http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/607.html
Tweet |
Q: 増税しても財政再建はできない?
■今回の質問【Q:1258(番外編6)】
名目成長率を欧米並みの3〜4%にしないかぎり、どんなに増税しても財政再建は
できないという意見(竹中平蔵氏:日経ビジネス2012年4月12日号)があります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120323/230167/?ST=pc
この意見は正しいのでしょうか。
----------------------------------------------------------------------------
村上龍
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇回答
□北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■今回の質問【Q:1258(番外編6)】
名目成長率を欧米並みの3〜4%にしないかぎり、どんなに増税しても財政再建は
できないという意見(竹中平蔵氏:日経ビジネス2012年4月12日号)があります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120323/230167/?ST=pc
この意見は正しいのでしょうか。
----------------------------------------------------------------------------
村上龍
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
竹中平蔵教授は、日本の経済政策が陥っている間違いを二つ指摘しておられました。
まず、「名目経済成長率を欧米各国並みの3〜4%にしない限り、どんなに増税して
も財政再建はできないという事実を無視していること」。二つめは、「日本では社会
保障の中身について偏った議論がなされていること」です。二つめの間違いについて
は、「高額所得者への支出を貧困層に回す「世代内再配分」で対処すべきだ」と指摘
しておられました。私は、この点については賛成です。
問題は、一つめでしょう。欧米並みの名目経済成長率になれば、むろん財政再建は容
易になるでしょう。では、どうすれば、欧米並みの名目経済成長率を達成できるのか。
竹中教授の従来からの主張によると、日銀が2%の程度のインフレ目標を掲げ、その
実現に全力を尽くすべきだと言うことになるように思います。私は、この点について、
少し認識が異なります。この場でも、すでに何度も書いているように、日本の成長を
蝕んでいるのは金融政策よりも、「企業金融への無理解、無関心とコーポレート・ガ
バナンスの機能不全」だと思います。したがって、この点における変化なしに、欧米
並みの経済成長が達成できるとは思いません。
「欧米並みの経済成長率」を言い換えると、「経済成長率の収斂」ということになり
ます。では、なぜ、経済成長率が収斂せずに、不均衡が放置されているかと言えば、
資本市場の収斂の結果であると思います。我々は、この「逆説」に気づかねばならな
いと思います。世界的に、資本市場が統合され、資本コストの収斂が起きた結果、異
なる自然利子率を持つ地域の間に、経済成長のバラツキが発生しているのです。私は、
そう思います。
そうであるならば、禅問答みたいですが、経済成長率の収斂(欧米並みの経済成長率)
を目指すならば、資本市場の個性化を図らねばなりません。何も、外国人投資家が要
求する資本コスト(特に株主資本コスト)を絶対視する必要がないということです。
現在の日本、日本という地域にあった、資本コストを前提に企業経営を行うべきです。
企業からみた株主資本コストは、投資家から見ると、株式リターンです。米国の株式
リターンは、過去100年近く8%前後で安定的に推移しておりますが、日本はそう
ではありません。少なくとも、過去20年はゼロ%です。
この日本に8%の株式リターンを要求するのは妥当でしょうか。この要求に応えよう
とすると、どうしても企業に無理が生じます。経費を削減し、利益をひねり出そうと
