http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/616.html
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# 改革の停滞は、総裁の説明力不足と、政治家の無知、官僚や既得権益者の意図的な妨害、合成の結果
小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!
白川日銀総裁の怠慢
2012/04/14 (土) 11:36
政府は昨日、デフレ脱却等経済状況検討会議の初会合を首相官邸で開き、デフレ脱却に向けた経済政策のあり方を議論したのだとか。
何故、今改めてデフレ脱却の方策などを話し合うのかといえば、ご承知のようにそうしないと消費税増税を実現することができないからなのですよね。
そして、出席閣僚らはどんな意見だったかと言えば、デフレに陥りやすい日本経済の構造問題を是正することが重要との見方で一致したのだ、と。
へー、そんな結論に達したのですか?
もし、それが関係閣僚の真意だとすれば、彼らの知的レベルは相当に高いかもしれません。でも、普段政治家がそんな発言をするのは殆ど聞いたことがないので、疑いたくなってしまうのです。
同時に私は、こんな話を聞くとしらーっとしてしまうのです。何故かと言えば、デフレ脱却の問題は、もう10年以上も政府や日銀が何とか克服することができないかと必死で頑張ってきたけれでも、どうにも芳しい結果が得られていないという経緯があるからです。民主党政権になってからも、菅さんが戦略担当大臣や財務大臣などの立場でデフレ脱却を声高に叫び、そしてあの勝間女史が菅さんに向かって、日銀総裁に談判に行きましょう、とまで言ったものの、どうにもならないまま過ぎている問題であるからです。
そういうことをよく知っている人からすれば、今更関係閣僚が集まって話をしたところで、どんな効果が期待できるの?と思う以外ないのです。
まあそれでも日銀バッシングに熱心な方は、とにかくお札を刷ってばら撒けばいいのだと主張する訳で、そのような趣旨のことを主張する政党や政治家もいるのです。ですから、それが合理的かどうかは別として、デフレ脱却のためにもっともっと国債を日銀が引き受けるようなことをすべきだ、というような意見が出たというのであれば、賛成はできないものの一応理解はできるのです。
しかし、出てきた答えは、日本経済の構造問題を是正することが重要なのだ、と。
この結論を支持する国民はどれほどいるのでしょう?
多くの人は、なんのこっちゃいな、と。恐らくその会議に出席した閣僚の面々でも、本当にそうだと思っている人が何人いることか?
だって、そうでしょう? 構造問題の是正に成功したとして、それでどうして物価の下落傾向に歯止めがかかるのか、と。
ところで、その会議には日銀の白川総裁もオブザーバーとして参加したと言われていますが、この白川総裁のデフレ脱却に関する長年の主張というのも、一般の人にとっては大変わかりにくいものであるのです。
皆さんは、白川総裁が、デフレ脱却のためには何が必要だと言っているかご存知でしょうか?
お札をどんどん刷ること?
もちろん、彼がそんなことを言うはずはないですよね。もし、彼がそんなことを言っていれば、彼はリフレ派のアイドルになっているでしょう。
白川総裁が言うのは、デフレ脱却のためには日本経済の生産性を上げることが必要だ、と。
この意味お分かりになりますか?
多くの人は、ここではたと考え込んでしまうのです。生産性を上げるということは、少ない人手で
より多くのモノやサービスを提供することができるようになるということで、その結果、物価は下がるのではないか、と。そして、そうなれば、益々デフレにのめり込んでしまうのではないか、と。
我々は、経済の発展とともに、さまざまな製品の価格が下がる現象を見てきている訳なのです。
例えば、スーツ。昔は、スーツ1着を買うのに、どれだけの大金を支払ったか。腕時計もそうです。
カラーテレビもそうです。
しかし、今や新社会人が生活に必要なものを買いそろえるにしても、大変に安くて済むのです。何と有難いことか!
ということで、生産性が上がるのはいいことだというのは分かるものの、それでは物価が下がり続けるだけではないのか、と。しかし、白川総裁は生産性を上げるべきだと言い続けているのです。そして、そのことについて新聞社やテレビ局が文句を言ったこともなければ、解説を試みたこともない。
従って、一般の人は白川総裁の真意は分からないまま。白川総裁も、その意味するところを国民に向かって分かりやすく説明することをしない。
私、思うのですが、内容の適否はともかくとして、アメリカのバーナンキ議長は大変に分かりやすい話をすることに意を注ぐ訳ですが、日銀総裁の場合にはどうもそういう姿勢が薄い。というか、はなから分かってもらおうという努力をしない。
何故、そんなことになっているのでしょうか?
その原因の一つは、余りにも政治家の言い分に不合理なものが含まれ、下手に政治家に説明しようとしても、言い訳をしているだけだと勘違いされるので、必要以上のことは言わないようにしているように思われるのです。
しかし、敢て言いたい!
白川総裁! 貴方は、自分が考えていることを国民に分かり易く説明する義務がある。
何故、分かり易く説明しないのか? それでは、幾ら貴方の考えていることが正しいとしても、貴方は自分の責務を果たしたことにはならない、と。
では、白川総裁は何を言いたいのか?
ここで、私がその答えを示すことはしませんが、ヒントを与えるとすれば、それはデフレに関する定義が人によって区々であるいうことなのです。
政府自身も、デフレ脱却を重要視するのであれば、先ずデフレの定義をはっきりさせることが必要なのではないでしょうか。そうでなければ、ちゃんとした議論などできる筈はないのですから。
白川総裁の意見の弱みは、幾ら生産性の低い国であっても、デフレに陥っていない国が大勢あるということです。そして、インフレターゲット論者の弱みは、幾らインフレにしても、経済が活性化するという保証はないということです。むしろ、インフレになることによって益々労働者の生活が苦しくなる恐れもあるのです。
以上
http://www.gci-klug.jp/ogasawara/2012/04/14/015523.php
2010年12月20日
白川日銀総裁、「成長率低下がデフレの原因」見解は正しい?
