http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/643.html
Tweet |
ミッション・インポッシブルを受け入れたスペイン
2012.04.17(火)
Financial Times
(2012年4月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
市場がパニックになっているのは、スペインが財政赤字の削減目標を達成できないかもしれないためなのか、それとも、達成できるかもしれないと思ったためなのだろうか?
これこそがユーロ圏の政策立案者に突きつけられた重要な問いかけだと、少なくとも筆者は思っている。ユーロ圏危機の最終的な結末は、この問いにどう答えるかによってかなり左右されるだろう。
投資家が恐れているのは財政赤字よりも緊縮策による経済崩壊
メディアの報道は、市場は財政赤字そのものを懸念してパニックを起こしていると示唆しているようだが、それは違うだろう。筆者が知る投資家たちは、緊縮財政がスペイン経済を破壊する恐れがあること、そして実際にそうなれば、スペインはユーロ圏を離脱するか、欧州安定メカニズム(ESM)の傘に駆け込む事態になることを懸念している。
ムーディーズ、イタリアなど欧州6か国の国債格下げ
EUなどは、緊縮財政はいくらやってもやり過ぎることはないと考えているが・・・〔AFPBB News〕
ドイツ政府や欧州連合(EU)、および大半の国々の政府(残念ながらスペイン政府もここに含まれる)の間では、緊縮財政はいくらやってもやり過ぎることはないというのがオーソドックスな見方になっている。
重要なのは信用だ。もしこの目標を達成できなかったら、次の目標を達成するためにかなりの無理をしなければならない。赤字削減の目標がゴールであり、それも唯一のゴールだ、というわけだ。
この見方はユーロ圏危機の経験とかみ合わない。ギリシャの場合は特にそうだ。経済理論や経済史の研究から分かってきたことともかみ合わない。さらに言えば、スペインがらみの市場のパニックは緊縮財政に関する発表の後に生じる傾向があるという、科学的ではないがシンプルな観察結果ともかみ合わない。
例えば、先日発表された予算案にも反映された2012年の財政赤字目標が、前年比3.2ポイント減の国内総生産(GDP)比5.3%に修正されるまでの過程でも、市場はパニックに陥った*1。
大規模な工業国では過去最大規模の財政調整
また、スペインのマリアノ・ラホイ首相が2013年の財政赤字削減の概要を話し始めた先週にも市場はパニックになり、スペイン国債10年物の利回りを再び6%台に押し上げた。
スペイン政府が目標に掲げる今年と来年の財政赤字削減幅を合計すると、GDP比で5.5%となる。これは規模の大きな工業国でこれまでに試みられた財政調整の中でも最大級の大きな値だ。投資家が怯えるのは実に理にかなっている。
*1=スペイン政府は3月2日、2012年の財政赤字目標をそれまでの4.4%から5.8%に後退させたが、EUがこれに反発し、5.3%に修正することで同12日に決着した
欧州の政策立案者は、財政政策を単純な会計上の問題と見なし、それによる動的な影響を考慮しない傾向がある。
スペインの新聞「エル・パイス」が報じたスペイン人経済学者ルイス・ガリカノ氏の試算によれば、財政赤字を2011年実績値のGDP比8.5%より3.2ポイント低い5.3%に縮小するには、320億ユーロ(スペインのGDPはざっと1兆ユーロであるため、320億ユーロはその約3.2%に当たる)規模の赤字削減プログラムではなく530億〜640億ユーロ規模のプログラムが必要になるという。
財政赤字幅を3.2ポイント圧縮するには、その2倍に近い大きさの計画を立てなければならないというのだ。
目標未達に終わるか、政治的な反発を招くか
スペイン、政権交代後初のゼネスト バルセロナでは一部暴徒化
3月末にはゼネストが実施され、併せて労働改革や緊縮財政、雇用情勢の悪化などに抗議するデモが行われた〔AFPBB News〕
スペインの財政赤字削減に向けた取り組みは、経済学的に見て悪いだけでなく、実行も不可能である。従って、どこかで妥協が必要になる。
政府は削減目標を達成せずに終わるか、看護師や教師を多数解雇せざるを得なくなって政治的な反発を招くことになるだろう。
今回のユーロ圏の危機は、中核国の銀行からの資金の流れによって引き起こされた。この資金が周縁国に流れ込み、ギリシャを除く各国でバブルを発生させたのだ。
スペインでは、これに加えて労働市場が機能不全に陥っているかもしれないし、同市場の改革は非常に望ましいことかもしれない。もし今が、政治的な意味で改革実行の好機だというのであれば、それでもよい。
しかし、構造改革を断行すれば状況が大きく変わるという錯覚に陥ってはいけない。緊縮財政と改革は、政策立案者たちが思っているような魔法の組み合わせではないのだ。
スペインの危機を解決するには、まず銀行の問題に着手しなければならない。だが、民間部門はこの仕事に手を付けたがらないし、今の政府にはこれを手がける力がない。
両者の中間を行く、害の少ない解決策として筆者に思いつくのは、スペインの金融セクターの自己資本増強とダウンサイジング(事業規模縮小)に的を絞り込んだ、欧州による救済プログラムの実行だけだ。
またスペインは、インフレ率をこの先何年間もユーロ圏の平均値以下に抑え込み、失われた価格競争力の一部回復につなげていく必要がある。同時に、財政緊縮はほどほどにしなければならない。
こうした政策の組み合わせなら、道のりはやはり平坦ではないものの、ひょっとしたらうまくいくかもしれない。逆にうまくいかないのは、デフレと財政緊縮、そして民間セクターのデレバレッジング(債務圧縮)を向こう10年間同時に進めるという策だ。
しかし、この策は試みられる。その点は、まず間違いない。EUは可能な限り、ESMのプログラムの実行を拒むだろう。ユーロ圏の財務相たちは、そんなプログラムを検討したらESMの規模を巡る議論、つまり是が非でも避けたい議論が再燃しかねないと恐れおののいている。
スペインを待ち受ける結末
スペイン、失業率20.33%に 先進国で最悪水準
スペインの失業率は22%台に上り、若年失業は5割に迫っている〔AFPBB News〕
しかし、スペインの景気後退がひどくなり、失業率が30%に向かって上昇するにつれ、ESMの利用を要請せよというスペイン政府への圧力は強まっていく。最終的には、ESMが利用されることになるだろう。
そして実際にそうなっても、スペインの危機はまだ終わらない。この危機を終わらせるには、ユーロ圏全域の銀行破綻処理制度も必要になる。
筆者に言わせれば、スペインを待ち受ける結末は2つしかない。この危機は、スペインのユーロ圏離脱という壊滅的な事態か、ユーロ圏が連帯責任で金融セクターを支える仕組みを盛り込んだ一種の財政同盟の創設のどちらかをもって終わるしかないのだ。
もしスペイン政府が発表済みの戦略を最後の最後まで推進していけば、前者の結末に至る可能性が大幅に高まるだろう。
By Wolfgang Münchau
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35011
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。