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自民、公明も動く!郵政民営化の揺り戻しに異議あり
高橋洋一 [嘉悦大学教授]
自民・公明党は19日、郵政民営化法改正案の共同提出に向け、実務者協議を行ったという報道があった。焦点は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社の株式の扱いだ。それに関して「金融2社の経営状況等を勘案しつつ、全株を処分する」とし、一定の条件付きで完全民営化の道を残すと報じられている。
自民・公明党も
基本方針を変更
郵政民営化の具体的な制度設計(法案作り)を担当した筆者にとっては、かなり意外な話だ。
前々回の総選挙において、国民は、郵政民営化に対し大きな支持を表明した。だから、自民・公明党は郵政民営化の基本方針を堅持することは当然であると思っていた。そのキモは、金融2社の完全民営化である。しかし、報道では、一定条件付きで完全民営化となっており、裏を返せば、一定条件以外では完全民営化しないということだ。
そこで、どのような条件かと関係者に聞いていると、金融のユニバーサルサービスにぶち当たった。民主・国民新党が金融2社の株式保有にこだわるのは、金融2社が完全に民営化したときに、それに金融のユニバーサルサービスを義務付ける根拠を失うからだという。
そこで、公明党は、日本郵政を含む郵便事業会社側に金融のユニバーサルサービスを義務付けることを考えている。そして、金融のユニバーサルサービス提供のため、金融2社の完全民営化を行わないというわけだ。このロジックからいえば、完全民営化は金融のユニバーサルサービスを行わない場合となるわけで、それが条件となる。
ここで、ユニバーサルサービスとは(1)国民生活に不可欠なサービスであって、(2)誰も利用可能な料金など適切な条件で、(3)あまねく日本全国において公平かつ安定的な提供の確保が図られるべきサービスと定義される。電気、ガス、水道、郵便、通信などの分野で規定されている。
次のページ>> 英国を除いて実例がない「金融ユニバーサルサービス」
しかし、金融のユニバーサルサービスは、ほとんどの先進国でみられない。その唯一の例外ともいえるのが、英国における年金等受取に係るユニバーサルサービスだった。
それが導入された背景として、英国において、民間金融機関の地方における支店閉鎖が加速し、銀行口座を持てない者が増加して、社会問題化したことがある(いわゆる「金融排除問題」)。郵便局では、取引円滑化のために2003年より年金等の受取を為替等から口座振込へと変更した。そのため、銀行口座を持たない受給者が、新たに口座の開設が必要となることから、全国的に基礎的な金融サービスを提供することが要請されていた。
そこで、金融排除の問題に対応するとともに、引き続き郵便局で年金等を受け取ることを可能とするため、英国政府、郵便窓口会社と民間金融機関は、ユニバーサルサービスを提供するための三者協定書を締結した。
これにより、金融排除されている人でも、民間金融機関の当座預金口座(Current Account)、民間金融機関の基本銀行口座(Basic Bank Account)、郵便局カード口座(Post Office Card Account)の3種類の口座から、いずれか一つを選択して、給付金を受け取ることができるようになった。基本銀行口座は郵便局における現金引き出しも可能である。と同時に、そのために財政支援措置も決定している。
この金融ユニバーサルサービスの対象は、年金・税金の払い戻し、社会保障給付金、銀行口座からの現金の引き出しとなっている。
このポイントは三者協定書である。つまり、郵便局だけを対象としていないのである。金融のユニバーサルサービスの性格上、郵便局だけに義務を課したり財政支援するという形式ではない。もし金融のユニバーサルサービスを提供するのであれば、どんな金融機関であっても、義務と対価があるわけだ。
次のページ>> 現状でも「基金」でユニバーサルサービスの提供を確保
こうした世界の常識から見ると、公明党の「郵政」にだけ金融のユニバーサルサービス義務を課すという案はおかしい。
そもそも、関係者は、民主・国民新党が金融2社の株式保有にこだわるのは、金融2社が完全に民営化したときに、それに金融のユニバーサルサービスを義務付ける根拠を失うからだというが、それも怪しい。
筆者の経験からいえば、民主・国民新党は何が何でも民営化したくないという考えが先にあって、そのための屁理屈として、金融のユニバーサルサービスが出てきたというのが実情だ。しかし、言い出してはみたものの、上述の英国を除いて世界での実例がなく、しかも英国さえも郵便局だけを対象とするものではない。
現状でも「社会・地域貢献基金」で
ユニバーサルサービスの提供を確保
日本の場合、僻地といってもほとんど農協を含む民間金融機関があるので、英国のような状況ではない。つまり、金融でのゆうちょ銀行のシェアが大きくないにもかかわらず、ゆうちょ銀行にだけ義務を課し対価を支払うことは不公平という理由で、郵政民営化法では金融についてユニバーサルサービスを法律上義務付けていない(郵便は独占なのでユニバーサルサービスが義務付けられている)。
その代わりに、郵便局の拠点維持義務を課している。郵便貯金(ゆうちょ)銀行と郵便保険会社(かんぽ生命)の全株式を処分して「完全民営化」する2017年までは、郵便局で金融サービスを提供する代理店契約を義務付け、さらに、仮に過疎地などの一部の郵便局で貯金・保険のサービスの提供が困難となる場合には、社会・地域貢献基金を活用してサービスの提供を確保することとしている。
この基金の規模(1兆円以上)については、将来過疎化が大幅に進行したとしても、過疎地域等における貯金・保険のサービスの提供に必要な額を運用益によって賄えるように設定していることから、これにより地域にとって必要性の高い貯金・保険のサービスの提供を確保することは可能である。
次のページ>> 民営化後は営業中の郵便局数は増加
郵政民営化法では3年ごとの見直し規定があるが、問題はこうした金融のユニバーサルサービスを法定せず、その代替措置による郵政民営化の基本原則の運営に支障がでているのかどうかである。具体的には、金融のサービスの提供が民営化によって困難になった実例とともに、きちんとした数字に基づく検証が必要である。
筆者が見るところ、郵便局数は民営化前の減少傾向は民営化で歯止めがかかり、逆に民営化後は営業中の郵便局数は増加した(2011年3月末の落ち込みは東日本大震災によるもので一時的)ので、僻地の金融サービスに低下はないはずだ(グラフ参照)。
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具体的な弊害がないにもかかわらず、郵政にだけ金融のユニバーサルサービスをいうのは、郵政選挙で国民から支持された郵政民営化基本方針に反しているといわざるをえない。しかも、この郵政にだけを特別扱するのは、WTOなどで不公正取引としてやり玉に挙げられる可能性もあるし、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉において、日本は著しく不利になるだろう。
民主・国民新党が世界でも希な金融のユニバーサルサービスをさらにいびつに主張するのは、これまでのヘンテコな経済運営から、またかという感じである。それが、自民・公明党まで伝染しているとすれば、既存政党の政策立案能力が低く、情けないと言うほかない。もうしそうであれば、資本主義における普通の政策を主張する、みんなの党や大阪維新の会への期待が高まるのもやむをえまい。
質問1 少なくともゆうちょ銀行、かんぽ生命保険は完全民営化すべきだと思いますか?
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