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家計簿に映る田舎のリッチ感(若者、地方へ)
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2012/3/28 7:00
日本経済新聞 電子版
大都会を離れ、地方生活を志す若者が増え始めている。「田舎暮らし」と聞いて思い浮かぶのは、豊かな自然、新鮮で安い食材、近所付き合い、不便な交通網……。何が若者をひきつけるのか。百聞は一見にしかず。田舎で暮らす若者の24時間をのぞいてみた。
訪れたのは島根県出雲市。そこで実感したのは、想像以上に豊かな暮らしぶりだ。確かに収入は、都会の大企業サラリーマンほど多くない。ただ支出や生活環境も勘案した「実質家計」という視点でとらえると、全く別の世界が見えてくる。その一端を都会のサラリーマンと比べながら紹介する。
■広大な敷地に並ぶ4台の車
田舎代表として取材に応じてくれたのは、山崎貴之さん(32)一家だ。待ち合わせ場所は「縁結びの神様」として有名な出雲大社。本殿よりも高い建物は造らないというのが信心深い出雲の人たちの昔ながらの決まりで、高台に上ると、遮るもののない緑豊かな田園風景が目の前に広がった。
緑豊かな参道や広場はお決まりの散歩コースという。近所には数え切れないほどの日帰り温泉が散らばり、週末だけでなく、毎日のお風呂代わりに利用できる。
山崎邸(上)の裏手には駐車場、庭、納屋も。一方、都会代表の関根邸は川崎市の新興住宅街の一角にある
山崎邸(上)の裏手には駐車場、庭、納屋も。一方、都会代表の関根邸は川崎市の新興住宅街の一角にある
貴之さんの勤め先は地方銀行の調査子会社で、電車で約1時間の松江市に通う。年収は約550万円だが、看護師である妻の智子さん(32)を足すと、世帯年収は約850万円に膨らむ。現在は夫婦と長女の凜桜ちゃん(4)の3人家族だ。
まず暮らしぶりを見てみよう。自宅を訪ねて目を見張ったのはその広さ。約300坪の敷地に、貴之さんの両親が暮らす7LDKの母屋と貴之さん一家の3LDKの離れ、それに納屋や庭、車庫もあるが、まだ敷地には余裕がある。カメラで撮影しようにも、1枚にはとても収まりきらない。車庫には夫婦それぞれの車に加え、両親と共有する軽トラックと軽自動車など4台が並ぶ。
2009年11月に一戸建てを新築。返済期間25年で1900万円の住宅ローンを組んだ。オール電化で、柱や床の素材にこだわった注文住宅だ。木材はどこの山で伐採したかという細部まで指定した。最寄りの駅からは徒歩10分。凜桜ちゃんの保育園は5分、智子さんの勤め先も10分という好立地だ。
のどかな出雲大社の参道を散歩する山崎さん一家(左)と有料の遊戯施設で遊ぶ関根さん親子
のどかな出雲大社の参道を散歩する山崎さん一家(左)と有料の遊戯施設で遊ぶ関根さん親子
一方、都会代表はメガバンクの調査部門で働く関根知之さん(31)。入社8年目で年収約960万円。専業主婦の妻・日春さん(29)と長女の陽夏ちゃん(3)の3人家族で、まもなく第2子が生まれる予定だ。
関根さん一家との待ち合わせは、自宅から車で30分ほどの場所にある子供の遊戯施設。欧州の知育玩具メーカーがプロデュースする施設は子供の興味を引く凝った遊具や乗り物でいっぱい。いつもは人見知りすることが多い陽夏ちゃんも、ここでは歓声を上げて走り回る。入場料は30分あたり600円だ。
10年2月に買った川崎市の建売住宅は敷地40坪で、3階建ての4LDK。首都圏にしては大きめだが、難点は駅から遠いこと。最寄りの向ケ丘遊園駅まで徒歩25分以上かかる。通勤時は徒歩2分のバス停からバスに乗る。返済期間35年の住宅ローンは4800万円。同規模で駅に近い物件は約1億円と手が届かず、立地と利便性を犠牲にした。
■「同じ収入で貯蓄差10倍」のワケ
大都会と地方都市、都銀と地銀の差はあるが、同年代で銀行の調査部門で働く共通点を持つ2人。もっと具体的に暮らしぶりを比べるため、家計簿を見せてもらった。
関根家と共働きの山崎家の世帯月収はほぼ同水準。にもかかわらず、山崎家は毎月11万円ほど貯蓄に回せるのに、関根家はほとんど全額を使い切る。なぜだろうか。
収入面から比べてみる。
