http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/480.html
Tweet |
http://www3.keizaireport.com/report.php/RID/152956/
Economic Trends 経済関連レポート
「貯蓄なし」世帯3割の驚愕 発表日:2012年2月27日(月)
〜2人以上世帯28.6%、単身世帯38.7%〜
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生(пF03-5221-5223)
「家計の金融資産に関する世論調査」では、2人以上世帯の28.6%が金融資産を保有せず、単身世帯でも38.7%が保有しないという結果になった。日本が貯蓄大国であるというイメージを覆すという意味で、驚愕である。その背景には、東日本大震災の影響や、高齢者によって貯蓄を取り崩している世帯が増加していることがあるのだろう。趨勢的には、リーマンショックもあって、雇用環境が脆弱化して、勤労世帯が低所得化している影響も見逃せない。
全世帯の3割が貯蓄なし
金融広報中央委員会が2011年10月に実施した「家計の金融資産に関する世論調査」では、現在、金融資産を保有していない世帯が、世帯構成員2人以上の世帯で、28.6%となっている。この数字は、遡及可能な1963年以来で過去最高である(図表1)。前年2010年の調査が22.3%だったので、1年間に+6.3%も無貯蓄世帯の割合が跳ね上がったということになる。3,800サンプルの標準誤差が信頼区間1.8%程度の変化が有意とみられるので、この変化幅はこの1年間に母集団に大きな変化が起こっている可能性が高いということを示すものである。
また、2人以上世帯の調査とは別に行われた単身世帯の調査では、無貯蓄世帯の割合は、38.7%ともっと高くなっている。もともと単身世帯は貯蓄を持たない世帯が多いのだが、前年対比の変化幅でみても、33.8%から38.7%へと+4.9%上昇している変化は、2人以上世帯と同様に大きなものだ。
この調査で気をつけないといけないのは、「金融資産を保有してない」という問いの意味が、個人事業主の事業性資金や、給与振込など決済用の預貯金は含めないことを定義になっていることだ。だから、預貯金残高がゼロということではない。同調査では、「金融資産を保有していない」と回答した28.6%(2人以上世帯)に、預貯金の口座の有無を答えてもらったところ、84.3%は口座を保有していた(口座なしは11.5%、残差は無回答)。実は、計算してみると、口座を保有するが、金融資産は保有していないという世帯も、対前年で+5.2%(2010年18.8%→2011年24.1%)となっていた。これは、将来に備えて蓄えていた金融資産をすべて取り崩してしまい、決済口座だけになった世帯が、この1年間で増えているということである。 -5101520253035401963年
1966年1969年1972年1975年1978年1981年1984年1987年1990年1993年1996年1999年2002年2005年2008年2011年出所:金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」28.638.7単身世帯2人以上世帯%(図表1)金融資産を保有していないと回答している 世帯の割合
参考までに、2人以上世帯と単身世帯を統合して総世帯で「金融資産を保有していない」世帯の割合がどのくらいであるかを計算すると、2010年の国勢調査の割合を使うと、加重平均が31.9%となる。この数字は一般世帯5,184万世帯のうち、およそ3世帯のうち1世帯が将来への備えを持っていないという衝撃的な結果を示している。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載
された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 1 -
将来不安につながる貯蓄なし
なぜ、ここにきて無貯蓄世帯が急増したのだろうか。金融広報中央委員会の調査では、細かいクラスターのデータ公開までに時間がかかる(調査の概要が2月22日に公開)。今後、地域別のデータを含めて調べなくては、現時点では詳細な分析ができないのが実情である。
そこで、筆者は、無貯蓄世帯が急増していることの原因について、次のような3つの仮説を立てた。
(1)東日本大震災が起こり、震災の被害を被った世帯がやむを得ず、貯蓄を取り崩した。
(2)震災の影響を含めて、この1年間の雇用悪化が若年層や高齢層のような不安定な層の所得環境を厳しくして、貯蓄取り崩しを加速させた。
