http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/618.html
Tweet |
【肥田美佐子のNYリポート】
車にも免許にも興味なし?―大不況とIT革命で変わる米若者文化
「自動車大国」米国で、また一つ、「ジャパナイゼーション(日本化)」ともいうべきトレンドが進んでいることが明らかになった。若者の車離れが加速しているのだ。
米国のシンクタンク、フロンティアグループと公益団体、米パーグ教育基金が4月5日に発表した報告書「交通機関と新世代」によれば、2001〜09年の間に、16〜34歳の米国人の平均年間走行マイル数は23%減って、一人当たり1万300マイルから7900マイルになったという。全年齢層の平均がひとケタの減少にとどまっていることを考えると、特に若者の間で車への関心が失せていることが分かる。
運転免許のない若者も増加中だ。2000〜10年にかけて、米国では身分証明書としてマストともいえる運転免許証を持たない人の割合は、14〜34歳の年齢層で21%から26%へと増加した。
AP通信(4月6日付電子版)によると、1983年には、17歳の米国人の約7割が免許を持っていたが、2008年には5割に落ち込んだという。大学進学や就職で運転の必要性が増す20〜24歳でも、92%から82%と、25年間で10ポイントも下がっている。
高校卒業のお祝いに親から車を買ってもらい、大学のキャンパスに乗り付けるのが「大人」としてのステータスだった米国でも、若者文化が大きく変貌しているようだ。「ジェネレーションY」と呼ばれるミレニアム世代には、かつての若者が抱いたような車へのあこがれはなく、親の世代のように車に大枚をはたかなくなっている。
なぜか。まず1つ目は経済的理由だ。マイカー1台につき、01年には年間のガソリン代が平均1100ドルだったが、11年には2300ドルと、2倍以上にはね上がっている。01年1月当時、1ガロン(約3.8リットル)平均1.6ドルだったガソリン代は現在、約4ドル。天井を打ったともいわれるが、そう簡単に80〜90年代の低価格レベルに戻るとは思えない。
一方で、若者を取り巻く環境は厳しさを増している。1980年代以降、米国の大学の学費が400%以上急騰するなか、35歳以下の3分の1が、現代の若年層特有の「政治的問題」といわれる学生ローンを抱えている。2010年の大卒組が背負う平均負債額は2万5000ドル(約210万円)だ。4〜5万ドルの返済に追われる人たちもザラである。
20代後半から30代前半の米国人の多くが生活のために不本意な仕事に就いており、正社員職とアルバイトを掛け持ちしても医療保険にすら入れない若者もいる。車にまで手が回らないのも無理はない。
上記報告書によれば、09年の時点で、16〜34歳の米国人が徒歩を選ぶ頻度は、01年の16%増を記録。バスなどの公共交通機関を使って移動する総マイル数は40%も伸びている。自転車の使用回数は24%増だ。ミシガン大学交通研究所の調査では、若者の車離れは、日本や英国、カナダ、韓国などでもみられるという。
とはいえ、「交通機関と新世代」の統計をよく見ると、こうした傾向の背景には、お金以外の事情もありそうだ。というのも、01〜09年にかけて、世帯年収が7万ドルを超える家庭の若者(16〜34歳)も、公共交通機関利用頻度が2倍になっているからだ。自転車は122%増である。18〜34歳の45%が、意識的にオルタナティブの手段を使うように心がけていることを示す調査結果も出ている。
カナダのトロント大学ロットマン経営大学院マーチン・プロスペリティ研究所所長を務める米社会学者で、『グレート・リセット――新しい経済と社会は大不況から生まれる』(早川書房)の著者でもあるリチャード・フロリダ氏は、若者の車離れ現象を「ニューノーマル」と指摘。米オンラインメディア『アトランティック・シティーズ』で、以下のように分析している。
「欲しくないにしろ、買えないにしろ、車を、無駄かつ環境に害を与えるものの象徴としてみなしているにしろ、ますます多くの若者が車に見切りをつけて公共交通機関を使い、徒歩で動ける地域に引っ越し、レンタカーや(会員制のカーシェアリングによる)ジップカーを利用するようになっている」
複数の調査でも、若年層の6〜7割が、車を使わずに買い物や通学、通勤ができるエリアに住みたいと考えていることが判明している。
車離れには、ネット時代の加速も大きく影響しているという。フェイスブックなどのソーシャルメディアやスカイプ、チャットなどで手軽に友達とコミュニケーションを図り、オンラインで買い物をし、iTunes(アイチューンズ)やアマゾンで音楽をダウンロードすることが日常化した今、友達に会いにいったり、CDを買いに走ったりする必要性が急減したのだ。IT企業で加速する「バーチャル勤務」も、そうである。
IT革命がもたらした社会構造の変化に、大不況による経済難と価値観の変容で弾みがついた若者の車離れ――。このトレンドは、ミレニアム世代が年をとっても続いていくという。米国は、日本にならって、「インフラ後進国」から「公共交通機関大国」への脱皮を図ったほうがよさそうだ。
*****************
肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト
Ran Suzuki
東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などに エディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・ト リノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘され る。2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。現在、『週刊エコノミスト』 『週刊東洋経済』 『プレジデント』などに寄稿。『週刊新潮』、NHKなどの取材、ラジオの時事番組への出演、日本語の著書(ルポ)や英文記事の執筆、経済関連書籍の翻訳に も携わるかたわら、日米での講演も行う。共訳書に『プレニテュード――新しい<豊かさ>の経済学』『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』(いずれも 岩波書店刊)など。マンハッタン在住。 http://www.misakohida.com
経済 一覧へ
メール印刷
関連記事
自動車メーカーにとっての新たな現実、米国でも若者の車離れ 2012年 1月 11日
【現地記者に聞く】米国は「日本化」するのか 2011年 12月 13日
【肥田美佐子のNYリポート】止まらない米国の「日本化」――親と同居する若者の急増で 2012年 3月 30日
肥田美佐子のNYリポート 一覧 2012年 4月 13日
WSJ日本版コラム一覧 2012年 4月 13日
http://jp.wsj.com/US/Economy/node_426069?mod=Right_Column
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。