貴之さんと知之さんの年収には倍近い開きがある。にもかかわらず世帯収入がそれほど変わらないのは、山崎家は看護師の智子さんがフルタイムで働いているからだ。ここに都会と田舎の大きな差がある。
■残業も子供の発熱も大丈夫
共働きを可能にしたのは、恵まれた子育て環境だ。智子さんは毎朝、凜桜ちゃんを保育園に預けて仕事に向かう。仕事が遅くなっても凜桜ちゃんが熱を出しても大丈夫。職住近接であるうえ、同じ敷地内に住む義母が迎えに行ってくれる。近所付き合いも深く、やむを得ない場合はご近所で預かってくれる。周りには子供3人を育てながらフルタイムで働く女性もたくさんいる。
訪問時にたまたま出てきた隣の奥さんも、2人の子どもを育てながら働くママ。立ち話から、ご近所さんは東京から記者が来ることをみんな知っていたと聞かされた。お互いの事情を何でも知っているところは親戚に近い雰囲気。たとえ凜桜ちゃんが家族の目を盗んで冒険に出かけても、ご近所の誰かに捕まってしまうだろう。
一方、関根家が住む川崎市は、保育園に入りたくても順番待ちで入れない「待機児童」で有名だ。日春さんのママ友にはパートに出るたびに一時保育に預け、結局はパート収入と変わらない費用を払っている人もいる。実家も離れていて、急なお迎えをお願いできない。日春さんは「この環境で復職の選択肢は正直ありません」とこぼす。
支出面はどうだろうか。
住宅ローン負担の大きさだけではない。食費をみても、両家には大きな差がある。秘密は「お裾分け」にある。両親が専業農家の山崎家は、自宅近くの畑で野菜をすべて調達する。しかも「余った野菜をご近所に配れば、米や魚に変身する」。智子さんがこっそり教えてくれた。たまに遊びに来る大工さんから朝、近くの海で釣ったヒラメやイカをお土産にもらうことも。ここ2〜3年はスーパーで米や魚を買った記憶がない。
■田舎暮らしの「見えない収入」
ご近所同士のお裾分け効果で、食費は関根家の半分以下。無料でくめる地下水を飲料水に使えることもあり、光熱費も安い。都会と田舎で物価に差があるのは当然だが、お裾分けや地下水など、田舎ならではの「見えない収入」もあるわけだ。
有名大学を出て有名企業に入れれば、給料は右肩上がり、住居も家族構成に合わせてマンションから一戸建てに住み替え、老後は充実した福利厚生の下で年金生活を送る。かつての若者たちの大都会志向には、そんな人生プランがあった。
だが長引く低成長とデフレで、給料は上がらず、不動産価格も下げ止まらない。有名企業であっても経営破綻する時代だ。バブル崩壊後に就職し、高度成長やバブルの熱狂を知らず、何事にも熱くなれない「低温世代」と呼ばれる現在の20〜30代の若者世代が、田舎暮らしに目を向け始めるのは当然かもしれない。
意外に豊かな田舎暮らしの「実質家計」。実は家計簿から見えてこない、こんな豊かさも田舎暮らしにはある。
出雲市と川崎市、物価の差は? 出雲市 川崎市
約2万4000円
(大社町) 住宅地価 約34万円
(宮前区)
7800円
(出雲空港カントリー倶楽部) ゴルフ代 2万3000円
(川崎国際生田緑地ゴルフ場)
時給750円から
(出雲ゆめタウン) マクドナルドのバイト 時給840円から
(向ケ丘遊園駅前)
(注)地価は国土交通省の地価公示でそれぞれの条件に近いものを抜粋。ゴルフ場は土日・セルフ料金
空席が目立つ出雲市内の通勤電車(左)と通勤客でごった返す都心の駅ホーム
空席が目立つ出雲市内の通勤電車(左)と通勤客でごった返す都心の駅ホーム
「娘が乗ったら、窒息してしまうんじゃないか」。川崎市に住む知之さんが「都会の嫌なところ」として挙げたのが通勤ラッシュだ。毎朝乗る小田急線の朝7時台の電車は、子供が押し潰されそうに感じる混雑ぶりだ。
一方、出雲市に住む貴之さんの一畑電車の通勤電車は「4両編成で座席の8割がたが埋まる」。この路線では「まあ混雑している方」だという。同じ電車に乗ってみると、40代くらいのサラリーマンの視線を感じた。通勤客には暗黙の「指定席」があり、どうやら無断で座ってしまったようだ。慌てて席を譲り、車窓に目を向けると、宍道湖の美しい朝の風景が一面に広がった。
■インフラでは都会に軍配
もちろん田舎暮らしは良いことばかりではない。貴之さんの通勤電車は1時間に1本。乗り遅れれば、大幅な遅刻になる。帰りも「時刻表に合わせて仕事を終える」という。一方、都会では5分も待てば、次の電車がやって来る。利便性ではかなわない。
