http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/578.html
Tweet |
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE82P00F20120326?sp=true
ソニー盛衰の時、平井新社長が担う「ゲーム」の結末は
2012年 03月 26日 09:53 JST
[東京 26日 ロイター] 満身創痍でステージを降りるハワード・ストリンガー氏が残した遺産は、輝きを失った「SONY」ブランドだ。空前の4年連続最終赤字を受け、ゲーム事業出身の平井一夫氏が社長兼最高経営責任者(CEO)としてこれを引き継ぐ。
戦後復興の町工場から世界を席巻したソニー(6758.T: 株価, ニュース, レポート)は今、アップル(AAPL.O: 株価, 企業情報, レポート)やサムスン電子(005930.KS: 株価, 企業情報, レポート)の隆盛の陰で存在感を失った。iPod(アイポッド)の協業で故スティーブ・ジョブス氏から誘いを受けたのは2001年。当時ソニーの時価総額は10兆円前後を誇ったが、今や1兆円台と、海外強豪に軽く買収されるほどの水準に落ち込んだ。
ソニー再生の道はないのか──。この問いに答えたのが久多良木健氏だった。ソニー元副社長でソニー・コンピュータエンタテインメント (SCE)を立ち上げた「プレイステーション(プレステ)」の生みの親。「異才」の異名を持ちながら05年に志半ばにソニー本体の取締役を退任した。だが 運命は交差する。SCE後継者の平井氏が、ソニーのトップに駆け上がる。
東京都内の住宅街でロイターの取材に応じた久多良木氏は「ゲームのルールを変えて現状をひっくり返せるチャンスはいくらでもある」と語った。アップルも90年代後半に経営危機に瀕したが、ジョブス氏の復帰を受けて見事に復活した。ソニーもアップルも人が考え付かないようなことをどこよりも早く実現して世の中を驚かせてきた。だからソニーにも次のチャンスはある――と。
アップルの時価総額はソニーの25倍。盟主の座は入れ替わり、圧倒的な差をつけられたが、ゲームは続く。次にソニーは巻き返せるか、それとも負けを繰り返して転落を続けるか。剣が峰に立つ平井氏の課題を追った。
<スマートテレビ戦争前夜>
「もはやこの局面でテレビを単独で展開できると思い込まない方がいい」。ソニー首脳はロイターに対し、パナソニック(6752.T: 株価, ニュース, レポート)・シャープ(6753.T: 株価, ニュース, レポート)との「日の丸テレビ」構想に言及した。ソニーが東芝(6502.T: 株価, ニュース, レポート)と日立製作所(6501.T: 株価, ニュース, レポート)と共同で設立する中小型液晶会社「ジャパンディスプレイ」がモデルで、政府の協力を得て日本連合で韓国勢に対抗する構想が「1つのオプション」という。
ソニーにとって再生のカギを握る中核のテレビ事業は深刻な巨額赤字に苦しむ。この8年の累積赤字は7000億円超。価格下落と競争激化で、 トップメーカーのサムスン電子ですら苦しい。超円高も重荷で巨額赤字を計上するパナソニックやシャープも同じ構図だが、事業統合論が出るまでにテレビの苦 境は根深い。
ソニー単独での再建計画は昨年11月に公表済み。2年後に黒字化する目標に向けて、サムスンとの液晶合弁会社「S―LCD」の解消を決め た。米国法人ソニー・エレクトロニクス(カリフォルニア州)のフィル・モリニュー社長はロイターの電話取材で「液晶工場を持たないことは利益面で有利」と 述べた。台湾勢など巨大な液晶パネルメーカーから「格安のパネルを調達できる」からだ。
