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#デフレの原因 は政府の料金政策だけではないが、かなり大きな影響を持っていた
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野口悠紀雄の「経済大転換論」【第15回】 2012年4月19日野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
政府の料金政策がデフレの原因
2009年以降、サービス価格の下落があった。
その状況は【図表1】に示すとおりだ。07年以降、ほぼ継続してプラスであったが、09年6月から11年3月までかなり顕著なマイナスとなった。総合指数の下落幅増大にも寄与している。以下では、こうした変化がいかなる要因によって生じたのかを考えることとしよう(注1)。
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(注1)「サービス」(ウエイト5069:以下カッコ内の数字はウエイト)は、「公共サービス」(1200)と「一般サービス」(3869)からなる。前者には、公営・都市再生機構・公社家賃(40)、家事関連サービス(455)、医療・福祉関連サービス(260)、運輸・通信関連サービス(329)、教育関連サービス(22)、教養娯楽関連サービス(95)が含まれる。後者には、外食(532)、民営家賃(267)、持家の帰属家賃(1558)、他のサービス(1511)が含まれる。「他のサービス」には、家事関連サービス(40)、医療・福祉関連サービス(26)、教育関連サービス(437)、通信・教養娯楽関連サービス(304)が含まれる。
公共サービスの価格引き下げが
「サービス価格デフレ」をもたらした
【図表2】は、サービス価格と公共サービス価格の推移を示したものである。
次のページ>> サービス価格と公共サービス価格がきわめて強く相関している
2009年6月以降、最近時点に至るまで、サービス価格と公共サービス価格がきわめて強く相関していることがわかる。
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すなわち、09年6月から10年3月までは、公共サービス価格が0.2〜0.5%下落するのに対応して、サービス価格がほぼ同率だけ下落している。また、10年4月からは、公共サービス価格が2〜3%下落したのに対応して、サービス価格が1%強下落している。そして、11年4月からは、公共サービス価格が上昇に転じたため、サービス価格も0.3%程度の上昇に転じた。
以上の観察から、09年以降のサービス価格の変動は、公共サービスの価格変動によってもたらされた部分が大きいことが推測される。
消費者物価の計算上、公共サービスのウエイトは1200であり、サービスのウエイト5069の4分の1近くを占める。したがって、仮に公共サービスの価格が2%下落すれば、サービスの価格は0.5%下落するわけだ。
このことを明確に見るために、公共サービスの伸び率が従来の平均値であったものとして、サービス価格の動向を計算してみよう。ここでは、平均値として、06年1月から09年12月の平均値を用いた。
この結果は、【図表3】に示すとおりである。サービス価格の伸びは、09年4月頃からはマイナスになるが、−0.5%程度でとどまり、10年4月から数ヵ月間−1.2%を超えるような事態にはならなかったはずだ。
言いかえれば、10年頃のサービス価格の顕著な低下のかなりの部分は、公共料金の引き下げによって生じたものであり、需給の変化を反映したものではないということになる。
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高校無償化は、サービス価格の動向に
大きな影響を与えた
では、公共サービスの価格変動をもたらしたものは何であろうか?