JMM [Japan Mail Media] 2010年12月20日 http://ryumurakami.jmm.co.jp/
村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
日銀の白川総裁は先週末に日本経済新聞のインタビューで、我が国のデフレ長期化
の原因について「過去十数年の趨勢的な成長率の低下にある」と指摘し、「成長力が
底上げされて初めて物価のマイナスが消える」という考えを表明したようです。白川
総裁の見解は正しいのでしょうか。
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
□北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
□津田栄 :経済評論家
□土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
わが国のデフレ長期化に関する、白川・日銀総裁の見解に基本的に賛成します。経
済は、需要と供給がバランスよく均衡して初めて、円滑な成長過程を歩むことができ
るはずです。90年代初頭に、資産バブルが崩壊して以降、そのバランスが崩れてい
ることがデフレを長期化させた主な原因だと思います。
まず、90年代以降、わが国がデフレに落ち込んだ理由について考えます。最も大
きな要因は、1980年代後半のバブル期に行われた企業の設備投資に、顕著な競争
力がなかったことが考えられます。バブル期、景気は堅調に推移しますから、そのト
レンドが続くことを前提にして設備投資を行うことになります。ところが、バブルが
崩壊すると、景気は大きく落ち込みますから、需要が減少することになります。その
結果、供給が需要を大きく上回る現象が起きることになります。
供給が需要を上回る分をデフレギャップと呼びます。デフレギャップが拡大すると、
モノやサービスを売りたいという人が、買いたいという人を上回ることになりますか
ら、どうしても物価水準には下押し圧力がかかります。一旦、物価水準が下落傾向を
示し始めると、「待っていれば価格が下がる」という期待が形成されることもあり、
人々の購買意欲が減退して、物価水準の下落圧力が加速されることも考えられます。
本来、経済学では、物価水準が下落すると、給与の実質価値が上昇して消費が促進
されるはずなのですが、多くの人々は実質的な価値ではなく、名目ベースで給与や消
費活動を考えることが多いですから、短期的には、なかなかそうした行動様式を取り
にくくなります。
また、89年の秋にベルリンの壁が崩れて、旧共産圏諸国が世界経済の枠組みに入
ってきた=グローバリゼーションの加速によって、世界全体の生産能力が拡大したこ
とも見逃せないと思います。生産能力が拡大することによって供給力も増加します。
需要がそのペースで拡大すればよいのですが、通常、給与水準の上昇などのパスを通
って、生産能力の拡大が需要を増加させるまでにはタイムラグが発生すると考えられ
ます。その結果、この時期には、世界的に、デフレ圧力が顕在化したと思います。
わが国の供給能力が余っているのであれば、本来、生産物を海外に輸出すればよい
のですが、80年代後半に行った設備投資に競争力が十分でなかったため、過剰供給
能力をすべて輸出に振り向けることが難しかったのです。それに加えて、当時、中国
等の新興国が強力な競争力を背景にして、わが国企業のライバルに育っていったこと
も、わが国にとって大きな痛手になったと考えられます。
さらに、わが国の場合、グローバリゼーションの進展によって給与水準に下方圧力
がかかる、いわゆる賃金デフレが顕在化したことも、デフレを加速させた要因の一つ
といえます。人々の給与水準が上昇しないわけですから、なかなかモノを買おうとい
うことにはなりにくかったはずです。
そうした状況下、日銀がいくら潤沢な流動性を注入しても、デフレ圧力に歯止めを
掛けることは難しいと考えます。大きなデフレギャップが存在するわけですから、実
体経済の面から見て、物価水準を下げ止めることは至難の業といえます。
また、「デフレやインフレは貨幣的な経済現象だから、中央銀行が十分な流動性を
注入すれば、デフレは解消できるはず」との見解があります。確かに経済学の定義か
ら言えば、インフレやデフレは貨幣の現象であることは間違いありません。しかし、
90年代以降のわが国の様に、大規模なバランスシート調整を行い、その間、多額の
不良債権の処理に苦しめられると、人々の心理を改善することがかなり難しいと思い
ます。
特に、政治が構造改革を行うことをためらい、年金、介護、医療などの問題を放置
していると、どうしても人々の心理が成長に向かいにくくなります。人口が減少し、
少子高齢化が加速する現在、人々が、なかなか前向きな発想ができないのは当然とい
えるかもしれません。いくら日銀が奮闘して多額の流動性を供給しても、人々が、そ
のお金を使う気にならなければ、通貨の流通速度は低下します。それでは、本格的な
デフレ脱却は難しいと思います。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
12月11日の日経に掲載された白川日銀総裁のインタビューは、従来からの日銀
理論を繰り返したものであり、新鮮味はありませんでした。デフレの主因が、不十分
な金融政策にあるのではなく、需要不足に基づくものだという言い分は、歴代の日銀
総裁によって繰り返されてきた考え方です。白川総裁は以前も、「デフレの背後にあ
る根本的原因には、成功期待の低下がある。日本経済の実質成長率や生産性を引き上
げていくことが重要な課題だ」と述べられていました。バブル崩壊期に日銀総裁を務
めて、「平成の鬼平」と呼ばれた三重野康元総裁も、「長期停滞は金融政策と関係な
い。経済が変わり目にきた際に適応できなかったことが大きい。経済が成熟期を迎え、
グローバル化や情報技術の進歩で世界もがらっと変わった。いずれも対応が遅かっ
た」と述べられていました。
一方、海外には、インフレやデフレは貨幣的な現象であるとのマネタリスト的な考
え方を持つ人が多くいます。米国のバーナンキFRB議長が民間時代に、日銀はトマ
トケチャップでも買うべきだと発言した有名な逸話があります。バーナンキ議長は、
米国経済が日本同様のデフレに陥るのを防ぐために、大規模な国債購入(いわゆるQ
E2)を決めました。マネタリストの大御所だったミルトン・フリードマンは「イン
フレはいつでもどこでも貨幣的現象だ」と述べました。人口減少がデフレの主因なら
ば、日本以上に少子高齢化が酷いロシアや韓国は日本以上のデフレになってもおかし
くありませんが、両国ともインフレ気味です。
白川総裁は今回の日経インタビューで、「フロントランナーだと自負している」と
述べられましたが、市場では日銀の金融政策はtoo small&too lateと見なされるこ
とが少なくありません。リーマン・ショック以前に比べて、FRBの総資産の米国の
名目GDP比が大きく膨らんだのに対して、日銀の総資産の日本の名目GDP比はあ
まり増えませんでした。日銀資産の名目GDP比が、米国より高いのは事実ですが、
最近の為替は中央銀行の資産の名目GDP比の変化に反応していました。量的金融緩
和の程度の指標としてみられる日銀の当座預金残高は、2004〜5年時には35兆
円程度でしたが、2010年に半分程度に減りました。海外には日米のマネタリーベ
ースの伸び率の差で、円ドルレートを説明するソロス・チャートの信奉者が多く、円
高は日銀の資金供給が十分でなく、円がドルに対して不足しているから起きたと考え
