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原油価格:増え続ける産油国の石油消費 日本企業アウトバウンドM&A(2)なぜ、そして何を買う?
http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/524.html
投稿者 MR 日時 2012 年 4 月 03 日 00:20:38: cT5Wxjlo3Xe3.
 

The Economist
原油価格:増え続ける産油国の石油消費

2012.04.03(火) 

湾岸諸国は石油の産出国であるだけでなく、消費国でもある。

ブレント原油で1バレル=125ドル前後と、原油価格がここまで上昇している理由は誰もが知っている。長期的には供給の伸びが弱く、かつ中国などの新興国の需要が急伸している。短期的にも市場が逼迫し、供給は混乱し、イランの動きに誰もが神経を尖らせている。

 石油輸出国機構(OPEC)加盟国の中で唯一供給不足を埋め合わせるだけの余剰生産能力を持つサウジアラビアは、市場安定化における期待の星だ。最近、米国と欧州連合(EU)の制裁がイランに適用された際にも、サウジアラビアは市場に対し十分な供給量を保つという誓いを改めて表明した。

 しばらくすれば、ペルシャ湾岸の他の産油国も生産量を増加できる可能性がある。イラク、そして制裁の対象となったイランも広大な油田を抱えており、将来的には日量数百万バレルの増産が可能になるかもしれない。これらはすべて、一般常識だ。
中国に次いで消費量が伸びているのはサウジアラビア

 しかし、これらの試算では、ほかならぬ湾岸地域で石油の需要が伸びていることが考慮されていない。2000年から2010年にかけて、中国の石油消費量は世界最大の伸びを見せた。増加分だけで日量430万バレル、率にして90%増加した計算だ。今や中国は世界の石油の10%以上を消費している。

 それ以上に意外なのが、消費の増加量が2番目に大きな国がサウジアラビアだということだ。同国はこの間、日量120万バレルも余計に石油を使うようになった。現在のサウジアラビアの消費量は日量280万バレル前後と、世界6位に達しており、日量1000万バレルという自国の産出量のうち4分の1を超える量を消費している。

 自国の売り物をがぶ飲みしている産油国はサウジアラビアだけではない。OPEC加盟国6カ国を含む中東地域では、今世紀の最初の10年間に石油消費量が56%も伸びた。この数字は世界平均の4倍以上、アジアの2倍近くにもなる(地図を参照)。

 1人当たりのエネルギー使用量も伸びている。英BPによれば、1970年時点で中東の1人当たり使用量は他の新興国の半分程度だった。しかし2010年までに、この数字は平均の3倍に転じた。

 2000年から2010年にかけて、世界全体で見ると1人当たりの年間石油消費量は4.6バレル前後を維持していたが、この10年間で平均的なイランおよびサウジアラビア国民が消費する石油の量はおよそ30%増加した。サウジアラビア国民は1人当たり35.1バレルを消費する計算だ。

 1人当たりの総エネルギー消費量では石油換算で7.3トンと、はるかに豊かな米国とほぼ同等の数字になる(右下の図参照)。

 このような石油需要の伸びには3つの要因が挙げられる。
需要が伸びる3つの理由

 1つ目は人口動態だ。ペルシャ湾岸、さらにはOPEC全体で見ても、産油国の人口増加のペースは速い。小国カタールの人口は2000年から2010年の間に3倍になった。

 サウジアラビアの人口は約2000万人から2740万人へと37%増加した。電力、水、石油の需要もそれに伴って伸びた。発電量は過去10年間で2倍になった。

 こうした需要増は、この地域特有の猛烈な暑さを和らげるため、という部分もある。シンクタンクの英王立国際問題研究所(通称チャタム・ハウス)によれば、ピーク時の電力需要の半分近くをエアコンが占めているという。

 2つ目の理由は経済構造に関係するものだ。エネルギーを生産するためにはエネルギーが必要になる。ポンプに電力を供給し、大量の海水を淡水化しなくてはならない。サウジアラビア国営の石油会社アラムコの電力使用量は、同国の電力供給の10%近くを占めている。サウジアラビアの経済を石油、ガス、石油化学製品以外に多様化させる試みはまだ進んでいない。

