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医療費の高騰で財政はもたない。「病気」を定義し、高齢者も応分の負担を
70〜74歳の医療費の窓口負担について、1割負担で据え置かれている現状を改め、2割負担にすべきとの議論が起きている。逼迫している財政事情を考えれば当然の話だ。しかも、何でもかんでも「病気」として扱うのではなく、「病気」の定義を明らかにして、膨張する医療費に歯止めをかける必要がある。
自公政権の「激変緩和措置」で高齢者負担を凍結したまま
岡田克也副総理は3月31日に青森で開かれた政府主催の税と社会保障の一体改革に関する対話集会に出席し、70〜74歳の医療費の窓口負担について「暫定的に1割になっているが、2割に戻させていただきたい」と語り、2013年度以降に引き上げるべきだとの認識を示した。
次期衆院選が近づいているときに、こういう発言をするのはさすがに「原理主義者」と言われる政治家の感覚なのだろう。しかし、これは正論である。
そもそも70〜74歳の医療費の窓口負担は、2008年度の後期高齢者医療制度スタートに合わせて、それまでの1割負担から2割負担に引き上げられるはずだった。ところが当時の自公政権は「激変緩和措置」として負担引き上げを凍結し、現在まで1割負担で据え置いたままだ。負担引き上げの凍結には、毎年2000億円超の予算が投じられている。
岡田さんの発言は、この凍結をやめて、自公が決めていた通りの2割負担にさせてもらいたい、というものだ。
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70歳以上の医療費の伸びが顕著
国民医療費の推移を下のグラフに示す。
[画像のクリックで拡大表示]
ご覧の通り、日本の医療費は次第に上昇しているのがわかる。特に70歳以上の医療費の伸びが顕著だ。
1997年度と2009年度を比較すると、65歳未満の全人口は約15兆4000億円から約16兆1000億円へと7000億円の増加であるのに対し、70〜74歳は約3兆2000億円から約4兆3000億円へと1兆1000億円も増えている。わずか5歳分の人口で、である。
75歳以上に至っては、約7兆2000億円から約11兆7000億円へと4兆5000億円の大幅増となっている。この部分に対して従来の自公政権は特に「優しかった」わけだが、そこが歯止めのきかない医療費の根源となっている。
Next:どんな些細な異常でも、保険で診て薬を出す甘い...
どんな些細な異常でも、保険で診て薬を出す甘いシステム
私は2割負担と言わずに、現役世代並みの3割負担にしてもいいと思っている。もちろん、生活保護を受けているなど経済的に困窮している高齢者については、負担の限度額を決めておく。あるいは、重い病気で医療費が多額になってしまう高齢者についても、一定の配慮が必要だろう。
病院に通う高齢者は、病気を治すためというよりも、暇を持て余してやって来ている人が少なくないとよく言われる。時間のある高齢者たちが病院を「おしゃべりの場」にしている側面もある。それにより無駄に医療費がかかってしまい、財政を圧迫してしまっているのである。
また日本の場合、どんな些細な体の異常でも、保険での診察はもちろんのこと、薬まで出してもらえる。これも世界的に見ればかなり甘いシステムと言える。
北欧の国々では、高齢者の医療費負担はゼロである。高齢者にかぎらず、若者を含む全世代の医療費負担がゼロとなっている国もある。しかし、日本のような財政問題は発生していない。税金が高いことが一番の理由であるが、税負担を極端に嫌う日本人は同時に一度手に入れた公共サービスを手放さない、という集団習癖がある。
しかし公的負担を減らす工夫において、日本と北欧諸国との大きな制度上の違いに関しては今まであまり話題にならなかった。具体的には、北欧の国々では「病気」の定義をしている。たとえば「風邪を引いた」と言っても、風邪は「病気」に含まれないので、公的負担で病院にかかることはできない。
Next:電話で症状を聞かれ、OTC薬をすすめる
北欧の国々では体調が悪くなった場合、まず病院に電話をかける。「私、お腹が痛いんです」と訴えると、最初に細かく症状について質問される。質問に答えると、病院側が「その場合にはこの薬を飲んでください」と、OTC薬をすすめてくる。
OTCとはOver The Counter(カウンター越しに販売する)の略で、OTC薬は医師の処方箋がなくても購入できる一般用医薬品のことを意味する。つまり、ドラッグストアなどで市販されている薬で我慢しなさいというわけだ。
「病気」の定義に当てはまらない場合は、患者は診察の予約を取ることすらできない。医療費をすべて国庫で負担している国では、「病気」というものがちゃんと定義されている。