た投資家が多くいます。
白川総裁は、インフレ目標を採用しない理由として、「インフレ目標の良い面を取
り入れ、中長期的な物価安定の理解としての目安の数字を示している」と述べられま
した。日銀は理解という難解な言葉を使い、ターゲットでないことを強調しているよ
うに聞こえます。日銀は、物価が上昇してくるまでゼロ金利を維持すると言っている
だけであり、デフレ脱却の目標達成の期限が設定されていないという欠点があります。
政界では、日銀法を改正して、日銀に抜本的なデフレ対策を求めるべきとの意見が出
ています。2010年3月に、民主党デフレ脱却議連が150名弱の国会議員が参加
して誕生し、7月に「デフレ脱却・経済成長プログラム」を提言しました。「政府は
毎年、年末の予算編成にあわせて、次年度の物価上昇目標(消費者物価変化率2〜3
%)を決定・公表し、日銀に目標の上下1%以内に維持する目標を課す」という内容
でした。
現在の日銀法における日銀の目標は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健
全な発展に資すること」とされていますが、FRB同様に「雇用の最大化(失業の最
小化)」も目標にいれるべきとの意見もあります。日銀法が改正された1998年よ
り以前はコアコアCPI(生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価変化率)はプラス
傾向でしたが、日銀の独立性が強化された1998年以降、コアコアCPIは安定的
に0%を下回るようになりました。白川総裁が就任された2008年以降は、消費者
物価変化率のマイナス幅が拡大しています。日銀の金融政策は、実質的なデフレター
ゲットを行っているかのように見えます。しかし、菅内閣の支持率低下で政治混乱に
拍車がかかりそうな2011年は、日銀法改正が成立する可能性は低そうです。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
白川総裁の見解は正しいと思います。「デフレの根本的な要因は需要の低迷。経済
の力が底上げされて、需給ギャップが改善して初めて物価が上がる。将来の成長力は
労働人口と労働生産性の伸びで決まる。労働参加率を上げる、生産性の伸びについて
は企業の新たな市場創造などで一段の向上を目指す。成長期待が高まらなければデフ
レも是正されない。」 この通りでしょう。
需給ギャップ(GDPギャップ)は過去長期にわたりほぼマイナスが続いてきまし
た。リーマンショック後にはマイナス8.3%まで悪化し、直近の10年7〜9月期
でもまだマイナス3.5%、15兆円ほどのギャップがあります。これだけ雇用や設
備が過剰であれば、賃金が抑制されて消費は低迷するし、設備投資が低調になるのも
止むを得ません。結果的に需給ギャップがなかなか解消しないというデフレのループ
から抜け出せないことになってしまいます。
ここまでデフレの罠に陥ってしまった日本経済ですが、それではそのデフレの根本
原因である需要、特に内需の低迷をもたらしたものはなにか。もちろん、バブル崩壊
後の深刻なバランスシート不況が元凶であったことは申すまでもありません。しかし、
それを克服してもなお今日までデフレが継続しているわけです。私はその最大の理由
はグローバル化の進展にあると見ています。ポスト冷戦で東西の壁が壊れ、東の安価
な労働力が市場に大量に供給され始めたことに発端があると見ています。
世界の労働市場の需給が突然、供給過剰となったわけですから、企業にとり、グロ
ーバル競争への対応としては1つは価格競争力を維持するために、手っ取り早く海外
に工場進出して安価な現地の労働力を使用することです。しかし、これは国内設備投
資の減少と、国内雇用の減少すなわち消費の減少を招きます。もし、海外進出を選択
せず、国内に残留するならば、製品価格を引き下げるために、日本人従業員の賃金を
はじめ、徹底的なリストラでコスト削減に注力することになります。これは価格下落
と同時に消費の減退を招きます。
第2は質の競争力を高めるために、R&Dに注力して、高品質かつ価格支配力のあ
る製品を作り出すこと。この場合は、国内設備投資は増加しますし、国内雇用も維持
され、消費も増加します。しかし、この品質競争は各国ともしのぎを削る分野ですの
で、政府のバックアップも不可欠ですが、硬直した予算編成の結果、望ましい資源配
分にはなっていないように思われます。
日本企業は競争力維持のため、上記の対策に取り込んでいますが、どちらかという
と、価格競争維持により大きなウエイトが置かれてきたという印象です。その結果、
内需が恒常的に低迷するという図式がビルトインされてしまい、デフレの長期化をも
たらしていると考えています。しかし、途上国との絶対的な賃金格差がある以上、価
格競争力の維持だけで対処しようとすれば、極論すれば途上国との賃金格差がなくな
るまで、デフレが続くということになりかねません。
やはり、日本は途上国との賃金格差は所与と受け止めて、できる限り質の競争で勝
ち抜いていくしかないし、同時にそれがデフレ脱却の道になると思います。そのため
には政府サイドもFTA、税制、規制面でのブレイクスルーが必要だし、予算も重点
的に人と技術、成長分野に配分するなどのメリハリが必要でしょう。これにより官民
一体となって成長を押し上げることで、デフレ脱却が実現することになるでしょう。
成長期待がないのにマネーだけで出しても、実物に行かないで投機に使われるだけで
す。先ずは成長期待を高める施策を実行することが先決でしょう。
伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也
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■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
白川総裁の考えは、半分正しいと思います。デフレ長期化の原因は、(1)白川総
裁が指摘している「過去十数年の趨勢的な成長率の低下」に加えて、(2)低下した
成長率(≒低い自然利子率)に見合うように金利を下げることができなかったからだ
と考えております。従って、デフレを克服するためには、白川総裁が指摘している
「成長率の底上げ」に加えて、金利を下げる努力も必要になると思います。白川総裁
は、(1)と(2)のうち、(1)だけを指摘しているので、半分だけ正しいという
評価になります。
さて、私は「金利を下げる」という時の「金利」という言葉を、かなり広い意味で
使っております。日本銀行が操作できるコールレートのような短期金利に加えて、株
主から要求されるリターンも金利に含めて考えております。グローバル化した現在の
金融市場においては、後者の株式に対する要求リターンのような「金利」は、一国の
金融市場の都合では決まらなくなっております。そのことへの理解が、依然として乏
しいと思います。
例えば、最近出版された「バリュー株投資は「勝者のゲーム」!」(井手正介、日
本経済新聞出版社)は、株式投資に興味のある方に推薦したい良書だと思いますが、
次のようなさりげない記述は気になります。株式資本コストの計算に関するところで
す。「多くの専門家は、リスクフリー金利として長期国債の平均利回り(日本1.5
%、アメリカ6%)を、リスク・プレミアムとして日本4.0%、アメリカ6.0%
といった数値を用いている」。
アメリカの長期金利6%というのも、やや古い話だと思いますが、それは良いとし
て、問題は、このリスク・プレミアムです。仮に、この日本4.0%、アメリカ6.
