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これからの日本について、自分のアタマで考えよう!
【第4回】 2012年4月3日
藤野英人,ちきりん
若い世代でネガティブな労働観が増えている!
お金儲けは悪だと洗脳され、会社ギライが多い日本人
今回は就活生・転職希望者必読! 投資は「いい会社」を選んで応援することが大事。つまりこの視点は就職や転職活動でも使える、と断言する、カリスマファンドマネジャーである藤野英人さん。人気ブロガーのちきりんさんの特別対談第4回は、若い世代に知ってもらいたい「今後の会社の選び方、働き方」について。日本人の多くが会社ギライなわけとは?
若者が「働くことの充足感」を
感じられない社会になっている
藤野 私は、明治大学でベンチャー・ファイナンスの授業をやっています。そこで感じることなんですが、日本の大学生は最近、すごく保守的になっていて、海外に出ていくどころか、ベンチャー企業や小さい企業よりも大企業に就職したい、さらには地方公務員になりたいという志向が強まっています。
その背景には、「会社嫌い」、さらには「労働嫌い」の思想が広まっていると思うんです。「働くことによる社会的な充足感」をすごく否定する雰囲気が広がっている。なるべく働かない方がいいという……。
ち きりん 関西出身。バブル最盛期に証券会社で働く。その後、米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。マネージャー職を務めたのちに早期リタイヤし、 現在は「働かない生活」を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブ ログ「Chikirinの日記」を開始。政治・経済からマネー・問題解決・世代論まで、幅広いテーマを独自の切り口で語り人気を博す。現在、月間150万 以上のページビュー、日に2万以上のユニークユーザーを持つ、日本でもっとも多くの支持を得る個人ブロガーの1人。著書に『ゆるく考えよう』(イースト・ プレス)がある。 ブログhttp://d.hatena.ne.jp/Chikirin/ ツイッターアカウント@InsideCHIKIRIN
ちきりん あら! それって私のことですか?(笑)
藤野 えっ、いやいや(笑)。だって、ちきりんさんは一所懸命働くことの価値を肯定しているじゃないですか。
僕が言っているのは、一所懸命働くことを是とする会社を、一律に「ブラック企業」とか呼ぶ風潮に対する疑問です。それは、「労働というのは、ストレスと時間とをお金に換えている」というような考え方であって、今、こうした労働に対するすごくネガティブな価値観が急速に広がっている気がするんです。
これって、ものすごく古びたマルクス主義じゃないですか。資本者家がいて、労働者を搾取しているという価値観。働くということは、時間とストレスの代償としてお金をもらうことだから、なるべく労働時間は少ないほうがいいし、残業はない方がいい。でも、そうした考えの人は、働くことの充足感があまりないんです。そして、彼らは変に理論武装していて、こちらが働くことの充足感を伝えようとすると、「資本主義をうまく働かせるために、そういう幻想を振りまこうとしているんだ」と反論してくる。
ちきりん たしかに、私も『蟹工船』が流行るとか、びっくりしました。彼らがまき散らしているのは、まさにマルクス主義的な「資本家と労働者は対立している」という階級闘争史観ですよね。
藤野 そう、そういう史観がすごく広がっている。たとえば、私のベンチャー・ファイナンスという授業は、明治の商学部の中でも意識が高い子が来ていると思います。なのに、その学生たちに最初にこの言葉のイメージを聞いたら、9割が、ベンチャー=ブラック、投資=ダーティ、だと。じゃあ、僕のやっているベンチャー・ファイナンスって、「ブラック・ダーティー」授業だ!って話ですよね(笑)。
ちきりん そんなイメージなんですか?? そこだけ聞くと、「じゃあなんで商学部に行くのよ」ってツッコミたくなりますね。
藤野 商学部ですらそうなんだから、法学部とか、文学部とか、理工学部の学生たちのベンチャー・ファイナンスに対するイメージなんて……絶望的ですよね。
次のページ>> 市場の評価=お金儲けは「悪」だ、という幻想