最も大きな変動を示したのは、「教育関連サービス」である。2010年4月からの公共サービス価格が顕著に下落したのは、この費目が、10年4月から11年3月までの期間において、60%を超えるきわめて高い下落率を示したことによる面が強い。10年4月から12月までは、毎月の下落率が68.3%という、きわめて高い値だった。
次のページ>> サービス価格低下のほぼ3分の1は、高校無償化によって生じた
これは、高校無償化(高校授業料無償化・就学支援金支給制度)が10年4月から行なわれたことによるものだ。
これは、公立高等学校などの授業料を無償化し、私立高等学校などに就学支援金を支給して授業料を低減することを目的とした制度であり、10年度から実施された。国公立全日制高校の場合は、授業料相当額が国から自治体に支給され、授業料は無償となる。私立高校の場合は、就学支援金が国から学校法人などに支給されるため、授業料は低減される。
この措置によって、教育費は4分の1から9分の1程度減少すると言われる。民主党がそれまでも主張してきた政策であり、マニフェストに記載されていた。民主党が政権を取ったために実現されたものだ。
ところで、消費者物価指数における教育関連サービスのウエイトは、22だ。したがって、教育関連サービスの68.3%の下落は、公共サービスを
68.3×22/1200=1%
だけ引き下げることになる。
他方、10年の公共サービスの下落は3%強だ。したがって、公共サービス価格低下のほぼ3分の1は、高校無償化によって生じたものであることがわかる。
また、サービス価格全体に対しては、
68.3×22/5069=0.3%
だけの引き下げ効果があることになる。
他方、09年のサービスの下落は1%強だ。したがって、サービス価格低下のほぼ3分の1は、高校無償化によって生じたものであることがわかる。つまり、この政策だけでも、サービス価格の動向にはかなり大きな影響を与えているのである。
【図表4】は、高校無償化が行なわれなかった場合に、サービス価格の伸び率がどうなったかを示すものである(この計算にあたっては、06年1月以降の全期間において、教育関連サービスの伸び率が、10年4月以降の期間においても、06年1月から09年3月までの伸び率の平均値[0.8%]であるものとした)。
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公営家賃、運輸通信、
医療福祉も大きく影響
高校無償化以外においても、公共サービス価格の下落がある。
第1は、公営・都市再生機構・公社家賃だ。2009年3月まではほぼ0.5%程度の上昇であったが、09年4月に下落に転じた。その後、10年4月から12月までの期間を除くと、マイナスの伸び率になっている。
第2は、運輸・通信関連サービスだ。07年4月から09年3月までは上昇していたのが、09年4月から10年3月まで−1%程度となった。その後も10年11月まで下落が続いた。
次のページ>> 医療・福祉関連サービス価格の動向も無視できない
これは、高速道路無料化の影響である。
麻生内閣は、リーマンショック後の経済の落ち込みへの対策として、高速料金の割引や土曜・日曜1000円走り放題などを導入した。
さらに、民主党政権による高速道路無料化社会実験が、10年6月から開始された。無料化実験は11年6月に一時凍結され、その後終了した。このため、価格は、11年1月からは上昇に転じている。
以上の他に、消費者物価の統計では「その他」に分類されているが、実際には公的施策の影響をかなり強く受けていると考えられる費目もある。
それは、医療・福祉関連サービス価格である。11年3月までは伸び率がプラスであり、ことに09年1月から12月までは、ほぼ12%を超える高い伸び率であった。
このため、他の項目が下落したにもかかわらず、サービス価格の下落が抑えられたのである。公共サービスは08年4月からほぼ0.4%程度の下落になっているにもかかわらず09年5月までサービスがマイナスにならなかったのは、この影響が大きい。
以上で述べた3つの費目の推移は、【図表5】に示すとおりである。
これらも公的施策に影響される費目である。それらも含めて、公共施策の動向がサービス価格全体に大きな影響を与えたのである。
仮にこれらが行なわれなかったとしたらどうか? 前と同じ手法で計算すると、結果は【図表6】に示すとおりとなる。仮に医療・福祉の上昇がなければ、09年の初めから下落が始まっていたはずである。
以上で見たように、サービス価格の下落は、公共サービスの価格下落によってもたらされたものである。それは、需給関係などの要因によるものではなく、政策の結果である。だから、「09年以降のサービス価格の下落は政策の結果」ということになるのだ。
しかも、高校無償化も高速道路無料化も、政策目標がはっきりしない人気取りのばらまきだ。いわば、政権の「きまぐれ」によって、サービス価格が大きく振り回されたことになるのだ。
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次のページ>> 経済財政白書の記述は政治的である
平成22年度経済財政白書は、サービス価格が2009年以降下落に転じたことに関して、分析を行なっている(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je10/10b01020.html#a1_2_1)。
そして、「財物価と異なり、賃金動向が重要な決定要因である」としている。そうしたメカニズムが働いていることは否定できない。しかし、賃金はそれ以前から下落している。しかも、経済危機によって最も大きな打撃を受けたのは、製造業である。
上記のように、原因のかなりの部分が公共料金にあるのは明白なのだが、なぜか、白書はそうした側面には触れていない。政権の目玉政策に対する批判と受け取られることを避けようとしているのだろうか? もしそうであるなら、政治的だと言わざるをえない。
サービス価格全体の動向だけを見ていれば、確かに09年以降、「日本の物価動向に新しい要因が加わった」ということになる。そして、「それは需要不足のためであり、したがって一層の金融緩和によって需要を増加すべきである」といった議論になる。こうした議論は、まったくの誤りだとしか言いようがない。
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