0%の通りなら、その逆数であるPERの日米比率(アメリカ÷日本)は、6%÷4
%=1.5にならねばなりません。しかし、過去10数年、日本が大赤字になった時
を除いてこんな数字(1.5)になったことはありません。例えば、今現在は、日本
とアメリカのPERはほぼ同じ値なので、日米比率は1です。
要するに、株式市場では、日本もアメリカも同じ「金利」を要求されていることに
なるのです。本来は、日本とアメリカの国情の違いを反映して、アメリカは日本より
も1.5倍の金利を要求されても不思議ではないというのが教科書的見解です。こう
した現実と教科書の違いが、冒頭で申し上げた(2)低い自然利子率に見合うように
金利を下げることができなかったということの背景にあります。金融市場のグローバ
ル化、言い換えると欧米化が、デフレの一因であると言えます。
ところで、白川総裁が指摘する(1)の背景も、実は欧米化であるといえます。
「将来の成長力は、労働人口と労働生産性の伸びで決まる」と白川総裁も言っており
ますが、このいずれもが欧米化によって鈍ったと言えます。まず、労働人口ですが、
より正確には労働投入量と考えるべきでしょう。労働投入量は、労働人口×労働時間
です。1990年代の日本において、大きく減少したのは、後者の労働時間です。週
休二日への移行もあって、労働時間は10%以上も減少しました。いくら人口減少社
会でも、日本の労働人口はこれほど激しくは減っておりません。では、なぜ、週休二
日に移行したのかといえば、週休二日を楽しんでいる欧米人を羨ましく思ったからで
しょう。
次に労働生産性ですが、これは付加価値額÷労働者数です。分子の付加価値額には、
利益に加えて賃金等のコストが含まれます。バブルの崩壊への反省から株主への分配
を重視するようになった日本企業は、株主への分配(収益)を増やすために、安易に
賃金などのコストを削減しました。当時は、「ROE革命」(渡辺茂、東洋経済新報
社)に代表される「ROE本」が流行りました。その結果、確かに収益は増えました
が、賃金が減ったので、結局、付加価値額は増えることなく、むしろ少し減りました。
要するに、生産性が改善しなかったということです。株主を重視する姿勢は悪くはあ
りませんが、他のステークホルダーの犠牲のもとに株主に応えたのであれば、行き過
ぎた欧米化であったと言えるでしょう。
ここで、もう一度、議論を整理しましょう。デフレの原因は、(1)趨勢的な成長
率の低下(自然利子率の低下)に見合うように、(2)金利を下げることができなか
ったこと。(1)、(2)ともに欧米化が、その背景にある。(1)に関しては、労
働時間の減少と賃金の減少が、週休二日、株主重視という欧米化によってもたらされ
た。(2)は、株主重視→要求リターンの欧米化→外国人株主増加→要求リターンの
欧米化によってもたらされた。
従って、デフレから抜けだすためには、この全てを逆転させねばなりません。それ
は、起こりつつあると思います。その表れが、「賃金本」の流行です。「賃金本」と
は、私が勝手につけた名前ですが、デフレ脱却に向けて賃金の引き上げが重要である
ことを説く本の総称です。具体的には、「デフレの正体」(藻谷浩介、角川ONEテー
マ)、「デフレ反転の成長戦略」(山田久、東洋経済新報社)、「人口減少時代の大
都市経済」(松谷明彦、東洋経済新報社)です。これらは、従来のリフレ派(デフレ
は日銀のせいだと主張する方々)の主張と一線を画しております。
こうした「賃金本」は、バブル崩壊の反省として出てきた「ROE本」の対極にあ
る現象でしょう。バブル崩壊の反省として「ROE本」が流行、欧米化に傾斜しすぎ
てデフレになって、今度はその反省として「賃金本」が流行っているのです。何事も
中庸が重要なのでしょうが、中庸を実現するのは難しくは、我々は極端から極端に揺
れ動きます。
かつて、ケインズは、「経済学者と政治哲学者の思想は、それが正しい時でも間違
っている時でも、一般に考えられているよりはるかに強い影響力をもっている。自分
はどんな知的制約とも無関係だと考える実際的な人間も、知らないうちに何かいかれ
た経済学の奴隷になっているほうが普通だ」と言いましたが、確かに、こうした「思
想」が、バブルやデフレを生み出しているのかもしれません。ビジネス本の流行りす
たりにも、「思想」の変遷をみることができるように思います。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
デフレを阻止するためには金融を緩和しつつ、需要を喚起しなければなりませんが、
即効性を期待されるケインズ財政政策が封じられている状況では、長期の潜在成長率
を上げる政策を政府に期待することになります。この枠組み自体は、長期の均衡状態
を前提として政策判断をする実務の上からは常識的なもので、間違っているとは言え
ませんが、ともすると、現状が設備や労働力が完全に使われていない、非完全雇用の
状態にあることが忘れられてしまいます。
白川総裁は、「成長力が底上げされて初めて物価のマイナスが消える」とコメント
し、官民上げての潜在成長力の回復を急ぐ必要性を強調したと伝えられるので、日本
銀行は政府による潜在性成長力向上策の方に議論を誘導したいのかなという印象をも
ちました。これを、デフレ脱却のためには潜在成長率の底上げ以外に途はないという
意味だとしたら、それはトンチンカンなのかなと思います。
潜在成長力を高めるために、少子化に歯どめをかけ、科学技術の振興を行いなどと
議論をして実行していたら成果が出るまで最短で20年はかかるでしょう。それはそ
れで大切でしょうが、デフレの現実下での政策ニーズとしては悠長すぎます。現在は、
失業が存在する状態なので、潜在成長率の構成要素のうち、人口は制約条件になって
いないはずですし、ものづくり技術は世界最先端を自負する日本が、技術面での制約
が大きいわけではないでしょう。
人口だとか技術革新よりは、もう少し直接的で短期的な政策、たとえば、内需が足
りなければ外需をひっぱってきたりだとか、もっと、直接的に需要不足を解決するた
めの(日本銀行以外の)官民の努力を促したということでしょう。
日本銀行は10月に、世界中の金利緩和競争に追従するような恰好で包括的緩和策
