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日本経済の流れが変わった この「円安」「株高」をどう読み切るか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32127
2012年03月26日(月)週刊現代 :現代ビジネス
いつまで? どこまで?90円超えは?株価1万2000円は?---プロはこう考えている
つい最近までは70円台が当たり前だったのに、いまは連日の80円台。日経平均もコンスタントに1万円台が出る。このままいってほしいが、逆戻りの恐怖もある。今回は本物か。プロが読み切る。
■本格相場はこれから始まる
〈私は2011年の終わり頃言っていた米ドル/円相場が100円にまで戻りそうだという水準が(中略)2012年中に実現するかもしれないと思えてきました。当時考えられていたほどには、現実離れした話ではないように思えます〉
BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)という造語の生みの親であり、世界中のマーケット関係者がその発言に注目するゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長のジム・オニール氏。そんな経済のプロ中のプロが、今年3月に発表したレポート内に、こんな衝撃的な一文が書かれた---。
悪夢から目覚められる日が、ついに来たのか。
日本を代表する企業が大赤字を垂れ流し、エルピーダメモリの破綻劇まで発生。中高年は資産運用で買った株や投資信託が次々に暴落して、虎の子≠大きく失った。長く日本人を苦しめてきた円高・株安。その相場トレンドに、巨大異変≠ェ起き始めた。
昨年まで70円台が当たり前だった円・ドル相場が急転して、今年の2月に入ってからたった1ヵ月半で83円ほどの円安まで一気に下降。日経平均も追うように急カーブを描いて昇っていき、3月に入るとついに1万円を突破する株高をつけたのだ。
いったい、何が起きているのか。
フィスコリサーチ部アナリストの小川佳紀氏は、「相場心理が百八十度変わった」と言い切る。
「もとをたどれば昨年12月末にECB(欧州中央銀行)が行った4890億ユーロの金融緩和が始まりです。続けてECBは今年2月にも、5295億ユーロの資金供給を実施したことで、欧州債務危機問題が一段落したとの空気が流れた。
これでマーケットがそれまでのリスク・オフ(リスクを避ける状態)から一転してリスク・オン(リスクをとる状態)になり、欧州の投資家が中心となって米国や日本の株式市場で買いに走って、急激な株高を演出したのです」
FXプライムチーフストラテジストの高野やすのり氏も、「外国人投資家が『日本経済の流れが完全に変わった』と見るようになった」と語る。
「今年1月に、日本の経常収支が'85年に統計が開始されて以来最大の赤字になったことが大きい。日本人はこれを一過性のものだと考えたが、外国人投資家は『日本経済の流れが完全に変わった』と見たんです。
さらに2月14日に日銀が・サプライズ金融緩和・とインフレ目処の設定を行ったことで、外国人投資家が『日銀がついに本気になった』と捉え、いっせいにドルを買って、円を売る動きに転じました」
円安になれば輸出企業を中心に日本企業の業績も回復し、さらなる株高が期待できる。マーケットの好転≠ゥら、証券会社で新規の口座開設を申し込む日本人投資家も増えてきた。
欧州の国債危機を報じるニュースが毎日のようにメディアで流れ、米国の経済指標も予想以下≠フ発表が連発。日本も電力不足リスクを抱える中で、いずれの先進国も「危なくて買えない」という市場停滞ムードが蔓延していた昨年とは、ガラリとムードが変わったことは間違いない。
さらに---。
「株高の本格相場が始まるのはこれからです。現在の日経平均は場中で1万円を超えても、引けで再び1万円を割る相場になることが多い。その原因は公的年金の売り。リーマン・ショック後に大量に買い越していた彼らが、1万円に近づくと利益確定の売りを出すから、大相場とはいかない状態が続いている。ただ、そろそろこの売りが落ち着く。
さらに4月後半からゴールデンウィーク明けにかけて発表される2012年度決算予想で、円安効果で業績が急回復して、いい数字を出す日本企業が続出する可能性がある。その直前頃から好決算を見越してさらなる外国人の買いが殺到し、日本人も『ここで買わないと乗り遅れる』と追随することで、株式市場は本格相場に突入。日経平均は1万1500円ほどまで急上昇するでしょう」(マネーリサーチ代表の山本伸氏)
そうなれば円安で収益が改善、株高で資金の余裕ができた企業が設備投資などを活性化させる。さらに株式市場の活況で新規上場するベンチャー企業も多数出てくる。そうして好循環が回っていけば、日本経済「復活」の明るい未来も見えてくる。
