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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34794
Financial Times
英国経済、やはり量的緩和しかない
2012.03.19(月)
財務省が緊縮に走る中、英国のマクロ経済運営はイングランド銀行にかかっている〔AFPBB News〕
英国のマクロ経済政策の責任は、イングランド銀行の肩にかかっている。ジョージ・オズボーン財務相はむしろ、財政規律という主義を貫いている。
筆者の同僚クリス・ジャイルズが先日指摘したように、3月21日発表の予算案にどのような策が登場しようと、当面の状況にはほとんど違いを生みそうにない。
だからと言って、予算案が重要でないということではない。財政研究所(IFS)のポール・ジョンソン氏も述べているように、原則を欠く、小細工だらけの税制は予測不可能であり、そのため有害な不確実性の源泉になる。だが、悲しいかな、その状況が変わる可能性は低い。
マクロ経済面の大きな疑念は、「量的緩和(QE)」が機能するかどうかだ。QEに投じられた金額は驚くべきものだ。第3弾の資産購入プログラムの終了時点で、イングランド銀行は3250億ポンドの金融資産を所有することになる。新たに創造したマネーで購入するもので、大部分が英国債だ。イングランド銀行は、英国債市場の3分の1近くを所有することになるのだ。
そう、これはマネタイゼーション(貨幣化)だ。では、それは効果的なのだろうか? 危険ですらあるのではないだろうか?
QEによるマネタイゼーションは効果的か?
イングランド銀行の見解は、QEは金融政策が自然に発展したものであり、短期金利が0.5%と、イングランド銀行創設来318年の歴史上、最も低い水準にある時には必要だ、というものだ*1。伝統的な手法が使い尽くされているため、米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)のように、イングランド銀行も極めて非伝統的な手法を試さざるを得なくなっているというわけだ。
資産購入は、信頼を回復し、将来の政策を示唆し、ポートフォリオの調整を強いるほか、標準的な方法(銀行による融資)の機能が停止している時に流動性を高め、マネーサプライを拡大させることによって、うまく機能するとイングランド銀行は主張する。
*1=‘The United Kingdom’s quantitative easing policy’, Quarterly Bulletin 2011 Q3,www.bankofengland.co.uk.
イングランド銀行の分析は、全体的に見ると、2000億ポンドの第1弾のQEが国内総生産(GDP)を1.5〜2.0%、インフレ率を0.75〜1.5%押し上げたことを示している。だとすれば、QEは景気後退の「二番底」を防ぐ一方で、既に高いインフレ率を悪化させたことになる。これは妥当なトレードオフだろう。
その後、2011年10月(750億ポンド)と2012年2月(500億ポンド)に合意された計1250億ポンドのQEが金額に見合う影響を与えるとすれば、GDPを1.0〜1.25%押し上げる可能性がある。喜ばしい成長率の上振れではあるが、決定的ではない。総需要、信用供給、企業心理が大きく打ちのめされている時には、中央銀行は実に驚くほど多くのことをしなければならないのだ。
効果に関する妥当な懸念は、イングランド銀行の政策は中小企業の助けにならないのではないかというものだ。当然ながら、これは下院財務委員会で盛んに議論されたテーマだ。イングランド銀行は、信用リスクを取るのは財務省の責務だと主張する。米国やユーロ圏の状況は英国とは異なる。財務省が身動きの取れない状態に陥っているからだ。
イングランド銀行の見方は確かに妥当だ。政府が信用リスクを取るのであれば、法制化され、きちんとまとめられた計画の下でそうすべきだ。
量的緩和はハイパーインフレを招く?
