http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/626.html
Tweet |
http://diamond.jp/articles/-/17045
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
あるメディアから「AIJ投資顧問の社長は、損が出ているのに、どうして投機的な運用をしたのか」と質問された。あらためて考えると、運用実績をごまかして配当を続けるつもりなら、余計なリスクを取らぬほうが運用財産の毀損は少なく済み、不正が発覚しなかった場合には会社を長持ちさせることができたのではなかったか。
しかし、損をするとむしろ、より大きなリスクを取りたくなるのが凡人の性だ。行動経済学で有名なD・カーネマンのプロスペクト理論でも、人間は損をすると、よりリスク愛好的になると仮定されている。確かに、そうだった。AIJの社長もそうだったのだろうし、AIJにお金を任せていた年金基金の多くは財政的に苦しい事情を抱えていた。
本当は、彼の努力で損が取り返せるわけではないのだが、AIJの社長には自分の努力が事態の改善につながるはずだというオーバーコンフィデンス(自信過剰)も働いていたに違いない。
行動経済学的には、困った普通の人が、手負いの凡庸なギャンブラーにお金をつぎ込んでいた。情けないがありがちな構造の事件だ。
ファンドマネジャーも、ライバルとの運用競争で「負けている」と意識することがある。この場合、何が理由で負けているのかを把握する前に、プラスの得点を上げるためにリスクテークを拡大するとうまくいかないことが多い(必ずしも理論的ではないが、経験的に)。投資信託では、相手のファンドと自分のファンドの基準価額の動きを見ながら、その差の理由を探る。こうしながら、自分の側で「現状」ないし「無難」な状態をキープしていると、相手が失速することが多いような気がするが、このあたりの機微を一般化することは難しい。必要なのは、負けを意識して、これを早く回復しようとして日頃よりも大きなリスクを取りたくなる誘惑を意識的に抑え込むということだ。
次のページ>> 個人運用で損を抱えた場合は――
将棋や囲碁のようなゲームでは、形勢が不利な場合は、局面を複雑化させると逆転のチャンスが生まれやすいとされる。もともとが複雑なゲームなので、逆転の達人たちは、「正しい普通の手」を続けて(これが難しいのだが)、勝負を長引かせるうちに、相手が間違える形で逆転することが多い。将棋だと、かつての米長邦雄永世棋聖、現役では羽生善治二冠などの逆転は、たいてい相手が原因をつくる。
お金の運用では、ライバルがはっきりしているビジネスの場合を除くと、相手が間違えてくれるような機会はない。まして、株価指数のような運用のベンチマークには「心」がないし、そもそも個人の運用では心理的に動揺する可能性があるのは自分だけ、というような戦いにならない状況だ。
しかも、「普通の人」は、損を抱えた状況で、誤った投資行動を選ぶ傾向があり、本人が途方に暮れる場合もある。損をしたときには、念仏代わりに「長期投資」とでも唱えておけ、というのでは個人投資家に不親切だ。
個人が運用で損を抱えた場合、最初に行うべきことは、家計を点検し、現状のリスクを取り続けていても大丈夫かを確認することだ。心理的にではなく、計算上で「まずい」ということなら、リスク運用の戦線を縮小する勇気が必要だ。
しかし、もともとの運用計画が悪いのでなければ、現状は「不運だが想定内だ」と解せる場合が多い。この場合は、自信を持ち直して現状をキープしよう。あなたの感情は、相場の先行きに影響を与える要因ではない。改善を焦って無駄に動かないことが上策だ。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。