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東京電力が企業向け電気料金を4月1日から平均17%値上げする方針を打ち出したことが、大きな波紋を呼んでいる。東電側は、原発の被災や停止による供給力減を火力発電で補うためと説明し、「合理化に最大限取り組む」と理解を求めているものの、産業界は猛反発。さらに、顧客に対して電力値上げの理解を求める「お願い文書」の内容や、記者会見における経営陣の発言に説明不足があったことが誤解を招き、火に油を注いだ。問題は、電力値上げによって企業の収益が悪化すれば、家庭も影響を免れないことだ。今後は、家庭向け料金の値上げも確実視されているなか、今回の騒動は我々にとっても他人事ではない。とかく「説明不足」ばかりが報じられる電気料金値上げのインパクトは、実際、どれほどのものだろうか。(取材・文/プレスラボ・宮崎智之)
企業向け電気料金17%値上げの衝撃
「原子力ムラ」に募る根強い不信感
「そんな言い分はない」「いったい何様だと思っているんだ」
世間にはこんな声が溢れている。東京電力が1月17日、企業などの大口顧客向けに、4月1日から電気料金を平均17%値上げすると発表したためだ。
具体的には、特別高圧の顧客は1kWhあたり2円58銭、高圧の顧客は2円61銭を値上げする方針。東電が示したモデルケースによると、百貨店、大規模事務所ビル(特別高圧、契約電力4000kW、月間使用量160万kWh)は18.1%、中小規模のスーパー、事務所(高圧、契約電力150kW、月間使用量 3万3000kW)は13.4%の値上げ率となる。
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故が起こって以来、エネルギー問題が日本中を揺るがしている。震災直後に実施された「計画停電」は記憶に新しく、多くの国民に「電力不足ショック」を印象付けることとなった。
これまで我々は、何となく「エネルギーは無限にあるもの」と思い込んでいた節がある。もちろん、化石燃料の枯渇についてはすでに叫ばれていたため、「無限にある」とまでは思ってなかったにしても、その有限性について切羽詰まった感覚を抱いていた人はそれほど多くなかったはずだ。
しかし、数々の電飾に彩られた東京も震災直後は明かりが消えた。「暗い首都」を目の当たりにするにつれ、今後、エネルギー問題が日本の「アキレス腱」となることを誰もが意識したことだろう。
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現在では、「計画停電」という言葉も人々の記憶から薄れつつあるものの、震災直後ほどではないにせよ、節電モードはすでに「デフォルト」となっている。細かいことだが、筆者がいつも足を運んでいるコンビニエンスストアのトイレでは、手を乾かす温風乾燥機が使えないままだ。そういった節電対策は、至るところで実施されている。
その一方、批判の的になっているのが、「原子力ムラ」と称される利権構造である。詳細な情報を公開せずに「節電」ばかりを強いる政府・東電の姿勢に疑問の声が噴出した。ただでさえ、原発事故後の対応に不満が募るなか、原発を国策として推進してきた政府や電力業界への不信感は根強い。とりわけ、再生計画が議論されている東電については、勝俣会長の後任人事や合理化の遅れが問題視されている。
そんな折に発表された今回の「電気料金値上げ」に、世の中は納得しがたいようだ。「すでに、家庭向け電気料金を10%値上げするとの報道も出ていますが、自分たちの既得権益を温存させつつ、国民ばかりに負担を求めているように見えてしまいます」(30代男性)という声が、巷には溢れている。値上げの発表は、そんな国民感情に拍車をかけてしまった。
値上げに応じないと電気供給を止める?