を打ち出し、従来の保守的な政策と比べればずいぶんとマネタリスト的貨幣膨張策に
踏み込みました。その文脈で、このコメントを眺めると白川総裁は、「日銀はここま
でやっているのだから、あとは実際の需要がでて来るのを待つしかないが、そこから
先は政府の役割でしょう。」と言いたのだという印象を受けます。これだけ金融緩和
に踏み込んだのだから、あとは金融セクター外の問題だということです。
もっとも白川総裁は、もう金融政策の出番がないといっているわけではなく、米国
経済については厳しい認識をしめしていますので、さらにデフレが進むようであれば、
包括的金融緩和をさらに進め、リスク性の資産の購入をさらに進める可能性があるこ
とを否定したわけではありません。
まことに官僚的な意味で優等生で、外から見ていると、「遅すぎて小さすぎ」の批
判に共感をおぼえます。もう少し踏み込んで欲しいという気もしますが、日本の風土
からすると無い物ねだりでしょう。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
個人的な話で恐縮ですが、白川日銀総裁は、私が大学時代に所属していたゼミナー
ルの数年先輩です。日銀総裁になられたことはたかだか世俗の人事の綾なので、どう
でもいいことですが、「優秀な」白川先輩は、なにかとうるさいゼミの後輩たちから
も一目置かれています。ゼミナールの指導教官は、かつて東大からエール大学に転職
された、浜田宏一現エール大学教授です。不肖の弟子の記憶を辿ると、デフレ・イン
フレの問題に関して、浜田先生は「不換紙幣は人工的に作られた制度なのだから、通
貨の価値を変えられないはずがない」と仰っていました。
編集長ご指摘の「日本経済新聞」に載った白川総裁へのインタビューには、賛同で
きる箇所が多々あるように思います。今や、デフレ脱却のための日銀の政策が財政の
領域に踏み込んでおり、金融緩和を有効なものにするためには、広義の財政政策が必
要だ、という指摘などは、まさにその通りと言いたいポイントです。ただ、総裁の発
言には、不出来な後輩から見て、一カ所だけ不完全な点があるように思います。幸い、
職業上の立場として、私は日銀に気を遣う必要がありません。不完全な点を率直に指
摘しましょう。
白川総裁は、デフレの原因について、「根本的な原因は需要の低迷だが、大きな背
景は国民が成長期待を持てないことだ。そうした中では消費が増えず、投資も伸びな
い」と仰っています。「デフレギャップがあると物価は上昇しない」という意味で、
この言明は間違ってはいません。
しかし、「需要の低迷」、特にマネーサプライの拡大に関係の深い借り入れ需要の
低迷の原因は、労働力人口と労働生産性といった成長期待だけの問題ではありません。
他ならぬ、デフレが解消すること、より正確にはデフレ期待がマイルドなインフレ期
待に変化することがあれば、「需要」にポジティブな影響があるはずなのです。
では、現時点で需要が低迷する中で、インフレ期待を作ることができるでしょうか。
この問いへの答えは、浜田先生が仰るように、「所詮、不換紙幣なのだから、でき
る」ということではないでしょうか。
確かに、銀行が保有する国債を買うようなオーソドックスな公開市場操作で「お金
を刷る」だけでは、市中銀行の日銀当座預金に「ブタ積み」が積み上がるだけで、有
効な金融緩和にはならないでしょう。白川総裁の仰るとおり、「財政政策の領域に近
づく」ことが必要です。
それなら、財政政策を絡めた金融緩和をもっと積極的に行えばいいのではないでし
ょうか。最も直接的な政策を採るなら、国会で認められた減税あるいは給付金のため
の資金調達の国債を日銀が引き受けるなら、国民にインフレ期待を醸成することは可
能でしょう。そして、日銀が政策金利を抑えた状態でインフレ期待が支配的になれば、
投資需要、消費需要が喚起されることは、そう難しくなく想像可能です。
思うに、経済環境の変化に適合するためには、財政収支が硬直的であってはならな
いのでしょう。金融危機後で需要が低迷してほぼゼロ金利の下で「流動性の罠」的状
況にある現在なら財政赤字は拡大されなければならないし、インフレ率が限度を超え
て上昇した場合には、財政収支を速やかに黒字方向に向ける必要があるのではないで
しょうか。こうしたドラスティックな財政運営は、財務省の得意とするところではな
いはずですが、例外的な状況にあっては、財政政策が金融政策をサポートせずには、
適切な「環境整備」ができません。
察するに、「包括緩和」政策をもって既に財政政策の領域に踏み込んだ白川総裁は、
上記の事情を全て了解しておられる。たぶん、そうにちがいありません。そうでなけ
れば、包括緩和など持ち出すはずがありません。包括緩和が有効だと信じるなら、よ
り積極的な財政政策のサポートによるデフレ脱却を目指していいのではないでしょう
か。現状の問題はインフレではなくデフレなのです。
そうであるなら、今声を上げるべきは、「成長期待が無いと、デフレは脱却できな
い」という話ではなく、「財政政策に柔軟性が無いと、デフレ脱却が遅れ、そのこと
が、日本の成長を阻害する」と言って、頭の固い財務省の人々に経済学を教ることで
はないでしょうか。
失礼ながら、人事的に、白川先輩は日銀の総裁ではなく副総裁となる筈の方でした。
しかし、民主党の国会運営によって半ば押し出されるように総裁に就任されたことは、
まだ国民の記憶に新しいところです。そして、白川先輩は、ポストに固執されるお人
柄のようにはお見受けしません。
この際、政府側から政策協調を強要されるのではなく、日銀側から政府にあるべき
政策を説くのがいいのではないでしょうか。それでお立場がまずくなるのなら、そん
なつまらない国はさっさと捨ててしまわれればいい。エール大の浜田先生を訪ねたな
ら、きっと白川先輩のお好きな研究に専念できる環境を整えて下さるのではないでし
ょうか。
世のしがらみを前提とすると、不換紙幣は、人工物なのになかなか手強い相手では
ありますが、今こそ「不換紙幣の価値はコントロールできるものなのだ」ということ
を天下に示すべき時なのではないでしょうか。白川先輩のご英断に期待しています。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )
