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双子の危機を育んだもの   生産性上昇率が低く、単位労働費用が上昇 長期金利が急激に低下し先送り
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投稿者 MR 日時 2012 年 4 月 16 日 02:09:10: cT5Wxjlo3Xe3.
 

齋藤潤の経済バーズアイ 4月13日

 双子の危機を育んだもの


【新コラムのねらい】
 今月から、「経済バーズアイ」のコラムを執筆します。このコラムのねらいは、経済の日々の変動を追うのではなく、その大きな流れを「鳥瞰する」ことにあります。大変動が相次ぐ中にあっては、一つひとつの事柄に捕らわれるのではなく、経済の動きを(時間的にも、空間的にも)大きく捉える中で、それぞれを位置づけることが大事だと考えるからです。もちろんそれは簡単なことではありません。しかし、狩野永徳が「洛中洛外図屏風」を描いたり、レオナルド・ダ・ヴィンチが「トスカーナ鳥瞰図」を描いたりしたように、想像たくましくすればできないことはないでしょう。あまり高みをねらってイカルスのように失敗しないよう注意しながら、それを試みようというのが、このコラムのねらいです。
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【先送りされたユーロ圏の構造問題】

 第1回目のテーマは、欧州政府債務危機を問題意識の出発点にしています。

 欧州政府債務危機は、言うまでもなくギリシャの財政状況とそれを背景とするギリシャ国債のデフォルト懸念を発端にしています。しかし、スペインやイタリアにその影響が及ぶ中で、南欧諸国の成長力の問題がクローズアップされてきました。生産性上昇率が低く、単位労働費用が上昇する中で、国際競争力が低下していたことから、経常収支が慢性的に赤字に陥っていたというのが、それらの国々の共通した問題だったからです。

 しかし、実は、このような構造問題は、かなり以前から認識されていたのです。例えば、IMFも、年次審査など、機会あるごとにその問題を指摘していました。にもかかわらずそれに対する取り組みが先送りされていたというのが実情です。

【長期金利低下という好環境】

 先送りの直接的な理由としては、構造政策には大きな政治的な困難が伴うことが大きかったと思われます。しかし、先送りを可能にしたのは、ユーロ圏の誕生とともに、長期金利が急激に低下していったという事実だったと思われます。加盟国間の政府債務残高のGDP比に大きな違いがあるにも関わらず、加盟国の長期金利は2000年代に入って低下を続け、収斂していったのです(図)。ユーロ圏に参加しているというだけで、政府は低金利で資金を調達できるという、あたかもユーロ圏の共同債が発行されているような状況が現出したのです。このことは一部の国において住宅バブルを発生させるといった問題を引き起こしていくことになりますが、当時はむしろ景気を拡大させる要因となったわけです。そのような好環境の中にあっては、敢えて構造問題に手を付けるインセンティブはなかったと思われます。
 
※図表をクリックしていただくと、拡大してご覧いただけます。

 このような長期金利の低下傾向は、実は、ユーロ圏だけに見られた傾向ではありません。アメリカでも、2000年代に同じように長期金利の低下傾向がみられたのです。この現象を、当時のグリーンスパン連銀議長は「謎」(conundrum)と表現しました。これが背景となって、新しい収益源を求めていたアメリカの金融機関が、サブプライム住宅ローンを裏付けとした証券化商品にビジネスチャンスを見いだし、そのことがやがて、2008〜2009年の世界的な金融・経済危機に発展することになったことは記憶に新しいところです。
 
【長期金利低下の背景】

 どうして2000年代に世界的な低金利時代がみられたのでしょうか。当時の世界的な資金過不足状況を見ておくと、経常収支黒字を長年記録してきた日本に加えて、それまでは赤字であったアジア諸国がアジア危機を契機に黒字化していました。また、中東の産油国の経常収支も、原油価格の高まりを受けて、黒字化していたのです。さらに、欧州も、ユーロ圏の誕生を契機に、経常収支が赤字から黒字に転じていきました。バーナンキが「貯蓄の過剰」(savings glut)と表現したように、世界的な資金余剰状態が現出したのが2000年代なのです。

 他方、アメリカは、低い家計貯蓄率と大幅な財政赤字を背景に資金不足の状態にありました。その結果、世界の余剰資金がアメリカに集中することになったわけです。この時期に、各国のポートフォリオ投資における「ホームバイアス」(home bias)が縮小していったという事実も、こうしたことを背景にしています。しかも、各国政府が増加した外貨準備の運用先として、好んで米国債が購入されるといった面も加わりました。こうした結果、アメリカの長期金利(長期国債の流通利回り)が低下することになったと考えられます。

 ヨーロッパでも、同じようなことが、域内で起きました。ユーロ圏の誕生、あるいはそれへの加盟を契機に域内の為替リスクが消滅しましたが、そのために、国境を越えた資金取引が急増しました。特に経常収支黒字国のドイツからの資金が経常収支赤字国であった南欧諸国等に流入し、後者の国々の長期金利が押し下げられていったのです。

【経済状況が良いときに潜む問題】

 以上のように考えてくると、今回の欧州政府債務危機と、この前のサブプライム住宅ローン問題を発端とする世界的な金融・経済危機という「双子の危機」は、長期金利の低下という、同じような経済状況の中で育まれていったということが分かります。

 このことは、経済状況としては良いように見える時でも、水面下では深刻な歪みが拡大していることがあることを示しています。だからこそ、悪いとき(bad times)にはもちろんのこと、良いとき(good times)にも、そうした問題の芽がないかを注意深く点検していくことがエコノミストの重要な役割だと思うのです。


(2012年4月13日)

(日本経済研究センター研究顧問)
http://www.jcer.or.jp/column/saito/index352.html  

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