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消費税率35%でも年金は賄えません
小谷真生子(テレビ東京ワールドビジネスサテライト・キャスター)×伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)(1)
2012年4月13日 金曜日 伊藤 元重,小谷 真生子
日経ビジネスのムック「新しい経済の教科書 2012」が4月20日に発売されます。2010年から発行している本誌は今回、装いも新たに表紙を変え、サイズも持ち運びしやすいB5判に。経済学の思想からノーベル賞に関する話題、最新の経済学の知見、経済学の基本用語や英語解説まで盛りだくさんの内容を掲載しています。
その本誌の冒頭を飾るのが、伊藤元重・東京大学経済学研究科・経済学部教授と、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」の小谷真生子キャスターの対談。オンライン版の本稿は、まずはお2人の対談から、本誌に収録仕切れなかった足元の経済状況や制度改革などについての議論を2回に分けてお届けします。
小谷:始めに、消費増税についてです。実は数年前、消費税増税は必要なのでしょうか、などと「ワールドビジネスサテライト」でも申し上げていました。と言いますのも、社会保障の構造改革や行政指導、規制緩和を徹底することによって、財源が捻出できる方法がまだあると考えていたからです。それに、社会保障の構造改革もしないままでは、ザルに水を入れるようなものではないかとの識者の意見も多かったからです。ところがもはやそういうことを言っている場合ではなくなったわけですね。
伊藤 元重(いとう・もとしげ)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。1951年生まれ。東京大学経済学部卒業。米ロチェスター大学大学院博士課程修了、経済学博士(Ph.D.)。専攻は国際経済学、流通論。小渕恵三内閣「経済戦略会議」、森喜朗内閣「IT戦略会議」で委員を務める。
(写真:菅野勝男)
伊藤:今回の「社会保障と税の一体改革」をどう捉えるべきかですが、まずは高齢化がこれから10年、20年、30年続くということを踏まえなければいけません。団塊の世代が年金をもらう年齢になってくるため年金がとても注目されているのですが、長い目で見ると医療の方の財政負担が厳しい。やがて団塊の世代が75歳を超えてきます。75歳を超えると、医療費はだんだん増えていくものだからです。これが2025年頃に起こります。
そのため、あと10年、15年かけて、改革していくプロセスが必要です。今回、政府が出した税と社会保障の一体改革ですべて解決するわけではなく、これはこれから30年かけて日本が変えていかなければいけない姿の、いわば一里塚なのです。これもできないようでは、あとはもうダメだね、ということだと思います。
消費税率も恐らく10%でとどまるわけではないし、いずれ年金の支給開始年齢も67歳、場合によっては70歳に上がっていくということが10年後、20年後という先に起こってくると思います。そういう議論を今からせざるを得ない。
高齢者は逃げ切れるが、我々は…
小谷:人口が減り、高齢者が増えることで、社会保障は自然増で年間1兆円くらい増えます。単純計算では、3年に1回か2年に1回は1%ずつ、消費税を上げていかなければならないことになりますね。
伊藤:私の友人の経済学者、財政学者たちの計算によると、今の制度を変えないまま消費税で年金を賄うとすると、税率35%ぐらいでも維持するのが難しいということでした。
小谷:35%でもだめなのですか?
伊藤:それは考えたら当然で、65歳から年金をもらう人が70歳でお亡くなりになれば5年しかもらえないけれど、85歳でお亡くなりになれば20年間もらうわけです。日本人はだんだん長生きになっていますので、毎年もらうお金は同じでも、一生にもらうお金は増えているわけです。ところが一生の間に払っている、20代から60歳まで払っているお金は増えない。どう考えても無理ですよね。
だんだん支給年齢を上げていくのは仕方のないことだと思います。年金というのは本来、かなり長生きしても困らないようにするための制度ですので、引退したら自動的にもらえるという既得権益を守ることは、今はそれでも何とかなるかもしれませんが、将来は難しいと思います。
小谷 真生子(こたに・まおこ)
客室乗務員を経て、キャスターとしてNHK総合「モーニングワイド」「おはよう日本」などに出演。1994年、旧ユーゴスラビアにて内戦に対するメディアの功罪を現地にて単身で取材し、「文芸春秋」にてルポルタージュを発表。その後、テレビ朝日「ニュースステーション」に出演の後、現在はテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」(月〜金午後11:00〜)、BSジャパン「小谷真生子のKANDAN」(日曜午後11:00〜)に出演中。
(写真:菅野勝男)
小谷:給付を開始する年齢をどんどん引き上げていくべきだということですね。
伊藤:世界を見てもそうなっています。ただそうは言ってもそれをいきなりやると皆さん、人生設計が狂って大変なことになります。僕がよく申し上げるのは、高齢者の方にはもう逃げ切れますよと。40代の方は心の準備をしておいてくださいと。我々の世代がどうかっていうのは微妙なんですけれども。
小谷:先生はちょうど中間ぐらいにいらっしゃいますね。40歳寄りでしょうか?