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■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
白川総裁の見解は正しいと思います。もっとも、それは特異な意見というより、そ
れしか答えようがないという常識的な回答であるとは思います。
デフレというのが、モノやサービスの値段が連続して減少すること、だとすると、
我々の生活は日々楽になっています。明日買うほうが値段の安いものが多いので、今
日の消費を取りやめて、明日消費しようと考えるからです。しかし、これでは景況感
はよくならない。しかも、モノやサービスの値段が連続して減少することがわかって
いれば、企業業績は必ずや悪化するため、モノやサービスの値段が下がっても利益が
出るように限界的にコストを下げていかねばならないのです。日本企業はこのところ、
ずっと、何かに取り憑かれたように"リストラ"をしています。コスト削減もあとどこ
からするんだろう?というくらいに徹底したリストラをしているので、従業員の給料
は下がっていかざるを得なくなります。給料が下がることが織り込まれた消費行動は
当然どんどん控えられることになるため、景況感は悪くなる、というわけです。
いわゆるデフレによるダウンサイド・スパイラルが生じてしまうことになるわけで
すが、これを単純に言ってしまえば、不景気に陥ること、になります。こうした日本
の状況が長く続いているわけですが、ということは景況感がいい悪いと言えど、結局、
デフレによるダウンサイド・スパイラルの呪縛から逃れられていないということが構
造的に続いているということを示すということになります。
長らく不況や不景気が続いているのは、消費が奮わないこと、お金が使われないこ
と、に依拠していくわけですが、これは、不動産のような財産も含めて、モノやサー
ビスの値段が今日より明日、上がると思えない起こる現象です。そうです。結局物価
のマイナスを止めるには、消費行動が活発にならなければならないのですが、その消
費行動が活発になるには、景況感がよくならないとだめなわけです。
我々の日本経済は、人口構成からいって、衰退の一途をたどるしかありません。そ
れでは、こうしたデフレが継続すれば、長期的なダウンサイド・スパイラルから逃れ
られないことになります。そこに歯止めをかけようとすれば、一人あたりの収入や所
得をあげていくしかありません。そうでなければ消費行動を伴った成長などできない
からです。結局、成長力の底上げが必要になります。成長力が底上げされない限りは、
日本のデフレによるダウンサイド・スパイラルは継続してしまうことになるのです。
白川総裁の見解は、デフレを止めるには→消費行動が活発化しなければならないが、
→消費行動が活発になるためには、先進国で人口構成が歪になっていく日本において
は、一人あたり収入や所得を上げる必要がある→それは、成長力が底上げされること
が必要である、と分解されます。逆から見れば、成長力が底上げされれば→一人あた
り収入や所得があがるので→消費行動が活発になりやすく→デフレに歯止めがかかる、
ことになります。
ところで、世の中のデフレ現象はまったくとどまるところを知らない感じがします。
昨日、ファッションモールのようなところで、ぶらぶらしていたのですが、ほとんど
のものが値下がりしていました。冬物製品は洋服からお鍋に至るまで30%から40
%値下がりしていましたし、クリスマスの装飾品などはまだクリスマスが終わったわ
けでもないのに、すべて半額、となっていました。とはいえ、このすべて半額になっ
ている商品をつい買ってしまうのも事実で、その点だけ取れば、消費者の財布のひも
は必ずしも固くはありません。企業側にとっては、より早く値下げしたほうが、手っ
取り早い現金回収になることも実感できます。デフレ現象は、こうした点だけに注目
すれば、幸せな現象であるがゆえ、なかなか、脱却できないことにつながっていると
思います。そのため、クリスマスのデコレーションを半額だからという理由で、いろ
いろ物色しながら、デフレ現象が来年もきっと続いているであろうことを実感した次
第です。
成長力の底上げは簡単なことではありません。第三の分野は、どれだけしっかりした
成長を遂げたとしても、全体の成長力を底上げするほどの市場規模はないと考えられ
ます。白川総裁の見解は、誰も驚かない常識的見解です。しかし、"だから誰も手が
打てないのですよ"というお手上げ状態を訴えただけに見えてしまうのは、あまりに
もうがった見方でしょうか。
BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
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■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
現在のデフレの背景には複数の要因が併存していると考えられます。白川総裁の指
摘と見解は、その一つとして「正しい」解釈ではありますが、唯一の正解というわけ
ではありません。むしろ、中央銀行の総裁としての立場では、その見解が示唆する金
融政策のポジショニングに対して、是非が評価されることになります。
従来の考え方では、実際の成長率が潜在成長率を下回る状況、すなわちGDP
ギャップあるいは需給ギャップの存在がデフレの要因とされ、需給ギャップを埋める
財政政策による需要創出や金融緩和策などの短期的な政策が必要かつ有効と見られて
きました。今回のリーマンショックによる国際金融危機の影響で世界経済が減速し、
日本経済にとっては急速な外需の落ち込みに直面するなかでは一時的な経済対策が実
施されたことは適切であり、日銀にも金融緩和が求められたことは当然と言えます。
09年半ば以降は世界経済は曲がりなりにも回復基調にありますが、先進国経済は
回復期としては異例な低成長にとどまる一方、新興国が高成長を持続するという、
「追い越し車線」と「走行車線」が並行するハイウェイのように2つの速度帯が共存
する状況となっています。そのなかで、白川総裁が指摘される「趨勢的な成長率=潜