「お願い文書」と会見が誤解を招き事態は悪化
東電は値上げの理由を、原発に代わる火力発電の供給力維持・確保のために燃料費などが増加しているとし、「上乗せする単価は、現行料金の前提に対する燃料費等の負担増分のうち、当社の徹底した合理化を織り込んだ上で賄いきれない部分に相当する」と説明、企業に理解を求めている。
誰しも、東電の苦しい経営事情は理解している。しかし、思いのほか批判が拡大した最大の原因は、値上げよりも東電の「説明不足」にあった。
2月上旬〜中旬にかけて、彼らは契約電力500kW未満の顧客約22万軒に対し、電気料金の値上げに関する「お願い文書」を送付した。しかし「お願い文書」には、値上げ日となる4月1日が契約期間中に当たる顧客に対して、「値上げに顧客の了承が必要である」ことが明記されていなかったと指摘されている。「契約期間中でも勝手に値上げをされてしまうのでは」と不安を覚える企業が続出した結果、騒動がメディアで報じられる事態となり、「東電が顧客を騙そうとした」という世論が広まってしまった。
次のページ>> 過大な値上げ、説明不足に反発を強める産業界の関係者
東電は慌てて対応の不備を謝罪する事態となり、3月27日に記者会見を開催し、HPにも「自由化部門のお客さまへの料金値上げ対応について」と題した文章を掲載。「契約電力 500kW 未満の顧客は膨大な数に上るため、個別訪問することが難しく、『お願い文書』を送付したが、記載された説明が不十分だった」と認めた。
そして、全契約について4月1日から平均17%の値上げを求める意思を改めて強調しつつも、契約時期に応じて3パターンに分けた値上げのスケジュールを詳しく説明した。
その内容は、1月17日〜3月30日の間に契約を更新する(した)顧客は、次の更新時まで現行料金を最大1年間継続する、現行契約の更新時期が4月1日以降になる顧客も、契約満了時まで現行料金を続ける、そして3月31日に現行契約が切れる顧客は、予定通り4月1日から値上げをする、というものだ。
しかし、記者会見においては、不用意な発言がさらなる誤解を招くハメに。会見に出席した経営陣が、「新しい料金に賛同してもらわないと、電気を供給するのが難しい」という旨の発言を行なったため、「値上げに応じない企業は電気を止められてしまうのか」と、バッシングを受けたのである。
またFNNなど一部のメディアでは、東電との契約を止めたものの、PPS(特定規模電気事業者)との契約に失敗し、再び東電と契約しようとする企業に対しては、「値上げ後の料金よりもさらに高い、2割増しの料金を設定する」という発言があったことも報道された。一連の報道に、枝野幸男・経済産業大臣も不快感を示した。
値上げ幅はあまりにも大き過ぎる
ドタバタ劇に反発を強める産業界
これらのドタバタ対応に対して、当然ながら、各企業や業界団体、地方自治体などの反応は冷ややかだ。
日本自動車工業会の志賀俊之会長は、2月16日の記者会見で、「何とかものづくりを残そうと、大変な原価低減の活動などに取り組んでいるなか、そうした額が上乗せされることは極めて大変なこと」と、平均17%の値上げに対して厳しい認識を示した。
具体的には、自動車1台当たり1万円程度の電気料金がかかっているとし、2000円〜3500円ほどの値上げとなる試算を発表した。
また埼玉県は、「電気料金の値上げは、企業、特に厳しい経営環境にある中小企業にとっては、死活問題」とし、県独自の主張を展開している。
次のページ>> 家庭や東電管内以外にも及ぶ「値上げの波紋」
それによると、「現行電気料金は、実質的な地域独占状態のもとに温存された電力会社の高コスト構造により高くなっている。東京電力では、寄付金や職員の福利厚生費、オール電化広告費など、本来電気事業に直接必要でないと思われる経費まで算入してきた」と批判。3月8日の記者会見では、上田清司知事が「6.5%程度の値上げ幅で済み、17%は過大だ」との試算を示した。
産業界の負担増は免れない。契約期間中を理由に値上げを拒否する企業が続出したとしても、当然だろう。
では、東電の計画通りに値上げが行なわれた場合、実際に世の中が被るインパクトはどれくらいだろうか。同社の「説明不足」ばかりが報道され、この点についてはまだ詳しい検証があまり報道されていない感があるが、実は、すでに様々なシミュレーションを行なっている専門家もいる。
たとえば、SMBC日興証券 金融経済調査部の調査では、17%の値上げにより全産業の予想経常利益は1.8%押し下げられ、特に「パルプ・紙」(8.4%減)、鉄鋼(6.3%減)などの素材産業ほど影響が大きいという。
家庭へのしわ寄せは免れない?