ちきりん そういえば、この間、私がブログでソニーのテレビ部門が8年間赤字だということに対して、「そんなところに優秀な技術者を8年間も置いておくことの無駄をよく考えてほしい」と書いたら、「技術者が金を生まないのが、何が悪いのか」というような意見が、わんさか来てびっくりしました。
自分が創りだしたものを市場が高く評価してくれて、それに対して十分な対価を払ってでも手に入れたいという人が世界中にたくさんいる、それがまさに価値創造なのだという感覚が全然ないですよね。
消費者のニーズや評価に関係なく、独善的に一所懸命に技術開発に打ち込んで、自己満足な高技術テレビを実現すればそれでいいと思ってるんだろうかと驚きました。
藤 野英人(ふじの・ひでと)レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)。 1966年富山県生まれ。90年早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、22年で延べ5000社、 5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立、現会社を創業し、現在は、販売会社を通さずに投資信託(ファンド)を直接販売する スタイルである、直販ファンドの「ひふみ投信」を運用。ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。ひふみ投信 http://www.rheos.jp/ ツイッターアカウント@fu4
藤野 「技術」と「市場」が別モノだと思ってるんですね。お金儲けは悪だ、みたいな(笑)。
ちきりん お金儲けを悪だと考えるのは、特殊な思想の方々に洗脳されてますよね。ただ、そう思う一方で、今の若者たちがそういう洗脳に陥ってしまうのは、彼らだけの責任とも言えないかな、とも感じます。
前回、年収300万円以下の人を対象にしたマーケットが大きくなっているという話がでました。今、仕事や労働にたいしてネガティブな意見を持つ人たちは、いままで一回も仕事で「面白かった」という経験がないままに30歳くらいになってしまってるんじゃないでしょうか。若者たちが「仕事による充足感」を体験できていない社会というのが、すごく問題だと思うんです。
藤野 そうなんですよ。社会や周囲の大人たちが悪いという面が多いにある。たとえば、僕は東京証券取引所でフェローとして証券教育に携わっているので、金融庁の人とか、日銀のエライ人とかと「今後の金融教育、どうしましょう」という話をすることがあるんです。その時にすごく違和感あるのは、「じゃあ、バーチャルマネー1億円で投資ゲームとかしましょう」というような話が、すぐに出てくることです。
ちきりん そうなんですか。
藤野 でも、そんなことをやったら、皆がよけいに投資から遠ざかってしまいますよね。なぜかというと投資ゲームなんか体験したら「株式投資は所詮はマネーゲームなんだ」と思っちゃうから。だから、そんな教育は教育じゃないし、絶対ダメですって言うんですけど。
要するに、今、日本人の多くに足りないのは、「会社とは何か」ということについての正しい認識です。いい会社は便利で楽しくてワクワクさせてくれるものを生み出してくれる、つまり世の中を良くしてくれるんです。そこに資金を提供するのはいいことなんですよ、と。
だから僕はセミナーでは、まずその話をします。「株式投資っていいことです。なぜかというと、会社を応援することだから」と。「会社を応援することで日本を良くすることができるんですよ」とかいうと、おじいさん、おばあさんは8割くらいうなずいている。一方、若者は半分くらいの人が首をひねっている。どうして若者が首をひねるかというと、会社を応援することが素敵に思えないから。彼らにとって会社というのは、素敵な場所に見えない。今の日本人の株嫌いというのは会社嫌いに由来していると思うんです。
ちきりん たしかに今の日本では、資本主義の基本とか、株式会社の社会的な意義とか、そういうことを教えられる機会が全くないですよね。
次のページ>> 雇用の流動性のなさが、 会社嫌いを増やしている
ちきりん ただ、あえて違う視点でみてみると、そういうネガティブな労働観が増えてきたのって、ある意味グローバルスタンダードともいえませんか?