在成長率の低下」が存在するのであれば、需給ギャップは従来想定されたほど大きく
なく、一時的な需要創出策の必要性も有効性も低下することになります。白川総裁の
見解を、一段の金融緩和要求に対する牽制と解釈しますと、当然、金融緩和促進論者
からの反発はあるでしょう。
一方で、日銀に対して有効なデフレ対策を求める声は強く、その程度の反論でかわ
せるほど状況が甘くないことは、当然ながら、日銀としても認識されており、成長分
野への資金供給の強化を目指した「成長基盤強化支援の資金供給」などへの取り組み
も日銀としての回答の一つでしょう。白川総裁の「成長力が底上げされて初めて物価
のマイナスが消える」との見解は、そうした取り組みの正当化するものでしょう。
また、長期国債や社債、不動産投資信託など計5兆円分を買い入れるなどの中央銀
行による積極的な資産購入にも踏み切っていますが、こうした動きは米国連銀や欧州
中央銀行などでも見られます。政府債務残高の拡大は先進国に共通する問題ですが、
こうした財政の制約が、中央銀行の金融政策を財政政策の領域まで拡大させている背
景となっています。
日銀も、成長基盤強化支援の資金供給に当たっては、成長分野に資金を配分する金
融機関に資金供給する形を取ることで、金融政策の財政政策化=資金配分への直接関
与という批判を回避しようとしています。ただし、中央銀行の信用は究極的には政府
の裏付けによって成り立っているだけに、政府財政がひっ迫する中での中央銀行によ
るバランスシート拡大の危険性が高いことは認識されるべきでしょう。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■ 津田栄 :経済評論家
白川総裁の見解は、基本的には正しいといえます。確かに、日本のデフレ長期化は、
「過去十数年の趨勢的な成長率の低下にある」に原因があるといえます。それは90
年に入ってのバブル崩壊が切っ掛けですが、そもそも80年代の低成長期において既
にデフレ要因を日本経済は抱えていたといえます。その大きなものは少子高齢化と人
口伸び率の低下です。それは、将来の成長率の低下を示唆していたといえます。
そうした中にあって、80年代後半、円高を契機に大幅な金融緩和と景気刺激策を
行って、過大な設備投資により需要を上回る供給過剰な状態を生み出し、土地や株式
などの資産が実勢をはるかに超えた価格で取引されて、バブルを発生させたため、本
来ならば緩やかな成長率低下であったものが、バブルにより経済を実態以上に膨らま
せて成長率を高めてしまい、それが先食いした分バブル崩壊で一気にしぼみ、需要を
スパイラル的に縮小させる結果となりました。つまり、デフレを顕在化させたといえ
ましょう。
しかし、こうした国内要因だけであれば、いずれその要因が落ち着いて、輸出によ
り経済は回復していたはずですが、もっと大きな世界的な流れが、日本のデフレを定
着させ長期化させていったといえます。それが東西冷戦の終結と経済のグローバル化、
そしてIT技術の進展でした。89年のベルリンの壁崩壊により東西対立が消える一方、
アメリカの押し進める経済のグローバル化が、貿易摩擦による日本たたきに加えて、
旧共産圏だけでなく、開発途上国まで巻き込んで、生産から消費まで、世界を一つの
市場に化していったといえます。それは、旧共産諸国や開発途上国などが安い労働力
を提供することになって、東西冷戦時の西側先進国間での日本の優位性を奪ってしま
い、供給過剰を解消するのに時間が掛かってしまったといえます。
もちろん、日本は、バブル崩壊以降十数年バブル時に抱えた過剰な設備投資や債務、
そして雇用を調整し、解消しようと努力してきました。しかし、経済のグローバル化
で低賃金諸国からの低価格による世界的な供給過剰状況が続くことになれば、一国の
努力も逃げ水を追いかけるようになってしまい、いつまでも供給過剰から抜けだせな
くなってしまっているといえましょう。それは、企業が、世界的な競争力維持のため
に価格低下を目指して、賃金カットや正規雇用から非正規雇用へのシフトなどのリス
トラを行うことで企業収益確保に走ることになり、結果として個人の所得減少に伴う
消費の伸び悩みを生み、世界的な供給過剰の中で国内的な需要の低迷を構造的に作り
出しています。しかも、いよいよ少子高齢化、人口減少が本格化して構造的なデフレ
から抜け出せなくなっています。それが、長期的な需給ギャップにつながっていると
いえましょう。
そう考えると、「経済の力が底上げされ、需給ギャップが改善して初めて物価が上
がる」というのも、その通りです。ただ、問題はこの経済の力を底上げする手段です。
白川総裁は「将来の成長力は労働人口と労働生産性の伸びで決まる」と言っています。
労働人口は、白川総裁も指摘しているように、今後減少幅は拡大していくことになり
ますから、このままで行くと成長力を底上げするというよりも低下させる要因といえ
ます。そこで、女性や高齢者を中心とした労働参加率を上げることが必要になります
が、既に女性の労働参加は少しずつ上昇しており、また少子高齢化も同時進行してい
ては、それも一時的な解決にすぎないのではないでしょうか。やはり、根本的には、
これ以上の少子化、人口減少を食い止めなければ、趨勢的には成長率低下の一要因は
解決しないのではないかと思います。
もう一つの成長力の要因である労働生産性ですが、白川総裁は米国と遜色ないなが
ら、今後は、「企業の新たな市場創造などで一段の向上を目指す」べきだとし、「F
TA(自由貿易協定)などの展開や税制や規制のあり方」の「実体的な問題に取り組
まない限り、成長期待が高まらず、デフレも是正されない」と言っています。その通
りです。まさに、日本のデフレの隠れた根本的な要因の一つは、規制などの経済の構
造問題にあります。この規制緩和をも含めた構造改革なくして、そしてそれをもとに
FTAやTPPなどへの参加によって競争力を高めるような工夫がなければ、成長期
待が高まらず、需要も回復せず、構造的になっているデフレは一向に改善しないとい
うことになります。つまり、経済を含めた国のあり方を根本的に改めることが求めら
れており、それはもはや政府の仕事ともいえましょう。
しかし、一方で、白川総裁の意見は、これまでの日銀の小出しで後出しの金融政策