します。すると、A社の経費削減はB社の売上減という格好で、合成の誤謬が生まれ
ます。「本来の株主」は、こうした合成の誤謬を見越した上での経営判断を期待する
と思いますが、「生身の株主」は、個別企業ごとの最適解を要求します。
この「生身の株主」からの要求に、「本来の株主」なら、こう言ってくれるのではな
いか、と抗弁するのが経営者の役割でもあるでしょう。それを上手くやることがコー
ポレート・ガバナンスです。「生身の株主」の要求に右顧左眄している企業にガバナ
ンスはありません。「本来の株主」は、何を求めているのだろう、何を要求するので
あろうと忖度できる経営者が率いる企業こそガバナンスが機能しているといえるで
しょう。「企業金融への無理解、無関心とコーポレート・ガバナンスの機能不全」が
続く限り、増税をしても、日銀が本気になっても財政再建はできません。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 中島精也 :伊藤忠商事チーフエコノミスト
チャーチルの「成長は全ての矛盾を覆い隠す」はけだし名言ですね。私の知人の欧州
委員会の局長も日頃から「成長しないと欧州債務危機などの問題は解決しない」と経
済成長の重要性を幾度も繰り返しております。しかし、ユーロ圏では相対的に余裕の
あるドイツ政府がなかなかこの考えを理解してくれない、すなわち、ユーロ圏周縁国
を救済するために、自ら機関車役を果たそうという気が全くないと嘆いております。
さて、「成長なくして財政再建なし」は日本についても当てはまります。竹中教授が
主張するように名目成長率3〜4%を実現できれば、増税分に相当する自然増収が見
込まれるので、増税の必要がないというのは確かでしょう。しかし、問題はいかにし
て3〜4%の名目成長を実現させるかです。名目成長率をデフレーターの上昇率と実
質成長率に分けて考えてみましょう。
先ずはデフレーターをいかに引き上げるか、いわゆるデフレ脱却の方策です。2月に
日銀が「中長期的な物価安定の目途」として当面は消費者物価上昇率1%を目指すと、
デフレ脱却の意志を公表しましたが、相変らず世間の日銀への批判は根強く、デフレ
の根源は日銀の消極的な金融緩和姿勢にあるという厳しい見方もあります。そこで、
日銀はインフレターゲットを採用してより大規模な量的緩和を実施すべしという声が
高まっています。
ただ、日本のデフレが長期化している原因ですが、やはりグローバル化の影響は見逃
せません。ポスト冷戦以降、お隣の中国から安価で大量の労働力が供給される事態と
なったことから、日本の製造業は中国に工場移転するか、日本に残るかの厳しい選択
を迫られてきました。日本に残る場合は価格競争上、圧倒的に不利ですから、賃上げ
などの余裕はありません。
一方で、生産性は上げなければいけませんので、単位労働コストは低下します。この
ように価格の重要な構成要素である賃金コストがデフレと深く結びついているのです。
よって、今後とも日銀が更なる金融緩和を推し進めたとしても、グローバル化に伴う
国際競争力の維持で製造業が四苦八苦している状況に変化がないとすれば、賃上げが
期待できませんので、デフレーターの押し上げはなかなか容易でないということが読
み取れます。
次にいかにして実質成長率を引き上げるか、これも頭の痛い問題です。日本は人口減
少社会に入って行きますので、成長の3要素(労働力、資本ストック、全要素生産性)
の1つである労働力が成長にマイナスに働いてきます。よって、この困難な状況でも
実質成長率を引き上げようとすれば、生産性を上げることが最も重要な施策だと思わ
れます。イノベーションを刺激する施策、いわゆる成長戦略ですが、規制緩和、市場
開放、人と技術への思い切った資源配分を実施することで潜在成長率を引き上げるこ
とが求められます。しかし、経済財政諮問会議などの場で活発に議論してきましたが、
ほとんど実現していないのが実情です。
このようにデフレーターや潜在成長率の引き上げは「言うは易く、行うは難し」の面
が強いのです。よって、理屈の上で、名目成長率を引き上げれば増税は不要というの
は分かるのですが、現実問題としてはそうは上手く行かないのが正直なところかと。
90兆円(実質96兆円)の予算で40兆円しか税収がないという異常な財政事情を
