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新幹線もバスも値下げしないと生き残れない?LCC就航で囁かれる「交通料金崩壊」のウソとホント
http://diamond.jp/articles/-/16622
2012年3月16日 友清 哲 :ダイヤモンド・オンライン
3月1日、日本初の本格LCC(格安航空会社)、ピーチ・アビエーションが就航を開始し、いよいよ日本の航空業界が新たなフェーズに突入した。料金は、大阪〜札幌間が4780円〜1万4780円、大阪〜福岡間が3780円〜1万1780円という、常識破りの格安ぶりである。そこで気になるのは、LCCの登場で日本の交通機関が値下げ競争に巻き込まれ、疲弊してしまうのではないかという見方が増えていることだ。とりわけ、新幹線や高速バスなど、これまで飛行機の代替として使われてきた交通機関へのインパクトは大きそうだ。一方で、LCCは旅行需要を呼び起こし、経済を活性化させる可能性もある。長引く不況の折、空路の価格破壊は消費者の“足”をどのように変え、日本の交通網にどんな影響を与えるだろうか。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)
■大阪〜札幌間が最安値で4780円!?日本初の本格LCCが始めた「空の価格破壊」
ANA(全日本空輸)の系列に属する日本初の本格LCC(格安航空会社)、ピーチ・アビエーションが3月1日から運行をスタートした。初号機の名前は「Peach Dream」。関西国際空港を拠点とし、その記念すべき第一便は新千歳空港(札幌)行きのMM101便であった。
最大の魅力は、大阪〜札幌間が4780円〜1万4780円、大阪〜福岡間が3780円〜1万1780円という格安の料金。空席状況や予約時期など、需給の状況によって株価のように値が変動するのは、ピーチの大きな特徴だ。
飛行機に3000円台で乗れる時代の到来は、従来の高額な料金設定に慣れている我々からすると、にわかに信じがたいほどの衝撃である。ただし、そのぶん従来と違う「ルール」も存在する。
たとえば、受託手荷物の預りが有料となっているほか、座席指定や機内サービスを利用する場合も別途料金がかかる。同社のHPによると、気軽に利用できる「『空飛ぶ電車』のようなエアライン」を目指しており、ブランケットの貸し出しや機内エンターテインメントの設置も行なっていない。料金をより安く設定するために、徹底した合理化が図られているのだ。
しかしながら、フライト時間が短い国内線では、「機内サービスやエンターテインメントの充実よりも、料金が安い方が断然嬉しい」(20代男性)との声も多い。就航初日はチェックイン端末の不具合で発着が遅れるトラブルがあったものの、物珍しさも手伝って、乗客の評判はおおむねよかったようだ。
国際線も大阪〜ソウル便が5月8日から就航予定で、順次路線を拡大していく方針だ。国内LCCとしては、JAL(日本航空)系列のジェットスター・ジャパンが7月から、同じくANA系列のエアアジア・ジャパンが8月から、国内線の運航を始める予定だ。
■デフレの加速か、旅行需要の喚起か あらゆる交通機関で値下げ競争が始まる?