だが、サムスン側はソニーとの液晶合弁解消を受けて1つの決断に踏み切った。赤字の液晶パネル事業を分社化して有機ELパネルを製造する。 これまでの液晶合弁ではソニーとの協議で工場の運営方針を決めなければならなかったが、フリーハンドを得て一気に有機ELに舵を切る。サムスンとLG電子 (066570.KS: 株価, 企業情報, レポート)は今年後半にも55型の大型有機ELテレビを発売する計画だ。
サムスンとLGが市場投入を計画する有機ELテレビの価格帯は8000―1万ドルと予想され、同サイズの液晶テレビの10倍近く。平井氏も 2月9日のロイターなどとのインタビューで「あと2―3年は液晶の時代が続く」として有機ELの時代がすぐに訪れることはないとの見通しだった。
しかし、ソニーの見方は甘いかもしれない。久多良木氏はロイターに「有機ELは大方の予想を超えて、あっという間に普及が進む可能性があ る。ブラウン管が液晶に置き換わった以上のスピードで進んでいくのではないか」と述べた。その上でソニーを念頭に「日本の家電業界が、まだ2―3年は液晶 でやっていけると思っているなら致命的な判断ミスになるかもしれない」と警鐘を鳴らした。
折しもアップルが テレビ市場に参入するとささやかれ、スマートテレビ競争へ一気に火が点く情勢だ。久多良木氏は「サムスンやLGがスマートテレビへの移行に合わせて有機 EL搭載で誰でも分かる差別化を打ち出そうとしているのに、日本メーカーは安く買える液晶パネルを使った従来型テレビで勝負するのでは、スマートフォン時代にフィーチャーフォン(従来型携帯)で戦うようなもの」と懸念する。
ソニーは07年に11型の有機ELテレビを世界で初めて発売したが、大型化に乗り出すことなく生産を中止した。パネル工場を持たないソニー はディスプレイの差別化勝負を捨てたようにみえる。だが、新興国での格安テレビに走るなら「SONY」ブランドを維持するのも難しい。かつてソニーの子会 社アイワ(AIWA)は、生産を人件費の安い海外に移して低価格路線を走ったが、海外メーカーの台頭でコストの優位性がたちまち消えてブランドそのものが 消滅した。
ソニーは10年10月に世界に先駆けてアンドロイドOS(基本ソフト)搭載の「グーグルテレビ」を米国で発売したが、LGやサムスンが追随してきており、アップル参入を前にスマートテレビの戦略に腰が定まらない。すでにスマートフォン市場はアップル・サムスンの2強に埋もれているが、次の時代のテレビ戦争をソニーがどう描くのか、明確な道はまだみえていない。
<OS戦争、入り込む余地なし>
テレビ事業の立て直しとともに平井氏に課せられているのはネットワーク戦略の結実だ。昨年4月に情報流出事件を起こすなど混乱が続いたが、 同年秋には、映画・音楽・ゲームのネットサービス「ソニーエンタテインメントネットワーク(SEN)」を立ち上げた。またテレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットを重点端末に位置付けて、2月には携帯合弁ソニー・エリクソンの完全子会社化を完了した。
だがアップルの背中は遠い。アップルのネットサービスの成功は、「アイチューンズ」をiPod(アイポッド)・iPhone(アイフォー ン)・iPad(アイパッド)の端末に配信するだけでなく、「iOS」という独自OSで支配領域を確立したことにある。パソコンの世界を制したマイクロソ フト(MSFT.O: 株価, 企業情報, レポート)のウィンドウズOSに続き、モバイルの世界では、アップルとグーグル(GOOG.O: 株価, 企業情報, レポート)の2強によるOS戦争の構図が完成している。
このOS戦争にソニーは入り込む余地もなかった。むしろグーグル陣営の一員としてスマホやタブレットのほかテレビやウォークマンにもアンドロイドOSを採用。「タブレット端末はアップルに次ぐ業界2位の座につきたい」と述べるなど、ネット業界の勢力争いには参加する意欲すら示していない。