 湾岸諸国の石油消費が伸びている第3の理由は、国内エネルギー市場の非効率性である。石油による火力発電は、石油価格の相次ぐ急騰と、他と比較した効率の悪さから、先進諸国ではほぼ姿を消しているが、サウジアラビアでは電力の65%前後がいまだに石油から発電されている。

 石油がこのように効率の悪い形で使われているのは、国内消費に多額の補助金が与えられているからだ。国際エネルギー機関(IEA)によれば、全世界の石油助成金は2010年に1920億ドルに増加した。そのうち、OPEC加盟国の補助金は1210億ドルを占める。

 サウジアラビアは湾岸諸国でも燃料価格が最も安く、電気もただ同然の価格だ。これは貧困の緩和に役立ってきたが、一方で(男性について)米国型の車文化を促進し、公共交通機関の発展が妨げられた。サウジアラビアで乗用車を所有している国民の数は米国のほんの3分の1程度だ。さらに豊かになれば、砂漠のハイウェーに繰り出す人も多くなるだろう。

 (サウジアラビアを含む)産油国の多くは、補助金の削減を約束してきた。だが(多くの場合、民意によって選ばれていない)政権が政情不安に怯える状況下では、これは難しい。

 ナイジェリアでは、1月に輸入石油の価格を上げようとしたところ、暴力を伴う反対運動が起きた。最も多額の補助金を出しているイランだけが何とか大きな値上げに成功した。ただしイランの場合は西側諸国の制裁という、格好の責任転嫁の対象があった。
石油を国内で消費する高価な代償
サウジアラビア、2030年までに原発16基の新設を計画

サウジアラビアでは、電気はただ同然(写真は首都リヤドの夜景)〔AFPBB News〕

 サウジアラビアにとって、大量の石油を国内で燃やすことには高価な代償が伴う。

 「採油」にかかる費用こそ1バレル当たり3〜5ドルであるため、燃料そのものは安いが、全世界の石油価格が125ドルであることを考えれば機会費用は非常に高い。

 そして他の湾岸産油国と同様、サウジアラビアも潤沢に供給される天然ガス資源を的確に活用できないでいる。

 天然ガスは現在、発電の35%に使われているが、ガス価格は底値で、石油関連資源の中でも劣るものとして軽視されているという事情もあり、この豊富な恵み(サウジアラビアは世界第5位の天然ガス埋蔵量を持つとされる)の活用は難しくなっている。

 西側の石油会社を募って天然ガスを採掘させようとする試みも、価格が安く、契約条件も悪かったため、入札者を集めることができなかった。石油と一緒ではなく単独で噴出する「非随伴」ガスは採掘が難しく、価格が現状の4〜5倍にならなければ開発する価値がないと見られる。

 BPによれば、石油は中東のエネルギー生産の74%を占めている。2030年までを見ても、この数字は67%までしか下がらない見込みだ。

 サウジアラビアは原子力および太陽光発電の開発を試みている。だが同国が数多く抱える石油火力発電所は、今後も長期にわたって稼働し続けるだろう。さらにドイツ銀行のマーク・ルイス氏が指摘するように、大規模な火力発電所2基が現在建設中だ。

 現在の傾向が続けば、サウジアラビアは2038年までに石油の純輸入国になる計算だ(その可能性が低いにせよ)。

 これが石油市場に多大な重圧をかけている。短期的には、サウジアラビアの余剰生産能力は、石油価格における重要な要素だ。

 今年もこの後、サウジアラビアの季節需要の急増が予想される。英バークレイズ・キャピタルによれば、2011年の3月から7月の間の需要増は1日当たり75万バレルに達したという。この大部分は長時間のエアコン稼働によるものだ。この需要増がサウジアラビアの輸出および石油価格安定化の能力維持に大きな圧力をかけることになるだろう。
石油問題の解決策というより、むしろ疑問符に

