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日銀・脱デフレ宣言は新生ソロスの“受胎告知”円安・株高招いたゲームチェンジャー
• 2012年3月19日 月曜日
• 松村 伸二
日銀による事実上のインフレ目標の導入が円安・株高旋風を巻き起こした。円高是正を喜ぶ国内勢とは裏腹に、一部の海外勢は日本の財政規律の緩みを突いて円を売り始めた。通貨安防衛の限界を見越した投機大戦の再来かもしれない。
久しぶりに、日本からゲームチェンジャーが現れた――。2月14日に、「物価安定の目途」を導入した日銀の金融政策姿勢について、多くの外国人投資家からの問い合わせが日本のエコノミストたちに殺到している。
6円強も円安が加速
円の対ドル相場は「目途」導入前の1ドル=77円台半ばからほぼ1カ月間で、11カ月ぶりとなる84円台まで一時下落し、6円強も円安が加速。輸出企業 の為替採算の改善を好感した株式市場ではこの間、日経平均株価が1100円も切り上がり、8カ月ぶりに1万100円台を回復した。
日銀はそれまで、中長期的な物価安定を見なす基準として、「物価安定の理解」を用いてきた。これは、日銀の政策決定を担う政策委員会の審議委員たちがそれぞれ持つ物価観の水準から割り出した平均値で、あくまでも参考値にすぎなかった。
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日銀は脱デフレを強くアピールする姿勢に転換
一方、今回の「目途」は、英語表記を「goal(ゴール)」とし、米連邦準備理事会(FRB)が1月に導入した目標を表す言葉と同じにした。「(これま でと違い)政策委員会としての判断を示したもの」と白川方明総裁が強調するように、中央銀行として今後の金融政策を遂行する上で意図する物価目標と位置づ けられる。その目途の当面の水準は「前年比1%上昇」と明示。それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と量的金融緩和を推進していくと断言し た。
その強い政策姿勢をさらに印象づけたのが、3月13日の金融政策決定会合後の発表文だ。2月の段階で、最後の項目に置いていた「デフレからの脱却」の文言を、一番頭に持ってくることによって、脱デフレのメッセージを強めた格好だ。
一連の宣言から、「日本が長らく苦しんできたデフレの解消に向け、日銀はさらに金融緩和を強化するのではないか」という、今までには見られなかった政策 姿勢の本気度を感じた市場参加者は、今後のグローバルマーケットの展開の鍵を握るとして、日銀の今後の一挙手一投足に細心の注意を払わざるを得なくなっ た。
その日銀に関するスケジュールが目先は目白押しだ。まずは来週以降、地方出張する2人の審議委員による懇談会での挨拶と記者会見が相次ぐ。
「緩和継続」立役者の発言に注目
22日に神戸市に出向く森本宜久審議委員は、景気に対し強気派と見なされている1人だ。東日本大震災の影響について、森本委員は昨年の早い段階から「生 産は(昨年)7〜9月中に震災前の水準まで戻る可能性がある」との認識を示し、当時の日銀金融経済月報よりも明るい見通しを表明した経緯がある。目先の景 気回復を確かなものにする狙いから、一段の金融緩和に踏み込んだ発言が飛び出すかどうかが注目される。
28日に千葉市に行く宮尾龍蔵審議委員は、もはや海外で名前が知られ始めた存在だ。実は、3月13日の政策発表後に円安が一段と加速した“立役者”だ。 この日、日銀は成長支援資金の供給を拡充した一方、2月に10兆円増やした資産買い入れ等基金の追加増額は見送った。後者に失望した国内勢が一時円買いに 走る場面すらあった。
しかし、海外勢の着眼点は違っていた。宮尾委員が資産買い入れ等基金の5兆円増額を1人で提案していた点に注目したのだ。この提案は残り8人の反対で否 決されたわけだが、次の緩和につながる意思表明として、結果的にゼロ回答を回避したと受け止められた。その宮尾委員の発言内容次第で、海外勢がさらに円売 りを仕掛けてくる可能性がある。
審議委員の発言が相場を左右?
日銀に関連する注目スケジュール
3月 22日(木) 森本審議委員、神戸市であいさつ・記者会見
28日(金) 宮尾審議委員、千葉市であいさつ・記者会見
4月 2日(月) 企業短期経済観測調査(短観、3月調査)発表
4日(水) 亀崎英敏審議委員と中村清次審議委員が任期切れ
9日(月) 金融政策決定会合(10日まで)
27日(金) 展望リポート公表
4月に入ると、日銀は2日に企業短期経済観測調査(3月調査)の公表を予定する。企業の業況判断指数(DI)が円安の進行によって改善を示すようだと、市場は日銀による一段の金融緩和の効果に期待を強めるとみられる。
日銀短観を事前に占う指標とされる、日本経済新聞社グループのQUICKが16日にまとめたQUICK短期経済観測調査で、製造業の業況判断指数 (DI)はマイナス1、今後3カ月間の「先行き」はプラス2と、ともに前月2月から横ばいだった。この調査期間後にさらに円安が進んでいるため、日銀短観 では業況の改善を期待する声がある。この短観の内容を受け、4月9〜10日に開催される金融政策決定会合で、追加緩和の有無にさらに注目が集まることは必 至だ。
海外勢が円売りを強めれば強めるほど、円安によって為替採算の改善が見込める国内の輸出産業との“蜜月関係”はさらに深まることになる。しかし、事態はそんなに明るくないかもしれない。気がかりなのは、海外勢が円売りを進める判断の根拠だ。
海外勢は「悪い円安」を想定?
