日銀を除く)の金融政策でわかったことであるが、金融緩和するとすぐに予想インフレ率が高まり、その結果、実質金利(=名目金利−予想インフレ率)が下がる。
となると、資産市場はすぐ反応する、つまり、為替が安くなり、株価が高くなる。少し時間をおいて設備投資もでてくる。要するに金融緩和によって経済が回復するのだ(具体的には、2011年11月4日付け「為替介入効果が長続きしない理由 日米マネー量の相対比が円ドルレートを左右する」、2010年11月11日付け「ようやく世界標準の政策を採った日本銀行 量的緩和は物価・景気にこうやって効く」、拙著「日本経済のウソ」(ちくま新書)を参照していただきたい)。
週刊ダイヤモンドの特集は、どこに間違いがあるのか自分の経済学理解を確かめるにはいいだろうが、社会人新人が鵜呑みにしてはいけない。もちろん、筆者の書いたものにも異論はあるだろうが、データに即して考えている。
質問1 金融緩和でデフレから脱却できると思いますか?
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