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統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術
家電業界の凋落は誰のせいなのか?
2012年4月11日 水曜日 吉田 耕作
3月現在における家電業界の収益予測によると、主要な各社で大幅な赤字が見込まれている。パナソニックが7800億円、シャープが2900億円、ソニーが2200億円、NECが1000億円という、過去最悪とも言われる損失を生じた。
自動車業界とならんで日本の国際競争力の花形として、ものづくりの国の貿易黒字を支えて来たこれらの会社で何が起こっているのであろうか。今回はこの問題を取り上げて見たい。
図1 機械製品の国際競争力の推移
出典:社会実情データ図録 貿易から見た国際競争力指数の推移
確かに、2011年は東日本大震災があり、タイでの大洪水によるサプライラインの寸断、そしてそれに続く超円高と、次から次へと、何世紀に1回起きるか起きないかというような大異変が続いた。それらが大幅な赤字の最大の原因であり、したがって今後は回復に向かうであろうと楽観的に考えたいところである。
しかし、どうも、本質的に家電業界を取り巻く環境が変化してきた事が、その背後にあるのではないだろうか思えるのである。
図1に示してある機械製品の国際競争力の推移によると、IC、コンピューター、家電等の国際競争力は、90年代を通して低下を続けていることがわかる。つまりパナソニックやソニーが巨額の損失を被る結果になったのは、一過性の東日本大震災やタイの水害の影響もさることながら、底流に何か大きな変化が長期間続いており、それがこれらの災害を契機として顕在化したのではないかと考えるのである。
2.家電メーカーの現状の原因
表1 日本の電機メーカーと韓国の電機メーカーとアップル社の比較(単位:百億円)
会社名 売上 営業利益 当期純利益
11.3期 12.3期予 11.3期 12.3期予 11.3期 12.3期予
日立 932 950 44 42 24 21
東芝 640 620 24 20 14 7
三菱 365 367 23 21 12 10
ソニー 718 634 20 -10 -26 -26
パナソニック 869 800 31 3 7 -78
シャープ 302 255 8 0 2 -29
サムソン電子 1144 1080 114 107 107 91
LG電子 415 358 1 2 2 -3
アップル 541 894 153 260 116 200
(資料:日本企業に関してはNomura Equity Research; 韓国及び米国のデータは有価証券報告書の数字を決算時の為替レートで日本円に換算したものを用いた。又、12年3月期は最新の予測値を用いた)
表1は日本の電機メーカー6社と韓国の電機メーカー2社及びアップル社の9社を比較のために取り上げたものである。上記の表によると、日本の家電業界の代表的企業が巨額の損失を抱えているのに対して、韓国の家電メーカーがかなりの利益を上げており、アップルは巨額の利益を上げていることがわかる。日本の家電メーカーも売れていない訳ではない。しかし、売上に対してあまりにも利益率が悪い。
売り上げを伸ばすために、また、多量に製造したものを売りさばくために、安売りしているのが明らかである。
これまで日本の「ものづくり」は高度な品質管理や「すりあわせ」技術によって、外国の競争相手より優越性を維持してきた。日本はあまりにも長い間、高品質でありながら生産コストを下げ価格を下げていくという日本の産業の利点に立脚して、同じコンセプトの延長上で発展を続けて来た。しかし、家電業界では比較的限られた種類の技術の組み合わせであり、巨大な資本をかけて流れ作業による大量生産が可能である。
そうなると勝負はコストの差であり、人件費が低く、為替を低く保たれている国のメーカーは圧倒的に有利な状況にある。韓国メーカーが利益を上げるのは当然のなりゆきであったし、予想されていたことであった。
これに反して、アップルは独自の道を進んだ。独自の発想力と技術力を生かし、コンセプトの転換をはかり、他メーカーのように価格競争に陥る事はなかった。消費者はアップルがほしくてアップルを買うのであって、安いからアップルを買うのではない。しかも製造は殆ど下請けに外注して、コストも抑えている。
日本のメーカーも、他社がまねのできない高付加価値製品を目指したはずであったが、結果は価格競争に巻き込まれ自滅した。その主戦場は、全国のテレビがいっせいにデジタル化した去年、大量に売り出された薄型テレビであった。