では、イングランド銀行の政策は危険なのか? よくあるヒステリーは、QEは英国をハイパーインフレに向かう軌道に乗せた、というものだ。もしそうなら、懸念されるのは、QEの効果が小さすぎるのではないかというものではなく、その効果が絶大で、しかも時機を逸せず反転させられないのではないかというものだろう。
現代の銀行システムでは、準備金と融資の間に1対1の関係は存在しない。存在すればいいのだが! それなら、回復を図るのは極めて簡単だ。最終的に融資が回復し、金融政策を引き締めることが適切になった段階で、一部の英国債はそのまま満期を迎えさせ、その他の英国債を市場に売り戻すことによって、QEを簡単に反転させることができる。
イングランド銀行が英国債を消却せずに、持ち続けるべきなのは、このためだ。この政策が危険すぎると言うのは、化学療法が危険すぎると言うようなものだ。危険な状況には、思い切った治療が必要になる。治療がうまくできないのではないかと恐れることは、あまりに慎重すぎる。
別の議論は、イングランド銀行の政策は、倹約的な貯蓄家に害を及ぼすため、不公正だというものだ。だが、どんな金融政策にも分配効果がある。それは避けられない。
今回の場合、危機以前の膨大な金融債権の蓄積は、主として高騰する不動産価格の結果だった。売り手と彼らが残した遺産は得をした。高い不動産を購入するために借り入れを迫られた人たちは損をした。
この結末に公正なところは何もなかったし、これらの人為的に膨れ上がったバランスシートから人々が得たかもしれない収入に関しては何の保証もなかった。
仮に今、金利がかなり高くなっていたとすれば、経済はもっと弱いだろうし、住宅価格は下落しているだろう。自己破産の波が到来しているだろうし、金融資産でさえ危機に瀕しているだろう。これは、倹約的と言われる貯蓄家にとっても良いことではない。
もう1つのもう少しもっともらしい議論は、超低金利政策はゾンビ企業を生み、それゆえゾンビ経済を作り出しかねないというものだ。
QEは厄介な必需品
最悪の場合、中央銀行の超低金利資金は短期的に経済の健全性を取り戻せないかもしれないし、それゆえ、長期的にゾンビ企業の経済を作り出すかもしれない。このような結末は避けなければならない。解決策は、銀行に資本を積み上げさせ、不良債権を償却させることだ。
そう、QEは厄介な必需品だ。それでも必需品であることに変わりはない。正しい懸念は、それが十分に機能しないのではないかというものであるはずで、害を与えるのではないかということではない。
By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34791
The Economist
世界経済:これはもしや・・・回復か?
2012.03.19(月)
世界経済の見通しは、以前よりは明るくなった。だが、まだ大きなリスク要因がある。
このところ世界経済に関する良いニュースが続き、期待がふくらんでいる。米国では、企業が雇用を拡大し、消費者が支出を増やしている。ユーロ圏の景気後退は、予想よりも緩やかなものになっている。先進国としては60年ぶりのソブリン債デフォルト(債務不履行)となったギリシャの債務再編は、滞りなく進んだ。
回復の兆しと、惨事を回避できた安心感から、金融市場は着実に上昇している(とりわけ、昨年の年末にかけてリーマンショック規模の惨事の瀬戸際にあると見られていた欧州では、安心感が大きい)。MSCI世界株価指数は、2012年の年初から9%近く、2011年10月の安値からは20%上昇した。
あれほど悲観論が蔓延した後では、世界のアニマルスピリッツが再び躍動し始めていても、決して意外ではない。しかし、そうした楽観的な見方に警戒すべき理由も十分にある。世界の経済成長は、欧州の景気後退に加えて、新興国経済の勢いの衰えにも足を引っ張られ、依然として2011年よりも鈍化する可能性が高い。
また、いまだに大きなリスク要因がある。2008年の金融危機以来、力強く継続的な成長を求める投資家たちの希望は、あまりにもしばしば打ち砕かれてきた。不運(原油価格の高騰)もあったし、お粗末な政策(緊縮財政を急ぎすぎ、かつ規模が大きすぎだ)もあった。資産バブル崩壊後の景気回復は全般に脆弱になるという厳しい現実もあった。
核開発を巡るイランとの緊張が高まったりすれば、原油の供給ショックが再び大混乱を巻き起こしかねない。悪い方向へ進む恐れのある要因は、まだ数多く残されている。
景気は改善しているが好況ではない
11月の再選を目指す米国大統領にとっては都合のいいことに、回復の兆しが最も明確に見えているのが米国だ。景気循環の面でも(上向きの雇用が所得と消費を刺激している)、構造的にも(住宅バブル崩壊の後遺症が薄れつつある証拠が蓄積している)良い徴候が見える。