 長期的な展望も同様に憂慮すべきものだ。世界の石油需要は2030年までに日量1億バレル以上のレベルに増加すると見込まれている。湾岸諸国のサウジアラビア、イラン、イラクは、莫大かつ採掘が容易な埋蔵資源を抱えており、新たな供給源として有力視されている。

 しかし、イランの産油量は制裁の影響を受け、設備や専門技術が入手できなくなるため減少するはずだ。イラクの場合、現在の生産量は日量300万バレルで、これを大きく増やす余地はある。しかし不安定な政情、安全確保の難しさ、産油設備の老朽化などの要因により、生産量増加に不可欠な投資が妨げられている。

 そしてサウジアラビアの貪欲な石油消費は、ほとんど収まる気配がない。ペルシャ湾は一般に世界の石油問題に対する解決策と見なされてきたが、むしろ今後に疑問符をつきつける存在になりつつある。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34894


Economist Intelligence Unit
日本企業のアウトバウンドM&Aの増加 英EIU報告書(2):なぜ、そして何を買うのか?

2012.04.03(火) 

マクロ経済という観点から見ると、日本企業が海外で買収を進める環境は、過去のブーム時と比べてもより明白なものとなっている。例えば、縮小する国内市場へ長期的に依存することで企業にマイナス影響が及ぶことはますます明白になりつつある。

 また資産価格のピーク時に買収を行った過去のケースと異なり、日本企業は多くの業界で資産価格を押し下げている世界的な景気低迷のメリットを享受することができる。(対ドル為替レートで)過去30年最高、あるいはそれに近いレベルの円高が続いていることも大きな要因だ。

 さらに日本企業(金融関係を除く)の現金保有高は、2011年末時点で2.79兆米ドルに達している。これは、同年日本企業が海外企業の買収に費やした695億米ドルをはるかに超える額だ。このことを考えても、今後しばらくの間、アウトバウンドM&Aの波が続く可能性は高い。

 日本企業自身も、こういった要因が海外で買収を行うために好都合な環境を作り出していることを理解している。

 そして個々の企業が置かれている状況にかかわらず、海外でのM&Aを進めなければならないというプレッシャーを経営レベルで感じているようだ。過去1〜2年の間、現在の経済・人口動態・規制環境への対応に向けて海外でM&Aを進めることの重要性をIRレポートで強調することが、日本企業にとって義務のようになっている。

 アウトバウンドM&Aを行わなければ、経営者が現在のビジネストレンドから取り残されてしまうと感じているかのような印象を受けるほどだ。過去数年に見られたアウトバウンドM&Aの急速な増加は、買収フィーバーのあらゆる特徴を備えていると考える関係者もいる。
戦略を柱に

 経営者の多くは、市場環境に左右されてM&Aにアプローチすることで、プロセス開始前から買収の成功をリスクをはらむと考えている。M&Aは、個々の企業レベルが持つ戦略がスタート地点となる。そして企業はこの戦略のみをプロセス全体をつうじた指針とすることが重要だ。

 東京に本社を置く大手産業ガスメーカー 大陽日酸の代表取締役会長 松枝寛祐氏によると「M&Aは、あくまでも目標達成の手段と考えるべき」だという。「M&Aそのものを戦略にしてはならない。自社の戦略にどれだけフィットしてくるかという観点が一番重要だ」と同氏は指摘している。
新興市場の魅力

日本企業にとって新興市場が魅力的な理由を理解するのは難しくない。若年人口が多く、ダイナミックな成長の可能性を秘めた新興市場は、国内市場とは全く対照的な状況にあるといえる。

しかし海外で投資を行うことは決して容易ではなく、特に新興市場ではさらに多くの課題が待ち受けていることも少なくない。野村ホールディングスがGEキャピタルの中国子会社を買収したケースは、このことを物語る典型的な例だろう。同社はGEキャピタルの同子会社を数十億円で買収し、2012年2月に中国政府の認可を得た。