伊藤:いや、もうちょっと上ですが(笑)。
小谷:国会では増税論議の方が中心になっていますけれども、経済活性化策も成長のための1つの手立てとして重要だとは思いますが、法人税のさらなる減税や、海外からの投資に対する優遇策などの政策はだめですか。
消費増税と減税は本来ワンセット
伊藤:それもやったらいいと思います。消費税はみんなの経済活動に一律に掛けるものです。それで税金を確保するわけで、逆に言うと非常に効果があるところに投資減税とか、教育減税とか、あるいは海外からの投資減税などは逆にしやすい環境になるはずです。だから本来は1セットなのです。
消費税でしっかり税収は確保しながら、経済的に効果があるところには法人税も含めて積極的に減税していくというのが本来あるべき姿です。ところが日本人は増税すると言うと、消費税率だけ上げるのはけしからんから、こちらの税も上げなければいけないと言って、みんなそうなってしまう。
小谷:先日、行政の方に、投資減税や、キャピタルゲイン課税を減税するというのはどうですかと提案したのです。でも、財源がありませんって、一言で終わってしまいました。財源がないと減税しないと言っても、財源はずっとないでしょう?(笑)。
伊藤:それは典型的な行政の縦割り的な発想ですね。もう少し、内閣など高いレベルの判断が要るテーマでしょう。
消費増税で財源確保できれば、減税もできる
小谷:先生は、消費増税の家計、企業経営、景気への影響をどのようにご覧になっていますか。
伊藤:消費税の増税は、一時的には景気にマイナスの効果があり得るかもしれない。ただ今すぐに増税を決めても2014年まで時間がありますから、今の景気とは関係ない状況ですし、8%に上げてからさらに10%に上げるということで、たぶん駆け込み需要が出てくると思います。
小谷:2段階の増税ですからね。
伊藤:だからそういう意味では足元の景気に対して、それほど深刻に考える必要はないのかなと思います。それからもう1つ大事なことは消費税5%の日本と、消費税25%のスウェーデンと、どちらの方が経済は元気なの?ということです。経済成長率や、1人当たり所得などですね。これは勝負があった。残念ながら。消費税5%の日本の方がダメなんです。
消費税を上げると、足元で心理的な冷却効果があって景気が悪化するということは理屈としてはあり得るけれど、今、議論していることはそういう話ではなく、10年後、20年後、30年後の日本はどういう社会をつくるんだということです。
高齢化が進んで、国民が不安を持って、医療、年金も予算もなかなかままならないということであれば、もちろん医療、年金、介護の改革も必要ですけれど、ある程度消費税を上げて高齢化に対応できる仕組みを作るということは、むしろ経済を活性化する可能性の方が強いかもしれない。
小谷:これも行政の方の話になりますが、結局、社会保障の部分の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げましたが、実はその財源は、これから2年間はもうないとおっしゃっていて。
伊藤:そうなんです。
小谷:2年間、財源が無い分、増税した暁に補てんするとおっしゃる。今の給付の部分を維持するためだけでも大変で、増税してもその増税分で穴埋めするということをしていくわけですね。これでは、将来に対する福祉の夢が描ける増税になっていない。
これから先、消費税率を上げていくにしても、高齢者増の分の負担だけということですと、どんどん国民のマインドが冷え切って、負担ばかりが増えていくような感覚に襲われることは否めないと思うのです。これをどう変えていくかというのが重要なのではないですか。
伊藤:おっしゃる通りですが、日本の年金というのは主要国で比較してみるととても恵まれているのです。昔は高齢者が少なかったので、多少、今までの枠で出してもよかった。しかし、これからは全く状況が異なる。極論を言うと、今の国民が思っている期待感でもっと社会保障を整備してほしいということをやっていくと、その行き着く先はギリシャになってしまうでしょう。
ギリシャで有名な事件があって、ある公的機関に勤める女性がビルの上に立って、私が今、勤めているこんな立派な公的機関をつぶすのはけしからんと言って、そんなことがあったら私はこのビルから飛び降りて死ぬと、4時間叫び続けた。結局、飛び降りないで下りてきたんですけれどもね。彼女から見れば、こういう組織があるのは当たり前で、これをどこか誰かが賄ってくれて当たり前だというふうに思ってしまっているわけですね。
