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http://jp.wsj.com/US/Economy/node_417486?mod=WSJSeries
米国の「ジャパナイゼーション(日本化)」が止まらない。「失われた10年」の話ではない。不況で親のスネをかじらなければ生活できない若者が増え、パラサイトシングル化に拍車がかかっている、という社会現象のことだ。
米民間世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが米国勢調査を基に分析したところによると(3月15日発表)、複数世代と同居する米国人の割合は、1950年代以来、最多となっている。
特に、いったん親元を離れたヤングアダルト(25〜34歳)が実家に戻る「ブーメラン化」が進んでおり、2010年の時点で複数世代と同居する25〜34歳の米国人は、21.6%に達した。1980年には11%と最低を記録したが、その後、上昇の一途をたどり、とりわけ過去5年間の増加が顕著だ。その大半が親と同居する人たちで、10年に親元に戻った若者は、全米で550万人を突破。07年の15%増を記録している。
こうした事情の裏に、若年層を取り巻く雇用環境の劣化があるのは言うまでもない。
『アコーディオンファミリー(多層家族)――ブーメランキッズ、苦悩する親、そして、国際競争力へのツケ』の著者であり、ジョンズホプキンス大学で教鞭を執る社会学者、キャサリン・S・ニューマン教授(専門は貧困やワーキングプア)によれば、80年代半ば、米国をはじめ、多くの国でダウンサイジングやアウトソーシング、非正規労働が増加し、労働法の規制が緩和されたことで、新卒レベルの就職難が始まり、親の「セーフティーネット化」の必要性が高まった。
若者のブーメラン化は、日本やイタリア、米国など、先進国で広く見られる現象だと、同教授は警鐘を鳴らす。
現在、米国では、20代後半から30代前半の米国人の多くが、生活のために不本意な仕事に就いており、大学院など、学生に戻る人たちも3分の1に上っている。結婚か子供を持つこと、あるいは、その両方を先延ばしにする人も、34%に達した。
18〜34歳に年齢幅を広げると、仕事のない人たちの半数近くが、親との同居を余儀なくされている。一方、フルタイムかパートタイムの仕事を持つ「ブーメランキッズ」(親元に戻った子供)は35%、フルタイムでは30%どまりだ。つまり、経済的要因がパラサイト化に大きな影響を与えているのは疑う余地がない。実際のところ、ピュー・リサーチ・センターの調査では、25〜34歳の同居組の8割が、お金がないために希望どおりの生活を送れない、と答えている。
ニューマン教授が『アコーディオンファミリー』のなかで再三取り上げているのが、日本の同居組の例だ。若者の経済環境の悪化によるパラサイトシングルの増加は、晩婚化や少子化、不動産市場の伸び悩みなどに追い打ちをかけ、生産性の減少を招き、国の経済力や国際競争力を低下させる――。日本を見れば一目瞭然、というわけだ。
移民パワーのおかげで、米国は、まだ人口減の問題は抱えていない。だが、ブーメラン化が進めば、若者はマイホームを買わなくなり、親の世代のような富も築けず、親の老後の面倒を見れるだけの財力にも事欠き、もはや自力では中流層としての生活を維持できなくなってしまう。
事実、2010年の時点で、貧困レベル以下の生活をする25〜34歳の米国人は17.4%に達したが、複数世代と居を共にする同年代の人たちの貧困率は9.8%にとどまっている。つまり、親という「セーフティーネット」のおかげで、かろうじて貧困を免れている若年層が少なくないことが分かる。
ニューマン教授が米メディアに語ったところでは、ブーメラン化の加速で、20代後半以上の人が親と同居することへの「スティグマ」(恥)も徐々に薄れつつあるという。まさに「自己責任大国」米国も隔世の感あり、だ。
さらに意外なのが、自立心と自活を身上としてきたはずの米国の若者が、親との同居を快適に感じていることである。先のピュー・リサーチ・センターの調査では、25〜34歳の同居組のうち、親との生活に満足していると答えた人が、実に78%に上っている。
翻って親のほうは、子どもが帰ってきたことで寂しさから解放され、「現役」に戻ったことで気が張り、若返るという思わぬ効果もある。だが、一方で、甘やかしすぎているのではないか、もっと突き放して現実と対峙させるべきかといったジレンマに悩み、子どもがこのまま居つき、孫の顔も見られないのではないかと案ずる親も多いという。
子どもは戻ってよし、巣立ってよし、といったところか。
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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト
肥田美佐子氏 Ran Suzuki
東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などにエディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・ト リノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。現在、『週刊エコノミスト』 『週刊東洋経済』 『プレジデント』などに寄稿。『週刊新潮』、NHKなどの取材、ラジオの時事番組への出演、日本語の著書(ルポ)や英文記事の執筆、経済関連書籍の翻訳にも携わるかたわら、日米での講演も行う。共訳書に『プレニテュード――新しい<豊かさ>の経済学』『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』(いずれも岩波書店刊)など。マンハッタン在住。 http://www.misakohida.com
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