しかし一定の人民元建て金融商品を取り扱うため、複雑な規制上の問題をさらにクリアしなければならない。また、株式や債券の引き受け業務を行うためには、依然として中国国内の証券会社と提携を行う必要がある。しかし中国における日本企業・海外企業のプレゼンスの高まりや、現地企業の台頭を考えれば、買収には十分な潜在的価値があると同社は考えているようだ。

だがリスクという観点から、新興市場でのM&Aに慎重な姿勢を見せる企業もある。「新興市場でのM&Aには慎重にならざるを得ない」と語るのは堀場製作所の堀場厚氏。同氏は、不透明な規制環境やターゲット企業に関する信頼性の高い情報の不足を懸念材料として挙げている。「我々の現地法人が適切な判断を行えるレベルまで成熟するのを待つほうがよい」というのが同氏の見方だ。

しかし、新興市場での買収に伴うリスクより、高成長市場に参入しないリスクの方が高いという判断を下した日本企業も多い。例えば最近、NTTコミュニケーションズは、インドに拠点を置く大手データセンター企業ネットマジック・ソリューションの過半数株式を100億円(約1億3000万米ドル)で取得することを明らかにした。

ネットマジック社は、インド国内に持つ7つの拠点をベースとして、1000社以上の顧客企業へサービスを提供している。NTTコミュニケーションズは、同国で日系企業の参入が拡大している製造業にも注目しており、同セクター向けのサービス展開も視野に入れているという。

新興経済国でのビジネス展開は、現地企業の株式取得や完全買収という形態だけにとどまらない。日本企業が新興市場の現地パートナーと提携し、(時には第3国で)買収を行うというケースも増加しつつある。

昨年11月には、丸紅と中国のウィンズウェイ・コーキングコール・ホールディングスが、カナダの炭鉱運営会社グランド・キャッシュ・コールを約10億カナダドルで共同買収することを明らかにした。その翌月には三井物産とマレーシアの国営投資会社カザナ・ナショナルが、トルコ最大の病院運営グループ アジバデムの株式60%を500億円(約6億5000万米ドル)で共同取得することを発表している。

新興市場での買収は、様々なビジネス上の課題に対して革新的な解決法をもたらすこともある。昨年インドの文具メーカー カムリンを買収したコクヨは、今年の夏に中国の文具大手である何如文化用品を買収する計画を明らかにした。コクヨはすでに中国市場で“Campus”ブランドのノートを年間約200万冊売り上げており、2020年までに売上高100億円の達成を目指すという。

また同社は上海にノート工場を建設し生産拠点を集約する計画だ。コクヨの“Campus”ノートと何如文化用品の“Gambol”ノートはデザインが非常に似ていることも、円滑な事業統合に一役買うかもしれない。

 2010年度に4830億円(約610億米ドル)の売上高を記録した同社は、産業ガスの分野で大手プレーヤーになること、特にアジア・北米市場でのプレゼンスを高めることを長期的な目標としてきた。

 2004年に行われた大陽東洋酸素と日本酸素の合併によって誕生した同社は、米国のマセソン・トライガス、バレー・ナショナル・ガスや、シンガポールのナショナルオキシジェン、フィリピンのインガスコなど、これまで海外企業の買収を多く行ってきた。

 これらの買収は、日本の顧客が1980年代以降に事業拠点を海外移転(特に北米とアジア)するという戦略的必要性に応じて実施したものだ。同社は顧客企業を追う形で海外進出し、新市場でガス配給会社の買収を行ってきた。

 日本たばこ産業(JT)で代表取締役副社長を務める新貝康司氏も、M&Aを行うには買収側企業とターゲット企業の戦略的フィットが極めて重要だと指摘している。

 同社による英国ギャラハー社の買収・統合を手がけた新貝氏は、「自問自答を繰り返すことで、 M&Aの目的を可能な限り明確化しておくことが大事だ」と語っている。1999年に米国RJRインターナショナルを9424億円(当時のレートで約83億米ドル)で買収した同社が、2兆2500億円(約193億米ドル)でギャラハー社を買収したのは2007年のことだ。これは、日本企業による海外企業の買収として過去最大のケースとなっている。