東電管外にも及ぶ値上げの波紋
また、やはり気になってくるのが家計への影響である。同調査部の宮前耕也氏は、「経常利益が下がったからと言って、すぐに設備投資が減ることは考えにくいが、経常利益と連動してボーナスを決めている企業もあるので、最終的には家計にしわ寄せがいく可能性があります」と警笛を鳴らす。
それに加え、「(一部で報道されている)家庭向け電気料金の10%値上げが実施された場合、関東地区で年間3000億円ほどの負担が増える見込み。所得が増えないと仮定すると、そのぶん消費が抑制されることは十分に考えられること」(前出・宮前氏)という。
火種は目先のものばかりではない。宮前氏によれば、原発から火力発電へとシフトが進むと、燃料輸入増は全国で2兆円となり、そのうち東電分は約6900億円になるという。つまり、東電分を除いた残りの電力会社で、約1.3兆円分の負担が生じる。その負担も、ゆくゆく管内に立地する企業が使う電気料金に上乗せされ、さらに家庭に波及する可能性もある。まさに「不安の連鎖」だ。東電管外の企業や家庭も、他人事ではないのである。
「値上げ」を阻む感情的なしこり
真摯な説明こそが国民の協力を促す
原発事故以降、「放射能汚染」の恐怖に晒され、精神的にも負担を強いられている国民にとって、いかに東電側が値上げへの理解を求めても、感情的に応じることが難しいかもしれない。ましてや、前出の30代男性や埼玉県の主張のように、電力会社の「自己保身」に対する拭い去れない疑念が根底にあるため、事態は一筋縄ではいかない。
しかしながら、目の前に「電力不安」が迫っているとすれば、そうも言っていられない。「節電は必要だと思う。でも、政府や東電の言うことは信用できない。ましてや電気料金を値上げして国民に負担を求めるなんて……」と言ったところが国民の本音だろうが、協力すべきところは協力する必要がある。
藤村修官房長官は、2月20日、「仮に原子力発電所の再起動がなく、夏のピーク需要が2010年並みになると、有効な対策を講じなかった場合は、約1割の電力需給ギャップが生じる」と発言した。
前出の宮前氏も、「昨年は被災直後で企業の生産水準が低く、電力需要も少なかった。一方で、今年は復興需要もありますし、輸出も回復傾向にあると予想されます。昨年よりは、生産水準が高くなる可能性は大なので、油断はできないと思います」と指摘する。
エネルギー問題の「犯人探し」をするだけでは、前には進めない。原発の是非や自然エネルギーの導入なども含め、今後どのようなエネルギー政策を日本がとっていくべきなのか。そしてそのためには、どれだけの負担が必要なのかを考えなければいけない。
ただし、それらを議論するためには、当然、徹底した情報公開が必要だ。政府や東電が自覚しなければいけないのは、少しでも情報隠ぺいが発覚すれば、自らの信用を全て失いかねず、そのことは震災から1年経った今でも変わっていないということであろう。
今回の値上げ騒動についても、東電は「説明不足」により大きな反感を買うことになってしまった。2日後に迫った値上げに応じない企業が続出するのは必至だ。「エネルギー問題」の着地点を見出すためには、まずは「真摯な説明」をしっかり自覚することから始めなければならない。
世論調査
質問1 家庭の電気料金が値上げされたら、あなたの生活はどうなる?
とても苦しくなる
やや苦しくなる
あまり変わらない
その他
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