2010年の米国勢調査実施に伴う一時的な雇用を除くと、2011年11月からの3カ月間に創出された雇用は、3カ月単位で2006年以来最高の水準となっている。失業率と不完全就業率は、いずれも低下している。住宅価格は引き続き下落傾向にあるが、建設と住宅販売はどちらも上向き始めている。
各州が財政を緩和し、連邦議会が一時減税を1012年末まで延長したおかげで、消費者信用は拡大し、財政的な締め付けは緩んでいる。
これはいずれも、好況を示す要素ではない。2012年通年で見れば、米国経済の成長率は2.5%前後のトレンド成長率程度になるだろう。この数字は、通常の景気後退後に予想されるものよりはずっと低い。だが、金融危機後には、消費者が債務に圧迫されるため、回復は沈滞するものだ。
この水準の成長率では、失業率が急激に減少することはないが、2011年に比べればましだ。さらに重要なのは、これが自律的な回復に向けた最初の一歩になり得るという点だ。雇用が堅調に増加することで消費支出が増加し、それがさらに多くの雇用を生み出すという好循環になる。
回復からはほど遠い欧州
対照的に、欧州は依然として回復にはほど遠い。欧州の良いニュースは、もっとひどいことになりかねなかった事態がそれほど悪くはならなかったという程度のものだ。
マリオ・ドラギ新総裁率いる欧州中央銀行(ECB)が銀行に多大な流動性を供給したおかげで、金融崩壊と重大な信用収縮は回避されたように見える。その結果、景気後退が緩やかなものになっており、ドイツは景気後退を完全に免れる可能性もある。
だが、その他の国については、成長がどこから生まれるのかという点はいまだ明確になっていない。欧州のほとんどの国、とりわけユーロ圏の周縁国は、財政赤字を削減するために緊縮策を課している。そうした国々は、成長を後押しするために構造改革を実施しているが、顕著な効果が出るまでには、時間がかかるだろう。
だが、欧州の景気後退が緩やかなものにとどまれば、世界の他地域が受ける損害は限定的なものになる。それが、多くの新興国で2〜3カ月前よりも経済見通しが上向いている大きな理由だ。
確かに、中国からブラジルに至るまで多くの新興国では、金融政策の引き締めが国内消費を抑え、成長は著しく鈍化した。だが、欧州が崩壊すれば、輸出が急落して外国資本が逃げ、新興国の景気減速は今よりもずっと深刻化する恐れがあった。
ユーロ圏の大惨事が、少なくとも差し当たりは回避されたことで、新興国への資本の流れが増加し、輸出志向の経済国(特にアジア)は再び加速し始めている。
中国は例外だ。中国の最新の貿易統計は、驚くほど険しい内容だった。だが、その中国でさえ、2012年の今後の見通しは、最近のニュースが示唆する内容よりは良い。その原因は、歓迎すべきインフレ率の低下のおかげで、不動産投機の規制はそのまま残されるとしても、金融政策と財政政策を緩和する余地ができたことにある。
2012年中に指導部が交代する中国政府は、社会の安定の維持を重要視するため、あまりにも急激な減速を看過することはないだろう。
こうした様々な証拠を考え合わせれば、控えめな楽観論には確かな根拠があると言える。だが、より持続的な回復を生み出すためには、もっと多くのことを実行しなければならない。
最後の聖戦
欧州諸国に必要なのは、緊縮ばかりに力を注ぐのをやめ、成長を生み出す対策をもっと採用することだ。ECBの流動性供給により、債務国の政府は対処の時間をうまく稼ぐことができたが、ユーロ圏は永続的な対策として、財政規律とのバランスをとりながら、各国が政府債務を連帯して負えるようにする制度を構築する必要がある。
米国の優先事項は、回復を妨げずに財政赤字を縮小する中期計画を練り上げることだろう。残念ながら、11月の大統領選前にそれが実現する可能性はない。
中国経済は、相変わらず国内消費よりも投資に依存しすぎている。道路や鉄道の建設を奨励するのではなく、今年はなんらかの刺激策により、安価な住宅の建設や、賃金、年金、医療費支出の引き上げを進める必要がある。
楽観的になるだけの根拠は実際にある。だが、政治家たちが再び間違いを犯せば、回復が消えうせる恐れは残されている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34750
アジア
世界が注目する「フロンティアマーケット」、ベトナム激動の経済環境の中でも活力あふれる中小企業群
2012.03.19(月)
大場 由幸:プロフィール