 新貝氏によると、ビジネスの地域的拡大、あるいは新商品・技術・有能な経営人材の獲得など、企業が持つ様々な戦略にフィットした形でターゲット企業を選ぶことが重要だという。JTの場合、「ギャラハー社の買収前夜は、組織的な拡大が進行しており、人材的にストレッチがかかり始めていた。ギャラハーの買収は、経験豊富で有能な人材を獲得する手段という意味合いも大きかった」と同氏は語っている。

 グローバルなビジネスに適応した経営チームやビジネス戦略をその他の資産とともに獲得するという同様の理由から、初めて海外企業の買収を試みた日本企業もある。例えば玩具メーカー タカラトミーは昨年3月に、米国RC2社を6億4000万米ドル(約500億円)で買収した。また昨年11月には、プラスチックボトル・缶メーカーの国内最大手である東洋製罐が、製缶・製蓋機械の米国大手メーカー ストーレ・マシナリー・カンパニーを7億7500万米ドル(約600億円)で買収している。
適切なターゲット企業の選定

 買収を行う企業は自社の企業戦略に集中することで、一貫した姿勢を保ち、社内的な混乱を回避し、(最も重要なことに)適切なターゲット企業を選定することができる。M&Aの分野で成功を経験してきた関係者によると、これは雑草の中からたった1本咲く花を見つけるのと同じぐらい骨の折れる作業だという。だがこのプロセスを経ることで、一見魅力的に見えるが戦略的にフィットしない企業を誤って選ぶのを回避することができる。

 大手化粧品メーカー 資生堂で国際事業企画部長を務める直川紀夫氏によると、「優れたターゲットを見つけるためには、幅広い企業とのつながりを築く必要がある」という。同社はこれまで、フランスのカリタ社(1986年)やラボラトール・デクレオール社(2000年)をはじめとする小規模のラグジュアリーブランド企業の買収をつうじて、グローバルな事業展開を図っている。2010年3月に実施した米系化粧品会社ベアエッセンシャルの買収(17億億米ドル)は、同社にとって大きな意味を持つ出来事だった。

 「我々は戦略的な目標を達成するため、常に積極的にターゲットとなる企業を探している」と直川氏は語る。ここでいう「探す」という言葉の意味には、それぞれの(潜在的)ターゲット企業と体系的に関係を構築し、買収の可能性が浮上した時にはすぐに交渉のテーブルへつけるよう準備を行うことも含まれているという。

 戦略的フォーカスが十分でなく、ターゲット企業の特定に向けて積極的に動かなければ、買収のための買収を行ってしまう(あるいは不十分な調査の下で買収のオファーを受け入れてしまう)リスクは増大する。そのため、今回取材を行った経験豊富な経営者の多くは、持ち込み案件に対して慎重な姿勢をとっているようだ。

 1980年代初頭からM&Aを手がける大陽日酸の松枝氏は、「最初の頃は、持ち込み案件が結構あったが、持ち込み案件で成功したのは1つもなかった」と振り返っている。「ターゲット企業は、自らの目で選ぶべきだ。そのためには、自分たちで情報収集活動を行って潜在的な案件を探すべきだ」と同氏は語る。

 この点については、資生堂の直川氏も同様の意見を明らかにしている。 同氏によると「企業が売りに出ているとすれば、そこには必ず理由がある」という。「その企業を売りに出したい理由を探ることは大事だ。たいていの場合、解決できない(問題)を抱えているからだ。その問題を克服するための手段と、シナジー実現に向けたアイディアがある場合以外は、そういった企業を買収ターゲットとするべきではない」というのが同氏の考えだ。

 堀場製作所の堀場厚氏も、持ち込み案件に対して慎重な姿勢を示している。「銀行の関係者は、私に様々な案件を紹介してくれる。でもそうした100の案件のうち、興味を持つのはわずか1〜2件だ」と同氏は語る。堀場氏が持ち込み案件の買収を実行したことは、これまで一度もないという。
確固とした論理的根拠と、スムーズな統合スケジュール