20年くらい前まで、日本企業では全社員がまじめに日経新聞を読んでました。なぜなら、全員が自分も将来、社長や経営者になれるかもという幻想を抱いていたからです。だから皆、つらくても頑張って働いていた。
一方その頃、私がアメリカのビジネススクールに行っていた時なんですが、マネージャーの仕事として「工場で働く人たちが、当日になって仕事をドタキャンする、いわゆる“ポカ休”ですが、それをいかに減らすか」というテーマで議論するんです。ケース資料には「ポカ休が20%もあるので10%にするにはどうしたらいいか」みたいに書いてあるんですけど、当時の私の感覚としては、ケースの事例とはいえ「ポカ休が20%もある」ということがまず信じられませんでした。
だけど、アメリカのマネージャーにとってはそれが切実な問題なんです。なぜならば、当時のアメリカの工場では、朝起きて気分悪いから仕事に行かないとか、今日は子どもと買い物に行きたくなったからそちらに行くとか、簡単に休んでしまう人が実際に多かったんですよね。その人たちは時給で働いているだけだから、休んでも出世に響くわけでもないし、会社にたいして何のコミットもありません。だからポカ休を簡単にやるんですよ。
アメリカでは、そういうポカ休を平気でやる層が一定以上いるという前提で会社を経営する、そのことが当時の私には驚きでした。でも、今や日本でもそういう労働者層が現れてきた、とも考えられるかな、と思うんです。一生懸命働いても報われない。どうせ時給で働いているだけだ。だったら、働きたい時間だけ働けばいいや、というような風潮です。ここでは労働が歓びとか充足感をもたらすもの、という概念は全然なくて、たんに生活費を得るため仕方なくやっていること、となってしまっています。
藤野 それもあるかもしれませんが、日本の労働環境は特殊だということがありますよね。それは「雇用の流動化がない」という面です。
ちきりん ああ、なるほど。正社員に関してはそこが大きな違いですね。
藤野 たとえば、日本人、中国人、ドイツ人、イギリス人、アメリカ人などに「あなたの会社好きですか」という統計を取った時に、「好きじゃない」という答えはいつも日本がトップです。逆に、アメリカや中国は8割の人が大好きと言っているんですね。なぜそうなるかというと、アメリカや中国だと会社が嫌なら辞めちゃうから。もしくは辞めさせられちゃうからです。
だから、今働いている会社については、ある程度気に入って働いているという人が多いんですね。それに対して日本は、会社の中はある種、家族的な関係になり、一度中に入ると辞めるという選択肢を持ちづらい。
ちきりん たしかに私の務めていた外資系企業でも、仕事が嫌な人はさっさと辞めちゃうので、残っているのはその会社や仕事が好きな人ばかりでした。日本の大企業って誰も辞めないので、少々仕事が合わないと思っても会社を辞めるのが怖くなるんですよね。
藤野 そう、すごく怖いんです。それで、会社に対して不平不満をいう。不平不満を言っても辞めさせられないという面もありますが。それで結果的に、会社が嫌い、あまり好きじゃないという人が増えるんです。
ちきりん 逃げられないと思うから、よけいに不満がたまっているんですね。
藤野 そうです。自分が選択してこの会社にいるという意識がない。すごく受け身なんですよ。本当はどこかの時点で、自分で決断してここの会社にいるのに、働かされているという受動的な意識が強い。でも嫌だったらやめて次の選択をするということが難しい。
ちきりん そういう受け身の感覚にならざるを得ないというのは、かわいそうですよね。雇用が流動化されないという問題もあるし、社員を、主体的に働くのではなくて受動的に働く人としてしか認識しない企業が多いんですよね。あの「辞令による部門移動お任せ制度」もすごい制度だと思いますし。
藤野 そうです。これはどっちが悪いという話ではなくて、働く側の問題と同様に会社サイドの問題も必ずあるわけです。これは会社側の形式的な真面目さの弊害が出ているともいえます。自分たちが社会の中でどのような価値を生み出していくのか、そのために社員とどうコミュニケーションをとっていくのかということを真剣に考えている会社は少ない。
会社は「長期的に御恩と奉公的な関係で全てを投げ出して働きなさい」ということを暗に要求しているし、若い人たちは「それは嫌だ」と思っている。その意識のかい離はすごい大きい。
次のページ>> 優秀な若い子たちに「あまり変な会社に行かないで」と…
ちきりん 「働く」ということに充足感や楽しさを求めれば、就職先の選び方も「大企業で安定してそう」ということより、「小さい会社だけどやりがいがありそう」という選択肢が選ばれるはずです。でも実際には、ますます大企業や公務員が就職先として人気化しています。
藤野 そうなんです。オリンパスとか東電のような例を見れば、普通は「今は大きな会社でもダメなことがあるよ、だからいろんな選択肢を持つべきだ」という考えになると思うんです。
でも、今の大学生の親たちの多くが考えることは、「ああいう大きな会社でさえ、ああいうことが起きてしまったのだから、小さい会社だとなおさらダメだ」という風潮になって、やはり大きな会社に入るべきだという風になっている。