(3)団塊世代を中心に、60〜64歳の年金受給者が増えて、高齢層がさらに貯蓄取り崩しを進めた。
実は、震災のダメージは、アンケート調査では見極めにくくなっている。「家計の金融資産に関する世論調査」では、アンケートを実施するサンプル8,000世帯から被災地の32世帯を除くような対応をあらかじめ採っている。しかし、その対応が、震災による影響を除去したとは到底考えられない。サンプルの中に、ダメージを負って家屋の修繕のために預金を取り崩した世帯が含まれていれば、それが無貯蓄世帯の増加につながるだろう。
反対に、震災によって預貯金が増えたのではないかと考える人もいるだろう。国内銀行の預金残高の伸び率は、12月末時点の前年比が、福島県の個人預金が8.9%増、宮城県が14.1%増、岩手県が6.9%増となっている。義援金、保険金によって、被災者の中には一時的に資金を受け取った人も少なくない。それでも、実態として、マクロの個人預金の増加とは乖離して、ミクロでは世帯の中で復旧費用や生活資金を捻出するために預貯金を大きく取り崩した人が続出したと考えた方が自然であろう。
おそらく、(2)もこれと同様の変化が起こっているだろう。「家計の金融資産に関する世論調査」では、金融資産残高が減少した理由として「定期的な収入が減って金融資産を取り崩した」という回答がここにきて急増している。震災後、日本全国で被災企業の操業度が大きく下がって、製造業などで企業活動が大きく停滞した。象徴的なのは、雇用調整助成金を支給される企業が続出して、一時183万人の雇用者が助成金の援助を受けたことである。雇用調整助成金は、企業の雇用削減を抑制させる効果を持ち、実際に雇用調整を踏み止まらせる成果を上げたことが知られている。しかし、休業期間に所得を減らされた雇用者が、そこで貯蓄の取り崩しを余儀なくされていることを完全には防止できなかったと考えられる。
また、被災地の失業者には、失業保険を受け取りながら職探しをする者や、職探しを諦めて非労働力化する者も多くいた。こうした雇用環境の悪化は、一般的にエコノミストが注目している完全失業率で表示されるものよりも深刻であったという解釈もできる。通常の雇用指標には表れにくいダメージが、震災後に家計に及んだとみることができる。
高齢化の要因
震災の影響とは別に、無貯蓄世帯を増加させているのは、リタイアする人の増加である。高齢化が進むと、趨勢として貯蓄を取り崩して生活する人が増える。2007〜2009年は、団塊世代が60歳を迎えて、退職が進んだことが思い出される(図表2)。このときは、退職金を受け取って、優雅に消費生活を送るというイメージが流布された。このイメージは、一部の高齢者には当てはまった
のだろうが、一方で十分な退職金は受け取れずに、ごく僅かな公的年金しか受け取れなかった人も少なくなかったはずだ。2001年から60歳の年金受取りが報酬比例部分に限定される受給者が徐々に増加することに変わった。そうした年金見直しの影響が、60〜64歳の中で大幅な貯蓄取り崩しを余儀なくされる世帯を生んでいる(図表3)。2011年は、団塊世代が62〜64歳になっているタイミングである。60歳に退職してから時間が経過して、僅かな蓄えを使い果たす高齢世帯が徐々に増えてきた可能性はある。
先にも述べたが、マクロとミクロの間には乖離が生じることがしばしば起こる。マクロ統計では高齢者消費が増えていても、一方でミクロの世界では困窮する高齢世帯が増えていてもおかしくはない。もともと世帯の高齢化には、経済環境が二極化していく傾向がある。
(図表3)高齢者世帯の家計収支単位:万円/月無職世帯勤労者世帯60-64歳65-69歳70-74歳75歳以上60-64歳65-69歳70歳以上消費支出27.426.524.621.833.526.628.7可処分所得14.517.820.020.333.933.734.9赤字額▲ 13.0▲ 8.7▲ 4.6▲ 1.50.57.16.2出所:総務省「家計調査」(2010年)、2人以上世帯
趨勢でみた無貯蓄世帯の増加
2010年から2011年にかけての変化が大きかったので、ここまでは単年度の変化に注目してきた。次に、もっと趨勢的な変化を調べてみたい。
2人以上世帯の年代別の無貯蓄世帯の割合を、2000年から2010年にかけて調べてみると、どの年代も趨勢的にその割合が上昇している(図表4)。仔細な変化を読み取ると、傾向として若い世代の方が無貯蓄世帯の割合が高く、ここ数年もその上昇傾向がやや強い。これは、リーマンショックなどの大きな経済ショックが、雇用環境が脆弱になり、勤労世代における無貯蓄世帯を増やしたことを反映しているのだろう。