このことは年金も医療も、みんなそうなのです。でも、本当にそれができるのか。誰が税金を払うのかという話になった時に、ここが今の高齢化社会で非常に難しいところなのですが、国民が政府にあまりにも期待し過ぎてしまうと、もう解がない。
数千万円遺して高齢者が亡くなる社会でいいのか
結局さっきの話に戻るのですけれど、今の医療、年金、介護を維持するだけでも将来的には35%も消費税を払わなきゃいけない。そうするとどこかで大胆に国民の考え方を変えていかざるを得ない。もちろん貧しい人をしっかり守らなければいけないという社会保障も重要です。
しかし88歳ぐらいで亡くなった後に遺族が見てみたら2000万円も、3000万円も預金が残っている高齢者がぞろぞろいる社会が、本当にいい社会なのかと言うと、それはやはり違うのかなと思います。それよりは、「日本人である限りは医療、年金、介護、本当に最後は困ることはありませんが、自分たちが負担できる間はどこかで負担してください」というふうに、どこで発想を転換するか。なかなか難しいです。
僕の友人の医者が言っていましたけど、メタボって深刻で、放っておくと将来、糖尿病になったり、脳梗塞になったりする。ところがみんななかなか治そうとしない。彼の夢はメタボの人が飲んだら体中が痛くなる薬を作ることだと言っていました。そうすればみんなメタボを解消するんじゃないだろうかと言うわけです。
日本人の目を覚ますのは国債暴落しかない?
財政もそういうところがあって、結局、公務員天国だったギリシャ人の目を覚まさせたものは、国家が破綻する危機という強烈な痛みだったわけですね。それがいいかどうかは別の問題として。
日本人にはそうなってほしくない。懸命にやれることはやって、やれないことはやれないということで、きっぱりとやらない。日本にとってはこれから20年がそういう意味では正念場じゃないかと思います。
小谷:ある外国人が、結局、国債暴落しか日本人への目覚ましはないとおっしゃっていました。
伊藤:どれだけ暴落するかによりますけどね。それはなかなかつらい道です。ただ日本が救われているのは、個々人が自分を守ろうとしている部分がまだあるわけですよ。政府の医療、年金、介護に頼っていながらも、どこかで信用してないところがある。
小谷:そうですね。
伊藤:そういう意味で国債が暴落することはいいことではないのですけれども、確かに、少しそうした冷や水があると、国民のマインドもずいぶん変わってくるとは思います。
小谷:まだ、預金もあるわけですし。
伊藤:今のところ、その預金が国債に変わっているわけですね。そのうち日本の国民が利口になってきて、このまま国内の銀行に預金していて大丈夫なのだろうかと思うようになって、外資系の金融機関、例えばオーストラリアドルに預金するなどという人が増えてくるでしょう。これを預金取り付けと言いますけれども。
小谷:そうですね。でもそうなってしまうと本当に大変です。日本の銀行は運用できるものがなくなりませんか。
伊藤:そうかもしれません。まあ、日本の銀行はお金が余っているから、大丈夫だと思いますけれどもね。
(取材構成:広野彩子)
新しい経済の教科書
2012年で3年目になる日経ビジネス別冊「新しい経済の教科書」。
今年は装いも新たに、新しい経済学の潮流や、経済学の面白さを伝える企画が満載です。
日経ビジネスオンラインでは、紙幅の関係上「新しい経済の教科書」本誌未収録になった有益なコンテンツをご紹介していきます。
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伊藤 元重(いとう・もとしげ)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。1951年生まれ。東京大学経済学部卒業。米ロチェスター大学大学院博士課程修了、経済学博士(Ph.D.)。専攻は国際経済学、流通論。小渕恵三内閣「経済戦略会議」、森喜朗内閣「IT戦略会議」で委員を務める。
小谷 真生子(こたに・まおこ)
キャスター。大学卒業後、客室乗務員を経て、NHK総合「モーニングワイド」などのキャスターを務める。旧ユーゴの内戦におけるメディアの功罪を取材し、ルポを「文芸春秋」に発表。テレビ朝日「ニュースステーション」出演を経て、現在はテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」、BSジャパン「小谷真生子のKANDAN」に出演中。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20120328/230349/?ST=print
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