先月のブルームバーグ発表によれば、最も有望な「エマージングマーケット」として、中国(第1位)、タイ(第2位)、マレーシア(第5位)、ロシア(第8位)、インドネシア(第9位)、インド(第15位)が20位内にランクインした。これらは、日本企業の有望投資先としても上位に挙がる国々だ。
日本企業に人気のベトナムは「フロンティアマーケット」
ベトナムの首都ハノイにあるホーチミン廟(筆者撮影、以下同)
一方、日本企業に人気の高いベトナムは、「エマージングマーケット」のランキングにはなく、最も有望な「フロンティアマーケット」ランキングの第1位であった。
世界から見ればベトナムはまだまだ「未開の地」との評価なのか。同ランキングの第2位以下を見ると、UAE(アラブ首長国連邦)、ブルガリア、ルーマニア、クウェート、カザフスタン、と続く。
最近の日本企業のベトナム投資熱を反映して、JBIC(国際協力銀行)の日本企業向け海外直接投資アンケート調査2011年度の結果(速報)で、ベトナムは第4位と、引き続き上位にランクインされた。
このように、日本人ビジネスマンにとってベトナムは身近な国となっている。
日本の対ベトナム直接投資新規認可を見ると、リーマン・ショック後の経済低迷等により2009年にいったん急減したが、2010年以降は巻き返している。
2009年77件・1億3800万ドル → 2010年114件・20億4000万ドル → 2011年208件・18億ドル(出所:JETROハノイ事務所、Vneconomy.net 2012.2.10)と、件数は毎年大幅に増加しており、2011年には過去最大となった。
しかし、同時に日本企業にとってのベトナム投資の課題として「インフラの未整備」(JBIC調査、回答比30.8%、第1位)が指摘されている。
世界銀行・ADB(アジア開発銀行)の調査による「アジア諸国の1人当たり発電量」(ベトナム598kw/h/人)や「道路舗装率」(ベトナム25.1%)も最低水準だ。やはりベトナムは「フロンティア」なのか。
「フロンティア」の理由は、未整備なインフラと脆弱な企業セクター
最近、ベトナムのマクロ経済見通しを予測するにあたり、未発達な輸出産業を背景とした構造的な貿易赤字が問題視されている。インフラ未整備の問題以外で、ベトナムが「フロンティア」とされる理由には、やはり企業セクターの脆弱さがあろう。
いま、ベトナムの中小企業セクターは、一部、瀕死状態にあるようだ。「中小企業、遂に倒産40%」― これは2011年12月1日付サイゴンエコノミックスタイムズの記事だ。
同記事でベトナム中小企業協会のカオ・シ・キエム(Cao Sy Kiem)会長は、「各地方の報告によれば、倒産した中小企業が全体の40%、ある地方では50%になった。2011年、市場から撤退した中小企業数は最近7年間のそれと比べ2倍になった」と発表した。
ブイ・クアン・ビン(Bui Quang Vinh)計画投資省大臣は2011年10月1日の国会で、「2011年の1月〜9月の9カ月間で、4万8700社の中小企業が解散または活動停止の状況に陥った」と報告している。
ハノイタワーから見た街並み。フランス植民地時代の名残をとどめる建物も見られる
多くの中小企業では生産活動が停滞し、運転資金の借り入れも難しい。銀行貸付の金利は17〜19%(年率)と通常の水準よりは若干低いが、相変わらず中小企業にとって銀行借入の壁は高いようだ。
計画投資省発表によるベトナムの企業数は54万6500社(2011年12月末時点)である。
2011年1〜10月の会社の新規設立は6万4000社(年換算で7万6800社)。解散・廃業した会社数は2011年1〜9月の9カ月間で4万8700社(年換算で6万5000社)。
統計が不備なため正確な数値ではないが、ベトナムでは「開業率14%、廃業率12%」という計算になる。上述の「中小企業、遂に倒産40%へ」の数字は必ずしも正確ではないかもしれないが、ベトナムで企業の新陳代謝が進んでいることは間違いなさそうだ。
ちなみに、企業統計に関する唯一の公式統計である『21世紀最初の9年、ベトナムの企業』(ベトナム統計総局、2010年)によれば、2008年末時点で、ベトナムには20万5689社の企業が存在し、うち国有企業3287社、非国有企業19万6776社、外資系企業5626社となっている。
非国有企業としては、合作社(1万3532社)、個人会社(4万6530社)、合名会社(67社)、有限会社(10万3091社)、国有系株式会社(1812社)、株式会社(3万1744社)がある。
2011年12月末現在のベトナムの企業数は、統計総局の発表では38万6000社、税務総局の集計では41万3000社、計画投資省の集計では54万6500社とされる。