日本の「空の旅」がいよいよLCC時代に突入するなか、気になるのは「格安航空の登場により、日本の交通網に地殻変動が起きるのではないか」という見方が増えていることだ。
出口が見えない不況が続くなか、「より安い製品やサービスへ」と消費者が流れているのは、どの業界でも同じこと。今後、航空業界で値下げ競争が起きれば、その影響は他の交通機関にも波及する可能性が高い。
タクシーやフェリーなど、長距離移動にかかる料金や時間などの優位性で飛行機に劣る交通機関には、飛行機とは別のニーズが存在する。しかし、新幹線や高速バス(長距離バス)など、「そこそこ速くて飛行機よりは安いから」という理由で代替的に使われていた交通機関は、利用者離れに悩まされるかもしれない。そうなると、あらゆる交通機関において料金の値下げが相次ぎ、価格破壊が起きる可能性がある。
料金が安くなること自体は、利用者にとって悪いことではない。しかし、家電や外食業界などのケースを見てもわかるとおり、大きな市場で過度な値下げ合戦が起きると、デフレを加速させ、日本経済そのものを停滞さる一因になりかねない。
一方、交通機関で値下げ競争が起きることは、旅行需要を呼び起こし、経済を活性化させる可能性もある。LCC時代の幕開けは、航空をはじめとする日本の交通網にどんな地殻変動をもたらすのだろうか。専門家の意見やデータを参考にしながら、検証してみたい。
そもそも、日本の航空各社がLCCへ参入するメリットはどれほどあるのだろうか。「国内の交通事情を鑑みれば遅すぎた感もある」と語るのは、最新エアポートニュースを配信する『みんなの空港新聞』http://airportnews.jp/編集部の山本ケイゾー氏だ。
「日本におけるLCC開業の流れについては、航空市場の活性化への期待から歓迎したいです。しかし、規制緩和、市場背景、ビジネス環境、旅行文化は異なるものの、北米におけるLCC市場の勃興から約20年、西欧から約15年、東南アジアから約10年遅れての開業は、やはり遅い」(山本氏)
ピーチ・アビエーションのHPでも、海外でLCCが浸透している状況が、「欧米・東南アジア・オセアニアにおいては、すでに航空マーケットの3割前後のシェア(提供座席数ベース)を占めるに至っており、手軽で身近な移動手段として定着している」と説明されている。
LCCに対する意識の高まりは、むしろ「時代の流れ」と言えそうだ。「飛行機はワンランク上の乗りもの」という価値観がいまだに強い日本は、むしろ国際競争に乗り遅れていた感がある。狭い島国で遠路を結ぶ交通手段として、新幹線や高速バスなどの代替交通機関が充実していたことも、空路の料金を高値安定させてきた。
JALの破綻劇が象徴するように、こうした状況にあぐらをかいていたことこそが、航空会社の経営を硬直化させ、ビジネスにおける機会損失を増やし、業界を尻すぼみにしてきた原因と言えるだろう。
今後は、LCCの浸透によって、飛行機のイメージも少しずつ変化していくはずだ。「航空業界の仕事が一般化、単純化、陳腐化し、特別のものや憧れの対象ではなくなるかもしれない」(山本氏)。LCCの就航は、航空業界のオープン化を促す意味でもメリットがありそうだ。
■損益分岐点を計算し尽くした料金設定 航空業界で値下げ合戦は起こらない?
では、満を持して参入するLCCで、航空各社はちゃんとメリットを享受できるのか。値下げ合戦に巻き込まれて、疲弊する恐れはないのだろうか。
山本氏によれば、「そもそもビジネスとしての損益分岐点を計算し尽くして料金設定がなされているため、理論上からも、航空業界で大規模な値下げ合戦が起こることは考えにくい」という。それよりも期待されるのは、シェアの奪い合いではなく、新しい市場の創出だ。
「羽田・成田の2013年度の発着枠の増加、各国とのオープンスカイ協定の合意、内外のLCCの参入で、日本独自の新しい航空市場が創出されるでしょう。それは、大手の既存のシェアを奪うものではなく、これまで飛行機に乗らずにバスや新幹線を利用していた人たちを取り込むもの」(同)
ただしそうなれば、むしろワリを食うのは、航空と競合する他の交通機関だ。LCCとのガチンコ勝負となる新幹線や高速バスには、どんな影響が及ぶのか。
■「低価格・高サービス」に注力する業者 実は善戦している新幹線や高速バス
LCCの登場で起きる目先の変化として、「新幹線網と高速バスの運行精度や、サービス品質の向上が期待できるでしょう」と山本氏は指摘する。