 今日の日本企業が、明確な戦略的根拠を持たずに買収を正当化しようとすることは考えにくい。特に上場企業については、バリューチェーンの不足部分の充当や新たな地域での市場獲得といった戦略的意図を示すなど、詳細にわたる発表を行うことが常となっている。

 マーサージャパンでグローバルM&Aコンサルティング部門の代表を務める堀ノ内順至氏は、日本企業が中核的な競争分野を特定し、その強化のためにより多くのリソースを費やすという動きを加速させていると考える専門家の1人だ。世界の中で自らが事業強化を行うべき地域や、M&Aという手段をつうじて強化すべき事業機能といった点について顧客企業から質問を受けることが増えているという。

 だが日本企業は依然として、戦略的時間軸という点で課題を抱えているようだ。日本企業には長期的な視野を重視しすぎる傾向が見られ、M&Aの成功のために重要となる迅速で効果的な統合プラン遂行の足かせとなっている面がある。

 堀ノ内氏によると「(日本企業は)“将来役に立つかもしれないからこの企業を買収しよう”といった考え方をする傾向がある」という。「買収した企業がこの先どこかで他のビジネス部門とうまく補完するようになるかもしれない。あるいは、どこかの地域やビジネスで、いつかうまく役に立ってくれるかもしれないと考える。こういう思考回路では、買収直後から何をすべきかという点が曖昧になってしまう」と同氏は指摘している。
商社:拡大路線の加速

2011年、日本企業は多くのセクターで、円高や3月の震災、不安定な世界経済への対応を迫られた。しかし一方で、商社は記録的な収益を上げている。コモディティ価格の上昇や輸入化石燃料の需要拡大という最近の動向によりボトムラインが底上げされただけでなく、海外での収益も過去10年間拡大を続けている。

国内7つの大手商社(三菱商事・住友商事・伊藤忠商事・丸紅・三井物産・双日・豊田通商)が2011年に海外投資から得た収益の総額は、1兆円(約129億米ドル)を超えることが予想されている。これは10年前と比べて3倍の規模だ。また同7社が2011年度に行う海外投資の額は3兆円超に達する模様で、2012年度も同様のレベルを維持することが予測されている。三菱商事だけでもその規模は約1兆円だ。

商社による海外でのM&Aは、依然として完全買収よりも海外企業の株式取得という形態をとることが多い。例えば三菱商事がアングロ・アメリカン社より、チリの銅資産権益保有会社の株式を4200億円(54億米ドル)で取得したケースなどがそうだ。しかし最近では、日本の商社がただ配当を得るのではなく、海外企業の経営にも目を向けはじめる兆しが見られる。

三菱商事は今年1月、トマト加工企業大手 エーアール・インダストリ・アリメンタリの子会社の株式を過半数取得することを発表した。イタリアに拠点を置く同社は、三菱商事が全額出資する英国の食品大手プリンセスによって保有されており、買収金額は公開されていない。

また三菱商事は今年2月、西オーストラリア州の鉄鉱山拡張事業と、関連港湾・鉄道インフラ整備事業を買収し、資源産業分野でもビジネスを拡大させている。同社は両事業の株式を50%取得するため、オーストラリアのマーチンソン・メタルズ社に250億円(約3億2500万米ドル)を支払う予定だ。また、7750億円(約100億米ドル)規模の同事業には、合弁相手として中国企業からの出資を募るという。

日本企業が負債に苦しむヨーロッパの金融機関の資産を買い取ったケースとして、これまでで最大規模の案件となっているのは、住友商事と三井住友フィナンシャルグループが行った買収だ。

両社は今年1月、ロイヤルバンク・オブ・スコットランドから航空機リース事業を買収することを明らかにした。RBSアビエーション・キャピタルの買収額は70億米ドル(約5430億円)程度になる見通しで、株式保有比率は住友商事が30〜40%、三井住友フィナンシャルグループが60〜70%となる予定だ。