プレステ事業の赤字を5年ぶりに解消した功績で副社長に昇格し、社長に上り詰める平井氏は、ゲーム事業の収益基盤が安定した今、世界規模で のネット業界の勢力争いに打って出るのか。2月9日のインタビューで平井氏は「プレステの事業モデルをソニー全体に広げていく。プレステはハードがソフト を強化し、ソフトがハードを強化するモデルで、それらはすべてネットワークでつながっている。ソニー全体に応用できる」とだけ述べた。
平井氏がかつての久多良木氏のようにプレステOSを駆使して、今のアップル・グーグルのOSの牙城を攻めるシナリオは考えにくい。もはやモバイルOSの世界では2強で決着がついているからだ。ただ、このOS戦争は「端末側」の勢力争いだ。今後のクラウドコンピューティング時代では「サーバ側」でのルール構築に舞台がシフトする。すでにフェイスブックやツイッターが、端末側のOS戦争を無視して独自の支配領域を築きつつある。
平井氏の「プレステ事業の応用モデル」の詳細は不明だが、ロイターに対して久多良木氏は、自ら立ち上げたプレステ事業について「ハードとソ フトを区別して考えたことはない。一般的なハードに既存のコンテンツ群を流し込むというモデルではない。ハードもソフトも一体で生み出した」と述べた。
その上で「アップルが 提供しているユーザー体験もハードとソフトが不可分のもので一体だ。平井はSCEで長年しっかりとキャリアを積んできたので、ハード・ソフト一体で新しい ユーザー体験をトータルで提供するビジネスをよく理解している」と期待する。果たして平井氏はクラウド時代においてネット業界の勢力図を塗り替えるだけの モデルを構築できるのだろうか。
<ソニーとは何か>
「ソニーの本業はテレビと言われるが、それはおかしい」と述べるのは前CEO兼会長の出井伸之氏だ。東京大手町で自ら創業したコンサルティ ング会社クオンタムリープで取材に応じた。出井氏は「日本からみればハードウェアの会社だが、テレビやビデオやオーディオの伝統的なソニーだけでない。パ ソコンやゲームのネットワークハードに音楽・映画・金融を加えると、それが売上の半分以上を占める。ソニーはネットワーク化の方向に進み、サービス産業を 始めた会社だ」と語り、ソニーをエレクトロニクス企業と定義されることを嫌う。
出井氏が社長に就任したのはウィンドウズ95が発売された95年。同氏は、「インターネットはビジネス界に落ちた隕石」と述べ、それまで ハードウェア製品が中心だったソニーの経営をネットワークとソフトウェアの路線へと急速に舵を切った。05年の退任までの10年間で連結売上高を4兆円弱 から7兆円超まで拡大したのは、パソコン、ゲーム、音楽、映画、金融など「伝統的なハード以外の事業」が伸びたためだ。
一方で、出井時代はソニーの転換期でもあった。経営コンサルタントの天外伺朗氏(本名:土井利忠氏=ソニー元上席常務)は「ソニーは95年 から新しい商品提案が出来ていない。出井さんが社長になったときからだが、その頃から会社がおかしくなってしまった」と語る。天外氏は、99年に発売の犬 型ロボット「AIBO」を開発したエンジニアで、06年に退社するまで40年間をソニーで過ごした。
「モノ作り軽視」と批判されることが多かった出井氏はAIBOも冷ややかに見ていたようだ。土井常務のAIBO開発チームの肩身は狭く、最 後は撤退に追い込まれることになる。出井氏が目指していたのは「ハード売り切り」ではなく、通信事業のように「売ってから儲ける」モデル。JスカイB(現 スカイパーフェクTV!)の立ち上げに参加したり、第一種通信業の免許を取って通信会社サービスを開始したのもこの頃だ。
だからAIBOのような単品商品はその構想から外れた。一方で、放送事業も通信事業もソニーのコア事業になることはなく、ほどなく「エレク トロニクス空洞化」の懸念が爆発する。03年春の「ソニー・ショック」だ。ITバブルで00年3月にピークを付けたソニー株は、03年4月24日の決算発 表でエレキ事業の四半期損失が1000億円を超えたことが引き金となり売りが殺到。他のハイテク株や相場全体に波及して日経平均はバブル後の最安値を割り 込んだ。