とはいえ、日本人はここ何年もずっと円高・株安に悩まされてきたのだから、急に事態が好転するといわれてもぬか喜び≠ヘできない。再び悪夢の円高・株安に落ちることはないのか。
そこで今回、経済のプロ13名に「3ヵ月後」「年末」に円相場、日経平均がどうなっているかを予測してもらった(その結果をまとめたのが、35ページの表)。
まず「3ヵ月後」を見ると、日経平均が1万円を超えると予測した人が半数以上、円相場も80円を割らないと見る予測が多数となった。当面は円安・株高が続くと見てよさそうだ。
■製造業もV字回復するか
その理由を、元スイス銀行トレーダーでマーケット・アナリストの豊島逸夫氏がこう指摘する。
「日本では円安だといわれていますが、海外の投資家はドル高だと見ている。つまり、海外の投資家は欧州、米国、日本のうちどれが一番マシかという弱さ比べをしており、相対的に良い経済指標が立て続けに出ている米国にマネーが流れている。当分はこの基調が続くと見られています」
さらに「年末」の予測を見ても、約半数が現状の「円安・株高」の水準を維持もしくはそれ以上にいくと見ていることがわかる。
「3月13日の日銀の政策決定会合では期待された追加金融緩和がなかったため、株価は下落しましたが、それも大幅なものではなかった。市場は今後に日銀がさらなる緩和をやるだろうとの期待感がくすぶっている状態で、この間は株価も上がりやすい。さらに米国も景気に変調が現れれば小規模な金融緩和策を打つでしょうから、景気が急激に悪化するということにはなりにくい。
もちろん世界的にはイランとイスラエルの戦争リスク、中国経済の失速リスクなどがありますが、そうした事態が起こらなければ、年の前半までは日米とも景気は回復し、後半になると中国など新興国の景気も良くなり、世界的な株高になると思います」(信州大学教授の真壁昭夫氏)
「年前半には米国の景気問題、欧州の債務問題などが再び顕在化して円高・株安に戻るかもしれませんが、年後半にはまた円安・株高に振れるでしょう。というのも、大統領選挙を控えたオバマ大統領がどんな手を使ってでも景気を回復させようとして経済対策を打ち出してくるからです。それによって米国の景気は上向き、米ドルも買われる(円安になる)でしょう」(証券アナリストの植木靖男氏)
日本だけでなく、米国、中国なども好況となれば、世界同時株高の到来だ。円高で死に体≠フ製造業が息を吹き返し、米国や中国の巨大市場で売りに売りまくるV字回復も夢ではなくなる。
ただ落とし穴≠ェないわけではない。さっそく春先にかけて世界中で市場に水をさす<Cベントが目白押しで、これを乗り切れないと逆戻りする可能性があるのだ。
みずほ総研シニアエコノミストの山本康雄氏は「欧州の選挙」を不安視する。
「4月になるとギリシャでは総選挙が行われ、財政再建に反対している政党が勝つと、すでに決まっている財政支出のカットなどが覆って再びのデフォルト危機に陥る危険性が出てくる。同月にはフランスでも大統領選があり、サルコジに代わってオランドが勝利すると、ドイツと協調してやってきたユーロ支援さえどうなるかわからなくなる。こうした不安材料が認識され始めた4月頃に、機関投資家のスタンスが再びリスク回避へと変わり、安全逃避先である円が買われるシナリオはありうる」
■日経平均1万5000円
クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏が指摘する懸念材料は、「ガソリン価格」だ。
「5~8月に再び円高・株安に戻る可能性がある。米国の景気が春以降にいったん、減速するからです。実はガソリン価格が今年1月から上昇を始めており、車大国である米国ではガソリン価格の上昇が消費の低迷に直結する。しかもその影響というのは時間差をもって現れてくるもので、今回はちょうど5~8月の間に鮮明になってくる。
消費が落ちれば、雇用の回復も足踏み状態となり、景気の減速感が加速する。そのときにドルが売られて、世界的に株価も下落する。為替は80円を割る円高になるかもしれません」
当面は「欧州の選挙情勢」「米国の景気動向」が課題ということだ。
仮にそこを乗り越えても、「年末」までには、またいくつもの障害が出てくる。
ひとつは「日米金融当局の動向」。
「日銀が金融緩和をやらなければ再び円高に戻す。また米国のFRBがQE3(量的緩和第3弾)に踏み切れば、あるいはやるという雰囲気を出すだけで円高になる。最悪なのは米国がQE3をやって、日銀がなにもしないシナリオ。このときは一気に円高に振れて、77円くらいまで戻してしまう可能性が高い」
こう指摘するのは上武大学教授の田中秀臣氏。ただ同時に、円安にもっていく処方箋≠烽ると言う。
「3月13日に日銀が期待された追加緩和をやらなかったのが残念です。あの段階で10兆円ほど追加緩和をしていたら、90円台まで円安を進めることができたでしょう。日銀が連続的な金融緩和をやることで、本当にインフレターゲットをやっているんだと市場に印象付けられたからです。