一方政府は、ヨーロッパにおける信用収縮への対応や円高メリット活用のため、エネルギー資源開発分野を対象に緊急基金の創設を打ち出している。同基金は、外国為替資金特別会計のドル資金10兆円(約1300億米ドル)を、国際協力銀行をつうじて民間に融資する。エネルギー資源分野で長年にわたる経験を持つことを考えれば、日本の商社が2012年も海外で積極的にM&Aを進める可能性は高い。

 その結果、買収先企業の経営チームの熱意とやる気が著しく低下してしまったケースは数多くある。「日本企業によって買収された企業は、志気の低下という状況に陥ることが少なくない」と堀ノ内氏は語る。同氏によると「買収のターゲットとなった企業は、日本企業グループの一員になったメリットを見いだすことができず、“何であの会社はうちを買ったのか?”と困惑してしまう」という。

 もちろんこうした問題は、全ての業界にあてはまるわけではない。業界によっては、生じた機会を即時に捉える必要があることも少なくない。そのため、とにかく買収を行って詳細は後で考えるというアプローチをとる日本企業も存在する。

 「産業やビジネスのタイプによっては、買収対象となる企業の数がきわめて限定されていることがある」と語るのは産業革新機構の西山氏。「買収を決断し、(即時に)アクションを起こさなければ、競争に加わるチャンスを逃してしまう。買い手には選択の余地がないため、ビジネス戦略が成熟するまで待っていられないのだ」と同氏はいう。

 西山氏によると、例えば日本の商社が急速に参入を進める資源ビジネスはこういったケースに当てはまるという。「世界では数々の産業で民営化が進められている。これは買収を行う絶好のチャンスだ」と同氏は指摘している。

 また資源をはじめ流通の川上に位置するB-to-B産業に比べて、B-to-C産業が直面する事業統合の問題は大きいといえるかもしれない。西山氏によると、消費者製品を海外で取り扱うビジネスでは変化のペースが急速なため、より複雑で洗練されたスキルが必要になるという。こういった業界では迅速なアクションがきわめて重要だ。
専門分野に集中すること

 多くの買収側企業から見ると(実行に移す移さないにかかわらず)、M&Aという選択肢は連結決算による上乗せ、あるいは国内収益が縮小する中での海外収益拡大といった魅力的なメリットを持つ選択肢だ。海外で買収を行えば、“国内市場の縮小”というジレンマの解消も可能だ。

 前出の堀ノ内氏によると、ターゲット企業に対するコントロールを直ちに確立しなくても、「買収側企業が成功を収めているように思えてしまう」という。

 買収がもたらす財務面での魅力には抗いがたいものがあるかもしれない。しかし本報告書の聞き取り調査対象者が強調するのは、コア・コンピタンスを持つ分野でのみ買収を行うことが、M&Aを成功に導く根本的原則だということだ。一時的なボトムラインの底上げや、値ごろ感のある企業の買収といった理由ではなく、より確固とした論理的根拠が必要となる。

 例えばサンエースは、ビニール向け安定剤メーカーとして、オーストラリアや米国、ドイツなどでのM&Aをつうじて海外事業を拡大してきた。同社の代表取締役社長を務める佐々木亮氏は、知識やノウハウを持つ分野で企業を買収することの重要性を強調している。

 「ビジネスの核となる部分で専門的知識を持っていれば、事業の本質的部分がどこにあるのか、事業がうまくいってるのかいないのかは直感的に理解できる。必要以上の高値で材料を買っているか、誤ったビジネスプロセスを導入しているか、機械に問題があるのか。そういった問題の所在が本能的にわかる」と同氏はいう。

 堀場製作所の堀場氏もこの点について同様の見方を示している。「重要なことは、ビジネスについて常識に基づいた判断を行うことだ」と同氏は語る。これを可能にするためには、専門的知識の範囲内で判断を下すことが必要となる。

 同氏は「それは技術に関する知識かもしれないし、市場あるいは人に関する知識かもしれない。的確な判断を下すには、一定の分野で人に負けない知識のベースを持つことが重要だ」と指摘する。「さもなければ、大きな失敗を犯してしまうおそれがある」と同氏は警告している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34718
 

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