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【第181回】 2012年4月13日
岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
ソニーが示す日本にとっての危険な兆候
ソニーが、2012年3月期の決算が5000億円超の赤字となる見通しに加え、経営計画の中で1万人規模の人員削減を行うことを明らかにしました。気がつくと、ソニーのみならず、パナソニック、シャープなどデジタル家電事業を主力とする電機メーカーはどこも大規模なリストラに着手しています。この事実は、2つのインプリケーションを示しているのではないでしょうか。
グローバル競争に生き残るには
1つは、ソニーなど個別の企業にとってのインプリケーションです。
大規模なリストラと大幅赤字決算に陥った原因としては、韓国勢との競争激化によるテレビ事業の不振、東日本大震災やタイの洪水といった外的要因、デジタルやネットへの戦略の誤りなどが指摘されています。
震災や洪水といった外的要因はやむを得ないとして、テレビ事業の不振やネット戦略の誤りという部分については、個々の企業がイノベーションを加速して、グローバル市場で通用する製品とサービスを作り出すしかありません。
ここまではメディアなどでも語られていますが、それはある意味で当たり前のことであり、その後の具体的な行動の段階でどれだけ現実的な厳しい対応をできるかが、より重要になるのではないでしょうか。それは、今後も継続的にリストラ、特に国内での人員削減を行わざるを得ないということです。
グローバル化が進む中では、これまで多くの製造業がそうしているように、生産コストやサプライチェーンの観点から中国などの新興国に生産拠点を一層シフトせざるを得ません。その究極の姿はアップルです。だからこそ、GMはかつて最盛期に米国内で40万人の雇用を創出していましたが、今のアップルは4万3000人しか雇用していないのです。
この動きだけでも国内での雇用に影響しますが、それに加えて、国内に残る生産拠点でも雇用を減らさざるを得ません。それは、IT化により工場の設備も格段に進化し、工場で働く従業員の数はかつてよりもはるかに少なくて済むようになっているからです。
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実際、米国では、製造業全体を平均すると、現在の工場労働者1人当たりの生産額は年間18万ドルですが、この数字はなんと30年前の3倍に相当します(物価上昇率の調整後)。米国では工場労働者の生産性が30年で3倍に上がったことになります。
だからこそ、オバマ大統領は米国での雇用増大に向け、米製造業の国内での工場立地を促進するための税制優遇を行っているものの、大統領が年頭教書で製造業の国内回帰の例として挙げたマスター・ロック(錠前を生産する企業)の工場では、現在の生産量は15年前よりかなり増えているにも拘らず、従業員数は412人と15年前より750人も少なくなっているのです。
日本国内での雇用を維持するには
こうした事実を踏まえると、家電メーカーのリストラは政府に対しても重要なインプリケーションを示しているのではないかと思います。それは、日本の国内で雇用をどのように維持するかということです。
日本の製造業がグローバル市場で成功することは、外貨を稼ぐために不可欠です。そのためには、個々の家電メーカーにはイノベーションと事業戦略の両方で頑張ってもらう必要があります。
しかし、米国の経験を踏まえれば、特に日本の強みの1つである生産過程での“擦り合わせ”が通用しないデジタル機器など製造業の多くの分野では、個々の企業がどんなに頑張っても、それが国内での雇用増につながる可能性は低いと考えなければならないのです。それが、グローバル化(=工場の海外移転)とIT化(=国内の工場での雇用の減少)が進んだ世界で先進国が直面する現実なのです。
そして、それは、製造業の雇用が日本の中流階級の一翼を支えてきたことを考えると、国内の中流階級の雇用をどうするのかを、政府が真剣に考えなくてはならないことを意味しています。
この問題への対応として、米国のオバマ大統領は、米国の製造業が国内に生産拠点を戻すのを税制などで支援していますが、工場が戻るだけでは雇用は大幅に増えないのは、マスター・ロックの経験からも明らかでしょう。
次のページ>> 政府がやるべきこと
一方で日本は、特にリーマンショック以降は雇用問題への対応として、雇用調整金をばらまいて企業に雇用維持のインセンティブを与えてきました。その結果として、昨年の経済白書では企業内失業が465万人も存在すると推計されていますが、こうした政策で永続的に雇用を維持することは不可能です。
それでは政府はどうすべきでしょうか。やるべき政策を総動員することが必要であり、そのためのヒントは米国の様々な経験やデータに含まれているように思えます。
例えば、米国では、熟練技術者の不足が国内での工場立地やサプライチェーン強化の障害となっているという認識から、コミュニティカレッジなど工場で働くために必要な技術を教える学校の強化が叫ばれるようになっています。
また、ある分析によると、米国での過去20年の雇用拡大をみると、グローバル競争に晒されていない部門では2730万人増えているのに対して、グローバル競争に晒されている部門ではほとんど増えていません(工場労働者に限定すれば約20%減)。
一方、別のある分析によると、シリコンバレーやハリウッドなどのイノベーションがベースの産業が成功すると、そこでの給与水準は他産業よりかなり高いため、社員一人当たり5人と製造業の3倍の追加雇用を生み出しているそうです。5人の内訳は、3人が弁護士や医者などの専門職、2人が看護師やウェイトレスなどのサービス業です。
政府がやるべきこと
こうした米国の経験などを踏まえると、今後構造的に厳しくなるであろう国内での雇用の維持に向けて、例えば以下のような政策対応を早めに行うことが必要ではないでしょうか。
・ 製造業のグローバル企業の工場立地ではなくイノベーションへの支援
・ 国内でのサプライチェーンとその裾野を支えるため、高専での教育の充実
・ フリースクールと化している大学の淘汰(そこの卒業生ほど雇用が大変!)
・ 医療・介護や教育などでの規制改革と、介護師などの報酬水準の引き上げ
・ 国際的に低いサービス業の生産性の向上への支援
次のページ>> 早め早めの政策総動員が必要、今の政府では対応に限界
要は、雇用の維持という観点から早め早めに政策を総動員する必要があるのです。その際、雇用調整助成金のような社会政策的なものは最小限にしなくてはなりません。産業と雇用を同時に強くしていかない限り、政府が人為的に作り出す雇用は長続きしないからです。
そう考えると、今の政府では対応に限界があることも明らかです。産業は経産省、雇用は厚労省、教育は文科省と縦割りになっており、かつ厚労省は社会政策の観点からしか雇用を考えないからです。
しかし、国内での雇用をどう創出していくかという雇用構造の問題は、中長期的には先進国共通の問題として日本でも深刻化することは間違いありません。政府は財政再建や震災復興、原発再稼働といった目の前の問題ばかりを騒ぎますが、こうした中長期的な問題への対応も早めに始めるべきではないでしょうか。
http://diamond.jp/articles/-/17135
#赤字国債を増発し、規制で守りながら、既得権益者(高賃金公務員、ゾンビ企業、社内失業者、兼業農家・・)を養い続け、名目上は低い失業率を維持しているが
結果として競争力を失った赤字生産力(労働者)が温存され、本来、発展すべきだった必要な内需産業や、新規産業が育たなかったツケは大きい
少子高齢化が深刻化し、過去の家計貯蓄の黒字を赤字国債で食い潰すまでの時間は、そろそろ切れかけている
消費税増税程度で解決できるものではなく、一時的な問題先送りに過ぎない
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