だから今後も米国がQE3をやろうとしてきたら、すぐに日銀も追加緩和をやるべきです。そうすれば円高に急激に振れることは防ぐことができます」
要するに日銀の動き方次第で、今後の命運が大きく変わるということだ。
もうひとつの障害は「市場のムードの変化」。
「いまは期待値が低かった中でいい話が出てきて相場が好転しているだけ。そもそも米国はいまでも消費者に借金をさせて景気を持たせているだけで、この借金を減らさないと問題は解決しない。欧州にしてもギリシャは国際収支が赤字なので、しばらくするとまた借金が積みあがってしまう。
これからは期待値が高い中で、思っていたよりよくなかったという話が出てくることが増えてくる。結果的に市場のムードが悪くなれば、ちょっとした情報でマーケットが一気に反応するようになり、円相場は再び70円台に戻してしまうでしょう」(ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの櫨浩一氏)
世界中のマーケットでリスク・オン相場になっている要因が、市場の「ムード」や「期待感」にあるという点は、ほぼすべての識者の意見が一致している。そして実はここに、「円安」を持続させるヒントが隠されてもいる。
第一生命経済研究所首席エコノミストの嶌峰義清氏が解説する。
「米国の景気指標がよくなったといわれますが、実は2月中旬に発表された主な指標をまとめてみると、事前予測を上回った指標と下回った指標の数はそれほど差がない。むしろ鉱工業生産や小売売上高などの重要指標は下回る結果にとどまっていた。
要するにいまの円安・株高はドルに対する安心感や円に対する不安感などのムードがあいまって演出されたものであって、それらのムードが『現実』と一致した暁には、本当の円安・株高が到来するときともいえるわけです。
具体的にいえば、欧州ではスペインやイタリアといった規模が大きすぎて救済不可能といわれる国への抜本的な対策が講じられるのか。米国では家計のバランスシートが改善されて、景気が本格的に回復するような局面に入るのか。日本企業が復興需要によらず、グローバルに本当に活躍できる企業に変革できるか」
期待感のあるうちに、それに応えればいいということ。BNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏もこう言う。
「海外の投資家の中には日経平均が1万5000円にいくといっている人も多い。彼らはとても強気で、それだけ日本に期待しているともいえます」
■この好機をどう生かすか
ひとまずの円安は、長く円高に苦しめられてきた日本企業にとって干天の慈雨であり、この間に企業がどう動くかが、今後の真の相場動向を決めるということだ。
「いまの円安で日本企業は時間稼ぎができる。ここでどこまで企業が構造改革をして、姿勢をたてなおすことができるかに景気浮揚はかかっている。さらにこの株高を利用して、新たな設備投資、商品開発、技術開発に結びつけていけるか。
マーケットの神≠ェ与えてくれた円安・株高という福音≠企業が生かすことができれば、日本株の真の復活もあると私は見ています」(前出・豊島氏)
もちろん市場の期待を裏切ることになれば、総倒れ≠フ運命が待っている。
「特に怖いのが来年です。欧州では目先の最悪シナリオを回避したといっても、景気は落ち始めたばかり。そんな景気の悪い国に対しても財政緊縮を求める状態が続くので、景気が回復する道筋も見えず、いつまで持ちこたえられるのかもわからない。
そして、欧州がマイナス成長となった'11年10~12月期に米国の上場企業の業績が2桁成長から1桁成長に落ちたように、米国がそれに引きずられて不況に落ちる危険性が高まる。
さらに日本では来年になると復興需要がなくなる。円安になるといっても、電機メーカーなどは韓国との競争に敗れ、会社によっては黒字に転換できるかどうかもわからない状態になるでしょう」(日本総研理事の湯元健治氏)
東短リサーチチーフエコノミストの加藤出氏もこう言う。
「米国は'85年のプラザ合意以降、ドル安に政策誘導をしていった。そして'85年から'09年まで、ドルは4割以上下落した。では、その間に米国の自動車業界が絶好調だったかというとそんなことはなく、'09年にはGMとクライスラーが破綻しました。
この史実≠ヘ、通貨安だけで企業は復活も成長もできないということを意味している。さらに円安になると海外企業から買収されるリスクも高まる。『円安になってくれなきゃ困る』と言っていた日本企業のトップが一転、中国企業からの買収攻勢におびえるという事態も考えられます」
またとない好機が到来していることは間違いない。そして、日本の政策当局や企業トップがすばやく大胆に動くことが、いま、求められている。それができなければ、二度と立ち直れない、弱小国家への道をズルズルと墜ちていくだけだ。
「週刊現代」2012年3月31日号より
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