企業セクターを取り巻く激動の環境変化
振り返れば、ベトナムにおける企業セクターを取り巻く環境は激動の歴史だった。国有企業を中心としたベトナムの企業セクターにおいて、ベトナム政府は1986年のドイモイ政策を契機として様々な経済改革を実施し、その一環として民間企業振興を打ち出し、同時に民間企業に対する差別的な取り扱いを是正してきた。
こうした激動の時代背景の中、民間中小企業が活躍の場を広げつつある。具体的な政策措置は次の通りだ。
●1992年の憲法改正により民間企業の役割が認知され、1996年第8回共産党大会で中小企業の重要性が言及されることにより、民間中小企業の育成に向けた政治的な宣言がなされた。
●企業法(2001年)の制定で、設立手続きが認可制から登録制に変更されると同時に、各省や地方人民委員会が設けていた二重登録が撤廃された。これに伴い、企業の新規設立件数が急増した。
●2002年の憲法改正により、国営企業と非国営企業が同様の経済構成要素と認められ、平等な競争条件を保証することが明記された。
●競争法(2005年)の制定により、国営企業による独占に伴う弊害を抑制する方針が打ち出された。
●統一企業法(2006年)と共通投資法(2006年)の制定により、外資企業、国営企業、民間企業が同一の法令で規定されることになり、法行為能力上、差別的な取り扱いがなくなった。
萌芽期にある中小企業の経営実態
ホーチミン市内、地場中小企業の工場
では、現状ベトナムの中小企業の経営実態はどうなっているのか。
昨年、ベトナム産業調査プロジェクトにおいて、ホーチミン市内の中小企業11社を訪問し、経営者向けインタビューを行った。VCCI(ベトナム商工会議所)中小企業促進センターのベテラン経営指導員に随行してもらい、1社1.5〜3時間程度のヒアリングとなった。
面談先企業11社は、すべてVCCIが選定した「有望企業」であり、業歴は4〜35年、売上規模は5億〜600億ドン(約235万〜約3億円)、オーナーシップは、11社のうち4社は旧国有企業が株式会社化した国有系株式会社で、他7社が純粋な民間企業であった。
この訪問インタビューを通じて、ベトナム中小企業にとっての経営課題、およびそれに対する支援ニーズに関して理解を深めることができた。
第1に、ベトナム企業の成長過程において、1つの「売り上げの壁」が300億ドン(約1.4億円)にあるように見えた。訪問先企業の中で、業歴10年以下の企業はすべて、この300億ドンの壁に突き当たっていた。
第2に、経営者が認識する最大の経営課題は、経営者により温度差はあるものの、事業基盤たる技術力の向上、それによる受注増(マーケティング)、そのための人材育成に集約された。
第3に、資金調達を最大の経営課題として挙げた企業が2社あったが、それぞれ成長過程において必要な資金を外部から導入しようとする意識が感じられた。
資金調達を最大の経営課題として挙げていない企業の中でも、潜在的には外部資金の導入により、さらなる成長の可能性が期待されるケースも見受けられた。ただし、外部資金の導入のためには、簿記・会計の整備、ビジネスプランの策定等の課題が残る。
ベトナムの中小企業政策に期待
ホーチミン市郊外の中小企業経営者(左)と、ベトナム商工会指導員
企業セクターから見たベトナムも、やはり「フロンティア」だ。今のベトナムは、若い民間中小企業が台頭し、新陳代謝を繰り返す萌芽期にある。
今後、ベトナムの産業政策・中小企業政策を考えれば、2001年企業法制定以降に新規登録された業歴10年程度以下の製造業を中心とする民間企業や国有系株式会社のうち、伸び悩んでいるが技術力・潜在成長性が期待される中小企業を積極的に支援していくべきだ。
支援内容としては、一過性の技術指導やビジネスマッチングにとどまらず、一種の「売り上げの壁」を突破させるべく、営業開拓、特に日系を含む外資企業との取引マッチング、新製品開発、必要に応じた外部資金調達、といったトータルかつ継続的な経営サポートが必要だ。
ベトナムの多くの中小企業経営者は、ベトナムという厳しいビジネス環境の中で、日々、生き残りをかけて経営努力を重ねている。そして、こうした経営者はそれぞれ魅力のある人物ばかりだ。
今は日本企業を含む外資企業と取引できていない会社でも、経営者にマネジメント能力・成長意欲がある会社については、今後、ベトナム中小企業の底上げのために、「技術力、受注増、人材育成」をキーワードとして継続的な政策支援が期待されるところである。
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