ほかにもある。貴之さんが住む地区には下水道がなく、トイレのタンクは定期的にくみ取り車に来てもらう。人口あたりの下水道普及率は神奈川県の95.8%に対し、島根県は半分以下の41.8%(10年度末時点)だ。
「仕事は楽しいですか」
今回の取材の最後に、同じ質問を貴之さんと知之さんに投げかけた。貴之さんは「楽しい」と即答した。残業が少ないから仕事の疲れもあまり残らず、週末は会社の野球チームで練習や試合に汗を流すのだという。
一方、知之さんは少し考えた後、こうこぼした。「仕事は選べないから……」。業務も勤務地も会社に従うのが暗黙のルール。出世競争も激しく、決して人間関係が穏やかとはいえない。それでも知之さんは自分の会社が好きだという。「端くれながら日本経済を支える仕事をしている。安定した一流企業で働くため、子供の頃から受験も就活も頑張ってきたんだから」
(岡田真知子)
低温世代 就職氷河期の洗礼を受け、やっとのことで会社に入っても賃金は上がらず、好況といった浮かれた状況は知らないまま社会人として生活している世代。いくら働いても給料は上がらないので転職して給料を増やしたいという気持ちもあるし、やりたいと思う仕事もあるのだが、やっとの思いで入れた会社だから、失敗したらと思うと思い切って挑戦することもできず、そのまま現在の会社に残っている。
※「現代用語の基礎知識」(自由国民社)より抜粋
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読者からのコメント cypherさん、30歳代男性
先日の宮崎のアラタナさんも良く知っていました。地方で起業する人が増えていると感じていました。ネットの普及、そして経済の低迷が都会との格差を皮肉にも縮めていると解釈しています。また、3・11以降、人生で本当に大切なものは何かという点に気づかされたと思います。田舎で育ち、都会に出る若者のほとんどは親が職住近接であり、田舎の良さ、家族の絆に恵まれて育った人間が多いと感じています。原点に戻りたいというのが本音なのかもしれませんね。私もそう願っている一人です。
40歳代男性
私の実家も県別の豊かさランキングで常に上位に来る富山県です。確かに実質的豊かは本記事の出雲市と似たようなところがあります。しかし、付き合いの良い近所付き合いも「煩わしい」と感じる人もいますし、粘着質的な人間関係を嫌う人も少なからずいます。そして、そう感じる人は揃って「東京」に出てきています。東京の同県人の同窓会で話題となり、多くの人が同様に語っていたところをみると、同じように感じている人は多いでしょう。それを踏まえた上で、どちらを選択するかは人それぞれの価値観だと考えます
60歳代男性
松風の音がうるさいから、山から海に越しても、今度は波の音に悩まされるのが人です。どちらが豊かでどちらが楽しいかは、心の持ちようではありませんか。比較することに意味が無いように思います。
40歳代男性
面白い内容でした。生活面ではどうしても地方の方がいいように感じてしまうのは事実です。しかしながら、地方は地方で複雑な人間関係と面倒な冠婚葬祭が常につきまとうという点があります。 若干生活費が高くても他人を気にせずつきあえる都会の方が楽かもしれません。 私は地方20年、東京20年でそれぞれのいいところ、悪いところを見てきました。交通網の整備と国内空洞化で、地方の時代がくるかもしれませんね。
ブラッキーさん、30歳代男性
自分自身は低温の自覚はありませんでしたが、世代は低温世代です。給料が上がらない、転職で給料を上げたいなどの考え方には共感を覚えます。私は東京勤務ですが、都会生活より地方生活に憧れを持ちました。ただ20年後、自分たちの子供世代が社会に出る時には今よりもよい社会を作るのが我々低温世代の使命ではないかと思っています。幸せの定義は多様化しましたが、叶わない現実から派生した幸せなんじゃないかと思う事もあります。サボれば相手にされない。頑張れば評価される社会に出来れば、幸せの形はまたかわるんじゃないでしょうか。
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