高速バスに関して言えば、確かにここ数年、サービスの充実ぶりが目覚ましい。長引く不況の影響もあり、高速バスは安く長距離を移動できる手段として一層重宝されるようになった。そのため業者は、車内設備の改善でリムジン化を図り、目的地の中心部にダイレクトにアクセスできる利点を声高にアピールしている。
たとえば、ツアーバス事業に積極的なWILLER TRAVELでは、1席ごとにシェル型の筐体で独立させた格安夜行バス「コクーン」を提供。各席に映像やゲームを楽しめるモニターを設置するなど、その快適さは飛行機のファーストクラスを思わせるほどだ。今後はLCCを睨んで、さらにサービスを充実させる業者が増えるだろう。
彼らも、単純な値下げに走るばかりではない。そもそも航空会社と比べれば、初期投資や人件費、運行コストをずっと安く抑えられる業態である。料金をある程度の水準に据え置きながら、LCCでは味わえない快適さを付加価値として提供し、対抗していくことは可能だ。
また、日本中に延伸されている新幹線には、固定ファンが多いという特徴がある。今年2月、ライフネット生命保険が発表したLCCに関する調査の結果は興味深い。「運賃が同程度と仮定した場合、国内中距離旅行(東京〜大阪間)の移動手段として、LCCと新幹線のどちらを選ぶか」という質問では、「新幹線がよい」「どちらかと言えば新幹線がよい」という回答が、合わせて全体の82.5%を占めた。これは、LCCの17.5%を圧倒的に上回っている。
長距離(東京〜福岡間)ではLCCが59.7%と逆転するものの、それでも新幹線を選んだ人は全体の40.3%と、人気はほぼ拮抗していると言ってよい(もちろん、ピーチ就航後に同じ質問をしたら、人気の割合は変わっているかもしれないが)。
新幹線を選んだ人にその理由を問うと、「飛行機を使うと空港まで遠いし、手続きも面倒」「新幹線のほうが快適」「新幹線が好き」などの回答が上位を占めたという。
こうした状況を見る限り、LCCの台頭によって他の交通機関が多くのお客を奪われたり、値下げ合戦に巻き込まれる可能性は、現時点では大きくなさそうだ。山本氏が指摘するように、LCCに触発された業者が低価格・高付加価値を重視するようになれば、サービスの質が向上し、かえって交通機関全体の需要が底上げされるだろう。
これまで見てきたとおり、LCCが日本の交通網に地殻変動を起こす可能性は高いが、それはネガティブなものばかりでなく、ポジティブなものも多いと言えそうだ。
■顧客満足度と安心感をいかに与えるか?LCCが「日本の空」を明るくするカギ
ただし、LCCが「日本人の足」として認知されるまでには、まだまだ課題が多い。
「(LCCの)安価な航空券は、一定規模の市場を開拓するとは思います。ただし、LCCのビジネスモデルの本質や、限定的サービスでも顧客満足度が高いプロダクトモデルが広く消費者に理解されなければ、本格的・長期的な市場への浸透は難しいでしょう」と、山本氏は警鐘を鳴らす。
実際、ある大手商社の総務部に勤務する30代男性は、こう語る。
「既存の大手航空会社との法人契約があるうちは、少なくとも会社としてLCCを利用することはありません。部署によってはかなり頻繁に空路を利用するので、法人契約による優遇もバカになりません。LCCの活用については、今のところ慎重に考える方針だと思います」
こうした意見とは逆に、「社員の出張費を少しでも節約できれば、それでいい」と考える企業も少なくないだろう。しかし、「従来価格から大きく値下げすることで、サービス品質や安全性がしっかりと担保されているのか」という点に、不安を持つ利用者も少なくないはず。なにしろ日本人は、高額な航空チケットと手厚い機内サービスに慣れ過ぎている。
そのことは、利用者が急増している高速バスのケースを見ても明らかだ。消費者の苦情を受け付ける国民生活センターのまとめでは、高速バスについて「利用者全体の増加に歩を合わせるように、2006年度以降右肩上がりで相談件数は増加しており、2010年度は226件と、前年度を大きく上回った。2011 年度においても、前年同期で2.7 倍の相談が寄せられている」(同団体発表資料より)という。
主な相談内容は、契約や接客対応に関するものが多数を占めている。今後はLCCも、こうした利用者の厳しい目に晒されながら、「低価格・高サービス」のビジネスモデルを確立すべく、試行錯誤を繰り返していくはずだ。
LCC時代が本格的に幕を開けた日本の航空業界。その視界はまだはっきり開けてはいない。とはいえ、彼らが日本の交通網全体に少なからぬ変化をもたらす「起爆剤」となることは、間違いないだろう。
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