画質の大きさや薄さや鮮明さを競って他社との差別化を図ったが、皮肉なことに各社の技術は優劣つけがたい程高く、消費者にとっては皆同じくらい素晴らしく高付加価値と思えるほどの違いを生むことができなかった。それならば、あとは値段の違いになってしまう。
家電3社が巨額の損失を出した背景に関しては、薄型テレビの大幅な価格の下落がある。パナソニックではパナソニック・プラズマデイスプレイ社のプラズマデイスプレイパネル第5工場の生産を休止した。そのほか、保有株式の評価損や、国内・海外の早期退職にともなう特別退職加算金等やのれんの減損損失があり、いわば失敗の後始末によって当期純利益は大幅な赤字を計上した。
シャープは液晶パネルの堺工場で1月から3月まで減産中で平均稼働率は5割程度と言われる。
ソニーはテレビの年間販売目標を去年11月の4千台から今年3月期では2千台に下げた。それにソニーからは最近新製品が出ていない。
韓国の例を取ってみても、LG電子は日本の家電メーカー程ではないにしても、利益がかなり低い状況である。テレビを中心とした家電製品で、世界的な過当競争の結果大きく利益を失ったと思われる。
トヨタの豊田章男社長は、テレビの安売りを招いたのは流通構造に問題があるのではという見方を示している。大型量販店は薄利多売を行っており、上位9社で6兆円の売り上げを占め(10年3月期)、メーカーに対し非常に強い価格交渉力を持っていると考えられる。
第二に表1から気がつくことは、日本の電機業界の中でも重電3社の業績と家電3社の業績は非常に異なるという点である。日本の重電メーカーは、流れ作業によらない特殊技術に依存している事が特色である。例えば、日立では広範囲にわたる技術を持っているために種々の技術の組み合わせを要する社会インフラや発電機等のエネルギー分野に利点がある。
東芝は原子炉やNANDフラッシュなどがあり、三菱は電気自動車、人口衛星、スマートシテイ、スマートグリッド等がある。これらの分野は流れ作業の生産に頼る部分が少なく、いくつかの異なる技術の組み合わせで作られるので、簡単にまねする事はできにくいと考えられる。これらの分野で発展途上国が追いつくまでには少々時間がかかるであろう。
一方、サムソンでは日本勢がほとんど不在のスマートフォンでシェアを大きく伸ばし、NAND型半導体でも強みを発揮して非常に高い収益力を発揮した。日本の企業は、過去から見えてくるパターンとしては、他社が、例えばテレビを作るから、うちも作るというように、いくつかの企業が同じ方向に進み、同じ小さなマーケットで熾烈な競争を展開するようだ。したがって、当然売値は下がる。他社と全く違う方向に行くという思考方法があまりとられていない。家電メーカーのどこか1社がテレビを作らず,我が社はスマートフォンで世界を制覇するのだという選択支を取っていたならば、テレビのマーケット自体大いに異なっていた可能性がある。
特にトランジスターラジオに始まり、ウオークマン等で大成功を収めたソニーが、iPodやiPhoneに対抗するものを開発できないというのはむしろ不思議に思えるのである。
3.「日本の家電メーカー凋落は誰のせいか」
中国のメデイアによると、韓国では電機メーカーはサムソンとLG電子に集中して政府が支援をし、1)世界市場に向けて進出し、規模の経済の優位性を享受し、2)日本より安い人件費の利点をフルに動員し、3)政府の為替操作によるウオン安と円高の同時進行により、日本製は20%高くなり、韓国製は20%安くなる結果、日本製品は韓国製品にたいして40%の為替差を甘受しなければならなかった。さらに4)バブルがはじけて以来リストラが日本に導入され、競争力のなくなった部門は比較的安易にリストラされた。
リストラになった多くの日本人技術者は韓国や中国の企業に雇われ、韓国や中国の企業は日本が長年にわたり蓄積した技術上のノウハウを比較的簡単に入手することができた。(「日本の家電メーカーの凋落は誰のせいなのか?=中国メディア」Searchina;「爆発する世界市場での日本の情報家電メーカーの生き残り戦略―サムスン攻略法」J-marketing.net)
こういう韓国家電メーカーの優位性に対して、日本では巨大な電気メーカーが10社近くあり、日本の国内という小さなマーケットに対して、強烈な競争を繰り返していた。したがって、各社の生産規模は小さく、規模の経済性を享受する事ができず、価格競争力を失っていった。
しかし考えて見ると、第二次大戦後の長期にわたって、日本の企業は通産省の産業政策によって、一定の国策に従い政府と産業界は緊密な関係を維持し続けた。米国の巨大なマーケットに対して、戦後の日本の低賃金と、小集団活動を中心とした品質と生産性の絶え間ない向上と、安く抑えられた円の価格等が日本の家電産業の世界市場への発展を助けた。いわば韓国や中国の現状は、日本の発展のモデルをかなり忠実に学び、発展してきた結果である。
