http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/572.html
Tweet |
http://diamond.jp/articles/-/17027
真壁昭夫 [信州大学教授]
“世界危機”不安は喉元を過ぎて忘れられたのか?
期待先行の「金余り相場」が映し出す真のリスク
金融不安は小康状態に入ったが……。
足もとの「金融相場」に見える不安
一時期懸念されていたユーロ圏の信用不安問題や原油価格高騰などの問題は、とりあえず最悪の状況を脱し、足もとで小康状態を保っている。それに伴って、金融市場は世界的に少しずつ安定性を取り戻しているように見えた。
そうした状況の背景には、世界の主要国が金融を緩和し、潤沢な流動性=お金を供給していることがあることを忘れてはならない。ユーロ圏の中央銀行であるECB(ユーロピアン・セントラル・バンク)は、昨年12月21日と今年2月29日に、合計で約1兆ユーロの資金を市中に注入した。
米国のFRBは、昨年6月までQE2(量的緩和策第2弾)で6000億ドルの紙幣を刷って市場に供給した。わが国の日銀も、今年2月に10兆円の追加金融資産購入=資金供給を発表した。
さらに、中国などの新興国でも金融政策は緩和気味に運営されており、世界中に資金が有り余るほど潤沢に供給されている。資金が潤沢に供給されると、基本的に金融機関や企業の資金繰りは楽になる。
資金繰りに余裕が出ると、多くの人々は「お金を使おうか」という気になり易く、景気は回復傾向に向かう可能性が高まる。
潤沢な資金の一部が、投資資金として株式市場などの金融市場に流入すると、株価は堅調な展開を示す可能性が高まる。いわゆる“金余り相場”、あるいは“金融相場”と呼ばれる展開になる。
しかし、“金融相場”には一種の危うさもある。景気の回復が進むと、いずれ金融政策は緩和から引き締め気味に転換期を迎える。そうなると、頼りの“金余り”の状況に微妙な変化が生じる。
問題は、そうした状況を乗り越えて、本物の景気回復が実現できるか否かだ。回復が本物になれば、景気は上昇傾向を維持し、金融市場もそれなりの堅調な展開になる。
一方、それができないと、再度景気の先行きは不透明になり、金融市場も不安定な展開になる。そろそろ、分水嶺に近づきつつある。金融緩和は時間稼ぎに過ぎない。
次のページ>> 金融当局も認めた「時間稼ぎ」の金融緩和策が抱える危うさ
かつて日銀の幹部は、「金融政策は時間稼ぎに過ぎない」と発言したことがある。中央銀行の幹部としては、かなり思い切った発言だ。解釈によっては、中央銀行自体の存続意義を危うくすることにもなりかねないからだ。
ただ、この発言は金融の専門家から高く評価された。まさにその通り。金融緩和政策を採って資金を潤沢に供給することによって、経済全体に一瞬の安堵感を与えることができる。
しかし、それで問題が片付いたわけではない。短期的に資金繰りが安定するため、切迫感が一時的に緩和されるに過ぎない。景気の低迷が続いたり、企業業績の悪化が続くと、一時的に楽になった資金繰りが再び苦しくなることは避けられない。
金融当局も認めた時間稼ぎの危うさ
金融緩和の長期化が抱える「課題」
重要なポイントは、金融当局が緩和策をとって時間稼ぎをしている間に、景気が少しづつ回復傾向を辿ることであり、企業業績が改善に向かって進み始めることだ。それができないと、金融緩和策をいつまでも続けなければならない。金融緩和策を長く続けることには、主に2つの問題がある。
1つは、金融緩和策自体の効果が薄れることだ。政策に関しては何ごともそうだが、特定の政策が最初に実行されるときには、サプライズとして作用することで大きなインパクトを期待することができる。ところが、当該政策を繰り返してしまうと、サプライズの作用は薄まり、次第にその効果も低減することになる。
もう1つは、金融緩和策を長く続けると、有害な副作用が懸念されることだ。“金余り”状態が続くと、金融市場でバブルが発生することも考えられる。あるいは、貨幣価値の下落によってハイパーインフレが発生することも懸念される。金融政策に過度に依存することには、リスクがあることを忘れてはならない。