今回、日銀が踏み込んだ政策転換にたどり着いた背景に、野田佳彦政権による政治的なプレッシャーの存在を感じ取った市場関係者は多い。昨年の巨額な円売 り介入にもかかわらず、超円高に歯止めを掛けられず、消費増税の議論も迷走する政権側が、2月の日銀会合前から国会などの場で露骨に日銀の尻をたたく姿が 痛々しかった。
特に、日銀が国債の買い入れ規模をさらに増やしたことで、将来的な「国債の日銀引き受け」という“禁じ手”の実現可能性までもが市場でにわかに意識され ている。日銀には、長期国債の保有残高が銀行券の発行残高を超えないようにする「銀行券ルール」が従来からある。資産買い入れ等基金による国債購入枠は対 象外とされているが、年内にも実質的にこのルールが破られる可能性が出てきた。
基金の購入分を含めたとしても、いったんルールが反故されると、それが既成事実化し、本来の銀行券ルールの存在意義がないがしろにされかねない。そうな ると、政治サイドから新たに財政ファイナンスのプレッシャーが強まり、いずれは日銀法の改正にまで具体的な議論が及ぶ事態もないとは言い切れない。つま り、海外勢は「悪い円安」を投機の口実にすることも考えられるわけだ。
政治的な動きがさらに強まるかどうかで注目されそうなのが、政策委員会の人事の行方だ。9人の審議委員のうち、亀崎英敏委員と中村清次委員の2人が4月 4日で任期切れとなる。新しい審議委員の任命では、脱デフレに強い意欲を持ち、国債の購入に積極的な見解を持つ人材の登用が現実味を帯びかねない。白川総 裁自身の任期も来年の4月8日までと、1年を残すのみだ。現時点では低いとみられる再任の可能性を巡り、政治の圧力が今後も続くことは想像に難くない。
こうした日銀を取り巻く構図を強く意識した海外投資家による円売りの動きも出始めているようだ。JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは、今回 の日銀の政策決定がもたらす円相場への影響について、1ドル=79円程度と想定し、足元で一時84円台まで円安が進む現象を「行き過ぎ」と感じている。そ れほどまでの円売り圧力について、菅野氏は「一部の海外投機筋が、将来の財政規律の緩みを想定して円を売っている可能性がある」と指摘する。
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そもそも、投機筋の立場に立つと、当事国の通貨を売るほうが勝負に挑みやすい。これまで日本の政府・日銀は円高是正のため、円売り・ドル買い介入を実施 してきた。物理的にはいくらでも発行が可能な自国通貨を売って、外貨を買う介入は技術的に進めやすい。しかし、自国通貨が急落した場合、その通貨を買う一 方で、保有に限りがある外貨を売る介入には、いずれ限界が訪れる。
この象徴的な勝負が1992年秋に見られた、英国当局と著名投機家のジョージ・ソロス氏との攻防だ。当時、欧州為替相場メカニズム(ERM)に参加して いた英国のポンドが割高に放置されているとして、ソロス氏を中心とした投機筋が英国ポンドを売り浴びせる投機合戦が繰り広げられた。一方のイングランド銀 行(英中央銀行)は連日のように巨額のポンド買い介入を余儀なくされたが、結果的にこの時、ソロス氏は巨額の利益を得て“勝者”となった。
日本も将来、ソロス氏のような新手の投機家が現れた場合、標的にされる可能性がないとは言い切れない。消費増税が難航を極めれば、海外勢は日本の財政悪化を材料に円売りをさらに強めるとみられる。
今は株高を援護する円安の流れが評価されているが、これが悪い円安に転換しないよう、国の財政政策と日銀の金融政策にさらに目を光らせる必要があるだろう。
Movers & Shakers
いま、世界と日本の金融資本市場を揺り動かしているのは何か。株式、為替、債券、商品などの市場関係者が最も注目している銘柄やトピックに焦点を当 て、それを基軸にマーケットの動きを読み解き、週明け以降を展望する。毎週月曜日に配信し、ビジネスパーソンに役立つマーケット分析・予想を提供するコラ ム。
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松村 伸二(まつむら・しんじ)
日経ビジネス記者。
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