それに対して、日本の状況は悪化していった。その一つの大きな契機となったのが、80年代の日米構造協議であると私は考えている。多くの産業分野、特に半導体の分野において日本の市場が閉鎖的であるという非難を受けた。
その中で日本の文化的特性である“協調”が攻撃の対象となった。つまり、日本の産業界は談合しすぎるし、政府と業界はあまりにも密着して協調しすぎるという事を攻撃した。しかも、それと同時にアメリカは国防総省先端開発局が中心となりセマテックという半導体の研究開発の共同体を官民の“協調”によって立ち上げた。
その結果、日本の半導体業界より有利な立場に立ち、それ以来、日本の半導体業界は米国に水を開けられたまま、今日まで来ているのである。
家電業界では、外圧によって通産省の産業政策が緩められたと同時に、高度経済成長につれて家電メーカーが強大になりすぎ、経済産業省(旧通産省)の支配下から解き放たれ、司令塔のいない多数の巨大メーカーの混戦場となった。国にも、業界にも、全体の調整を図る機能が弱まっていった。
そして、国のリーダーとか業界のリーダーばかりではなく、個々の企業のリーダーも、リーダーに最も必要な要件の一つである全体観的物の見方を理解せず、国や業界や自らの企業の全体最適や長期戦略的思考という事が欠落してきたのである。その結果、日本では、他の企業でやっているからわが社でもやらねばという発想が多く、狭いマーケットで激戦が繰り返される状態が続き、体力を消耗していった。
それと同時に、今後、非常に発展する可能性の高いスマートフォンの分野では、日本のメーカーの存在がほとんど皆無に近い状態になっている。つまり、経済産業省の産業政策が健在ならば、こういう事態にはならなかったと思われ、又、政府の主導がなくても、業界全体が協調すれば、こういう状態は避けられたはずである。
さらに悪いことには、日本が産業政策を用いるのをためらっている間、アジアの国々では国家資本主義とも呼ぶべきアジア特有の資本主義を形成し、日本が利点を失うという状況が出現してきている。
上記の家電業界では今期は社長が交代し、経営再建策が打ち出されるであろう。
真に高付加価値商品を創り出し、小さくとも寡占市場を生み出せるかが鍵となろう。同時に、弱い分野や後発の分野は他メーカーと組み協調する戦略も必要である。力を結集させることが肝要である。
ソニーは、日本的経営の特徴である長期思考に基づきリスクを取ることができる自由闊達な企業文化を育み、それでいて国際化と言う点で最も成功を収めてきた会社である。その延長上で、さらに国際化を進めるために米国人のトップを持ってきたと考えられるが、それ以来、ソニーからは消費者を喜ばせる新製品が出ていない。国際化という名の元にソニーの最も基本的な企業文化を失ったのではないだろうか。国際化とは外国の文化を学ぶと同時に、日本の文化を真に理解することであることを付け加えたい。
4.経済を維持するには外に出るしかないが・・・
表2 2009年の日本の大陸別輸出額(概算)
大陸名 輸出額 人口
アジア 30.7 3672
北アメリカ 30.7 3672
南アメリカ 11.4 487
ヨーロッパ 0.5 346
アフリカ 7.1 727
オセアニア 0.2 794
合計 1.2 31
(輸出額単位:兆円)(人口:百万人)
(輸出額の資料:総務省・統計局)
(人口の資料:世界各国Webデータベース2004)
表2は電機メーカーだけに限っていないのだが、極めて大雑把に世界の各地域に日本はどの位輸出しているのかをまとめてみた。
表2からわかることは大方の読者が予測されるように日本はアジアへの輸出が一番多く、その次、北アメリカであり、ヨーロッパと続く。しかし南アメリカへの輸出となると、ヨーロッパと比べて人口は半分くらいなのに、輸出は10分の1以下である。また、アフリカは平均所得が低いので、そんなにすぐに輸出の増加は期待できないが、人口はヨーロッパよりも多く、将来の市場としての可能性はかなり高いと考えられる。なによりも、資源の豊富な大陸であり、戦略的に大事な所である。
とは言え、こういう地域には大企業といえどもなかなか手が回らず、単独で支店や出張所を置いて拡販体制を取ることは困難であろう。
こういう地域にこそ、業界全体として協調、協働するべきである。ご承知のように、中国はすでにアフリカ大陸に非常な勢いで進出している。韓国も動いている。日本の経済的繁栄を維持していくには、国際的に外に打って出る以外にない。そのためには日本人を国際的に活躍できるように教育することは政策の根本となる。