また、年収階層別についても、2000年から2010年にかけての変化を追ってみた(図表5)。収入がない世帯や300万円未満の所得層では、他の階層よりも無貯蓄世帯になる割合が高い。そうした低所得の世帯は、趨勢的に増えている。世帯の低所得化は、ストック面でも無貯蓄世帯を増やしやすい下地になっていると考えられる。 -102030405060708020002001200220032004200520062007200820092010収入はな い300万円300〜500万円500〜750万円750〜1,000万円1,000〜1,200万円1,200万円以上出所:金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」%(図表5)所得階層別にみた無貯蓄世帯の割合2011年のデータは未公表。510152025302000200120022003200420052006200720082009201030歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 出所:金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」%(図表4)世帯主年齢別にみた無貯蓄世帯の割合2011年のデータは未公表。
経済政策としての貧困対策
全世帯の約3割が、無貯蓄化している現状は、日本が貯蓄大国として認識されている姿とは大きく食い違う。ストック面で無貯蓄世帯が増えていることは、フロー部分の低所得化が長引いていることの表れだとも理解できる。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載
された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 3 -
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載
された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 4 -
つまり、日本の長期不況は、豊かだった時代の貯蓄大国のイメージを徐々に変容させつつあるのだ。
経済統計の世界ではよく知られていた事実だが、貯蓄分布は少数の高貯蓄者のサンプルに引っ張られている。表現を変えると、平均値という数字は少数の高貯蓄者のサンプルに引っ張られていて、実感との間に大きなずれを生じさせる。このずれは、政策当局は、日本が貯蓄大国だと信じていても、庶民感覚ではすでに貧困化している実感が広まっているという乖離なのだろう。
一方、政府には、世帯の経済環境をフローでしか把握して評価しないという尺度のずれもある。例えば、公的年金受給は、働く高齢者には厳しく、無職の高齢者に優しい。実態は、貯蓄が少ない高齢者が働いていて、高貯蓄の高齢者が働いていないのかもしれない。政府は、「社会保障と税の一体改革」に絡んで、税と社会保障の個人情報をまとめたマイナンバーの導入を検討している。この個人情報の中に、預貯金など貯蓄のストックの実態も含めて把握しなければ、フローだけで経済状況を評価するずれに対応することはできないだろう。そうした意味で、公的年金などの給付条件をもっとスローとストックでバランスよく把握して、公正を期することが必要だ。
さらに、貧困対策のあり方も検討されねばならない。政府は、年金制度を見直して、月7万円の最低保障年金の導入を推進している。この最低保障年金は、どうしても用意周到に練られた制度とは考えられない。元来は、ベーシック・インカムのような生活保護に替わる仕組みを目指していたはずではないか。それを強引に積立方式の年金制度に継ぎ足そうとしたために移行期間に40年もかかるような制度になってしまうようである。無貯蓄世帯が3割も居るのに、そこに40年先の最低保障年金を導入しようとしても、ほとんど意味を成さない。マニフェストに盛り込まれたために、問題がかえって複雑骨折しているようにみえる。
現実的に制度設計を考えるのならば、月7万円という水準を大幅に低くして、消費税率を財源にしたベーシック・インカムに近似した制度を検討することだろう。ただし、ベーシック・インカムの運用は経済的・政治的に難しく、給付額を引き上げると勤労意欲を阻害する弊害が起こるし、政治的には税金を使って必要以上に広範囲に給付金を散布するような扱いにもなりかねない。筆者は、誰にも支給するベーシック・インカムではなく、公的年金制度とは切り離して、生活保護制度を衣替えすることが現実的だと考える。その場合、掛け捨て型の生活保険のような扱いになるかもしれない。
無貯蓄世帯が3割も居るという現実は、そうしたセーフティネットを再考することへの問題提起だと受け止められる。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。