<エレキ本流VSソフト・ネット路線>
あるソニーのOBは「創業期のソニーにはひとつの病理があった」と明かす。ハードを開発するエンジニアが大切にされた裏で「営業・管理は下 の身分」との風潮がまん延していたという。95年に出井氏が14人抜きで社長に抜てきされた当時もその風潮は根強く、出井氏は営業畑で異例中の異例人事 だった。自身も著書「迷いと決断」の中で「エンジニア集団のソニーで文系出身の私をトップに据えるのは、士農工商の士の上に商を持ってくるようなものだっ た」と当時の大賀典雄社長から指名を受けた時の驚きを語っている。
ソニー・ショック以降に表面化したのは、エレキ事業の混乱だけでなくソニーが巨大化する過程で生じた社内の亀裂だった。創業以来ソニーの 「保守本流」はエンジニア。これに対して非技術系の出井氏はネットワークとソフトウェア路線へ突き進んだが、05年にはエレキ不振で退陣した。ソニー・ ショック直前の03年4月1日から副社長に就任した久多良木氏が取締役を退任したのもこの時だ。
後任に選ばれたのがエンターテイメント事業の立て直しで頭角を現したジャーナリスト出身のストリンガー氏。同氏は「サイロを壊す」と宣言 し、グループ団結の「ソニー・ユナイテッド」を唱えて亀裂の修復に努めたが、一方で、リストラで工場や研究所の閉鎖を断行した。AIBOの発売中止もこの 頃だ。これでエンジニアの流出をもたらした。
有力技術者として知られていた前田悟氏(金沢工業大学客員教授)が開発した携帯テレビ端末の「エアボード」は00年の発売だが、10年後に世に出るアイパッドの 先駆けになり得た。12.1インチ画面の液晶タッチパネルを搭載してインターネットでメールもできるエアボードはタブレット端末の原型。04年に「ロケー ションフリーテレビ」に改称して外出先でもテレビを視聴できるシステムに発展したが、ソニーは十分なバックアップ体制をとらず、アイパッドを迎え撃つこと もなく発売中止を決定した。前田氏は「もうソニーにいてもやれることはない」と判断して07年に退職した。
リーマンショック前後の人員削減で、リストラはほぼ慢性化している。開発部門に所属する40代の現役エンジニアは、この数年で同僚が次々に 辞めて行く中で「会社の将来性に自信が持てない。誰も明るい展望を描けていない」と力なく語った。ストリンガー氏は経営陣向けの技術開発報告会はほとんど 姿を現さなかったという。
日本に住まないCEOにとって日本語の壁は厚かった。米国のエンターテイメント界では「話し上手」として知られ、米国ソニーで「細やかな気 遣いができる」と慕われるストリンガー氏も、エレキ本拠地の日本での一般社員の存在感は「ゼロに近い」(同エンジニア)。あるソニーの幹部によると「ハ ワードは日本の幹部に指示するとき、自分の言っていることが理解されているのか、本当に聞いているのか、それが分からずにいつもストレスを抱えていた」と いう。
<ワン・ソニーの狙い>
音楽事業とゲーム事業のキャリアを積んだ次期社長の平井氏は、エレキ本流からみればソフト畑の「非主流派」だ。出井氏、ストリンガー氏に続 く非技術系のトップになる。平井氏はストリンガー氏の「ソニー・ユナイテッド」を引き継いで「ワン・ソニー」をスローガンにすると表明した。
それは出井時代から続く亀裂の修復の狙いが見えてくる。ソフト・ネット路線に対立するエレキ陣営との融合だ。ストリンガー氏にとっては、久 多良木氏が創業したSCEが「孤立した島」で断絶した存在だった。だが、久多良木氏が去った後、平井氏がSCEの拠点を本社に吸収したことで「1つのサイ ロはなくなった」(ストリンガー氏)と述べている。