の正当性を語っているようにもみえます。日銀が、もっと素早く大胆な対応をしてい
れば経済の様相は今と違っていたかもしれません。とはいっても、それはもう終わっ
たことで、日銀としては、この先にどうするかという問題がありますが、白川総裁の
発言からは、少し抑え気味に見え、もっと一歩踏み込むことが必要ではないかと感じ
ます。そういった点で、包括緩和政策としてETF(上場投資信託)などのリスク資
産を買って金利に影響させようとしているなら、もっと大胆に行って、市場を刺激し
たほうがいいのではないでしょうか。同時に、そうした財政政策の領域に大きく近づ
くことになりますから、政府にもっと積極的な政策を行うように働き掛け、協調を図
るべきではないでしょうか。
経済評論家:津田栄
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
金融政策の方向性としては悪くないですが、コミットメントが足りません。極言す
れば、日本銀行が自ら、日本経済の「成長力を底上げ」できるわけではないのに、そ
のせいにしてデフレが止まらないといっているようでは、デフレは他人のせいにして
いるように見えてしまうので、その点では白川総裁の態度は問題があると思います。
Q:1131の私の回答でも述べたように、日本銀行は、デフレは「止められない」
のではなく、「優等生的に止めるのが難しい」ということをもっと周知させる必要が
あると思います。そのためにも、日銀はコミットメントをもっと強く示すべきです。
より具体的に言えば、「●年後までにデフレを止める」と期限を明言して金融政策の
方向性をより強く打ち出すべきです。
ちなみに、財政政策では、閣議決定された「財政運営戦略」で、国・地方の基礎的
財政収支を、遅くとも2015年度までに赤字対GDP比を2010年度から半減さ
せ、遅くとも2020年度までに黒字化させることを明記しています。さらに、20
21年度以降において、国・地方の公債等残高の対GDP比を安定的に低下させるこ
とも明記しています。もちろん、これをどのように実現するかについては明示が不十
分とはいえ、少なくとも財政健全化にコミットしたことを内外に打ち出したといえま
す。
これと比べると、金融政策は、そこまで強いコミットメントはしていません。「中
長期的な物価安定の理解」等で対外的に示しているといえども、明確さという点では
「財政運営戦略」と比べて不十分であり、誰が読んでも同じ意味にしか取れないよう
に、変な解釈の余地のない形で、日銀はコミットメントを示すべきです。
慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
< http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ >
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■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:1142への回答、ありがとうございました。今年の大晦日、テレビ東京では
紅白歌合戦の裏で『カンブリア宮殿スペシャル版』をオンエアします。現在、その打
ち合わせをやっているのですが、「経済停滞が長期化する中、多くの国民が、節約疲
れ、貧乏疲れを感じている」という前提で、企画を考えることになりました。ただ、
わたしには、日本は本当に貧乏になったのだろうか、という本質的な疑問があります。
ワーキングプアなどがよく話題になりますが、バングラデシュやグァテマラなど最貧
国よりは経済力があるのではないかと思われます。
そもそも「貧乏」「貧困」の定義もはっきりしません。とりあえず死なない程度に
衣食住が足りている状態を基準とすると、貧乏・貧困の割合はぐっと低下するはずで
す。凍死せず、また風邪を引かない程度の衣料と住居、厚労省が定めている食事摂取
基準を満たす食事などがあれば、貧乏・貧困ではないという考え方もあるでしょう。
しかしわたしたちの生活は衣食住だけではありません。まず重要な問題として、他人
とのコミュニケーションがあります。まったく誰にも会わずに、仕事や生活が成立す
るのは、閉じこもって執筆している小説家ぐらいではないでしょうか。
そう考えると、貧乏・貧困の定義は「人間とはどういう生き物なのか」という哲学
的、社会学的な定義に結びついていることがわかります。人間にとって、他者とのコ
ミュニケション・交流が必須ならば、PCや携帯電話がない状態はひょっとしたら貧
乏・貧困なのかも知れません。また他者と会うときには最低限に整った装いが必要だ
と仮定すると、適当な衣服を持っていない状態は貧乏・貧困だということになります。
さらに、成長してからは子孫をもうけるために結婚するのが人間だという定義があれ
ば、結婚し子育てする経済力のない人々は貧乏・貧困だということになるのかも知れ
ません。
しかし、一方で、「節約疲れ」する人々は本当に貧乏なのかという違和感もありま
す。たとえば難民キャンプの住民たちは、日々困窮した状況にあり、「節約疲れ」な
どは感じる余裕がないと思われます。そして、海外から日本を訪れる外国人たちは、
日本に貧乏人があふれているとはとても思えないと口をそろえて言います。「本当に
貧乏なのか」考えれば考えるほどわからなくなってきます。
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■次回の質問【Q:1143】
政府は税制改正大綱を閣議決定し、国と地方を合わせた法人税の実効税率が5%引
き下げられ、その代わりに高額所得者、富裕層に対しては実質的に増税ということに
なりました。ちなみにアメリカでは、オバマ政権がブッシュ減税の継続を決めたよう
です。今回の日本政府の税制改正ですが、どのような経済効果があるのでしょうか。
村上龍
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●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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