一方、日本では、ただの腹痛でもすぐに診察して高い薬を出す。患者も風邪なのにインフルエンザのような顔をして病院に行き、血液検査をして薬をもらって……と、お金がかかることばかり要求する。その結果、日本の医療費は膨れ上がってしまった。
「ちょっと日曜日に歩きすぎて、足がむくんで痛いんです」という理由でも、病院で診察が受けられて、ご丁寧に湿布薬までもらえる。しかも高齢者なら本人はたったの1割負担である。これが北欧ならそうはいかず、「勝手にしなさい」と言われてしまう。
アメリカでは、たえばテニス肘の治療は保険の対象外という議論がある
日曜日にテニスをやり過ぎて、テニス肘になってしまったとしよう。アメリカでは、テニス肘の医療費は公的保険から出るだろうか。答えは「出ない」である。
もちろん骨が折れたとなれば話は別だ。しかし、テニス肘のような「病気やけが」かどうか決めかねるようなものについては、保険の対象外にするという議論がアメリカではクリントン政権の時にヒラリー夫人が中心となってまとめた医療改革で出てきているし、オバマ大統領の医療改革でもこうした議論が出てきている。日本みたいに、「病気」の定義をきちんとしないで医療費をばらまく国は実は珍しいと言える。
同じような問題は救急車の手配においても見られる。諸外国では救急車の手配は有料化が進んでいるが、日本では無料だ。「タクシーよりも安い」ということで、119番する不心得者も後を絶たない。
アメリカでは都市によって値段が違うがだいたい2万円から4万円くらいである。ドイツやフランスでも2万円を超えるところが多い。オーストラリアでは1万円程度である。これでタクシー代わりに呼ぶ人は減るだろうし、公的負担は大幅に削減される。もちろん重病であったり、医療費負担が苦しいといった事情のある人は治療代などの請求段階で調整することも可能であろう。
義務と常識の教育の欠落が社会コスト増大の原因
もし、高齢化の進展とともに、医療における公的負担を大きくしていくのであれば、日本でも「病気」の定義を本気でしなければいけない。さらに制度の悪用、あるいは便乗という抜け道をふさぐ工夫をもっときめ細かくする必要がある。
もっとも、本当の「病気」とそうでないものとの見極めが、電話1本でできるのかという疑問もあるだろう。おそらく、電話1本では見極められないケースもあると思う。グレーゾーンのところで、不幸になるケースも出てくるに違いない。
しかしそれでも、何をもって「病気」とするのか、どういう場合には救急車を呼ぶべきなのか、という線引きをしていかないと、お金がいくらあっても足りないということになる。
もちろん義務教育の課程でこうしたことを教えていくことが必要になる。権利だけはしっかり教え、義務と常識の教育が欠けている。それが社会コスト増大の大きな原因である、と私は考えている。
日本では、まず「病気」の定義に関する議論が必要である。その上で、財政危機を避けるためにも、払える人には2割と言わず、もっと応分の負担をしてもらう。そうしなければ、日本の財政がもたなくなるのは目に見えている。
報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」
米MITで原子力工学博士号を取得し、日立製作所で高速増殖炉の炉心設計を行っていた大前研一氏を総括責任者とするプロジェクト・チームは、「民間の中立的な立場からのセカンド・オピニオン」としての報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」をまとめ、細野豪志環境相兼原発事故担当相に10月28日に提出しました。
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大前 研一(おおまえ・けんいち)
1943年、福岡県に生まれる。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。
2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(ビジネスブレークスルー大学院大学)が開講、学長に就任。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。
著作に『さらばアメリカ』(小学館)、『新版「知の衰退」からいかに脱出するか?』(光文社知恵の森文庫)、『ロシア・ショック』(講談社)など多数がある。
大前研一のホームページ:http://www.kohmae.com
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