これからもハード(=エレキ)とソフトの融合が最大課題だが、ストリンガー氏はロイターのインタビューに答え「(映画と音楽の)エンターテ イメント事業は好調で世界トップクラスに位置している。だからカズ(平井氏)はエレキ事業に集中できる時間はたっぷりある」と述べた。さらに「カズは融合 に関する知識を持っている。彼が経験したプレステ事業こそ将来のモデルになる」と語った。
だが「ハードとソフトの融合、ネットワーク戦略」のスローガンが、時代とともに意味を変えて混乱をもたらしたことは確かだ。平井氏には明確 な方針の提示が求められるだろう。久多良木氏は「抽象的なスローガンではなく、何に具体的にチャレンジするかをクリアーにすることが大事だ。ウォークマン を作る、ベータマックスを作る、プレステを作ると言った方が分かりやすいし、組織は動きやすい」と述べる。出井時代の末期に副社長を務め、ストリンガー時 代の始まりとともにSCEも去ることになった同氏の経験は重い教訓になる。
<チーム平井の始動>
取締役会議長に退くストリンガー氏はもはやCEOではない。欧米でCEOとは会社のすべてを掌握して責任を持つ立場だ。それを誰より強く認 識しているストリンガー氏はロイターに対し「私の役割はCEOにアドバイスすることだ。そしてカズとの関係を構築することだ。それは彼が望む限りにおいて である」と強調。経営執行に影響力を持つとの見方を否定した。
昨年4月から平井氏は副社長としてコンスーマ家電グループを担当しているが、テレビ担当の今村昌志事業本部長、デジタルカメラ担当の高木一 郎事業本部長、パソコン担当の鈴木国正事業本部長、ゲーム事業のSCEのアンドリュー・ハウス社長などのメンバーで定例ミーティングを開いてチームの連携 を強めてきたという。ハウス氏はロイターに対して「この20年間のソニーにはなかったほど開放的で率直な議論ができている」と語った。これも一種の「サイ ロ」である縦割り組織の壁を取り払う試みの1つだ。
コンスーマ家電に加え、平井氏は4月からプロフェッショナル機器もカバーする。課題は「技術のソニー」の復権だ。プロフェッショナル機器の 開発拠点で「技術の総本山」と呼ばれる厚木事業所は、久多良木氏のほか、エアボード開発者の前田氏、非接触ICカード「フェリカ」を開発した日下部進氏、 テレビの高画質化技術「DRC」を開発した近藤哲二郎氏など有力技術者を輩出したが、皆ソニーを去ってしまった。現役エンジニアからは「今の体制で CTO(チーフテクノロジーオフィサー)がいないのは残念。次世代の技術を目利きして直感で判断できる人材が経営に必要だ」との声が出ている。
エレキの経験がない平井氏について、久多良木氏は「それ自体は本質的な問題ではない。エレキの経験がないがゆえに内外の才能を集めてすごい チームが作れる可能性もある」と語る。プレステの成功はチームが作った。CBS・ソニーから丸山茂雄氏が参加するなど「音楽人脈」が計り知れない役割を果 たした。平井氏を音楽事業からSCEに呼び寄せたのも丸山氏。異文化チームの融合がソニーの歴史を作ってきたのは確かだ。
「内外の才能の集結」で久多良木氏の復帰を求める声もある。エアボードでアイパッドに先駆けながらソニーを去った前田氏は「ソニーには強いリーダーシップを持ったカリスマが必要だ。それは久多良木しかいないのではないか」と語る。アップル復活も一度は会社を追われたジョブス氏の復帰があって実現した。「ジョブスのような強いリーダーシップは経営者や従業員にとって怖いことだが、そこから逃げてはいけない」とも指摘している。
<アップルの因縁>
トランジスタラジオ、トリニトロンテレビ、ベータマックス、ウォークマン、CDプレーヤー、8ミリビデオ――。1946年の創業以来、創業 者の井深大氏が目指した「愉快なる理想工場」の世界でソニーは新しい製品を次々と開発することで会社を伸ばしてきた。同時に、音楽会社、映画会社を買収し てコンテンツ分野に進出。プレイステーションのゲーム事業も手掛け、金融事業も傘下に持つ複雑で巨大なコングロマリット企業に成長した。