主要国の積極的な金融緩和策に支えられて、世界経済はとりあえず安定化したように見える。しかし、冷静に考えると、無視できないリスクファクターは依然として残っている。
次のページ>> 解消されない欧州の景気減速と、エネルギー価格の高騰
欧州の景気減速とエネルギーの高騰
リスクファクターは解消されていない
最も大きなリスク要因は、ユーロ圏の信用不安問題だ。ギリシャの無秩序なデフォルトは何とか回避され、ユーロ圏の金融機関の資金繰りもとりあえず小康状態を保っている。
しかし、信用問題の根源である、南欧諸国の財政悪化問題が片付いたわけではない。まずギリシャも、今後実施される総選挙で新政権が樹立された後、今までの約束が反故にされる可能性が指摘されている。
ギリシャに続いて、ポルトガルやスペインにも信用不安の波が及ぶ可能性があり、それが現実のものになると、いよいよイタリアにその波が波及することも考えられる。その場合には、ユーロ圏だけではなく、世界的に金融システムに不安が及ぶだろう。それは、世界経済の足を引っ張ることになるはずだ。
また、イランの核開発問題に関連して、原油価格の上昇懸念も忘れてはならない。すでに原油価格の上昇の影響は、様々な分野で顕在化している。
わが国企業の景況感を見ても、原油価格の上昇によるコストアップが顕著になっており、企業収益を圧迫する状況になっている。今後、原油価格の上昇でガソリン価格が上がるようだと、米国経済にもマイナスの影響が及ぶことは避けられない。
ユーロ圏の景気減速やエネルギー価格の上昇は、中国などの新興国経済にも悪影響を与える。中国の輸出にはすでに陰りが見え始めており、それが続くと中国経済の減速は一段と鮮明化することになるだろう。そうしたリスクファクターが顕在化すると、金融政策だけで解決できるとは考えにくい。
現在、世界経済が抱えるリスクファクターを考えると、主要国の金融政策がすぐに転換するとは考えにくい。むしろ、緩和気味の金融政策が長期化することが予想される。
次のページ>> 「喉元過ぎれば熱さ忘れる」今後も金融政策に一喜一憂
一方、金融緩和政策の長期化には弊害も伴うため、政策当局とすれば、どこかで政策を正常化することを志向するはずだ。
問題は、そのタイミングだ。金融政策変更のタイミングを誤るようなことになると、しばらく安定を取り戻しつつあった経済と金融市場の動向を、再び不安定化してしまう懸念もある。
経済状況を適切に判断すると同時に、金融市場とのコミュニケーションを図ることで、的確に政策当局の意図を市場にスムーズに伝えることを考えなければならない。各国の政策当局とも、市場とのコミュニケ―ションには細心の神経を使うことだろう。
もう1つの問題は、金融政策に過度に依存することには危うさ=リスクがあることだ。金融政策は時間稼ぎである以上、経済が抱える根本原因を解決するものではない。時間を稼いでいる間に、大元の原因を取り除く努力をしなければならない。
「喉元過ぎれば熱さ忘れる」
今後も金融政策に一喜一憂の展開
ところが、人間はとりあえず安心感を持つと、どうしても問題解決への努力が疎かになってしまう。それが最も危険な状況だ。
「のどもと過ぎれば熱さ忘れる」とはよく言ったものだ。多くの人が金融政策の麻酔効果で安心してしまうと、原因の解決されていない問題は次第に大きくなって、最後にはさらに大きな問題となって姿を現すのである。
ユーロ圏の信用不安問題についても、財政悪化や収支の不均衡の問題が解決されない間は、いずれどこかで顕在化することは避けられない。金融市場の参加者の多くが安心しているときに、突然、市場が暴力的にその問題の是正に動く可能性もある。
そのときは、世界的に金融市場が混乱することになるだろう。金融政策の効果を過信すべきではない。
世論調査
質問1 あなたの周囲で、「世界危機」への不安は薄れていると感じる?
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。