2011年3月17日の本欄「英語が得意でない人のための留学のコツ」で書いたことであるが、世界で経済的に発展の著しい中国、インド、韓国は日本よりも多くの留学生をアメリカに送っている。韓国では人口は日本の半分以下でありながら、日本の3倍近くの留学生をアメリカに送っている。韓国の輸出がなぜ非常な勢いで伸びているのか、これからもわかるのである。
日本人は英語ができないから、留学をしないのだろうか、あるいは留学しないから、英語ができないのだろうか。英語を母国語としないアジアの30カ国で2011年にTOEFLという英語の試験をしたところ、日本より平均点が低かった国はカンボジア、ラオス、タジキスタンの3カ国しかなかった。また、アフガニスタン、ミヤンマー、モンゴリア、北朝鮮は、日本より平均点が高かったのである。
5.この技術鎖国状態を改めるべきであろう
これからの国際競争は如何に国際標準を自国のものにできるかで勝負が決まると言われる。日本の電化製品が国際標準に会っていないがために、シンガポールで売れないという話を聞く。国際標準はヨーロッパ系の国々がその国の数に物を言わせて、技術的には日本の方が優れていても、多数決の段になって、ヨーロッパ系の技術に負けるということがある。これらの技術標準を抑えるためには、多くの国々の人々とよく話し合い、理解しあって、支持をもらわねばならない。現在の日本はそういう意味ではほとんど鎖国状態だと言っても過言ではない。
そのもっとも具体的な例は、2009年8月にNHKの「追跡A to Z」でUHV(超超高圧)送電の国際標準をめぐる日本とヨーロッパ勢との、主としてドイツとスウェーデンとの熾烈な戦いが、「ニッポンは勝ち残れるか、激突 国際標準戦争」というタイトルで放映された。
ドイツは今まで1050kVと1200kVを国際標準として抑えていたが、未だ実施はできていなかった。そこへ日本が1100kVの超超高圧送電の技術を確立し、国際標準にしようとしたわけである。国際標準にするためには、多くの国から来た委員の支持を受けなければならないが、ヨーロッパ系が団結して、日本のその動きに立ちはだかった。
しかし、この日本の技術はすでに隠密の内に中国で実施済みであり、アジア委員会では協力体制ができていた。ヨーロッパ勢は中国のマーケットを完全に放棄する事はあまりにも失うものが大きいとみて、土壇場で日本の技術を国際標準として認めたのである。
この例から得られる教訓は、日本がどんなに技術的に優れたものを開発しても、政府の強力なバックアップがあり、政府、業界、企業が一体となって協調戦略を取らない限り、世界の競争には勝てないということである。日本の技術が国際標準として認められなければ、その業界のみならず国として莫大な経済的利益を逸失する事になるのである。そして、その戦略を実行させるには、多くの国々の人々と、英語による、異文化コミュニケーション能力が必須である。日本の携帯電話やスマートフォンが世界的なレベルではほとんど存在感がないというのは、国際標準を抑えられているのも大きな要因の1つである。日本のリーダーの全体観がますます問われる時代に入った。
統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術
「統計学」と聞くと、難しい数式とグラフを思い浮かべ、抵抗感を持っている人が多いでしょう。とくに文科系の人であればその思いは強いはず。でも、一度、統計学の視点で世の中を見渡してみると、物事は大きく違って見えてきます。数学が苦手だった人でも吉田教授の“講義”なら大丈夫。難しいことはありません。経営とビジネス、そして人生に役立つ統計学です。
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吉田 耕作(よしだ・こうさく)
カリフォルニア州立大学名誉教授、ジョイ・オブ・ワーク推進協会理事長。経営学博士。1938年東京生まれ。1962年早稲田大学商学部卒業。68年モンタナ大学で修士号(ファイナンス)を取得。75年ニューヨーク大学でデミング博士、モルゲンシュタイン博士に学び、博士号(統計学)を取得。75年からカリフォルニア州立大学で教鞭をとる。99年青山学院大学国際政治経済学部教授。2001年から2007年まで同大学院国際マネジメント研究科教授。86年から93年まで、デミング4日間セミナー「質と生産性と競争力」でデミング博士の助手を務めた。統計的な考え方をベースとして、米国連邦政府、ヒューズ航空機、メキシコ石油公社、NTTコムウエア、NTTデータ、NECなどを指導。著書に『国際競争力の再生』『経営のための直感的統計学』、『直感的統計学』、『ジョイ・オブ・ワーク――組織再生のマネジメント』、『統計的思考による経営 』など
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