考えれば、増税無しで済ませるほどの余裕はないように思われます。
もちろん、名目成長率を引き上げるための努力、金融量的緩和、成長戦略などの施策
を積極的に推進することは当然ですが、さはさりながら3〜4%の名目成長率を実現
するのが容易ではないという現実に照らせば、増税を避けるという選択肢は今の日本
の財政事情を考えるとないように思われます。今、やるべきことは量的緩和、成長戦
略、増税をパッケージで実施することだと思います。
伊藤忠商事チーフエコノミスト:中島精也
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
竹中氏の意見に、一定の説得力はあります。債務を減らしていく困難さは、個人の
借金のレベルで考えてみても、よくわかるところです。これが国になると、既得権者
が強硬に反対し、官僚や野党との関係など政治的な複雑さが絡み、大変難しいことに
なります。「既得権者」といっても実はそれは私たちの親だったり、貧しい子供たち
だったりするのですから、全く厳しいことです。3〜4%の経済成長が実際に見込め
れば、こうした難しさはなく増収が期待でき、財政再建がはるかに容易になることは
言うまでもありません。
ただ、消費税率を上げることに成功すれば、増収は見込めるわけですから、税率
アップによって景気に悪影響が出なければ、単純に考えて財政再建への第一歩である
はずです。ここで竹中氏が財政再建につながらない理由として挙げているのは、政権
交代のどさくさで政治的な思惑で既に支出が増やされているということと、社会保障
が充実しないので、不信が高まり、その後の財政再建が難しくなるということです。
政権交代の際に、民主党の特色を出そうということで、マニフェストに基づいて子
ども手当などの政策が実施され、それが支出増につながったことは事実でしょう。当
時の民主党の立場に沿って言えば、それによって社会のあり方を変えることに意義を
見出していたわけです。
なかなか思うようにはいかなかったわけですが、それを竹中氏が財政再建という側
面からのみ批判するのは、一種のポジショントーク(一定の立場からの主張)には違
いありません。言うまでもなく竹中氏は小泉政権の中心閣僚として経済・財政政策に
携わった人物ですので、その立場だけから言っても(既に政界を引退したとはいえ)、
民主党政権の政策に賛成することはないのです。
3〜4%の名目経済成長率に関して言えば、バブル崩壊後、ここ20年ほどはほとん
ど達成されたことのない数字であり、竹中氏が経済・財政政策の中核にいた時期も同
様です。はたして現実的な数字なのでしょうか。ちなみに竹中氏が例に挙げているア
メリカの目標3.5%は、近年の実績からもまあまあ妥当と思いますが、イギリスの
5.3%はかなり甘い、楽観的な数字です。経済成長率を過大に見積もって計画を立
てるのは、決してほめられたことではありません。
このように、竹中氏の文章は全体にポジショントークの色彩があるのですが、「経
済成長がないと財政再建できない」というのは、結果としてそうなる危険性が大いに
あるという意味で、耳を傾けるべき意見だと思います。増税をすると、それに応じて
支出増を求める圧力も高まるだろうからです。また、竹中氏が末尾に書かれている、
「家族対策など若年層の社会保障を充実すべき」という意見には同意します。
それにしても、コンスタントな経済成長は人類の長い歴史から見ればせいぜいここ
数百年の現象に過ぎません。それまでは技術進歩も非常に遅く、成長率にすれば限り
なく0%に近く、人口もほぼ一定の状態で何千年も暮らしてきたのです。
人類はこれからも経済成長を目指していくべきなのかどうかは、極めて難しい問題
です。まだまだ地球上には豊かになりたい人たちも無数にいますし、経済成長で解決
される問題も少なくありません。しかし、これからも永遠に成長を続けて、居住範囲
を宇宙にまで広げ、やがて来る太陽系の消滅をも乗り越えて一大帝国を築くのが人類
の宿命なのか。それとも安定と平穏、そして衰退の道をたどり、いつかの時点で次の
生物に地球を譲って静かに滅んでいくのがいいのか。
そんな先のことまで考えてもわからないというほかはありませんが、そうしたこと
まで含めて考えていかないと、単純に「豊かになりたい」というだけでは物事が回っ