ちきりん 私がブログで伝えたいと思っていることの一つが、優秀な若い子たちに、「あまり変な会社に行かないで」ってことなんです。
優秀な若い技術者を、10年も赤字部門に閉じ込めておくなんて、本当にもったいないと思うんです。これこそ日本の今後の可能性をつぶしてしまう愚行だという危機感すらあります。日本にとって人材こそ唯一の貴重な資源なわけですから、人材の有効な資源配分が行なわれたら、日本経済も再生の可能性がでてきます。
優秀な子が安定を求めて役所に行きたいとか、ほとんど死にかけているような企業に行きたいとか、時代錯誤の年寄りたちが実効支配し続けているような会社に入りたいというのは、とてももったいないことだと思っていて、私としてはそれを少しでも変えたいんです。だからブログでも必死で若者を煽ってるんです(笑)。
藤野 あはは。確かに、若い世代には間違った選択してほしくないですからね。
ちきりん まあでも、こうは言っていても、学生というのは常に間違った選択をしがちなんですけどね(笑)。若い世代に限らず、100%の人が常に正しい選択することはないですし。
藤野 そうそう。でも、若いときの間違いは後から巻き返し可能ですからね。
ちきりん それに、若い時に失敗した経験があるから、かえって大事なことがよくわかる、ということもありますよね。
私も大学を卒業して、最初はバブル時代の証券会社に入って、「理屈など関係ない、何も考えるな」と言われて。今考えると馬鹿げていますが、そういう経験があったからこそ、かえって「自分のアタマで考える」ことの重要性もわかったわけで。若いうちに間違えるのも、案外悪くないような気もします。
ただし、失敗しながら、自分でだんだんと正しい方向に軌道修正できるかが重要なわけで、私としてはブログを通じて、そのための「気づきのヒントやきっかけ」みたいなものを提供できればいいなと思っています。
次のページ>> 世界をマーケットと考えるために必要なモノとは
藤野 私は、今後投資したいと思えるような成長する日本企業を探すことは、就職にも転職にも使えると思ってるんですが。
ちきりん 確かにそうですね。最初にお話したとおり、サービス分野など世界で活躍できる日本企業は今後、増えていくと思います。ただ、日本人が世界で活躍するために大きな課題が一つあります。それは英語力が弱いということです。
日本企業が不運なのは、日本自体が大きなマーケットだったため、国内だけである程度のビジネスが成り立ってしまうので、それで満足して日本語しかできない人が多いんですよね。その人たちは、どうしてもビジネスの射程圏が狭くなってしまいます。
もし日本が小国で、スウェーデンみたいに全員英語がしゃべれないと生きていけません、という国になったら、今の企業の若い経営者はもっと自然にどんどんアジアで事業を展開していくと思うんです。そうすると、今年成長率3%の会社はおそらく成長率10%になるはずだし、今10%の会社は30%になるはずだと思うんです。日本の英語教育が乏しいことによって、すごくもったいないことになっている気はします。
藤野 英語力の問題はとても大事ですよね。ファーストリテイリングや楽天など、グローバル展開に対する意識が強い企業ほどこの点で危機感が強く、英語を社内共用語にするなどドラスティックな動きを取っていますね。でも、そういう動きに反発する日本人も多くて、日本人のグローバル感覚の遅れを感じます。
ちきりん そうなんですよ。たとえば本の出版に関しても、日本の出版社から「本を出しませんか」という話が来ると、基本的に視野に入れているのは日本のマーケットだけですよね。後から追加で、韓国版が出ますとか台湾版が出ますという話はあるけれども、最初からアジア全体で売れないか?という発想の出版社はほとんどないわけですよ。
ところが、これが英語の本だったらどうか。たとえば、スティーブ・ジョブズの本をアメリカだけで売るという感覚の編集者は誰もいないですよね。最初から世界のマーケットを意識する。本に限らず、映画でもファストフードチェーンでも小売業でも同じです。彼らは最初から「世界で売れるか? 世界で展開できるか?」を見ています。日本企業のように、まずは日本で成功し、日本市場が飽和してからようやく「さて、世界の市場はどうなの?」と考え始めるのとはぜんぜん違います。
英語の得意な人を増やすということも含め、日本人はもっと世界的な視野でビジネスを考えるということを身近に身につけていかないと。日本はいいものを持っているのに、その点は今、すごくもったいないことになっていると思います。
第5回へ続く
第4回 若い世代でネガティブな労働観が増えている! お金儲けは悪だと洗脳され、会社ギライが多い日本人 (2012.04.03)
第3回 なぜ、夢を語れない企業は成長しないのか。 日本とアメリカの大企業の決定的な違いとは? (2012.03.30)
第2回 この20年間下がり続けている 日経平均にだまされるな! (2012.03.27)
第1回 日本の将来は明るい?暗い? 自分のアタマで考えてみよう! (2012.03.23)
http://diamond.jp/articles/-/16881
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