創業期から90年代初頭までソニーを引っ張ったのは間違いなく技術者たちだ。カセットプレイヤーもヘッドホンもすでに世の中にはあったが、 既存の技術を応用してウォークマンは生まれた。共同創業者の盛田昭夫氏は「発明だけではなくプロダクトプランニング(商品企画)。想像力を働かせることで 世の中の人に新しい喜びを提供できる」と社員を鼓舞し、それに応えた技術者たちは昼夜を問わずに試作品の製作に没頭、誰もが驚くイノベーティブな製品を 次々と世の中に送り出してきた。
アップル創 業者のジョブス氏は盛田氏に憧れを抱いており、ウォークマンを調べ尽くしてアイポッドを開発したとされる。「一致協力してマイクロソフトを打倒しないか」 ―。2001年1月にソニー本社を訪れたジョブス氏は、まだ発売直後で普及していなかったアイポッドの協業を持ちかけたという。ウォークマンがアイポッド に完敗する前の話だ。しかし当時、「VAIO」を主力商品としたソニー側はマイクロソフトとの関係に配慮する態度をとってジョブス氏を怒らせてしまい、提 携話は立ち消えになった。その会合に部下を派遣した前田氏は「仮に実現していれば今とはまったく違った世界が開けていた」と述べる。
当時のソニーの時価総額は現在の10倍近くで、アップルの 株価は10ドル近辺をさ迷っていた。実際、あるソニー元役員によると、1990年代前半の大賀社長時代の役員会で出井氏の提案を受けて、ソニーがアップル 買収を議論したこともあるという。だが今や、アップルの時価総額は約5600億ドル(約45兆円)を超え、ソニーの25倍。アップルが株主還元を決めた手 元資金は980億ドル(約8兆円)だが、これでソニー4―5社分を軽く買収することができる。
株価は数十年来の安値圏。ある政府関係者は「株安に円安が加わると技術やブランドをねらって中国メーカーが買収に動いてきてもおかしくな い」との危機感を示す。ソニーの元役員すらも「メーカーより投資ファンドがソニー買収に動いてくるかもしれない」との話題を持ち出した。実際、あるアナリ ストの試算では、ソニーのエレクトロニクス、映画、音楽、金融の各事業の時価総額を類似企業の買収価値から算出して改めて合算したところ、合計で2兆円を 超えた。ソニーの事業を解体してバラバラに売却すれば2ケタ台のリターンが得られる単純計算だ。
巨大化の末に生じた社内の亀裂と断絶。さらなる低迷はソニーの存続も危うくする。「ソニーしかできないことを、ソニーがやらなくなったら、 ソニーではなくなる」―。創業者の井深氏は語ったが、「モルモット」であることを誇り、誰もが驚く商品を誰より早く世の中に出すのがソニーだったはず。求 心力を取り戻し、世界のゲームに勝つためには「次の時代の挑戦がどこにあるかを考えて、未来に向かって何をやるのか。それを素早く決断することが必要だ」 という久多良木氏の言葉が響く。
(ロイターニュース 村井令二 ティム・ケリー 取材協力:ネイサン・レイン 白木真紀 リアナ・ベーカー;編集 橋本浩)
「失われた10年」 ソニー・アップル・サムスン電子の株価推移
出典:Thomson Reuters Datastream
(2012年3月26日作成)
1万円回復、追加緩和が条件か
日本株の調整が深まっている。上昇トレンドに戻るには新たな材料が不可欠との見方も。 記事の全文 | 特集ページ
ソニー最終赤字、過去最大5200億円
北朝鮮「衛星」打ち上げ、中国の苦慮
韓国ツイッター世代が野党を後押し
「ベーコン棺」を米社が販売、24万円
トップニュース
北朝鮮の「衛星」打ち上げ阻止、中国の本気度は 7:21pm
ソニー最終赤字が過去最大5200億円に、米国の繰延税金資産取り崩し 8:16pm
ユーロ圏経済は転換点に達した可能性、主要国は低迷続く=OECD 8:04pm
シャープ最終赤字が過去最大の3800億円に、液晶出荷の遅延で 8:03pm
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。