ていかない、そんな段階に日本社会が来ていることは確かです。
日本語学校教師、評論家:水牛健太郎
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
「財政再建と経済成長」
名目成長率を欧米並みの3〜4%にしないと、どんなに増税しても財政再建はできな
いかと言えば、それはどのような経済状況を想定するかによるでしょう。例えば、財
政再建だけを目的と考えて、経済状況がどうなってもよいというのであれば、経済成
長率にそれほど大きな影響を受けずに目的を達成することができるはずです。
税収の増加を図るために思い切った増税政策を採ったり、歳出を切り詰めることに
よって、財政を強引に黒字化することも理論的には可能なはずです。ただ、その場合
には、社会全体の税負担が高まると同時に、社会保障などの給付が大きく減額になり
ます。その結果、経済活動はかなり大きく低下し、経済全体が縮小均衡に向かうこと
になります。国民は、そうした状況に耐えることができるかと言えば、答えは「ノー」
でしょう。ということは、そうした経済状況を想定した財政再建策の実行は、現実的
ではないということになります。
実際、信用不安問題が顕在化したユーロ圏のギリシャやポルトガルなど一部の南欧諸
国などは、そうした状況に追い込まれています。経済成長がマイナスに落ち込む中で、
財政再建を目的として増税政策を実施する一方、歳出を大きく減額することを実行し
ています。それに対して、それらの国の国民は、強い抵抗の姿勢を示しています。そ
の意味では、ギリシャなどで、本当に財政再建の目標が達成できるのか難しい状況が
続いています。
わが国の財政状況を見ると、対GDPの債務比率などは、既にギリシャなどを上回っ
ています。それでも、わが国は、今のところ深刻な信用不安問題が表面化するところ
まではいっていません。その主な理由は、国の借金を消化することに充当できる個人
金融資産の蓄積に、まだもう少し余裕があることに加えて、消費税率の引き上げなど
増税余地が残っていると考えられるからです。
一方、竹中氏が主張しているのは、現実的に、しかも国民の痛みを極力抑える格好で
財政再建を行うとすれば、3%から4%の経済成長が必要ということです。そのロ
ジック自体は、相応の説得力を持っていると思います。また、名目ベースで3%を上
回る経済成長を実現することができると、かなりスムーズに財政再建の筋道が見えて
きます。その意味では、竹中氏が言っているように、わが国の財政再建を、できるだ
け痛みを伴わない格好で進めるためには、それなりの名目ベースの成長率が必要との
考え方には賛同します。
特に、過去数年間の円高の進展と、ライバルである韓国や中国企業の追い上げによっ
て、わが国企業、特に組み立て型の産業分野の競争力が低下している状況を考えると、
国が率先して企業の競争力を強化する環境作りを行い、それによって名目ベースの成
長率を高める姿勢を鮮明化することは重要だと思います。
ただし、短期的なタームで見た場合、直ぐに、わが国経済の成長率を名目ベースで
3%まで持っていくことはかなり困難だと思います。わが国経済の潜在成長率は、
1.5%程度と見られます。それを3%まで高めるには、少なくとも相応の時間を要
する筈です。
問題は、現在の状況が続くと、財政の悪化は待ってくれないということです。仮に、
わが国経済の実力が上がって潜在成長率を高められるとしても、実際の名目ベースの
経済成長率を高めるまでの間、如何にして、財政の悪化を防ぎ、さらには財政立て直
しを図る道筋を真剣に検討しなければなりません。
それを考えると、まず、政府は、選挙のマニュフェストに謳ったように無駄使いを減
らす(実際には出来ていませんが)ことが必要です。また、何らかの方法で税収を増
加する手法を採らざるを得ないと思います。それと同時に、中長期的な視点に立った、
わが国経済の成長戦力を考えるべきです。国自身は働くことができません。国の富の
源泉は、基本的に企業が付加価値を作ることから増えていきます。政府もわれわれも、
企業が強くなることを真剣に考えるべきだと思います。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。